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世界と戦えるオフィスが日本で出来ない3つの理由

[September 20, 2017] BY Shinji Ineda

10年以上オフィスデザインに携わっているが、何年たっても変わらないことがある。もともと建築設計からはじまった私のキャリアから考えると、その内のいくつかはこれらの事には付き物で、永遠に解決することはないと考えてきた。しかし海外に目を向けると一概にそうではない場合もある。そろそろこんな類の記事があっても良いかな?と思ったので、純粋な意見として「もっとこうしたら日本のオフィスってよくなるのにな」をまとめてみた

1.既成概念という箱の中で描かれる限界

だいたいの人がオフィスと聞いて想像するのは、同じようなイメージではないだろうか?

対向型で並んだデスクに自身の席が存在し、遠くの窓側に上司の席がある。床はモノクロかブルーのタイルカーペット。管理職の椅子は一般社員よりグレードが良く、なかには自分専用の個室を持っている人もいる。各デスクには専用のパソコンと固定電話が備えられている。また会議室はガラスの壁で仕切られているが、お客様のプライバシーに配慮して曇りガラスタイプになっている。GoogleやYahooなどの検索エンジンで「オフィス」と画像検索してみると上のような写真が並び、現代のオフィスイメージがどのようなものか一瞬で理解できるだろう。当たり前だが、どのオフィス家具メーカーにもこのようなオフィスを実現する製品がラインナップされている。打ち合わせでも議論の必要がないと思われる部分は、「一般的には」という一言で「じゃあそれで」と、前例を踏襲していくことになる。しかしこれらの既成概念はオフィスデザインの創造性を窮屈にしていないだろうか。本来は業務内容やビジネスに必要なスタイルにそって、オフィス環境も最適化していかねばならないはずだ。

コミュニケーションの輪からはずれる管理者

近年組織内外のコミュニケーションはとても重要視されているが、例えば上長が部屋の隅っこに座ったり、窓際の個室にこもり続けていたりするのはどうだろうか?よっぽど個室を一般社員のために開放し、チームの中心に自分の席を置いた方がコミュニケーションはとりやすいはずだ。実際西海岸ではフラットでオープンな空間を求める企業が多い。時には座る場所も固定されておらず、同僚の他にも日によっては直属の上司や経営層の隣で仕事をする企業もある。

窓際は開放感があって快適!の間違い

また窓際は明るく環境が良いという考えも必ずしも正しいとは言えない。よく社員が気持ちよく働けるためにと眺めの良いところにワークスペースを計画することがあるが、窓際までデスクを配置した結果、多くのオフィスで開放感や眺望はブラインドによって失われている。自分が暮らす自宅ならまだしも、オフィスで眩しい光を遮るためにおろしたブラインドを、わざわざ忙しい業務中に上げ下げする光景は想像し難い。せっかく見晴らしを気に入って決めた物件もこれでは台無しである。外壁部分から5メートル程のペリメーターゾーンと呼ばれるエリアは、外部からの光や熱の影響を受けやすく、よく配慮して計画を行う必要がある。

Out of the Box

近年では政府が推進する働き方改革に伴い、個人のスタイルにあわせた多くの選択肢がオフィスや働く環境に求められている。多額の費用を割いて構築するオフィスだ。せっかくであれば社会に蔓延する既成概念という箱をぶち破り、自分たちが求める環境をじっくり模索してみてはいかがだろうか。

2.スペックワークが及ぼす影響

スペックワークとは、いわゆる「仕事を獲得するための仕事」のことで、悪い言い方をするとタダ働きのことだ。これは建築設計やインテリアデザイン業界のみならず、他の業界でも多く見られる。実際我々がクライアントから頂く依頼も95%以上が複数社を比較するコンペ形式で、もちろん獲得するまではスペックワークになる。

比較検討の必要性はもちろん理解しているが、あまりにも最終成果に近い具体的提案を求められると、検討する要素が増えるし、情報把握にも多くの時間を使う。万が一仕事の獲得につながらなかった際には、デザイナーやクリエイターの発想と費やした時間は大きく無駄になる。採用されなかった発想は引き出しにしまって次の機会に備えることもできるが、本来はそのプロジェクトのために考案されたものである。転用する際には何かしらのカスタマイズが必要となる。また時間の損失はどこかで補填しなければならないが、どのプロジェクトでも費用の比較があるため、失注リスクを含んだ金額設定はなかなか難しい。そもそも獲得できなかった仕事の穴埋めを別のプロジェクトに求めること自体が道理に反している。我々も社内で設計スタッフの業務時間を分析した結果、契約前(スペックワーク)と契約後に費やしている時間の比率が50:50のプロジェクトも存在するし、獲得できなかった仕事に費やした時間がもしなければ残業は限りなく0に近づくことが分かっている。

見落とされがちなデザインコンペによるクライアント担当者の負担

複数社に声をかけて行うデザインコンペ形式は、具体的なデザイン案を比較検討できるというメリットがある一方、クライアント自身にも大きな影響があることを認識する必要がある。まず依頼先を絞るまでに同時並行で数社相手に打ち合わせを進めるのは、それなりの時間を要する。そして情報漏れが起こらないように細心の注意を払い続けなければならない。またクライアントは公平な立ち振る舞いが必要となるが、足並みの揃え方を間違うと、クライアント自身が提案の質を下げる要因になる可能性もある。担当者には相当なマネジメントスキルが求められるし、時間と精神的な負担がかかるのである。

パートナー選定において一番大切なのは信頼関係を結べるか

比較検討の材料は様々だが、最も大切なのは信頼関係ではないだろうか。プロジェクトを進めていく中では難しい課題や、予期しない問題が大概発生する。しかしそのときパートナーとして任せられるかどうか、自身たちの求めるものを必ず実現してくれると信じられるかどうかが肝であると思う。もし、「信頼」を軸にして早期にプロジェクトパートナーを決定できたなら、クライアントはよりパートナーとのコミュニケーションに注力できる。その結果、成果物のクオリティとそこに至るまでのスピードは、複数社と同時並行で進めている状態とは比較にならないはずだ。とは言えスペックワークが業界内で多いのは、そこまで具体的な提案をしないとクライアントに理解してもらえない状況を作っている我々自身にも責任がある。

コンペ中にクライアントからオフィスの具体的なデザイン提示を求められても、必ず断るようにしています。なぜならば、他の企業も提出しないので我々だけ提出したら不平等になるからです

本メディアにもインタビューを掲載した、サンフランシスコにオフィスを構えるDesign BlitzのSeth氏が以前こんな話をしていた。

関連記事:【Seth Hanleyインタビュー#1】小さな事務所の大きな影響力-Design Blitzのデザインに密着

パートナー選定が早い段階で行われれば、決まったパートナーは遠慮なくどんどん力を注ぎ込むことができる。クライアント側の担当者の負担をなるべく減らし、質の高い成果物を提供できるよう、我々の努力と社会への啓蒙がもっと必要だろう。

3.クールだったらOK!?

一昔前から比較すると、多くの企業がオフィスのデザインを重要視するようになった。これは日本のオフィス業界としてはとても喜ばしいことだ。そしてオフィスデザインのスタンダードが更に成長する時期がまさに今なのではとも思う。

「とりあえずどこよりもカッコよくしたい」

以前からこんな要望を頂くことが結構あった。非常にシンプルでわかりやすい要望である。しかし最近のオフィスでは「とりあえずカッコよく」はもう通用しなくなってきている。これは前述のとおり、多くの企業がオフィスデザインに力を入れるようになったからだ。人の目も肥えている。「カッコいい」のは特別ではなくは当たり前になりつつあるのである。

オフィスデザインで他社との差別化を図るには?

ではこれから必要になるのは何か。それはオフィスデザインにカルチャーを盛り込んでいくことだ。カルチャーこそ他社と差別化が図れる要素であり、社員はもちろん採用応募者や来客者など関係者にむけて積極的に伝えていく必要がある。オフィスで企業のカルチャーを伝えていかないのは、個人が自身のアイデンティティを表現しないのと同じだ。人と人の出会いも第一印象はもちろん大事だが、その先も良好な関係を長期的に実現できるかどうかは性格や考え方によると思う。

そのためには、オフィスをデザインする会社がクライアントのカルチャーをしっかり理解しなければならない。またクライアントも依頼先に自身のカルチャーを十分に伝える必要がある。間違っても何年・何十年かけて培ってきた自分たちの企業文化を一瞬で理解してもらえると思ってはいけない。

運用についても、オフィスの計画時点からあわせて検討を行っていく必要がある。デザインはクールだけど、いまいち使い勝手が悪いとか、あらかじめ想定していた運用が軌道に乗らないという経験を持つ方もいるのではないだろうか。比較的大手の企業になるとファシリティ担当が明確になっており、計画時点で運用面が同時に検討されていくが、それは日本の全体数から考えるとまだまだ一部の話である。

魅力あるオフィスのヒントは日本の美的表現にあり

2020年の東京オリンピックにむけて、海外から多くの人たちが日本に訪れることになる。来日観光客も年々増加しているが、日本への評価は決して見た目だけの美しさではない。文化やおもてなし精神など、まさに企業でいえばカルチャーや運用面といったところに大きな魅力があるのだと思う。そのうえで表現されるデザインこそ、これからの日本のオフィスには必要ではないだろうか。

最後に

3つの事柄について挙げたが、いずれも長年様々なプロジェクトに関わってきた中でずっと思ってきたことである。つまりは長年解決が難しいことでもある。もちろん国内にも、ここで挙げた内容に当てはまらない素晴らしいオフィスがあることは認識しているが、まだまだ数は少ないし、もっとオフィスを経営に活かしてほしいと思っている。今回の投稿に賛否もあると思うが、日本企業がグローバルに戦っていくためにも、世界で戦えるオフィスをどうつくっていけばよいか、議論がより活発になると面白いと思う。

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この記事を書いた人

Shinji Inedaフロンティアコンサルティングにて設計デザイン部門の執行役員を務める。一方、アメリカ支社より西海岸を中心としたオフィス環境やワークスタイルなどの情報を、地域に合わせてローカライズ・ポピュラーライズして発信していく。

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