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健康的なオフィスの新基準、WELL Building Standardとは?【前編】

[June 27, 2017] BY Kazumasa Ikoma

アメリカで新たなワークプレイス空間の基準として用いられ始めたWELL Building Standard。現在注目を集めているこの基準について、このブログの初記事として前後編の二部に分けて見ていくことにする。

WELL基準とは、入居者の「健康」に焦点を当てた、建築デザインの新たな評価基準である。実はこの基準以前からLEEDと呼ばれる基準が存在しているのだが、そこにはこの「健康」に関する観点は入っておらず、このことがWELL基準誕生の背景となっている。WELL基準を理解するにあたり、まずはLEEDの内容からひも解いていこう。

これまでの空間作り

時代の流れとその時の風潮を反映させる建築設計デザイン。ここ十数年の建造物設計は昨今指摘されてきた環境問題改善に貢献することを視野に取り組まれてきた。中でもこれまで特に注目を浴びてきたのがLEED (Leadership in Energy and Environmental Design)である。

環境問題を重点に作られたLEED

LEEDは環境に優しい「グリーンビルディング」を広める目的で1998年に作られた、オフィスのみならず様々な建造物に対応する評価基準である。立地の選定から設計や建設方法、運営、改築、解体に至るまで、環境と資源にできるだけ配慮し、よりサステイナブルな社会を目指すことの重要性を世界に広めてきた。

評価は建物の種類(病院、ホテル、学校、オフィス、倉庫、ショップ等)と改築状況(新築、インテリア部分のみの改築、メンテナンス等)に合わせてそれぞれ異なる基準で行われる。評価後に受ける認証のレベルは以下の評価項目で加算された合計ポイントによって変わる。

LEEDの評価項目(左)。認証レベルは合計点によって4段階のに分けられる(右)。最高評価はプラチナ。(グリーンビルディングジャパンより引用)

LEEDが地球環境に与えてきた影響

この基準を導入したことによる環境への影響力は大きく、2017年1月のU.S. Green Building Councilの記事*1によるとLEED認証の建造物はそうでないものに比べ以下のように環境問題対策に貢献している。

  • CO2排出量:34%減少
  • エネルギーの消費:25%減少
  • 水の消費:11%減少
  • 廃棄物量:8000万トン減少

これまで164の国で9万近いLEEDのプロジェクトが行われており、現在もその数は増え続けている。2018年までに行われる70ヶ国でのプロジェクトのうち約60%はグリーンビルディングになるとされており、環境を配慮した建物の設計はもはや当然のこととなりつつある。

2012年にプラチナ認証を受けたサンフランシスコにあるAdobe 601 Townsendオフィス(写真はGlassdoorにあるAdobeの企業ページから)。リモデル後、蛇口・シャワーヘッドの交換や水を使わないで排水を行うトイレの導入で、オフィス全体の水の消費を62%削減。ゴミの仕分けやリサイクル製品の使用でオフィスの廃棄物のリサイクルや堆肥化率は23%から98%まで増加した。また、空気清浄の効果がある緑を増やし、電気消費を減らすためにオフィスの清掃を昼間に行ったほか、より環境に優しい通勤方法を奨励するために自転車ラックや電気自動車の充電場所等の設置も行った。その結果、LEED最高レベルの認証を受けることができた*3。

世界に追いつこうとする日本

ちなみに日本でのLEEDの普及はまだかなり努力が必要なレベルである。2017年5月時点でのLEED認証ビルディングの数はアメリカで29,002、カナダで2,738、中国で1,067にのぼる*4。一方、日本はわずか91にとどまる。

それでも2013年にグリーンビルディングジャパンが設立され、日本におけるグリーンビルディングの認証数もここ最近でようやく増えつつある。普及にはこれからも地道な取り組みが必要ではあるが、こうして日本も今世界に追いつこうとしている。

このように過去20年間、LEEDは地球全体の課題である「地球資源の持続性」について、建物設計の観点から取り組んできた。しかし今日ではそれに加え、国境を超えた共通課題である「人間自身の健康」の改善にも注目が集まるようになってきた。環境資源の「持続性」だけでなく、人間の「持続性」、つまり入居者が健康であり続けることこそ、これからの建物に求められることであると認識され始めたのだ。そこで誕生したのがWELL基準である。

従業員に健康的な生活をもたらすWELL Building Standard

入居者の健康に重点を置いているWELL基準は、大半の人が起きている時間の多くを仕事に費やすことから、特にワークプレイスにおいて進んで導入されようとしている。よりストレスの少ない働き方や健康が見直されている現代に合致した基準なのだ。

この指標を作ったのは健康的な建物を世に広めることを企業信念に掲げる、ニューヨークの不動産企業Delos社。健康研究で注目を浴びているマインドフルネス(物事のありのままの姿や自分を受け入れてよりストレスの少ない心を保つ考え方)を取り入れてこの基準を考案した。

評価は特に入居者に影響を与えるとされる7カテゴリー、計102項目が対象としてチェックされ、プラチナ、ゴールド、シルバーの順で認証される。

7つのカテゴリーは以下のように分けられる。「入居者に与える影響要素」を対象としているため、LEEDと比べて評価カテゴリーがよりわかりやすいのも特徴の一つ。この前編記事ではオフィスで活用されることを想定しながらAir(空気)、Water(水)、Nourishment(栄養)の3つに触れることにする。

Air 空気

WELL基準では良質な空気を維持し、職場環境において度々問題となる大気の汚染物質の抑制に努めることを一つ目の評価基準として定めている。認証を受ける建物は計画的な換気や空気のフィルターリングを徹底しなければならない。

現に大気汚染は脳卒中や心臓、肺の疾患につながるとして、環境が及ぼす早期死亡原因の1位であり、アメリカだけで年間5万人が命を落としている。*5 世界規模では推定700万人、およそ8人に1人の割合と汚染空気は私たちに多大な悪影響を及ぼしていることがわかる。*6

また別の資料によると、換気が十分でない建物内では汚染物質の濃度が外よりも高く、2〜5倍まで上昇するという。*7 新鮮な空気を維持することは死につながる疾患などを防ぐだけでなく、体調不良による職場での生産性低下の予防にも効果的である。

ゴールド認証を受けたオーストラリアにあるMirvac HQオフィス。換気や汚染空気のフィルターリングは当然のこと、SAMBAセンサーというテクノロジーを用いて空気の質を常にモニタリングできるようにしている。

 

Water 水

WELL基準では、すべての利用者が良質な水を得られるように環境が整えられていることも調査項目の一つとしている。

このカテゴリー設定の背景には、バルセロナ大学が2012年に発表した、体内の水分が2%減少するだけで認識力が低下するという研究結果*8がある。また米国医学研究所の研究では、1日に摂取すべき最低限の水分量として男性で3.7リットル、女性で2.7リットルの水分を飲食物から摂るように推奨している。十分な水分を摂っておくことの大切さはスポーツに限った話ではなく、ワークプレイスにも活かされるべきものなのである。

2017年4月現在世界で唯一WELLのプラチナ認証を受けているPhipps Center for Sustainable Landscapes。(画像は当センター及びContinuing Education Centerのウェブサイトから引用)新鮮な飲み水の確保はもちろんのこと、ここでは雨などの自然水を利用して飲用以外の水も供給できるようになっている。

 

Nourishment 栄養

このカテゴリーは、従業員が健康的な食事を摂れる環境が整備されているか測るもために存在している。WELL認証では、建物内やその周辺において、従業員が不健康な食事を摂る機会を最小限に抑えるのと同時に、健康的な食事を簡単に摂れるような環境を整備する取り組みが必要である。

ゴールド認証を受けた、イギリス・ロンドンにあるOne Carter Laneのオフィス。カフェスペースを充実させ、健康的な食事が摂りやすい環境を用意している。

 

以上がWELL基準にある7つのカテゴリーのうちの3つである。後編では残りのLight(光)、Fitness(運動)、Comfort(快適性)、Mind(心)の4つに触れると共に、Delos社がWELL基準を通じて目指す今後のオフィスのあり方を見ていく。

参考文献

*1 Benefits of Green Building
*2 The Business Case for Green Building
*3 Re-certification: Adobe SF 601 Townsend
*4 グリーンビルディングの認証プログラム
*5 Healthy People 2010. Leading Health Indicators. Healthy People 2010. [Online] 2010. [Cited: February 8, 2015.]
大気汚染による心臓や肺の疾患は主に虚血性心疾患、慢性閉塞性肺疾患等が挙げられる。
*6 7 million premature deaths annually linked to air pollution
*7 Volatile Organic Compounds’ Impact on Indoor Air Quality
*8 Adan A. Dehydration and Cognitive Performance. J Am Coll Nutr. 2012 Apr;31(2):71-8.

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaサンフランシスコのエクスペリエンスデザイン会社btraxでオフィスマネージャーを務める傍ら、西海岸のオフィスデザインや企業文化・働き方についての記事を多数執筆。企業や従業員にとって居心地がよいオフィスとは何か、日々リサーチし自社で実践している。

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