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健康的なオフィスの新基準、WELL Building Standardとは?【後編】

[June 27, 2017] BY Kazumasa Ikoma

今アメリカで注目を集める、新たなワークプレイス評価基準の一つとなるWELL Building Standard。これまで環境資源保護につながる建物が注目されてきたが、この基準の登場により、今後は従業員の健康にさらにフォーカスする建物も増えると考えられている。

前編に引き続き、7つのカテゴリーのうち残りの4つのLight(光)、Fitness(運動)、Comfort(快適性)、Mind(心)について詳しく見ていくとともに、この基準を考案したDelos社が考える今後のワークプレイスのあり方に触れることにする。

Light 光

概日リズム、いわゆる体内時計を維持するのに光は必要不可欠なものである。自然光の不足はその調子を狂わせ、結果として私たちの精神状態を不安定にさせ、ポジティブな感情を減少させることにつながる。そのためこの基準では職場環境に自然光を取り入れるような仕組みを推奨している。

非営利団体World Green Building Councilによると、外に面する窓までの近さと生産性には関係性があるという*1。このことからも、より自然光が入るようにすることはオフィスの設計において重要な項目の一つであることがわかるだろう。

オーストラリア・シドニーにあるMacquarie Groupのオフィス。広々とした窓から自然光を積極的に取り入れている。現在認証申請中。(写真はWoods Bagotより引用)

1日を通して室内照明を調整することでより自然光に近い環境を実現できる。(WELL基準の資料より引用)

Fitness フィットネス

運動が健康的な生活に重要であるのは誰もが理解している。WELL基準ではエクササイズマシーンを置いたり、エアロビクスやその他有酸素運動ができるスペースを確保したりすることを認証の必要条件の一つとしている。 エレベーターよりも階段がより使われるような動線設計も大切だ。それ以外に、近くにサイクリングやジョギングのコース、公園が揃っていることも評価の対象となる。

エクササイズが健康面のみならず集中力の改善にも効果があることは学術的にすでに明らかにされている*2。ただ、ジムに行くためのアクセスが悪いことにより、運動習慣を得られないことは往々にしてある。そんな運動不足を解消するため、実際に設備の整ったジムをオフィスビルの中に取り入れることが重要になってきている。ジムに行くまでのアクセスの良し悪しは私たちが思っている以上に健康的なライフスタイルに影響を及ぼすのである。

カリフォルニア州マウンテン・ビューにあるSymantecオフィスのジム、SymFit Center。現在認証申請中。(写真はGenslerより引用)

Comfort 快適性

労働環境において肉体的にも精神的にも快適でいられることは何よりも健康維持に直結する。またストレスや気が散るものを最小限に抑えることは仕事に対する意欲向上にもつながる。WELL基準ではこの快適さも重視され、騒音対策や障がい者用アクセスの完備、臭気対策等がしっかりと行われている建物が評価される。

これ以外に、デスク周りの環境も重要である。実際に職場での悪い姿勢は腰痛等の問題を引き起こし、治療にも長期的な時間やコストがかかる。それにともなって生産性の低下にまでつながる恐れがある。WELL基準では、机の整理から正しい椅子の選択、スタンディングデスクの配置、適度に設定された室温等細かい点に至るまで快適に整えることが求められる。

 

 

ゴールド認証を受けた、ロサンゼルスにあるShangri-La Construction Headquartersのオフィス。「ハイエンドなリビングスペース」をイメージして徹底された快適空間は社員からの評価も高い。(写真はShangri-Laホームページより引用)

Mind 心

WELL基準が求める健康的なライフスタイルのベースであるマインドフルネス。「物事のありのままを受け入れて平穏な心を保つ」ことを実現できるようなオフィスは、従業員にその考えを広める役割を担うことも求められている。そのため、気持ちの安定やストレスマネージメントのためにヨガや瞑想をするスペースを確保しているか、またそれらのレッスンを行うことをオフィスが奨励しているかがこのカテゴリーで評価される。また、様々な働き方をサポートする産休・育休等のサポート制度が充実しているかも評価対象となる。

また、オープンオフィスにおけるプライバシーの維持や、昼寝を含むスリープサポートにいたるまで、よりストレスの少ない、新しい働き方を推進する環境づくりをしているかがポイントとなっている。

病は気から、と言われるように実際に全体の病気の約14%は精神的な原因によると言われており、逆に会社や組織や心理的・精神的にサポートされていると感じる従業員は会社に対してより愛着心や忠誠心を持つようになるとも言われている*3。

前編でも触れた、オーストラリアにあるゴールド認証のMirvac HQオフィス。人間は生理学的に自然と触れ合う場が必要であることを受けて、Mirvacはオフィスに1171もの植物を配置している。これは実に社員1人につき1つ以上という数である*4。(写真はThe Urban Developerより)

WELL基準は前編の3つと合わせたこれら7つのカテゴリーをもって、オフィスが従業員にとって健康的な環境を提供できているか判断している。

WELL Building Standardがもたらす新しいオフィスのあり方

これまで触れてきたように、WELL基準はLEEDに比べ、様々な建物の中でもよりワークスペース重視、つまり「社員の健康」を意識した基準となっている。実際に世界で初のWELL認証を受けたCBRE Global Headquartersの社内調査*5によると以下のような結果が出ている。

83%の社員が、より高い生産性を感じている 社員全員(100%)が、クライアントが彼らの新しい働き方に興味があると述べている 92%の社員が、新しいスペースが健康に良い影響を与えていると述べている 93%の社員が、より他の社員とコラボレートしやすいと述べている。

このようにWELL基準は着々とポジティブな効果を働く人々にもたらしている。健康を意識して作られるオフィスは結果的に健康以上に多くの成果を引き出しているのである。これからのオフィスは社員にとって過ごしやすい環境になることが期待できそうだ。

環境にも社員の健康にも優しい次世代のオフィス

しかし、これからのワークプレイスもこれまでと同様に環境保護に配慮したものでなければならないのは事実。LEEDの概念も残しながらWELL基準は普及していくべきであるだろう。

実際にDelos社も、LEEDとWELL基準両方の認証を組み合わせることで、環境に配慮したエネルギー効率の良い建物に加えて、人々の健康面を配慮したワークプレイスを提供できる、としている。結果として、地球にとっても働く人々にとってもより快適なオフィスの実現が可能になると考えられている。

Delos社は、環境資源の持続性へ関心を持ち続けるとともに、そこで働く人々の健康面を配慮したオフィスを目指すことがこれからの建造物のあり方だと考えている。そうすることが、人間が持続的に過ごしていける次世代のワークプレイス作りの実現につながるのである。

私たちは今オフィスを見直す大きな転換期にさしかかっているのだ。

次世代のオフィス作りに向けて

Delos社が健康的な環境作りの基準を作った背景には、アメリカの環境保護庁による統計が大きく影響している。それによると、人間は1日の90%以上の時間を室内で過ごしているという。その中で働く時間というのは当然かなりの割合を占めるはずであり、オフィスが私たちに与える影響が大きいことは想像に難くない。

その重要性はオフィスをデザインする側だけでなく、それを利用する私たち自身も知っておくべきである。デザインされたものがその意図通りに、もしくはそれ以上の成果を出すように私たちが意識して利用することが、ワークプレイスの完成には不可欠だからである。オフィスが働く人々のリゾートであるよう、このメディアで今後とも探っていきたい。

参考文献

*1 Health, Wellbeing and Productivity in Offices: The Next Chapter for Green Building
*2 Exercise holds immediate benefits for affect and cognition in younger and older adults
*3 Mental Health – Psychosocial Risk Factors in the Workplace
*4 Does Mirvac HQ’s Architectural Design Create The ‘Healthiest Workplace in Australia’?
*5 Introducing the WELL Certified Office

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaサンフランシスコのエクスペリエンスデザイン会社btraxでオフィスマネージャーを務める傍ら、西海岸のオフィスデザインや企業文化・働き方についての記事を多数執筆。企業や従業員にとって居心地がよいオフィスとは何か、日々リサーチし自社で実践している。

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