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昭和ビールと令和ビール 職場の人間関係をリビルドするクラフトビールの不思議

[July 23, 2019] BY Shinji Ineda

今年もビールの美味しい季節がやってきた。夕暮れ時になると黄金色のジョッキを片手に賑やかな時間が街のいたるところで始まる。最近ではオクトーバーフェストやクラフトビールといった名を耳にすることも増え、より豊富な種類のビールを楽しめる機会が多くなった。

そして社内のハッピーアワーやイベントでもビールを含むアルコールを目にすることが多くなり、「オフィスで飲む」という光景もあまり珍しいものではなくなってきた。もともと「飲みニケーション」という言葉に代表されるように、アルコールは今まで私たち日本人ワーカー同士をつなげる「接着剤」的な役割を果たしてきたが、その効果はワークプレイスでも徐々に活用され始めている。

今回、Worker’s Resortは昨年春から日本を中心とした25種のクラフトビールを全国7000以上の飲食店に提供しているキリンビール株式会社のTap Marché(タップ・マルシェ)担当者に取材を実施。日本のお酒市場の変化から今の若者のビール人気について話を伺い、今後日本の働く環境においてビールを含むアルコールが人材獲得やコミュニケーションツールの1つになりうるか、筆者なりの見解をまとめてみた。

日本のお酒市場の変化

日本のお酒市場と言えば、「とりあえず生で」はもとより「生以外の人?」というフレーズまで生み出した生ビールが長年主演を張ってきた。その生ビールが牽引してきたことでビールが多くのシェアを占めてきた日本のお酒市場であるが、まずは昭和から平成にかけての市場の変化を見てみたい。

国税庁課税部酒造課が『酒のしおり(平成29年3月)』にて公表している酒類販売(消費)数量の推移によると、ビールの消費量は昭和において右肩上がりに数字を伸ばし、平成6年にはピークの7,057千㎘となった。しかし、平成7年以降は奮わず平成20年以降には2,000千㎘台まで落ち込み、代わりに発泡酒やリキュールが消費量を伸ばした。平成27年ではビールの消費量が2,666千㎘、リキュールが2,034千㎘ 発泡酒が751千㎘(発泡酒のピークは平成14年の2,465千㎘)となっている。また近年では若い男性にハイボールが人気なこともあり、ウィスキーの消費量も平成20年の75千㎘から平成27年で135千㎘と上昇傾向を見せている。

似たような傾向は、年齢別のお酒に対する支出傾向にも見て取れる。酒文化研究所が公開した『単身世帯の酒類支出の構成比(2016年)出所:家計調査』にて酒類の支出(全体100%)を見てみると、35歳以上の男性については「ビールおよびビール風」の合算が58.3%であるのに対し、34歳以下の男性は40.8%と大きく差がある。また各酒類ごとの支出について、最も構成比が高い性別および年齢(34歳以下か35歳以上か)で見てみると、ウィスキーが34歳以下男性の7.0%(最低は34歳以下女性の0.9%)、清酒が34歳以下女性の50.9%(最低は35歳以上女性の6.4%)となっている。

こう見ると、昭和世代が中心となってビールを多く消費してきたのに対し、平成では各年代や性別によって飲まれるお酒の種類が多様化したことがわかる。実際に居酒屋メニューを見てみてもお酒のバリエーションはとても充実しており、「多様な飲み方」が大きな支持を得ている。これを逆手に、ビールが豊富な種類を武器に新たな形で若者を中心に人気を取り戻そうとしている。

若者に支持されるビール

その新たな形というのが、クラフトビールだ。

クラフトビール市場の成長は様々な数字から読み取ることができる。2018年に飲食店利用者を対象にキリンビールがおこなった調査によると、「飲食店で飲みたいドリンク」としてハイボールと答えた人が21.1%だったのに対し、クラフトビールと回答した人は30.5%まで昇りハイボールを上回った。さらにGoogleの検索数もここ5年間で年々上昇しており認知度が広がっているようだ。

実際のところ以前と比べると、飲食店でクラフトビールを目にする機会もだいぶ増えた。飲食店へクラフトビールディスペンサー『Tap Marché(タップ・マルシェ)』の導入を行なっているキリンビール株式会社企画部の石井綾子さんは「ミレニアル世代のへの普及拡大の背景としては、SNSとの親和性が挙げられます」と述べる。

お話を伺ったキリンビール株式会社企画部の石井綾子さんと、首都圏統括本部の金井健太郎さん

クラフトビールは、ラベルはもちろんのこと出荷用の梱包材(ダンボール)もかなりデザインにこだわったものが多い。一時前は地ビールと呼ばれる時代もあったが、地ビールが地域に根ざした観光土産的なイメージを前面に押し出していたのに対し、クラフトビールは作り手の味へのこだわりを魅力としている。つまりは1つ1つのビールに込められた創意工夫、今風に言えばクリエイティビティを楽しめるのがクラフトビールということだ。

現在ミレニアル世代と呼ばれる若者たちは、体験を共有し思いを共感することに価値を感じている。そう考えるとまさにストーリーやデザインにこだわりを感じるクラフトビールは、今後お酒の消費を担う世代にフィットした製品であるといえる。

ブルックリンラガーのラベルデザインは「I ♡ NY」ロゴをデザインしたミルトン・グレイザー氏。一生涯のビールを条件の1つとして、ラベルデザインの仕事を引き受けたという。

18年春に全国展開を開始し、18年末で全国7,000の飲食店に導入されているタップ・マルシェ。
12ブルワリー25種類のビールを取り扱っており、選べる楽しさを届けている。4タップと2タップのディスペンサーがあり、3ℓの容器で届くクラフトビールをセットして利用する。

スプリングバレーブルワリーが販売するクラフトビールのフラッグシップモデル。
496の意味は2つあり、1つは「1ヶ月の日数1~31をすべて足すと496であり、 毎日飲んでも飽きないビール」。
もう1つは496が完全数であることから「完全数のように完璧なバランスを持ったビール」という意味を持っている。

職場の人間関係にクリエイティビティをもたらすクラフトビール

これまでお酒の市場についてまとめ、クラフトビールが新たに若者の人気を獲得しつつあることが見えてきた。我々もミレニアル世代をターゲットにした次世代のオフィス環境を取り扱う上で、オフィスにおけるアルコール提供を検討する企業の声を耳にすることが最近多いが、「若者世代から支持を得ている」というクラフトビールの特徴は無視できないものだと感じる。クラフトビールの社内提供がどのような役割を果たせるのか、その可能性についてこれを機にいくつか考えてみたい。

その1 クラフトビール好きの人材獲得

飲食店で導入が進んでいるクラフトビールだが、結果として飲食店側の人材募集にも効果があるという。求人@飲食店.comの2018年6月の求人検索ワードランキングでは、1位から順に「カフェ」、「焼肉」、「オープニング」、「ミシュラン」と続き第5位に「クラフトビール」がランクインしている。数多いキーワードがある中でクラフトビールがあるお店で働きたいというニーズが表れているようだ。そしてオフィスという場を考える際にあわせて注目したいのが1位の「カフェ」だ。

最近のオフィスでは、カフェスペースやカフェをモチーフとしたスペースを目にすることが多い。それはもちろん社員のリフレッシュやコミュニケーションを意図することが多いが、「自由な働き方を象徴するスペース」の1つとして少なからず採用上の効果も期待されている。ともなると、カフェバーの形態を取る飲食店も多い中で、クラフトビールが企業のカフェスペースやラウンジスペースに導入され、人材獲得に効果をもたらす可能性も十分にある。「クラフトビールのあるオフィスで働きたい」というニーズが今後拡まることも考えられる。

その2 クラフトビールは若者にとってのホーム

これまで飲みの場で実施されてきた「飲みニケーション」。言葉からは昭和的な匂いもプンプンするし、近年ではその飲みニケーションを毛嫌いする傾向も見受けられる(ちなみに筆者は大好きである)。その理由の1つとしてあげられるのが若者を中心に「飲みニケーション=上司や先輩の話を延々と聞かされるアウェイな場」という否定的なイメージで捉えられていることだ。

従来の飲みニケーションは、日中の業務時間とは別に会社の良い話悪い話を含め、ある意味1on1のようなメンタリングの要素も持っていた。しかし現在では一方的に上司の話を聞く場で自らの発言機会を持てず、自分らしさを出せないと感じる若者も少なくない。

ところが先日このような会話を耳にした。それはクラフトビールを飲んで仕事の会話をしていた上司(と思われる人)が、部下(と思われる人)に対して「ところでクラフトビールって何?」と訪ねたのがきっかけだった。それまで上司の話を聞く一方だった部下は、その質問の後にクラフトビールについて饒舌に語りだし、その後の仕事の話も雰囲気に明るみが出ていた。

もちろん上司が部下に対して教わるという行為がコミュニケーションのハードルを下げたこともあるだろう。しかしそれ以上に、飲みの場においてクラフトビールは若者に対してホーム的な感覚を与えるのではないかと感じた。誰しもアウェイよりホームの方が自分のありのままを曝け出しやすい。上司と部下がクラフトビールを一緒に飲むことで、飲みの場は若手人材のホームと化し、平等な発言機会を生み出すのかもしれない。

この「平等な発言機会」は社内のコミュニケーションの活性化を考える上で意外と侮れない話だ。チームのパフォーマンスを向上させるために必要な要素を研究したGoogle社のリサーチチームによると、優れたチームに不可欠な要素として、従業員1人1人が他者の反応に不安になったり羞恥心を感じることなく自然体で過ごせる状態の「心理的安全性」が重要であるという。その心理的安全性の確保のためには、均等な発言機会や上司が部下の存在を尊重することなどが挙げられており、社内でのクラフトビール提供はその一役を担うことが期待できそうだ。

社内アルコール提供は情報漏洩リスクや社員のパフォーマンス低下の回避につながる

クラフトビールに限ったことではないが、それ以外にも社内でのアルコール提供がもたらす効果は考えられる。例えば、社内でハッピーアワーなどを開くことによって、社外での飲み会で起こりかねないアルハラを中心としたハラスメント問題を防止することができる。また、企業が社内にカフェテリアを設置することで外部での情報漏洩のリスクを回避するように、チームメンバーと飲める機会を社内でも提供することで同様のリスク回避を行うことができる。

関連記事:なぜ企業はオフィスにカフェテリアをつくるのか?現代のワークスタイルや経営課題における効果を探る

オフィスの外で飲むと「エンドレスに終わらない飲み会」やそれによる翌日のパフォーマンス低下といった懸念が常につきまとう。本来業務を円滑にするためにコミュニケーションの活性化を促す飲み会のはずが、長時間の飲酒によって翌日のパフォーマンスを落とす原因になってしまうことも、飲みニケーションが若者から警戒される理由の1つである。節度を保った社内飲酒を通じて社員が長居せずにサクッと飲みながら効率的にコミュニケーションを取り、かつ早い時間に帰宅ししっかり心身を休めることができれば、健全かつ生産性の高い飲みニケーションが実現されるのではないだろうか。

関連記事:結局オフィスで飲酒はアリなのか?今も賛否両論の社内アルコール問題

企業文化にあわせた飲みニケーションを

オフィスでアルコール提供を行うことは、これまでの習慣や価値観の見直しなど、日本の企業、特に歴史ある企業からすると簡単なことではない。またケースによっては保健所の指導内容やARP(アルコール・リハビリテーション・プログラム)にも留意が必要となる点も押さえておきたいところだ。

とはいえクラフトビールが職場にクリエイティビティをもたらし、これまでになかった人間関係や働き方を生み出す可能性があるとすれば、企業は導入に向けて検討する価値はあるだろう。

昭和に全盛期を迎えた生ビールを昭和ビールとするならば、20台の若手に支持され消費量を伸ばしているクラフトビールは令和ビールといえる。これを機会に令和ビールを飲み交わすオフィスを想像してみてはいかがだろうか。

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この記事を書いた人

Shinji Inedaフロンティアコンサルティングにて設計デザイン部門の執行役員を務める。一方、アメリカ支社より西海岸を中心としたオフィス環境やワークスタイルなどの情報を、地域に合わせてローカライズ・ポピュラーライズして発信していく。



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