コミュニティーづくりにおける課題と、エデュケーションという切り口
記事作成日:[May 29, 2018]
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記事更新日:[October 30, 2019]
BY Shinji Ineda
現在のワークプレイスシェアリング事情
多くの企業が自らに合ったワークスタイルを模索している中、働く場所の選択肢はますます広がっている。WeWorkの進出や不動産大手のシェアオフィス市場に向けた積極的なアプローチも、その勢いに拍車をかけている。もちろん以前からコワーキングスペースやシェアオフィスといったサービスは存在していた。しかし急速な普及と市場拡大よって勢力図は大きく形を変え、いまやワークプレイスシェアリングのあり方は大きく二極化しているように思える。
三井不動産が提供するワークスタイリング(画像はワークスタイリングWEBサイトより転載)
東急不動産の100%子会社が運営するビジネスエアポート(画像はビジネスエアポートWEBサイトより転載)
まず1つは、外出時の隙間時間活用やテレワーク制度との利用を想定した複数拠点型だ。ザイマックスインフォニスタが提供する「モバイルワークオフィスちょくちょく...」(https://mwo.infonista.jp/)は東京都内を中心に都心から大宮・柏・立川など32店舗を構え、サテライトオフィスとして多くの企業に利用されている。これら複数拠点型の利用は、移動時間の効率化や居住地域からの通勤負担軽減を主な目的として考えられており、いかに多くの拠点を整備し、利便性に配慮した環境を提供するかが重要になる。一方で、そこでしかできないことや、特定のサービス提供を目的としているのが、少数拠点運営で多くみられるコンセプト重視型だ。企業のオフィス内に併設されたコワーキングスペースや、インキュベータ・アクセラレータなどのスタートアップサポート、特定のサービス目的に構築されたスペースがこれらのに該当する。どうやって独自の価値提供と、競合との差別化を図るかが勝負と言えるだろう。本来はもっと丁寧かつ複数の分類別けも出来るが、それが本記事の主旨ではないので、それはまたの機会として話を進めよう。
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コミュニティー形成にむけた動き
このように様々なワークプレイスのシェアリングサービスが存在するが、多くの運営企業が共通して力を入れていることに、独自のコミュニティー形成が挙げられる。WeWorkがコミュニティーづくりに注力しているのも周知の事実であり、昨年11月にWeWorkが買収したコミュニティプラットフォーム「Meetup」のCEOのスコット・ハイファーマン氏はWIREDのインタビュー(https://wired.jp/2018/01/26/wework-and-meetup/)でこう述べている。
ニューマンに聞けば、WeWorkが構築しようとしているのは「コミュニティーを生産する機械」だと説明するだろう。
※ニューマンとはWeWorkの共同創業者でCEOのアダム・ニューマン氏のこと
そのためにシェアオフィスやコワーキングスペースを運営する企業は各スペースに、コミュニテー形成の働きかけを行う担当者を配置したり、定期的なイベントを企画して、これまでに関わりのない人同士の交流を促している。近年では新しい発想や組織のタコツボ化を防止するために、社内にコワーキングスペースや協業スペースを設ける企業も多く存在しており、このような価値提供は社外交流を求める企業にとって大きな魅力だ。実際のところコワーキングスペースやシェアオフィスの利用を始める動機付けになっているともいえるだろう。
しかしそういった魅力的に見える取り組みが、実際にどの程度まで実現できているかは注意して観てみる必要がある。なかには成功事例ももちろんあるが、決して全てのコワーキングスペースやシェアオフィスでコミュニティー形成がうまくいっているわけではない。
日本特有のコミュニティー形成における2つの課題
では、なぜうまくいかないのか?その理由を少し掘り下げてみよう。
オープンになれない
自分が現在取り組んでいる事やその状況、これからやりたい事を開示せず、待っていれば自分が求めているものに都合よく出会えると思っている人はいないだろうか。なんでもかんでも喋れば良いというわけではないが、核心を伝えなければその魅力を語ることは難しいし、賛同してくれる人も少ない。また日本企業の商習慣も少なからず影響していることだろう。セキリティを厳しいレベルで担保しようと思うと、交流やコミュニケーションの機会は減少する。個人情報など必ず守らなければならないものもあるが、自身のアイデアや考えの披露は自分自身次第だ。しかし日本の商習慣の中で培われたセキュリティへの意識が、その披露の場を無意識に奪っている可能性がある。
組織人 VS 個人
名刺に記載された順番でもわかる通り、日本ではどの企業に属しているかが一つのステータスであったり、いい意味で誇りだったりする。古くからの終身雇用という考え方もあり、近年の就職活動においてもなお、長年勤続できる安定した企業に就職したいと考える若者も多い。しかし最近では個人としての価値を考え、転職や独立を行う人も増えている。働き方関連でいうと副業というキーワードが盛んに聞かれるようになっているのも、この一つと言える。どちらが良くてどちらが悪いという話ではないが、交流の場におけるこのような組織人と個人の考え方の差はだいぶ大きい。基本的に組織人は自分が所属する組織の中で何かを成し遂げようと考えている人が多く、例えそうでなくてもそのような思想を持っていると見られる。ともなると組織耐力も人数も太刀打ちができない個人は、警戒心いっぱいに構えることだろう。なぜなら、もし自身の考えやアイデアを簡単にひけらかせば、たちまち飲み込まれ、気づいたらどこかで聞いたようなサービスがローンチされているという事態を想像してしまうからだ。またこれは組織人VS個人に限った話ではない。組織人VS組織人でも互いの組織規模が多くなればなるほど、疑心暗鬼に取り付かれていく。
交流におけるそれぞれの考え方やスタンスを理解し、コミュニテイーにおけるマナーが確立されていけば、改善されていくことも多いだろうが、それは決して簡単なことではない。
このようなことから運営担当者がコミュニティー形成に四苦八苦するも、コミュニケーションの先にあるコラボレーションまでなかなか行き着かなというのが、現状多くのワークプレイスシェアリングサービスが抱える課題ではないだろうか。
コミュニティー形成のためのエデュケーションというアプローチ
ここでコミュニティー形成における一つの可能性として、教育学習というものを考えてみたいと思う。
以前本メディアでも簡単に紹介したサンフランシスコのSoma地区に位置するコワーキングスペース Galvanize(ガルバナイズ)は、利用者への教育学習に力を入れている。IBMなどの企業社員が、プログラミングやデータサイエンスなどの教育プログラムを実施しており、利用者はそのプログラムを受講することが可能だ。利用者は他コワーキングスペースと同様で多岐にわたるが、プログラム受講者は主に学校を卒業し就職に向けてスキルを身に付けたい人が多いとのことだ。教育学習を通した企業との交流により企業側の雇用につながることも多いという。
入り口は2箇所あり、Galvanize cafe(Tehama St側)から入ると大きなカフェカウンターが出迎えてくれる
先日訪れた際に施設案内を快く引き受けてくれたDavid Santana氏はこう話をしていた。「コミュニティーをつくることはもちろん大切ですが、私たちのサービスでは最低限約束された価値提供が評価されています。」つまり、コワーキングスペースとしてコミュニティー形成に努めるのはもちろんだが、もしそれが成立しなかったとしても、知識や技術の習得を最低限提供できるということだ。しかしよく考えてみると、逆に教育学習が潜在的にコミュニティー形成を促進している可能性はないだろうか?
教育学習がコミュニティー形成の下地をつくる
早速だがその理由をいくつか挙げてみたい。
その1:学習がミッション共有の疑似体験になる
チームで仕事をする上で、目指す場所を共有することはとても大切だ。ご存知の通り多くの企業が自分たちのミッションやビジョンを掲げ、そこに向かってともに歩む同士を募っている。これはコミュニティー形成においても同様で、同じミッションやビジョンを共有できてこそコラボレーションが生まれる。教育学習という行為は同じ事柄を学ぶという、ある意味共通のミッションを共有することである。学習は同じミッションに進むという行為の疑似体験となり、自然と互いの信頼関係を深めていくだろう。
その2:より個人としての付き合いができる
先に述べた課題にもあった通り、コミュニティー形成においてはいかに組織人としてではなく、どれだけ個人VS個人の付き合いが出来るかが大切となる。そう考えると学習という場はより組織というバックグラウンドが目につかなくて都合が良いといえる。同じ学習内容を教え教わるという習慣がきっと人間性を露わにし、より個人的な付き合いを可能とするはずだ。
その3:受け入れる姿勢が前提の交流となる
コミュニティー形成のためには、自分とは異なる新しい考えや理論を受け入れていく事が欠かせない。そこで足枷になりがちなのがプライドや自己主張だ。もちろん時としてそれは大切だが、少し間違うと自己完結型の人、取り扱い注意な人とレッテルを貼られてしまう。しかし学習の場は基本的に人の理論や新しい知識を受け入れる場である。この前提が日頃の頑なな自分を消し去り、受け入れ型の人間へとリセットしてくれる。
あなたの会社もコミュニティーハブになれる!?
ここまで主に学習側の立場に立って述べてきたが、それが実現出来るのも教育プログラムの提供があってからこそだ。各企業は学習の場に社員を送り出すとともに、自分たちの知識や情報を魅力あるコンテンツとして、より個人に向けて提供していくことも必要ではないだろうか。そこには多種多様なコミュニティーの生まれる可能性が秘められているはずだ。
この記事の執筆者
Shinji Ineda フロンティアコンサルティングにて設計デザイン部門の執行役員を務める。一方、アメリカ支社より西海岸を中心としたオフィス環境やワークスタイルなどの情報を、地域に合わせてローカライズ・ポピュラーライズして発信していく。