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働く人の「不妊治療」にどう向き合うか。企業にできる両立支援のアイデア

[April 12, 2022] BY Ayumi Ito

不妊治療と仕事の両立はなぜ難しい?

厚生労働省の「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」によると、不妊を心配したことがある夫婦の割合は2015年の時点で35.0%、約2.9組に1組の割合だという。また、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は2015年で18.2%、約5.5組に1組の割合となり、いずれも2005年以降は増加傾向にある。

日本産科婦人科学会の報告では、2019年に体外受精で生まれた子どもは過去最多の6万598人にのぼっている。同年の総出生数は86万5239人であり、約14.3人に1人が体外受精で生まれていることになる。体外受精は卵子を取り出し、体外で精子と受精させて子宮に戻す方法で、高度生殖補助医療と言われるものだ。その手前で行うタイミング法や人工授精なども含めると、不妊治療を経て生まれた子どもの割合はさらに高くなると推測される。

このように、今では不妊治療は特別なことではなくなっているが、仕事との両立は簡単ではない。厚生労働省が2017年に行った「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究事業」のアンケート結果では、不妊治療と仕事を両立している人の87%が両立に難しさを感じるという。また、不妊治療の経験を持つ人のうち、両立できず仕事をやめた人が16%、不妊治療をやめた人が11%、雇用形態を変えた人が8%に及んでいる。

不妊治療では頻繁な通院が必要だが、体外受精などの高度生殖補助医療を受ける場合はさらにその負担が大きくなる。また、不妊治療は月経の周期や卵子の発育状況に合わせて行われるため、治療の予定を立てるのも難しい。突発的な休みの申し出や、遅刻・早退をせざるを得ないことも、治療との両立を困難にしている。

順天堂大学が、不妊治療専門の医療機関を受診した女性1727人に行った調査では、離職の要因として次の4つの影響が指摘されている。

・非正規労働者であること
・職場から不妊治療に関するサポートがないこと
・学歴が大卒未満であること
・不妊期間が2年以上であること

調査を手掛けた研究グループは、「不妊治療と就労の両立のためには、職場での不妊治療中の社員へのサポートが重要」としたうえで、「不妊治療休暇制度やフレックスタイム制度など、期間限定で不妊治療中の社員をサポートできるような、職場における働き方改革(例:不妊治療社員用就業規則の導入等)が重要」と指摘している。

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進む、政府主導の不妊治療支援

不妊治療は、治療が高度になるほど費用も高額になる。一般的に、原因を探る検査から始まり、タイミング法、人工授精、体外受精、顕微授精へと進む。これまで、検査や原因疾患の治療、タイミング法などは健康保険が適用されていたが、人工授精や体外受精、顕微授精などは保険の適用外となっていた。

厚生労働省が2021年3月に公表した「不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書」では、不妊治療に携わる医療機関を対象に、治療費について尋ねている。医療機関によって異なるが、人工授精が1周期あたり平均約3万円、体外受精が1周期あたり平均約50万円となっている。また、治療を受ける当事者に対し、現在の医療機関における不妊治療でかかった医療費の総額を尋ねたところ、「50 万円以上」が全体の 34.5%を占め、「500万円以上」と回答した人も2.9%見られた。

不妊治療における費用負担の重さを受け、2020年9月、菅義偉元首相は就任会見において、少子化対策の目玉として「不妊治療の保険適応」を打ち出した。まずは現行の助成制度の拡充を図り、体外受精や顕微授精への助成額や助成回数の引き上げ、所得制限の撤廃などを行ってきたが、2022年4月から不妊治療の保険適用が体外受精や顕微授精にも拡大される。

一方で、厚生労働省は職場に対する支援も推進。例えば、事業主・人事部門向けに作成した「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」もその一つだ。不妊治療の概要やスケジュール、仕事との両立を支援する制度やその運営方法などを明示し、仕事と両立できる環境づくりを後押ししている。前述の「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック」もこのマニュアルと同時に作成したもので、同じ職場で働く上司や同僚へ向け、不妊治療の内容や配慮すべきポイントなどを示している。

さらに、中小企業事業主に向けた「両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)」もある。これは、不妊治療を目的とする休暇や短時間勤務などの制度を導入し、利用実績があった中小企業事業主に対して助成金を支給するものだ。このように、政府は不妊治療による経済的負担の軽減や、仕事との両立へ向けた取り組みを積極的に進めている。

仕事との両立を支援する企業の取り組み

では、実際に不妊治療と仕事の両立支援を行っている企業では、どのような制度を導入しているのだろうか。先進的な取り組みを行う企業の事例を紹介する。

1. 富士フイルムグループ

多様な人材が活躍しやすい組織を目指し、出産・育児や介護などのライフステージの変化に応じて柔軟に働ける制度を整備する富士フイルムグループ。不妊治療については、以下のような制度を導入している(導入状況はグループ会社によって異なる)。

不妊治療目的によるストック休暇利用
有給休暇の失効分を60日まで積み立て、育児や介護、ボランティアなどに使用できる制度。不妊治療にも適用される。

・不妊治療目的による休職制度
男女問わず、1人につき1回まで休職が可能。期間は1カ月~1年間で、休職中は無給だが、本人の社会保険料相当額を会社が負担する。

・不妊治療補助金
富士フイルムビジネスイノベーション共済会の共済会員またはその家族が不妊治療を行った場合、治療費が5万円を超えると年1回5万円の「不妊治療補助金」が支給される。

・共済会融資制度
共済会員またはその家族が不妊治療を行った場合、上限100万円の融資を無利子で受けられる。返済期限は48カ月以内。

このほか、フレックスタイム制度や時間単位有給制度などを用意し、両立を多面的にサポートしている。

2. 株式会社エムティーアイ

ヘルスケアから生活情報、エンターテインメントまで多彩なモバイルサービスを提供するエムティーアイ。同社は、従業員が仕事と家庭を両立し、安心して働ける職場づくりを目指してライフステージに合わせたサポートを行っている。不妊治療に関する制度には、以下のようなものがある。

・不妊治療休職
不妊治療を目的とした休職を、最大2年間取得できる制度。治療のために退職を考えているという従業員の声を受けて導入された。取得できる期間は継続勤務年数によって異なり、入社後1年以上5年未満の従業員は最大1年間、5年以上の従業員は最大2年間となっている。休職期間中は無給で、本人の社会保険料相当額を会社が負担する。対象者は原則女性のみだが、男性からも相談があれば検討するという。

・ファミリーサポート休暇
休職扱いになると収入が大幅に減少することから、休職せずに通院したい従業員向けに導入した制度。男女問わず月2日まで取得でき、無給となる。「妊活のため」と言いづらいとの声があり、名称は直接的ではない「ファミリーサポート休暇」としている

このほか、全従業員がコアタイムのないスーパーフレックス制度を利用でき、不妊治療中でも通院しやすい勤務体制が整っている。

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不妊治療をサポートするサービス事例

近年、不妊治療を支援するサービスの選択肢が増え、福利厚生として企業が導入できるものや、個人がオンラインで活用できるものなども見られる。ここでは、2つのサービス事例を紹介する。

1. 株式会社ファミワン「famione(ファミワン)」

ファミワンは、法人向け、個人向けのサービスを通して妊娠を望む人たちを支援している。法人向けの「妊活・不妊治療 福利厚生サポート」では、不妊症看護認定看護師や臨床心理士、胚培養士などの専門家から構成されるチームが、その企業が抱える課題に合わせたセミナーや従業員の個別サポートなどを実施。不妊治療を受ける従業員の支援方法や、コミュニケーションをスムーズにするヒントなど、さまざまな情報を提供している。

個人向けの「妊活LINEサポート・ファミワン」は、LINEで妊活・不妊治療に関するアドバイスや情報提供を行うサービスだ。LINEの友だち登録を行い、自身のデータを提出すると、専門家によるアドバイスや不妊治療に関する回答が届く。検査結果が妥当かどうかなど、治療内容の相談も可能。自分に合った病院選びもサポートしてくれる。

2. スピンシェル株式会社「SuguCare(スグケア)」

SuguCare」は、妊活や不妊治療に取り組む人たちをスマートフォンでサポートするサービスだ。同サービスが提供する「メンズホームチェッカー」では、精子活力チェックを自宅で実施できる。簡易チェックだが、精子濃度や精子運動率、総精子数などがわかるほか、WHO(世界保健機関)の基準値に照らし合わせたコメントが付いてくる。匿名かつWebで完結するため、検査に抵抗がある男性を後押しするものとなっている。

また、「オンライン妊活カウンセリング」では、臨床心理士や不妊カウンセラーなどによるカウンセリングをビデオ通話で受けられる。不妊治療に焦りや不安を感じている、職場での理解が得られず仕事との両立が難しいといった悩みも相談できるという。

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官民それぞれの取り組みに期待

結婚年齢の上昇に伴って晩産化が進み、不妊治療を受ける夫婦は今後も増えることが予想される。仕事との両立は、当事者はもちろんのこと、従業員のウェルビーイングや離職防止の観点から企業においても重要な課題となっている。

本記事で紹介した事例のように、ストック休暇の適用範囲に不妊治療を加える、フレックスタイム制度を導入して出退勤時間を柔軟にするなど、既存の制度の拡張から始めるのも一つの手だ。不妊治療の保険適応が拡大し、政府の支援も広がっている。今後の官民それぞれの動きに注目したい。

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この記事を書いた人

Ayumi Ito フォトエージェンシーやITベンチャー企業などでの勤務を経て、2019年よりフリーライターに。企業の転職サイトやWebコラム、経営者のインタビュー記事の執筆をメインに活動中。



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