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アメリカ西海岸の日本出身VCが「投資したい」と思う組織に共通するもの

[June 16, 2020] BY Yuna Park

「日本の働き方改革へ、西海岸で働くプロフェッショナルからの助言」シリーズの第3回。

これまで本シリーズでは、完全テレワークを支える「管理しない組織」や、「従業員エクスペリエンス」の観点から考える企業文化や制度について紹介してきた。これらの助言で共通していたのは、働き方改革で重要なのはただ柔軟に働ける制度を整えることではなく、会社が目指すミッションや共通するマインドセット等の「働き方改革の土台となる部分」ということだった。

第3回は、日本での大企業勤務を経てサンフランシスコでベンチャーキャピタリストとして働くRisa Kimura Foardさんからの助言をお届けする。日本とサンフランシスコの広告代理店を経て、現在はシード・アーリーステージのスタートアップに投資を行うRisaさんは、投資先企業のカルチャーを重視するという。そんなRisaさんだからこそ語れる、新しい価値を生み成長を続ける企業の要件とは。

今回のプロフェッショナル:

Risa Kimura FoardRisa Kimura Foardさん
アメリカの大学を卒業後、東京で大手広告代理店に7年勤務。2017年に渡米後、サンフランシスコの広告代理店を経て現在はSPARX Capital Investments, Inc.にてベンチャーキャピタリストとして活躍中。

成長するのはミッションドリブンな企業

ご存じの通り、Risaさんが拠点を置くサンフランシスコは多くのスタートアップが生まれる場所だ。そのなかで、どの企業に投資するか判断する際にRisaさんが大切にするのは「ミッションドリブンな組織かどうか」だという。

ミッションドリブンとは、企業が定める1つの目的を全員が共有し、同じ方向に向かっている状態のこと。それを見極めるために、Risaさんは投資対象となるスタートアップに通い、社員にランダムに質問するそうだ。「入った瞬間にいい空気が流れている会社は売上が好調な場合が多く、それによってさらにビジネスチャンスが流れてきます。スタートアップでは基本的に辛いことが多いもの。だからこそ、同じところに向かって情熱を持って仕事をしたい人が集まっていることがとても大事です。何時間働いたかは関係なく、人のモチベーションが高い組織は投資の際の重要なポイントになります」。

Successful team

一方日本では組織がミッションドリブンで成り立っていることは少なく、社員を時間やルールで管理するのが一般的だ。実際、Risaさんが日本の広告代理店に勤めていた際、ある事件をきっかけに突然残業規制がかかり、労働時間を規制することが至上命題となってしまったという。それまで同社は「時間をかけても120%の価値をクライアントに届ける」という考え方で仕事をしていたところが、突然「できる範囲でいいから22時に帰れ」となったのだ。

「時間が仕事のクオリティを決めてしまい、本来届けたい価値を届けられない。これでは本末転倒です。日本で働いていたときに感じていたのは、『働きたいときに働けず、働かなくてもいいときに働かなくてはいけない』ということ。でもイノベーションやクリエイティビティは時間ではなく成果で測られるべきものです。ミッションを達成するために時間をどうやりくりするか考えるのならまだしも、時間を守るためにミッション達成を妥協していては新しい価値は生まれづらいのではないでしょうか」とRisaさんは振り返る。

新しい価値を生むスタートアップに共通する3つの要素

日本で7年働き、今でも日本企業と仕事をする機会が多いRisaさんは、日本企業とサンフラシスコのスタートアップの働き方の違いを肌で感じるという。そんなRisaさんが特に注目する違いが3点ある。

①人事部が現場と密に連携

1点目は人事部の役割だ。日本で人事部というと、現場からは離れたところにある後方支援のイメージだが、Risaさんが見てきたサンフランシスコの成長スタートアップでは、人事部が現場に近く、プロジェクトの人材ニーズに臨機応変に対処しているという。当然評価システムも画一的ではなく、個人の自律性が重視される。このような背景があるからこそ、機動力を失わず、新しいアイデアをどんどん具現化していけるのだとRisaさんは話す。

②キャリアの成功が1つに定義されていない

2点目は、キャリアパス上の成功の定義だ。サンフランシスコのスタートアップでは全員が平均点を目指すのではなく、各自が得意な能力を伸ばして活用していくのが主流で、成功は必ずしも1つではない。一方日本では一般的にマネージャーになることがキャリアパスの上位にあると見なされる場合が多い。しかし本来マネージャーとはマネジメント能力のある人が担えばいい1つの役割に過ぎない。適性を考慮せず、全員が1つの場所を目指さなくてはならないのでは組織にとって人材をうまく活用できない可能性もあるという。

もともと日本は「得意分野や個性を伸ばす」ことよりも「まんべんなく平均的にできるようになる」という点を重視した価値観が強い。そのため、できることに注目するよりは「できないこと」「補うべきこと」に注目する傾向がある。企業でもスペシャリストを育成するというよりは色んな部署を異動して様々な分野のスキルを広く身につけていくという育成スタイルが主流だ。しかし「それでは突出した能力をさらに伸ばしていくことが難しく、新しいアイデアやイノベーションの種も生まれづらい」とRisaさんは指摘する。

③失敗は当たり前

3点目は、失敗を認める文化だ。これはよく言われていることだが、「失敗を過度に避ける」ことが成長スピードを鈍くしているとRisaさんも実感している。

「日本企業はもともと新しいものを生むのが得意で、高いクオリティのものづくりで世界を牽引してきました。それを支えてきたのは日本企業で働く人々の勤勉さや丁寧さ。しかしクオリティに対してこだわるその姿勢が、今はやや裏目に出てしまっている印象です」。

クオリティの高い製品やサービスに慣れた消費者の厳しさもその一因だと言う。たとえばアメリカではスーパーの店員がすべての商品の場所を把握していることを誰も期待しないが、日本では聞いたらその場所まで連れていってくれるというのが当たり前。消費者の地位が高くサービスする人へのリスペクトもアメリカと比べて低く、「求めすぎ」だという。

当然ながら製品やサービスを提供する側は時間をかけてクオリティを高め、万全の体制で市場に出さなければいけないという意識になる。この「適当にできなさ」が、新しいサービスが生まれる障壁になっているとRisaさんは指摘する。「日本は失敗に厳しい文化。そのため、絶対にうまくいくものしか市場に出せないという意識になってしまいます。たとえ企業が開発途上のものを市場に出したとしても、今度は高いクオリティに慣れた消費者がそれを受け入れづらい。それでも『とりあえず世に出して改善する』を繰り返さないと、消費者の意識も変わらずますます新しいものが生まれづらい土壌が進んでしまうでしょう」。

「違って当然」が当たり前の価値観を

もう1つ、根本的な違いとしてRisaさんが挙げるのは、「一緒に働く人はそれぞれ違って当然」という前提の有無だ。この価値観はサンフランシスコでは一般的で、だからこそ企業で働く人々がミッションで結束するのだとも言える。

たとえばRisaさんはサンフランシスコでも、同じ日本から来た人に「あなた日本人だからわかりますよね」と言われる機会が多いそうだ。しかしこの背景には「日本人であれば当然こう考える」という思い込みがあると彼女は指摘する。この「同質性」を前提とした考え方は当然、コミュニケーション不足を招き、物事に対する視点も偏らせてしまう。「まずは違いがあるということを認めること。そして新しいものに対して知ろうとすること。これが第一歩ではないでしょうか」。

「同質」であることは居心地が良く、そのデメリットにはなかなか目が向かない。しかし、企業を構成する1人1人が、新しい価値観を学んで意識を改める必要性を個人単位で認識していく必要があるとRisaさんは言う。

日本の組織力を活かしつつ、スタートアップの強みを

一方で、Risaさんは「日本の強みは何と言ってもその組織力。闇雲にただアメリカの真似をするのではもったいない」とも話す。

そもそも日本はアメリカと違ってもともと個人主義の土壌がある文化ではない。「個の意見がないのにいきなり解き放たれてもただ組織力が低下するだけ」とRisaさんも指摘する。闇雲にサンフランシスコのスタートアップの制度を取り入れるのではなく、組織力など自社の強みを残しつつ、スタートアップ文化のいいところをローカライズして取り入れていくことが必要だということだろう。

また日本で働いてみたいというRisaさん。「日本はまだまだポテンシャルがある市場。考え方をちょっと変えるだけで伸びる可能性はあります。日本とサンフランシスコをつなぐベンチャーキャピタリストとして、そのための架け橋になれたらと思っています」。

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この記事を書いた人

Yuna Park 国内企業で編集・企画、サンフランシスコのUXデザイン会社にて社内外のコンテンツマーケティングの統括責任者を務めたのち独立し、現在はライター、エディター、マーケティングコンサルタントとして活動中。専門分野は働き方、ローカライゼーション、経営。



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