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LGBTが「仕事の生産性」を上げるために、企業が心がけたいこと

記事作成日:[August 08, 2018]
BY Aya Goda

自民党の杉田水脈議員がLGBTに対し「子供を作らない、つまり”生産性”がない」などと主張したことに対し、LGBT当事者、非当事者に関わらず多くの人から批難が殺到しているが、あなたはこのニュースを見て、どう感じただろうか。

「分からないから触れない」という行為の意味

「自分の何気ないひとことも、大事になったらまずい。LGBTについてはよく分からないから、ヘタなこと言うもんじゃないな。気をつけよう」などと思ってないだろうか。分からないから言及しないというのは、確かに自分を守るための手段のひとつかもしれないが、それと同時に誰かの存在を「無かったこと」にしてしまう危険な行為にもなりかねない。

2015年の電通総研の調べによると、全国の7.6%がLGBTだと言われている。おおよそ13人にひとり、AB型や左利きの人と同じ確率である。ここで考えてみて欲しい、あなたの職場には何人のメンバーがいるのか。だとすれば、仲間の中に何人、LGBTがいる可能性があるのか。「うちの会社に限って」「それは東京の話でしょう」と思った方もいるかもしれないが、その発想がさらにLGBTの人を「無かったこと」にしてしまう。LGBTは、あなたの周りに「いない」のではなく「見えない」だけなのかもしれない。

大切なのは、リアルな当事者の声を取り入れること

また、性自認や性的指向は自分で選択できるものや趣味とはまた違い、努力によって変えられるものではない。企業のビジョンやカルチャーにはフィットしているにも関わらず、同僚や上司、部下などのLGBTへの理解が浸透していないということを理由に、一緒に働く仲間の誰かが自分らしく働きにくいならば、改善や配慮をしていきたいと考える企業は多いだろう。

ダイバーシティという言葉が日本のビジネスシーンで用いられ始めて久しいが、その取り組みが名ばかりの制度になってしまわないように大切なのは、リアルな当事者の声を取り入れることである。その文脈で「LGBTトイレ」が問題になったのも記憶に新しく、男女用の他にLGBT用のトイレを設けることは、そのトイレを使う人が自らをLGBT当事者だとカミングアウトしているのと同意になるため、当事者の悩みに寄り添っているものとは言いがたかった。

トランスジェンダーや生まれたときの身体に則らない性表現をする人などの多くにとっては、トイレの男女どちらを選択して使用するか、悩むことも多い。性自認と違うトイレを使うこと自体に精神的苦痛を伴ったり、トイレの中でジロジロと見られたりという経験からトイレに行くこと自体が嫌になり、膀胱を患ってしまう人もいるという。もちろん、あなたの会社にもそのような人がいるかもしれない。尿意をもよおさないために水分を摂らなかったり、トイレに行くこと自体を我慢したりしながらの仕事が、本当に生産性の高いものになるかというと、答えは当然、否である。

筆者は「セクシュアリティやジェンダーにとらわれず、一人ひとり選択肢が無限に広がるための事業」を展開し、LGBTをはじめとした様々な性自認や性的指向を持つメンバーと働いている。その立場として、企業には、できるならば「誰でもトイレ」の設置を検討することを推奨したい。そのトイレに男女半々のマークやレインボーをあしらったマークなどは必要ないだろう。利用者がどうしてそのトイレを使っているのかということを、トイレに入るときに他の人に見られても分からないようにするのが大切なのではないだろうか。

また、設置するだけでなく「メンバー全員が自分の心の性にしたがって、しっくり来るトイレを利用することが当たり前」という文化をつくることも重要だ。例えばトランスジェンダー女性で性別適合手術をしている途中のメンバーが女性トイレを使うことや、性表現が女性に近いけれど性自認が男性のメンバーが男性トイレを使うことなども、それぞれが自分の心の性に基づいている。これにいちいち驚いたり、注目したりせず受け入れる配慮があるといいのではないだろうか。

性自認や性的指向はグラデーション

LGBTに関する社内研修を取り入れるのも推奨したい。LGBTとは何なのか、また、働く上でLGBTがどのようなことに困難を覚えるのかを知っておくことが大切である。

例えば何気なく未婚の男性メンバーに対して「彼女はいるの?」や「結婚しないの?」などと、その人をシスジェンダー(生まれた時に診断された身体的性別と自分の性同一性が一致し、それに従って生きる人)のヘテロセクシュアル(異性愛者)だと決めつけた質問が投げかけられている現場は、よく見る。しかし、もし彼がゲイだった場合、もし同性の恋人がいたとしても答え方に困ったり、職場での差別の可能性を考えて嘘をついたりするかもしれない。嘘は新しい嘘を生み出し、周りに心を開くことができないまま仕事を続けなければいけない人がいるかもしれないのだ。周りの人間との関係性が、仕事の生産性を下げるということも多い。

性自認や性的指向は男女の両極端だけが存在するのではなく「グラデーション」のように無限に広がっている。

「自分のことは女性だと捉えているけれど、男性にだけ惹かれるわけではない」

「男性の身体で生まれたけれど、心は完全に男性よりも少し中性的に自分を捉えているところがある」

など。こんなふうに一人ひとり違うのが当たり前で、それぞれがユニークだと考えると、マジョリティとマイノリティの境界など何処にあるのか分からない。わざわざ「ここからマイノリティ(マジョリティ)」と壁をつくり、お互いがお互いを「自分と程遠いもの」として区別して扱う必要はないのではないだろうか。自分をマジョリティだと思っている人も、そしてマイノリティだと思っている人も、他者と自分を「マジョリティ」「マイノリティ」に分けて考えるのではなく「グラデーションの中の、とあるひとつの色を担っている者同士の関係」であると考えれば、性自認や性的指向の問題は誰にとっても、自分とは関係ない問題にはならない。自分とは違う人たちのためのダイバーシティではなく、自分たちのためのダイバーシティと考え、その中でも実際に配慮が必要な当事者のリアルな声を取り入れていくことが大切なのではないだろうか。

誰にとっても働きやすい会社を目指して

組織で働く上で、ネガティブな理由で仲間を失っていくのは大きな損失である。同じ目的を持って一緒に走れる、あるいは走りたいのに、LGBTへの理解が浸透していないがため、企業と当事者の歩み寄りがうまく行かずに一緒に走ることを断念しなければいけない状況を変えていく必要があるだろう。それを理由に優秀なメンバーがいなくなるのは「生産性」がどうという以前に、マイナスでしか無い。また、人は誰しも何かしら人と違うところを持っているユニークな存在である。それを認め、多様性を尊重し大切にするという姿勢の会社はLGBTだけでなく、誰にとっても働きやすい会社になるだろう。

一人ひとりの成果はチームや事業部の成果、ひいては会社の成果となる。課題が放置されれば、LGBTの社員の生産性は下がり、離職につながってしまうことも多い。結果としてチームや事業部、会社の生産性に影響する可能性もあるのだ。

杉田水脈議員の主張を受けて、あなたは口を閉ざすのか。それとも今まで目を向けていなかった問題に着目し、行動し始めるのか。子どもをもうけるという意味での「生産性」ではなく、メンバーが更にいきいきと働き、仕事の「生産性」を上げるためにできることを今一度考えたい。

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この記事の執筆者

Aya Goda 株式会社アラン・プロダクツにて、セクシュアリティやジェンダーの多様性の理解を促す事業を行う。ウェブメディア「Palette」編集長。エンタメ業界やHR業界のバックグラウンドを持ち、ダイバーシティだけでなく働き方などについての情報も発信している。

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