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ABW導入でよくある6つの失敗

記事作成日:[October 13, 2020]
/ 記事更新日:[October 08, 2020]
BY Kazumasa Ikoma

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リモートワーク推奨下で、場所に縛られない働き方としてさらなる注目を集めるアクティビティ・ベースド・ワーキング。Worker’s Resortでは、その創設者であるVeldhoen + Companyのアジア地域のマネージング・パートナーを務めるヨランダ・ミーハン (Iolanda Meehan) 氏に取材した内容を2つの記事に分けてお送りする。

アクティビティ・ベースド・ワーキングの基本的な考え方について整理した前編に続き、後編では導入に動く企業が陥りやすい失敗6つを取り上げる。「アクティビティ・ベースド・ワーキングを実践してみたが社員に浸透せず、上手く機能しなかった。」そんな失敗の多くは誤解によって生まれているとミーハン氏は語る。彼女のコンサルティング経験の中で多く出会ってきた「6つの失敗の素」とは一体何か。

1. アクティビティ・ベースド・ワーキングを導入する目的が明確にされていない

アクティビティ・ベースド・ワーキングが話題というだけで取り入れた結果、ビジネス戦略と紐づいていないケースは多々ある、とミーハン氏は語る。これは結局「オフィス変革」だけであって、組織課題の解決やさらには組織変革というレベルにまでは達しない。

イノベーションの活性化や、組織のサイロ化(蛸壷化)の解決、採用力強化に従業員のウェルビーイング改善など、企業がそれぞれ抱える課題は異なる。それに加えて、働き方改革による「労働時間短縮による生産性の向上」に必要な解決策の模索が多くの企業に課題としてのしかかる。アクティビティ・ベースド・ワーキングは、単なるレイアウト変更としてではなく、このような具体的課題の解決を支える戦略として導入することが重要である。

2. マインドセットの変化が不完全で、自由な働き方を認めきれず、社員を監視するためにオフィス出社を強制させる上司や同僚からの圧力が存在する

たとえ上記のように作業内容に合わせた空間が用意され、社員が自由に働く場所を選択できるようになったとしても、組織全体を通して本質的なマインドセットや行動の変化ができていなければ空間は使われない。集中スペースやリラックススペースがあっても、その利用に否定的な上司や同僚からの圧力があれば、せっかくのオフィス投資も無駄に終わる。

従来の日本企業では、社員を信頼し、自主性を重んじることよりも、サボっていないか「監視」する傾向が強く、この課題が特に浮き彫りになるケースが多い。新しい働き方への「理解」や社員への「信頼」の有無が大きく左右するのである。

3. 社内でロールモデルがいない

企業全体で新しい働き方に変わる意志があるにもかかわらず、ロールモデルや成功事例が近くにないが故に社員が戸惑ってしまう企業もある。「この課題の根幹はリーダーシップにある」とミーハン氏は話す。誰かがリーダーシップを発揮して社内での見本となり、自ら成功体験を増やしていく必要があるという。「新しい働き方を得るというのは、新しいスキルを得るのと一緒。誰か見本となる人が近くにいれば学びは一気に加速する」と付け加える。

4. 十分な移行期間を設けずに失敗と判断する

「変化」に対して柔軟な人もいれば、ある程度の時間を要する人もいる。何かを学ぶ際に十分な時間を設けずに「うまくいかなかった」と早急に判断する人は時にいるが、アクティビティ・ベースド・ワーキングに対して高い期待を抱くあまりその結果に急ぐ企業にこそ、この傾向が特に見られるという。「時間がかかる人こそ失敗から学ぶプロセスが大事である」ことを理解した上で、アクティビティ・ベースド・ワーキングに全社員が順応するためにはある程度の時間を設ける必要がある。

「家」の例をまた挙げると、料理にこだわる人はキッチンに充実した調理具や材料を取り揃えるが、そもそもそれらを取り揃えるに至った確固たる理由に加え、料理の技術やレシピを学び、自らを”シェフ”に成長させる熱意やマインドセットの変化が必要で、それには時間も求められる。つまり、このような成長はキッチンをリノベーションでもしたすぐ次の日に起こるようなことではないのである。オフィスも同様で、「オフィス」という環境でのコラボレーションやリラックスの仕方、さらに重要なタスクの優先順位の付け方や成果重視で働く方法を学び、それに慣れなければならない。「準備するのはスペースだけではない」と強調するミーハン氏はさらに続けて「最も大きな変革は企業全体におけるマインドセットとカルチャーの部分で起きなければならない」と付け加える。

5. フリーアドレスと混同している

フリーアドレスとして使えるデスクや在宅勤務制度を用意し、柔軟な働き方を提供することで、アクティビティ・ベースド・ワーキングを実現させたと誤った達成感を持つのもよく起こる失敗だ。確かにこれはアクティビティ・ベースド・ワーキングを実現する過程で必要な要素だが、社員の作業内容と用意されるデスクや空間につながりがない点に課題がある。

そもそもフリーアドレスやホットデスキングは単にデスクを「共有」することである。この点に関しては、確かにアクティビティ・ベースド・ワーキングでもいくつものワークプレイス環境を共有することが含まれるため、類似しているように見える。しかし、似ているのはここまでだ。

フリーアドレスにはナレッジ・ワーカーの複雑な作業につながる空間の選択肢が十分に準備されておらず、働き方やマインドセットの変化を伴わない。(大抵の場合、個人デスクと会議室の2つの選択肢しかない。)従業員は自身の活動が変化しているという気付きを得ることはなく、上司との信頼関係が深まる訳でもない。また、オープンエリアのデスクで、1日何時間も作業をし、周囲にさらされた状態でコラボレーションを行うことになる。このような状況ではクリエイティビティや集中力をもって仕事をすることはできない。「フリーアドレスとの誤解が解けないままに、失敗に終わることは驚きではない」とミーハン氏は言う。

例えば、外出が多い営業部署では特にフリーアドレス制度が導入されるケースが多いが、ただ共有デスクが用意されただけでは彼らもどのように活用して良いかわからず、本質的に生産性を高めることにつながらない。営業の作業を紐解いてみると、企業によって異なるものの、基本的には顧客との電話に、他の営業チームや他部署との情報交換、また管理部からのサポートを受ける作業が主になる。これだけ複数の活動がありながら、ただ単に共有のデスク環境を用意しただけでは、結局のところ営業が成果を出すための鍵となる活動を何一つ支えることなく終わってしまうのである。オープンエリアにある共有デスクは、顧客との電話に適している訳でもなければ、多部署とのアイデア出しや営業チーム内での成功事例の共有にも向いていない。「営業のために特別に導入されたフリーアドレス」が実のところまったく彼らから好かれないのは当然のことなのである。

6. テレワークと混同している

アクティビティ・ベースド・ワーキングは、誰もが自ら選んだ場所であればどのような環境でも最善を尽くすという信頼に基づいているため、多くの場合、企業は従業員が他の場所や在宅で仕事をすることを奨励する社内ポリシーを作成するという。 ミーハン氏によれば、これは組織がある程度成熟していることを前提としていると言う。

アクティビティ・ベースド・ワーキングは、企業が従業員の多様な活動を理解し、働く場所によらず、高度な信頼と責任を彼らに与えることになる。その結果、組織が進化し、テレワークを選択する従業員とオフィスにいる従業員の両方が同じ従業員経験(エンプロイーエクスペリエンス)を体験することができるようになる。例えば、テレワークであっても、オフィスで働いているのと同じような組織としての一体感を持つことや、オフィスにいなくても意思決定から外されていないという実感を持てるようになる。

一方で、テレワーク関しては、日本では多くの企業が書面でリモートワークに関するポリシーを定めているが、実際にうまく運用されていない。
ポリシーとしてテレワークを実施しているだけでは、知識共有や意思決定、アイデア出しなどの活動がテレワークではうまくサポートされず、ほとんどのケースで単なるオフィスコストの削減手法としか見なされない。その結果テレワークは、人々に働く場所を選ぶ権利を与える手段とは見なされないのである。

すべての組織に効果的なアクティビティ・ベースド・ワーキングの「公式」は存在しない

「自由な選択肢を与える働き方」というアクティビティ・ベースド・ワーキングには、「奔放」といったイメージを抱く人もいるかもしれない。しかし、実際にはそんなイメージでは片付けられないほど複雑かつ高度な変革が行われていることが今回の記事でわかったはずだ。

アクティビティ・ベースド・ワーキングは働き方そのものではなく、「フィロソフィー」だと語るミーハン氏。すべての会社に当てはまる「公式」というものは存在せず、他社の成功事例がそのまま自社に当てはまるものでもないという。あくまで軸となるのは、各会社の組織を構成する社員の細かな働き方の習性・傾向だ。同様に、パイロットプロジェクトを行うにしても、対象となる一部署が全社員を表しているわけではないため、プロジェクトごとに細かな分析が必要となる。自社を把握するために小さな一歩を踏み出せる企業こそ、大きな変革を生み出せるとミーハン氏はまとめた。

ライフスタイルや価値観の多様化を背景に、複雑さを増す働き方。次世代に向けた働き方には柔軟な順応力が求められる。

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この記事の執筆者

Kazumasa Ikoma オフィス業界における最新情報をリサーチ。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

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