社内コラボを高めたい時ほど知っておくべき、オープンプランオフィスの危険性
[September 23, 2020] BY Masaki Ohara
緊急事態宣言が全国的に解除されてから約3ヶ月が経ち、今や特定の企業に留まらず多くの企業が開始したリモートワーク・在宅勤務がウィズコロナの生活に浸透しつつある。他の海外先進国に比べてリモートワークの導入が遅れていると言われていた日本も今では総務省が率先して実践を呼びかけるほどだ。
リモートワーク時代の到来で、私たちはすべての仕事をオフィスで行わなくてもいいようになった。しかし一方で、私たちがオフィスに集まる時には「集まって行うべきもの」をこなす必要性があることが浮き彫りとなった。つまり、リモートワークによる従業員の分散化で個人で行える作業は自宅などオフィスから離れて行うことが可能になった一方で、オフィスには今まで以上に「コラボレーション」「交流の促進」が求められつつあるのである。
これまでのオフィスでも社内におけるコラボレーションの促進を目的としてホットデスキングやオープンオフィスの導入など様々な方法が実践されてきた。しかしこれらの取り組みは今一度ここで見直す必要がある。なぜならいくつかの研究によってこれらの取り組みが逆にコラボレーションの低下につながる恐れがあることが示されているからである。
そこで本記事ではコロナ禍で多くの企業がオフィス環境を見直すこの時期だからこそ、社内でのコラボレーションをダメにするとされる要因を整理する。
そもそも企業がオフィスに求めるコラボレーション促進とは?
先進的オフィスの海外事例や研究をリサーチしていると、共通認識として「コラボレーション」を促進することを大きなゴールの1つとしているものの、オフィスデザインという文脈の中で企業が求める「コラボレーション」とはどういったものなのかに触れているものは多くない。そこでまずはオフィスでのコラボレーションの意味を再確認したい。
今回取り上げる、研究者が定義するオフィスにおける最適なコラボレーションとは、従業員たちが共通の大きな目標を達成するためのインタラクションを起こすことである。その大きな目的のために彼らが積極的にアイデアやスキルを出し合ったり、ブレインストーミングや価値観・ミッションの共有を行ったりする姿勢が、本来期待されるべきコラボレーションの姿、としている。
言い方を買えると、業務に関係のないおしゃべりが増えただけでは「コラボレーションの促進」が達成されたことにはならないのである。そのため一重にコラボレーション促進のためのオフィス改革を行ったとしても、良いコラボレーションとダメなコラボレーションが存在する。ではダメなコラボレーションが生まれてしまうオフィスとはどのようなオフィスなのか。
オープンオフィスに潜む落とし穴
コラボレーションの促進と聞いてオープンオフィスやホットデスキング(=フリーアドレス)といった言葉が頭に浮かんだ方も少なくはないだろうが、意外にもこれが落とし穴なのである。
実際にこれらの手法は海外で数多くの企業が導入し、オフィス業界のトレンドとなるまでに至った。また、それまで従業員1人1人に個人ブースが与えられるキュービクル型のオフィスが従来の海外オフィスの基本とされていた状況の下、多くの学者の間で「従業員同士の間に身体的境界を設けることは果たしてクリエイティブな発想を生み出すコラボレーションを邪魔しているのではないか」といった議論も幾度となく行われてきた。
そんな中2018年に英国王立協会によって発表された実践的な研究『The impact of the ‘open’ workspace on human collaboration』はテクノロジーを用いてワークプレイスにおける従業員の対面コミュニケーションを量的に計測しメールやインスタントメッセージ(IM)等の非対面コミュニケーション使用量と比較することによってオープンオフィスとコラボレーションの関係を明らかにし、学者たちの議論に一石を投じた。
研究対象として、当時フロア一面丸ごとオープンオフィスへ移行することを検討していたグローバル企業を選択しオフィス移行前と移行後の数週間の間で調査が行われた。
調査に参加した企業の従業員たちはSociometric Badgeと呼ばれるセンサーを一定期間身につけて働いた。このセンサーは声の大きさやトーン・会話量・会話相手・被験者が話す側か聞く側か・体の動き・オフィス内での立ち位置などを包括的に計測し可視化することができるもので、このセンサーによって得られたデータと、同期間に社内で使用されたEメールとIMの量を比較することでオープンオフィスがコラボレーションに及ぼす影響の把握を試みた。
結果①:対面でのコラボレーションの減少
この研究に参加した企業も他の多くの企業と同じく会社内でのコラボレーションの活発化を期待してオープンオフィスへと移行したが、実際に得られた結果は企業の期待に大きく反するものであった。
オープンオフィス移行前は1人当たり1日5.8時間あった対面でのコミュニケーションが移行後1.7時間程度になってしまい、対面での会話に取って代わるようにしてEメールやIMの使用が50%以上も増加するという結果になった。無論、約4時間もの対面コミュニケーションの減少からはオープンオフィスへの移行が対面でのコラボレーションを促進したと言うことはできない。
このような結果が生まれた要因として「プライバシー」の重要性が挙げられている。場を”オープン”にして透明性を高めるということは、同時にプライバシーがなくなることを意味する。周囲の人間に聞かれたくない話をすること(自分のプライバシー)、もしくは隣の人間の集中力や会話を邪魔しないように気を遣って(相手のプライバシー)EメールやIMといった手段を選ぶことが多くなったことで、このような結果につながったと研究者は考察している。
結果②:業務におけるパフォーマンスの低下
影響はコラボレーションだけに止まらなかった。実験に参加した企業のマネジメントチームによればオープンオフィスへ移行してから従業員の業務のパフォーマンスが大幅に下がってしまったという。この原因は主にEメールなどの使用量の増加にあると考えられた。
キュービクル型の壁や高いパーテーションで仕切られた個人のデスクを持つことの最大のメリットは集中力を維持することにある。向かいのデスクの従業員の顔が見えていたり、隣の席の会話が聞こえていたりすると人間誰しも注意がそちらへ向き目の前のタスクに集中しづらくなる。従来のオフィスではこれらの要素を完全にシャットダウンすることによって集中を持続させパフォーマンスの向上につなげてきた。
しかしオープンオフィスに移行し、Eメールの使用が増えると業務中にメールをチェックする回数はそれに比例して増加する。この集中力の阻害に関して2017年に発表されたBBCの記事によると、一度メールの通知などによって妨げられた集中力が元のレベルにまで戻るのに要する時間は20分以上にもなるという。
メールチェックの回数が増えるほど、集中が妨げられ業務のパフォーマンスが低下する。ここで気をつけなければいけないことはズバリ、コラボレーションを高めることを目的として導入されたオープンオフィスがこの事態を引き起こしていることだ。したがってコラボレーション促進を期待してフリーアドレス制やオープンプランなどを導入する際には十分な注意が必要である。
関連記事:完全フリーアドレス化は危険?導入前に知っておきたい4つの事例
今あるオフィスを活用するために;ABWを意識したオフィス
今あるオフィスを新時代のニーズに対応しながら活用し、コラボレーションが可能な場所にしていくためにはどうすれば良いか。筆者はABW(目的に応じた働き方)の考え方を部分的にでも取り入れる必要があると考えている。
今回コラボレーション低下の要因を整理すると、プライバシーや集中力を維持しやすい環境がなくなってしまったことが関係している。この研究から見えてくるのは、結局のところ私たちはコラボレーションと同時に個人のタスクに集中する時間も必要で、その2つを上手に選択できる環境をそれぞれオン・オフのスイッチを切り替えるように効率的に使い分けることである。
コロナ以前の働き方では基本的に従業員がオフィスに出勤することが普通で、コラボレーションもプライバシーの確保もすべてオフィスで行う必要があった。しかしコロナ禍のリモートワークの浸透で、従業員はプライバシーや集中力を確保しやすい環境をオフィスの外にも持てるようになった。逆に、自宅では集中できないからオフィスに集中できる環境を求めたり、職場の仲間とのコミュニケーションを楽しみに来たり、という使い方も可能になった。従業員たちはこれまで以上に明確な目的を持ってオフィスに足を運ぶことになる、という意味でABWの活躍が期待できると筆者は考える。
まとめ
アフターコロナ時代のオフィスには「コラボスペース」としての機能がより一層求められていくという考えを元に、オフィスでのコラボレーションについてここまでまとめてきた。交流を増やすはずが逆に社内のコラボレーションをダメにしてしまった、なんてことにならないように非対面コミュニケーション手段の使い方やプライバシーの確保といったポイントに最大限注意を払わなければならない。
先の見えない不安定なアフターコロナ時代において、どのようなオフィスが理想の形として求められていくのか、社員の交流を支えるコラボスペースとは何なのか、引き続きリサーチを続けていく。
この記事を書いた人
Masaki Ohara 現在サンフランシスコにある大学に在学しています。心理学の観点からオフィス空間が人々の思考や行動にどのような影響を及ぼすのか関心があり、働く人々にとっての最適な空間のあり方について発信していきたいと思います。
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