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打撃受けるホテル業界、Hiltonが雇用維持で小売企業と進める「人材シェアリング」

[April 07, 2020] BY Kazumasa Ikoma

新型コロナウイルス感染拡大防止の対策が世界各国で重要な局面を迎えている。日本でもついに政府が非常事態宣言の発令に動き、生活に必要な食品や医薬品を扱うスーパーマーケットや病院、金融機関、交通機関以外の施設や店舗は休業を要請される。営業が本格的に停止する業種が増える中、多くの企業では倒産を回避するために人材雇用・維持において苦渋の選択を強いられる深刻な状況に直面しようとしている。

同じく経済への打撃で失業率の急激な上昇が連日のニュースで報道されているアメリカでは、悪化する雇用環境への対策がまさに今求められている。アメリカ国内の失業保険の申請件数が3月22〜28日までの1週間で660万件以上に上り、過去最悪な状態が数値で浮き彫りとなった。政府は従業員の雇用維持を条件に企業を資金面で支える経済対策を先日成立させ、企業は無給休暇を社員に取得させてこれ以上の解雇を増やさないようにするなど、ぎりぎりのところで倒産回避と雇用維持を行っている。

そんな中、深刻な打撃を受けているホテル業界では無給休暇を余儀なくされた従業員に対し副業解禁や、他企業との提携を通じて「期間限定」の募集ポジションへの採用支援を行うなど、彼らの雇用を維持しながら収入源を確保する具体的施策に動き出している。特にアメリカの大手ホテルグループのHiltonは他の企業に先駆け、大胆かつ迅速な取り組みに打って出た。

倉庫管理、物流、カスタマーサポートなど小売業務を中心とした採用支援

Hiltonでは、3月の売上が対前月比で大幅に減少したことを受け、従業員に90日間の無給休暇を要請。グループの1つであるHilton Grand Vacationsでも数千人レベルで影響が出ていることから、グループ全体で数万人に影響があるとされる。まさに生き残りに必死な状況だ。

そのHiltonはアメリカ東海岸時間の3月23日、コーポレートサイトにおいて、一時的に閉鎖しているホテルの従業員を中心に期間限定の仕事を探すサポートを行う目的で、他企業と提携することを発表した。 「新型コロナウイルスの影響で旅行ニーズが短期的に減少しているが、一方でこのパンデミック状況下で拡大する需要に応えるため人材雇用を必要とする企業も存在する。Hiltonは自社の従業員がこの雇用機会に動きやすいよう、これらの企業と提携する」と同社の代表を務めるクリス・ナセッタ (Chris Nassetta) 氏は語っている。時期が過ぎればまた従業員を呼び戻すことも明言した上で、一時的な”出稼ぎ”を認めた。

提携先には、新型コロナウイルス感染拡大の状況下で安定したサービス供給が求められる以下の業種を中心に45以上もの企業がが含まれる。AmazonやCVS、Walgreen、Krogerといった小売系大手企業の名が目立つ。

在宅勤務でのカスタマーサポート業

カスタマーケアやテクニカルサポートのサービスを提供するAloricaやArise、Sykesといった企業や、金融業界でオンライン上のカスタマーケアを充実させるCapital Oneといった企業を中心に募集が進む。在宅勤務をしながらオンライン上で顧客のケアを行う業務が並ぶ。

倉庫管理・物流

Eコマース事業を手がけるAmazonがフルフィルメントセンターや配送部門を中心に10万人を増員することを筆頭に、ADUSA DistributionやAESといった倉庫管理・物流サービスを提供する企業でそれぞれ1,000以上の人材を募集。さらに物流大手のFedExの採用も存在。増えるEコマース売買を支える人材の採用が進む。

食品

KrogerやAlbertsons、LiDL、H-E-Bといったスーパーマーケットチェーンや、食料品の配達サービスを提供するInstacart、またDomino’s Pizzaといった食品業界の企業も次々と募集を進める。安定した食料品の供給に対応すべく大量の人材確保が進められ、Albertsonsで30,000以上、HEBで12,000以上の人材募集を行っている。

その他小売

CVS HealthやWalgreenといった薬局業界での数万人レベルでの大規模な採用が進むほか、7-ElevenやCostcoも迅速な採用活動を進める。さらにDollar Generalや Dollar Treeといった100円ショップならぬ”1ドルショップ”の業界も同じく人材確保に動き出している。

自社の従業員への救済措置として企業間の連携を強めるHilton。この一時的な従業員の”放出”は、受け入れ側となる提携企業にも3つのメリットを提供する。

受け入れ側にある3つのメリット

1. 大規模な人材確保を迅速に行える

新型コロナウイルスの影響下で基盤を整える企業の多くは食品や薬局、さらにその供給を支える物流業界など、生活必需品の供給に携わるもので、どれも数万人レベルでの人材募集活動が目立つ。そうした大規模な雇用拡大を迅速に進める上で、自社で抱える大量の人材の活用方法に苦しむ世界有数のホテルグループと提携することは、効果的な施策と言える。

加えて、今回の特需による特定業種での雇用拡大は一時的であり、「期間限定の人員補強」という側面が強い。そのため、従業員の放出を同じく「期間限定」で抑えたいHiltonとは施策をスムーズに進めやすい。従業員としてもHiltonでの雇用状態を継続させながら、非常事態の環境下でも収入源を確保できるため、まさに三方よしの取り組みである。

2. ホスピタリティ業界のサービス精神を心得ている社員を確保できる

今回の募集ポジションを見てみると、小売企業の倉庫管理・物流を除き、店頭での顧客対応や在宅勤務でのカスタマーケアなど、顧客への「サービス」が求められる業種が多く並ぶ。提携する企業にとって、大手のホテルグループで今も雇用され「顧客対応の基礎を心得ている」社員を確保できるのは、急速な人員拡大におけるリスクヘッジでもある。

3. 企業のCSR活動としての取り組み

「企業の社会的責任」として、企業が利益のみを追い求めるだけでなく、組織活動が社会へ与える影響も考慮しながら持続可能な未来を構築するために社会貢献を行うCSR (Corporate Social Responsibility) の活動は、アメリカ企業では特に重視される。アメリカ全体で深刻となった経済への打撃や雇用問題に対し、企業が連携して対策を講じることは社会貢献の観点からも評価されるべき取り組みと言える。

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今話題の”シェアリングエコノミー”は人材・働き方の救済策となるか

今回取り上げたHilton以外にも、同業界の世界最大グループであるMarriot Internationalは同じくCVSといった企業と提携し、雇用問題の対策を進めている。最も深刻な打撃を受けているホテル業界で早期に始められたこの取り組みは、後に他の業界でも活用されるだろう。

このような人材の”シェアリング”は、もともと副業解禁や企業間の人材レンタル移籍といった施策などで注目を浴び始めていたが、感染症拡大の影響で思わぬスピードで実施が進んでいる。「働き方」という観点で従業員側も大きな影響を受ける以上、今後も注目必至だ。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    
    
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