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空間とデザイナーの「再定義」が生む、ミレニアル世代のオフィスとは 

[November 06, 2019] BY Yuna Park

2019年は、1996年生まれの多くが社会人になった年である。実は1996年生まれとはミレニアル世代の最若年齢とされており、2019年に23歳~38歳になる層がミレニアル世代と呼ばれている。当然オフィスにおいてもその存在感は大きくなり、「課長も含めて全員がミレニアル世代」というチームがある会社も珍しいものではなくなった。スタートアップのなかには全社員がミレニアル世代という会社もあるだろう。

そんな存在感を増す彼らはオフィスに何を求めているのか。テレワークなど「場所に囚われない働き方」が認知されるようになるなかで、そのような働き方と親和性が高いと思われる彼らが働きやすいオフィスとはどういうものなのだろうか。このテーマについて考えるべく、Worker’s Resortではオフィスデザインを手掛けるプランテックグループヒトカラメディア、そしてフロンティアコンサルティングの3社による座談会を実施した。

座談会参加者

  • プランテック総合計画事務所:青柳智彦氏、プランテックコンサルティング:河野香織氏
  • ヒトカラメディア:日比野亮二氏、斎 絢矢氏
  • フロンティアコンサルティング:小野哲、生駒一将

支持されるのは「曖昧さ」を備えたオフィス

最初に聞いたのは、オフィスデザインに携わる彼らが実際に感じるミレニアル世代の特徴と、それを踏まえたオフィスのトレンドだ。今回挙がったキーワードは「曖昧さ」だった。

崩れる定義と広がる選択肢

まず、実際に目にするミレニアル世代の特徴として、ヒトカラメディアの斎氏が挙げるのは「欲求に素直」という特徴だ。彼らは生まれたときからモノに囲まれ選択肢も多かったため、「自分に合うものを選ぶ」ということが当たり前だという。「つまり会社側は『選ばれる』ためにオフィスという視覚情報でメッセージを発信していかなければならない」と斎氏は言う。

その選択肢は従来のものも含めて広がっているようだ。プランテックの青柳氏が注目するのは「あらゆる定義が崩れてきている」ということ。たとえば彼が建築業界に入った15年ほど前、建築業界に「コンサルタント」というポジションは存在しなかった。それが今では当たり前になるなど、これまでになかった職種が生まれると同時に従来の職種の定義が変化し、さらに働き方や働く場の定義も変わってきている。それらにいかに対応し、価値観を再定義できるかが今のオフィスづくりにおいて重要だという。

斎氏はまた、「『働くこと』と『暮らすこと』のボーダーも曖昧になってきている」と指摘する。「以前は、『オフィスにいるとき』と『家庭にいるとき』のモードのオンオフがはっきりと分かれていることが多かったように思う。しかし今は、オフィスという枠自体も曖昧になって、たとえばオフィス内のオープンスペースで社外プロジェクトのイベントを開催したり、子連れ出勤をする人がいたり。そういう意味で、オフィスにいる人も『仕事モード』だけでなく色んなモードの人がいるようになっている」。

同じくヒトカラメディアの日比野氏も従来のオフィススペースや会社の枠組みに囚われない使い方を感じているそうだ。これまでであれば『ここは会議をする場所』『ここは作業をする場所』とスペースごとに定義がされていたが、最近は曖昧で定義されない場所が求められる傾向にあるという。たとえばそれはオフィスに「縁側」と呼ばれる中と外をつなぐための場所を作るというトレンドもその1つの表れだそうだ。

「曖昧さ」を活用してもらうために必要なものとは

ここまで話を聞いて、ミレニアル世代にとって「自分で選択することが当たり前」ということに異論はない。しかし「働くこと」においてもそうなのだろうか?特に1980年代に生まれたミレニアル前半世代が社会人になった2000年代は、「仕事とはこういうもの」「会社とはこういうもの」という定義が今よりも強かったし、仕事やその環境とは「会社から与えられるもの」という認識も当然のように共有されていた。このような時代にキャリアをスタートさせた彼らは「曖昧さ」を前にして、果たしてうまく活用することができるのだろうか?

自発的に活用させる体制・設計が鍵

上記の疑問に対し、アメリカ西海岸のオフィストレンドに詳しいフロンティアコンサルティングの生駒は「日本では自ら仕事を進めるスタイルに慣れている人が少ないことも考慮すべき」だと指摘する。「西海岸のオフィスは大学のキャンパスのように場所の選択肢を増やす傾向にあるが、その前提には『仕事は自分で前に進めるもの』という考え方があるからこそ。仕事に対して自分が主導権を持っているからこそ、働く環境も自分で選ぶという意識が働くのではないか。それまでのキャリアにおいてそういう意識を身につけてきた人とそうでない人の差は大きい」。

ではそういう意識を持てなかった人に「曖昧な空間」を活用してもらうのには何が必要なのか。プランテックの河野氏によると重要なのは「トップの意識」だという。せっかくそういう場所を作っても、利用している社員に対して「さぼっている」と捉える空気があったり、上長が居場所を常に把握しようとしたりすると、結局は活用されずにお飾りで終わってしまう。社員がその場を安心して選べるという意識を持てるよう、トップ のコミットメントと、メッセージの発信が活用促進の鍵になってくるようだ。

一方青柳氏が挙げるのは、社員をうまく誘導する設計だ。「世の中には自発的に選択ができる人ばかりではない。『与えられること』に慣れている人であれば尚更そう。そのため、スペースの境界を曖昧にして、選択している意識にさせないことでスムーズに場を活用してもらうことにつながる」。

従来の定義に囚われないオフィス事例3

「曖昧さ」に代表される、これまでのオフィスの定義に囚われないデザイン。では実際に、彼らが手掛けたその事例をご紹介しよう。

究極の曖昧さを追求したイノベーションラボ

究極の曖昧さを残した事例としてフロンティアコンサルティングの小野が挙げるのがJAL Innovation Labだ。「イノベーションを起こす環境」について議論した小野らが作り上げたオフィスは一見「何もない」空間となった。これは「何かしら意味のあるデザイン等がその空間にあると、アイデアがそれに囚われてしまうのではないか」と考えた結果だと小野は言う。

ただし、その企業のこだわりである「安全」のベースラインは守るべく、配線等はきちんと整理して並べることで、「自由でありながらもベースを逸脱しない」アイデアが生まれる環境を作った。「イノベーション系のオフィスではやることや優先順位が日々変化していくため、突き詰めればスーパーフレックスな空間がもっとも使い勝手がよいのかもしれない」と小野は言う。

目的に合わせて常に変化するNTTコミュニケーションズの「出島」

スーパーフレックスを実現したオフィスとして、ヒトカラメディアが手がけたのはNTTコミュニケーションズの芝浦オフィスだ。

きっかけは、ミレニアル世代のエンジニアによる「エンジニア同士がつながり、自由に活動できる場が欲しい」というFacebookへの投稿だった。それを目にした開発部署のトップがゴーサインを出し、投稿主であるエンジニアに「全権丸投げ」という形で、いわゆる「出島づくり」の有志プロジェクトがスタートしたのだ。

ここで注目したいのがそのプロセスだ。全プロセスを通してすべてのコミュニケーションをSlackで公開することで、「みんなでつくっている」という意識が生まれたという。その設計に関わった斎によると、「訪れるたびに内装が変わっている」そうで、常に「自分たちがやりたいこと」に合わせて場を変化させているのだという。先日ご紹介したNEW STANDARD株式会社のオフィスと同様に、これはまさに、オフィスが「与えられる場」から「やりたいことに合わせてつくる場」に進化した成功事例と言えるだろう。

オフィスを「街」と再定義した某企業の大阪支社

プランテックが手掛けた某企業の大阪支社では、グループ会社7社が1つの拠点に入っていたが、もともとフロアが分かれていたため会社同士の交流はなかった。それをワンフロアにまとめるという計画が持ち上がったのだが、それまでまったく交流がなかったものをワンフロアにしたところで社員が戸惑うことは目に見えていた。

そこで青柳氏が行ったのは空間の再定義だ。オフィスではなく「街」として定義し、メインストリートや公園、カフェなどを配置。そうして視覚的に「街」と定義することでコミュニティとしての意識が生まれ、交流促進につながったという。

オフィスデザイナーは「設計者」から「伴走者」へ

オフィスは「与えられる場」から「目的に合わせて活用するもの」へ。この流れに合わせて、オフィスデザイナーの役割も変化しているようだ。

河野氏はそれを「モチベーションを高めるきっかけを作る役割」だと再定義する。「我々は設計スキルとして持っているが、それはあくまで手段。事業を発展させていくというそのモチベーションをさらに大きくするために伴走するのが我々の役割だ」。

斎氏も同意見だ。「特にスタートアップの場合、最初はマンションオフィスから始まり、ビジネスの規模が大きくなるにつれてオフィスも大きくなっていく。そのなかで、コミュニケーションやスピード感、効率など、フェーズによって重視されるものは変わってくる。1つのオフィスデザインで完結しようとせず、事業の成長に合わせて使い勝手のよいように柔軟に変えていくことが求められており、我々はそこに並走する存在でありたい」。

従来のオフィスの定義に囚われず、今後の事業成長の段階に合わせて場を見直していくこと。そしてそのためには設計者ではなく伴走者を見つけること。この2点がミレニアル世代が活躍できるオフィスづくりの鍵となるのかもしれない。

今回話を聞いた場所

KICHi by WARPKICHi by WARP
ヒトカラメディアが提供する未来の「オモシロい」を仕掛ける拠点。スタートアップ向けの敷金ゼロ・内装付きのオフィススペースと24時間利用可能のレンタルスペースを備える。新宿駅南口徒歩1分。https://letswarp.jp/kichi/

座談会参加企業の事例を紹介

プランテック総合計画事務所、プランテックコンサルティング

モランボン本社ビル:食品メーカー「モランボン」の本社ビル。2階と3階の執務エリアは、セットバック部分を吹き抜けでつなぎ、上下階の連続性を確保し、部署間のコミュニケーションを誘発する構成とした。本計画では、社員メンバーと設計者で「オフィス環境研究会」を発足させ、フレキシブルな働き方やコミュニケーションが自然と生まれる空間づくりを目指した。

ドーム有明ヘッドクォーター :「スポーツを通じて社会を豊かにする」という経営方針をもつドームの本拠地。 「強い組織づくり」と「働き方改革」をテーマに掲げ、「Proactive Matrix」という各プロジェ クトの有機的なつながりを生み出す概念に対して、意図的にコミュニケーションやビジネスチ ャンスを誘発するしかけを空間に取り入れている。倉庫からのコンバージョンオフィス。

ヒトカラメディア

株式会社OKAN: オフィス設計に「Activity Based Working」を採用。業務に合わせて座席や働く場所を変えることで、生産性の向上やコミュニケーションの活性化を促す。また、植物の配置やハイレゾ自然音の設置など“五感”を刺激する仕掛けも特徴。

Repro株式会社:多様さを増したメンバーが勢いよく成長にコミットする一方で、社内の一体感に対する言外の危機意識も併せ持っていた。ワークショップで決まったコンセプトは「メリハリのあるワークプレイス」。

株式会社ニット:フルリモートかつ完全フレックス制を採用した自由なワークスタイルが特徴。初めての自社オフィスは、ミッション・ビジョンを“体感“できる空間にしたいという明確な意図が込められている。

フロンティアコンサルティング

「HAKKOパーク」は、万田発酵が 〈発酵文化〉の啓蒙と企業ブランディングを目的に2018年8月にオープンした入場無料のテーマパークで〈癒し・学び・遊び〉を提供する施設。因島の地形を最大限に活かしたグランドデザインとし、瀬戸内の折り重なる島々を模したアーチ状の三枚屋根が印象的な「ゲート」、万田酵素の製造や発酵過程が見学できる「ホール」、1万平方メートル超の広大な敷地に四季折々の花々が咲き誇る「ガーデン」の3エリアから構成される。

株式会社カルテットコミュニケーションズ:白を基調とした「洗練性」と、24mの廊下をはじめとしたダイナミックな空間構成で「インパクト」を創出。執務エリアには「キャンプスペース」を設けることで真剣に業務を行うエリアと真剣にくつろぐエリアを両立している。

sol 株式会社:ゲストエリアとスタッフエリア、2つのエリアで全く異なる世界観を表現。ホームリビングテイストなスタッフエリアにはロフトスペースやキッチンカウンターを設けることで、会社自体の居心地の良さを体現したワークスペースとしている。

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この記事を書いた人

Yuna Park国内企業で編集・企画、サンフランシスコのUXデザイン会社にて社内外のコンテンツマーケティングの統括責任者を務めたのち独立し、現在はライター、エディター、マーケティングコンサルタントとして活動中。専門分野は働き方、ローカライゼーション、経営。

    

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