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スノーピークビジネスソリューションズが挑む、世界でも広がるネイチャー志向のワークプレイス

記事作成日:[July 31, 2017]
/ 記事更新日:[February 21, 2019]
BY Shinji Ineda

アウトドアというと以前は車や公共交通機関で遠出をして楽しむイメージが強かった。しかし最近はラグジュアリーなアウトドア体験ができるグランピングや、2020年の東京オリンピックにて正式種目となったスポーツクライミングなど、身近なところでアウトドアに触れる機会が増えている。

西海岸をはじめ世界中には、そんなアウトドアスタイルや自然の要素をオフィスに取り入れる企業が多く存在する。先日、本メディアでもとりあげたWELL Building standardにも定義されている「入居者に与える影響要素」にも密接に関わっているが、従業員の心身の健康が企業の生産性を向上させるという考え方からであろう。

関連記事:健康的なオフィスの新基準、WELL Building Standardとは?(前編)

カリフォルニア州カルヴァーシティの倉庫を改装したCuningham Groupのオフィス。多くの自然光を取り込み、屋内庭園の植栽によって空気が濾過される。(写真はCuningham Groupより引用)

ロンドンにあるInnocentオフィス。芝生カーペットの上にピクニックテーブルが配置されている。(写真はStiff + Trevillionより引用)

自然とのつながりを意識した建材の開発

世界的なタイルカーペットカンパニーであるInterface社は、日常生活を営む場所と自然がつながってほしいと願う私たちの本能的な欲求を満たすアプローチでデザインする手法である「バイオフィリックデザイン」を、自社製品の開発に取り入れている。(左写真はInterfaceより引用)

Interface社が世界中の職場におけるバイオフィリックデザインの効果について調査した Human Spaces Report によると、植物や日光といった自然の要素のある環境で働く人々は、自然の要素がない環境で働く人々よりも、幸福度が15%高く、また生産性が6%、創造性も15%高いという結果が報告されている。

(画像はHuman Spaces Reportより引用)

調査結果でもわかる通り、自然を取り入れた職場環境が働く人々や企業にとって、いかに大切かを理解していただけると思う。

日本でも取り組まれるアウトドアスタイル

これらのような自然的な要素を仕事環境に取り入れるべく牽引している企業が日本国内にもある。それが株式会社スノーピークビジネスソリューションズだ。

スノーピークビジネスソリューションズは、ITを活用した企業活性化コンサルティングでチームビルディングのサポートを行う株式会社ハーティスシステムアンドコンサルティングと、キャンプ用品・登山・アパレルなどを中心としたアウトドア用品などを手掛け、自然志向のライフスタイルを提案する株式会社スノーピークが、2016年7月に設立した合弁会社である。名古屋市にあるオフィスにて、会社設立の経緯や、スノーピークビジネスソリューションズが提案するアウトドアワークスタイルがもたらすメリットについて話を伺った。

(写真左:代表取締役の村瀬氏、写真右:取締役の藤本氏)

スノーピークビジネスソリューションズの代表取締役である村瀬氏は、自身の体験を振り返る。「もともとIT企業であれば、すぐにどこででもテレワークが出来ると考えていました。しかし中には社内の信頼関係が成立していない企業がたくさんあり、そんな企業がテレワークを実施できるはずがないと、ある時に気付いたんです。また私たちはチームビルディングを行っている会社だからこそ、日頃からの信頼関係のもとでテレワークが可能だったんだと理解できました。」

入社式は高知の山奥から出席

その瞬間、どこまで思い切ったことが出来るか極端にやってみようと思い、高知の山奥で1週間ほどキャンプをしながらテレワークを試してみたのだという。「実はちょうど入社式と時期が重なり、私は山を背景に入社式に参加しました。毎日とてもワクワクしていましたし、なによりすごく快適だった。いい仕事ができたと感じています。」そして一緒に働いている社員とも実践してみたいと考えたのだという。

後日公園で実施したのち、同じような環境が身近にもあるといいなと思い室内でも設えることにしたという。「そしてスノーピークに自分たちが実践している姿を自慢をしに行こう、ということになったんです。」話をしてみるとスノーピークも、もっともっと人間性の回復ということを広げていきたいと考えていたところだったという。「その結果、ビジネスユーザーに向けて提供していこうと意気投合したんです。」

社内には多目的に利用できるよう、キャンプ用品やテントで構成されたスペースが用意されている。

アウトドアワークスタイルのメリット

アウトドアワークスタイルによって得られるメリットは大きく7つあるという。

1:クリエイティブアイデア
いつもの会議では出てこない、クリエイティブなアイデアが生まれる。

2:チームビルディング
テントを立てる、火を起こす・・・あらゆる作業を共にして、チームは一つになり、強い絆が生まれる。

3:ビジョンシェアリング
焚火を囲んでの熱いトークは、肩書を超えて本音を出し合える絶好の機会となる。

4:クラウドリテラシー
テクノロジーの進化を認識し、それに対応できる人財が企業を大きく成長させる。

5:モラルエデュケーション
次に使う人のために何をしておくべきかを考える機会が、普段の仕事のクオリティを上げる。

6:ウェルフェアプログラム
福利厚生としての活用。また社内合宿所や、研修施設を保有するよりも大幅にコストダウンできる。

7:クライシスマネージメント
BCPとしてテントやキャンプ道具を所有することは、災害時に企業活動を継続するための備えになる。

外で働く環境を作るにはITやクラウドについての知識が必要とされ、社員のテクノロジーへの対応能力が向上するとのことだ。またクライシスマネージメントについては、あるエピソードと共に実体験を語った。

オフィスが火事に!それでも継続できた業務。

「以前、ハーティスの岡崎本社が火事に見舞われた事がありました。突然の事でしたが、何かあった時に対応できるような能力が普段から身に付いていたおかげで、ほぼクライアントさんには迷惑をかけずに業務を行うことが出来たんです。」と取締役の藤本氏は話す。

「実は熊本地震や東日本大震災の際にスノーピークも支援活動を行ったのですが、テントを建てるのに不慣れな方も結構いたり、それどころではない状況も多くあったそうです。もちろん設営のサポートも行いましたが、もし企業内でもそのようなことを出来る人がもっと増えれば、周辺企業や地域の手助けができると思います。」もちろん災害はないのが一番だが、このような地域貢献の考え方は噴火や地震の多い日本ならではだろう。

また、コンパクトに収納が可能で持ち運びしやすいキャンプ用品は、人員増減に対応しなければならないオフィスのスケーラビリティを向上させると言える。シリコンバレーやサンフランシスコでも急激な人員増減やレイアウト変更があり、そのような状況にインスピレーションを受けて開発されている家具も存在する。

関連記事:ABWの導入はHackから

IT活用の大切さと中核都市での取り組み

「とはいっても、IT技術も組み合わせて仕事を行っていくことが、今後はより大切になります。」と村瀬氏は続ける。「ミーティングでも、決定をしていく場であればメッセンジャーなどを使い、デジタルを活用しながら効率的に行えればいいと思います。メリハリを持って運用することが大事です。」

投影されているのは岡崎のオフィス。相互で会話も行うことができる。

スノーピークビジネスソリューションズでも、会社のイベントでバーベキューなどを年3回ほど、その他に屋外での仕事やキャンプの社内推奨により2ヶ月に1回程度は野外活動を行っているが、日頃はアウトドア環境を用意した社内で業務をしているとのことだ。

これまでの実績から導入した企業からは、笑顔が増えたりお客様を呼びやすくなったという反響があるという。「オフィス家具と比較すると、キャンプ用品はリーズナブルです。しかもスノーピークはこだわりを持って製品を作っているので、高耐久性も兼ね備えています。」とオフィスへの提供に村瀬氏は自信を持っている。「今後はアウトドアギアと自然の要素を用いて、より五感を刺激する提案をしていきたいと考えています。オフィスの大部分はコミュニケーションをする場に変わってきていると思う。そういう行為に適した場を提供していきたい。」

また中核都市の可能性についても触れる。「私達の拠点がある愛知県岡崎市は、すごい都会でもないし、すごい田舎でもない。特徴がないように思われることもあるが、言い方を変えると両方のバランスがとれているんです。そういう中核都市で新しい働き方できると面白いと思うんです。」岡崎では川沿いにテントを張ったり、自社で保有する住箱(隈研吾氏がデザインを手掛けた木製のトレーラーハウス)を公園においてみたりと、様々な働き方を試しているとのことだ。

仕事は自身で生み出すもの。働きすぎないようにサポートするのが企業。

最後に、現在多くの企業が取り組む「働き方改革」について村瀬氏はこう語った。「基本的に仕事は自身で生み出すものだと思うんです。だから仕事が終わることは決してない。どこで区切りをつけるかだけのことだと考えています。でも社会には仕事は与えられるものと考える人がいて、そんな人は働かなきゃいけない、働かされているという考えになってしまう。そもそも企業は自分で仕事を生み出せる人を育てるのが大前提で、それを出来る人が無限に仕事をしてしまう。そこに対して会社が健康や家族のことを考慮して手を差し伸べるべきなのではと思います。」スノーピークビジネスソリューションズでは、有給休暇をUQ(Up Quality)と表現し、普段業務上ではできないことに取り組み、仕事のクオリティを上げて欲しいと社員に伝えている。

アウトドアワークスタイルはチームを育み、自身で仕事を生み出していく人材の育成にも繋がるということだろう。

参考:snowpeak BusinessSolutions, HEARTIS SYSTEM&CONSULTING, snowpeakCuningham GroupStiff + TrevillionInterfaceHuman Spaces Report

 

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この記事の執筆者

Shinji Ineda フロンティアコンサルティングにて設計デザイン部門の執行役員を務める。一方、アメリカ支社より西海岸を中心としたオフィス環境やワークスタイルなどの情報を、地域に合わせてローカライズ・ポピュラーライズして発信していく。

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