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住宅不動産が手がける「暮らす」コワーキング – 12 SHINJUKUから学ぶ「住む+働く」空間づくりのポイント

[January 22, 2019] BY Kazumasa Ikoma

2018年9月27日、新宿駅直結のシェアオフィス「12 SHINJUKU」がオープンした。ワークプレイスに生活空間を取り入れることは近年のトレンドであるが、この施設をオープンしたリビタもまた「暮らす」「生きる」にフォーカスする。現在も成長段階にある日本のコワーキング市場に、「次の不動産の常識をつくり続ける」という経営ビジョンを持った新進気鋭企業がコワーキング市場にまた1つ新たなスペースを作り出した形だ。

コワーキングやシェアオフィスの数は今も増え続ける中で、なぜ今回12 SHINJUKUに注目したのか?その最大の理由は、これまで住宅不動産を手がけてきた企業がそのノウハウをワークプレイスに活用し、「住むように働く」を実現しようとしているからだ。これまでオフィス専門の設計者が一部生活空間も入ったワークプレイスをデザインすることが多かった中で、住宅を主に扱ってきた企業が働く環境のデザインを行うことは比較的まだ新しい取り組み。これまで住宅とオフィスのハイブリッド型施設をいくつか手掛けてきたリビタ自身もこの規模感のプロジェクトは今回が初めてだというが、果たしてどのようにこの生活空間重視のシェアオフィスを作り上げたのか。プロデュースを手がけた井上聡子さんに話を聞いた。

12 shinjuku producer

なぜ住宅不動産の会社が働く場所改革に参入したのか?

今回リビタがオフィスに参入したのは、建物内での人の時間の過ごし方が以前と変わりつつあるからだ。生活と仕事の距離感が人それぞれ自由に設けられる時代になる中、建物用途における「オフィス」や「住宅」といった区切りはもはや相応しくないものになりつつある。2005年の設立以来、不動産に新しい価値を見出してきたリビタにとって、生活と一体化したワークスペースを作り上げることは1つの大きな挑戦的課題だった。「『自由に家族が来られる空間』を働く環境の中で実現したかった」と井上さんは語る。

その姿勢は施設名にも表されている。12 SHINJUKUの「12」は、人がほとんどの時間を過ごす住宅空間と仕事空間を指す1st placeと2nd placeから由来している。どちらが1st placeか2nd placeなのかは人によって変わるが、この1と2の間は人によって自由に変わるもの、というのがリビタの考えだ。この距離感が近い人は家族と一緒にいながら仕事をし、逆に距離を取る人は仕事と私生活をはっきりと分けた上でバランスを取ることを重視する。12 SHINJUKUのロゴもこの1と2の間にある自由な距離感を表現したものだ。

実際に不動産業界において、このような「住む」と「働く」の中間的な建物はまだ多く存在していない。先にも挙げたが、リビタは建築物の用途にある「共同住宅」や「オフィス」といった既存の枠組みからこの「住む + 働く」の新しい建物づくりを行っている。今回の12 SHINJUKUの物件は建物用途がオフィスだったため、そこにリビタが培ってきた住宅のノウハウを加えたらどうなるのか、逆にリビタの住宅の知見に「働く」を加えたらどうなるのかという目線でこのプロジェクトは進められた。

関連記事:【遊ぶように働く】仕事と私生活を連動させるワークライフインテグレーションとは

生活空間を意識したシェアオフィスの中身

それでは暮らしのプロが手がけたシェアオフィス空間の中身を見ていこう。

まずメインのワークプレイスとなるシェアオフィス空間は基本的に完全個室で、個人利用のフリーアドレス・ブースデスク空間も含め月単位で利用可能。ドロップインでの利用は行っていないため、8階の共用スペースでは顔見知りとなった他の入居者と「ご近所さん」感覚で安心してワークラウンジを利用することができる。

8階の共用スペース。木目を基調としたシンプルでクリーンな印象を持つオフィススペースに入居者が集う。

同じく8階のイベント&セミナースペース。イベントが開かれていないときはここで作業することもできる。

リビングダイニングエリアは入居者と家族専用のスペース。靴を脱ぎ、父親が子供に本を読んだり、勉強を教えたり、また遊んだりもしながら、片方で仕事をするといった光景がよく見られる。また母親が赤ちゃんを連れてきてそこで仕事することもあるという。新宿駅直結という好立地から、休みの日に家族を連れてくる入居者もいるとのこと。「子供が気に入っているから」と働く場所が必要な入居者のみならずその家族にも愛されているのは、「働く」と「暮らす」が共に充実した場所であることの表れだろう。

リラックスして作業する人の姿が印象的なリビングダイニング

他にも電源の位置や長時間座っていても疲れない椅子の配置、また自然光がふんだんに入り込む窓が多い作りを活かした計画等、リビタのこだわりが各ポイントで見られる。これらすべてはこの場所がただ「働く所だから」というのではなく、あくまで人が生活を過ごす拠点の1つとして同社が居心地の良さを追求した上での結果だ。

さらに暮らしに寄せた空間では、シェアキッチンに、シャワー、パウダールーム、ランドリールーム等がある。細かく区分けされた畳ルームは1回あたり3〜4時間利用可能で、昼寝やゲーム等リラックス目的で利用する人もいれば、仕事の集中作業のために篭る利用者もいるという。この設備を活用すれば、例えば単身の人が都内のお風呂なしの住宅を借りて家賃を節約し、住まいの第2拠点兼仕事場として12 SHINJUKUを利用する、といったフレキシブルなライフスタイルも可能になる。

広々としたシェアキッチンスペースではイベント時の食事を並べたり、複数家族で料理をしたりすることが可能だ。

畳ルームは小さく区分けされ、自分の世界に入ることができる。

清潔感のあるトイレ・バススペース。壁に残る塗装跡をあえて残し、建物の歴史やその良さを活かすのがリベタ流リノベーションだ

生活空間とオフィスで共通して重要なのは「他人との距離感」

住宅とシェアオフィスの空間設計に共通して重要とされるところ、そして今回の空間づくりで特に重視されたのは、入居者同士の距離感だ。近年のコワーキングスペースやシェアオフィスで耳にする課題は、他人との距離感が時として近すぎること。確かに利用者の多くは新しい人との出会いやネットワークを求めてそういった施設への入居を決めるが、それでも「コワーキング疲れ」や「シェア疲れ」は起きてしまう。今回リビタが「住むように働ける」居心地の良さを実現するために、他人と近すぎない距離感の空間演出は必須事項だった。

基本的にフリーアドレスデスクやワークラウンジといった共有スペースのデスクの大きさや配置は、建物設計上の制限を考慮した上でリビタが持つパーソナルスペースのノウハウのもとに計算されたものになっている。

その1つにあるのが、人との心理的な距離感を大きく左右する「人の目線」。フリーアドレス・ブースデスクにある照明は座った時に相手の目線が隠れる高さにある。同様の手法で別の良い例となっているのが、リビングダイニングに吊るされた大きな照明だ。空間自体はオープンな作りになっているが、この照明のおかげで対面に座る他人の目線が自分に直接届かない仕組みになっている。

フリーアドレス・ブースデスク

真ん中の特徴的かつ控えめな照明がリビングダイニングの居心地の良さを演出する。

あとは個室のオフィススペースや共有スペース、リビングダイニング、畳スペースといった様々なエリアはそれぞれ仕事の同僚や他の入居者、自分の家族といれる空間、また自分一人になれる空間として揃っている。つまり、自分が今その時いたい人と自由に居られる空間の選択肢があることも、入居者が人との適度な距離感を保てる要因の1つになっている。実際にこの選択肢こそが「自分たちの空間か皆の空間しかない通常のオフィスと比べて、ここにはプラスアルファがある」と、ユーザーの入居の決め手の1つになっているという。実際にこれまで近場の別のシェアオフィスを利用していた企業が移ってきたり、また本社とは別にサテライトオフィスとして利用を開始する企業が業態を問わず次々と入居してきたりすると井上さんはいう。

人が持つパーソナルスペースというのは個人それぞれのものがあり、また家族や同僚、恋人といった関係性によっても変わってくる。その中で「近すぎないけど、人の気配は感じられる」繊細な距離感を空間で演出することは13年間シェアハウスや大型の住宅物件を手がけてきたリビタが得意としていることの1つだ。利害関係が発生する関係性の距離感は近づきすぎないように保ちつつ、純粋な人間関係としての距離感をうまく縮める空間への配慮が12 SHINJUKUにはある。

関連記事:ワークとライフの両方を楽しむ!宿泊できるホテル併設型のコワーキングスペース特集 2018年国内編

ハードだけでなく、ソフト面でも暮らしを支援

またリビタの工夫は建物のハード面だけでなく、そこで行われるプログラムやイベントといったソフト面でも見ることができる。

先述の8階のイベント&セミナースペースでは、暮らしと働くが混ざり合う生活について語る「12LABO」トークイベントを定期的に開催。毎回ゲストスピーカーからそれぞれの暮らし方・働き方を学ぶ機会を設け、「暮らし・働く」のコンセプトをより多くの人と共有している。イベントがいかに人気か、下の画像からもよく伝わる。

11月27日に開催された「12LABO vol.1」の様子

このようなイベント企画は12 SHINJUKUのコミュニティ作りにおいても当初は特に大切な位置付けだったと井上さんは語る。というのも、リビタがこの施設をオープンする上で多種多様な企業やユーザーを集めるために様々な人数に応じたスペースを用意した一方、20〜30人規模の企業の社員と個人で入居するユーザーは交わるのかという不安があったからだ。しかし蓋を開けてみれば、このようなイベントの場だけでなく、スペースを利用する日常の中で子供を通じて親同士で仲良くなる入居者や、キッチンスペースでの料理を通じて交流を深める入居者の姿が多く見受けられたという。生活におけるあらゆる要素が人と自然につながるきっかけになったのは、暮らしと働く両方を意識したシェアオフィスならではのストーリーだ。

ホテル事業との連携で暮らしをさらに自由に

またリビタは入居者がさらに「暮らしを自由にする」を実現できるような仕組みを現在構築している。同社はすでにあるホテル事業を活用し、入居者がリビタのホテルに宿泊する際、割引が適用されたり等、「どこでも仕事し、どこでも暮らせる」ライフスタイルを利用者に提供しようとしている。

現在ホテル事業では、各地域の住民や文化と触れ合えるシェアスペースがあるという特徴を持った「シェア型複合ホテル」を日本各地に展開中。都内にある「LYURO 東京清澄」の他に、石川県・金沢にある「HATCHi 金沢」、北海道は函館にある「HakoBa 函館」等計5ヶ所のシェアホテルをこれまでオープンさせており、来年は京都、広島での開業を予定している。都内は今まで遠いから通えない、また時には地方にもいたい、という利用者の課題や願いに応えようとしている。

リビタ・THE SHARE HOTELSホームページより

この12 SHINJUKUと地方ホテルの組み合わせは、主な利用者層であるスタートアップや中小企業が自社社員に対して手軽に企業研修を実施しやすいというメリットにもつながる。実際に12 SHINJUKUでは今現地での研修プランを構築中だという。12 SHINJUKUに入居することで「大企業にあるような福利厚生プログラムをウチでも自社社員に提供できるようになる」と感じてもらえるように、彼らへの支援を強めていきたいと考えている。

ちなみに同じくハード・ソフト両方で入居者の生活をサポートしている例といえば、先日の記事で触れた、アメリカ・ニューヨークの不動産企業Tisherman Payerが提供するサービスZoが挙げられる。彼らはサービスを通じて建物入居企業の福利厚生を支援し、巨大テック企業の福利厚生に負けじと食事のケータリングから、託児所や医療設備、ヨガ・フィットネス教室、ファッションやネイルサロンサービスを提供している。アメリカ国内でも特に新しい取り組みと注目されているハード・ソフト両方での支援サービスが12 SHINJUKUによって日本でも行われようとしているのだ。

さらにリビタは「オフィスワーカーや、居住者、来街者等の市民が肩書きをはずして集い、日常を豊かにする趣味の活動や、街を豊かに変える活動(=部活)が生まれ、動き出す場
」という定義のシェアスペース、BUKATSUDOを横浜みなとみらいにすでにオープンしている。同社は今後もこのような施設と12 SHINJUKUとの連携を高め、暮らし・働き・社会の3つがつながるきっかけ作りを積極的に行っていく予定だという。

新宿の景色が広がる屋上スペース

最後に:他人の「暮らし方」を学ぶ場

これまで私たちが多くの人から働き方を学んできたように、これからは働き方のみならず、それを含めた「暮らし方」を学んだり参考にしたりすることが増えてくるだろう。井上さんは12 SHINJUKUを通じて入居者同士が互いに新たな生活の仕方の気づきを得られるようになってくれれば、と語る。

そうすれば建物用途という枠組みも古い仕組みになるだろう。先に挙げた「オフィス」や「住宅」といった区分は、本来それを作る側ではなく、むしろ使う側が決めるもの。わざわざ1つの場所を「働く場所」と決めつける必要もないし、「家だから〇〇をする」といった決まり事もなくなる。カフェも仕事場になる今の時代に、このような枠組みは適切でなくなるのではないか。今回インタビューの最後に井上さんとこのような議論を交わした。

関連記事:アメリカ西海岸のCEO達が実践する、ワークライフの組み立て方

今回「住む」と「働く」を両立させるこの12 SHINJUKUの取り組みを聞いて、私たちも現代におけるオフィスやワークプレイスとは何なのか、改めて考えさせられる機会となった。私たちが今いる環境は果たして何と呼べるのか、その答えを探しながらこれからも新たな働く環境を読者の方と見ていきたい。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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