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経営者がこだわるオフィス ー 小売系IT企業FABRIC TOKYOが「オープンなカルチャー作り」を徹底した東京・代々木本社

[January 30, 2020] BY Kazumasa Ikoma

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家賃補助・交通費支給制度

このオープンエリアはいくつかの制度と合わせることでさらに機能性を高めることができる。

例えばFABRIC TOKYOでは、本社オフィスから自宅までの距離がグーグルマップ上で30分以内の社員に対し、3万円を支給する家賃補助制度が存在する。対象は本社で働く社員だけでなく、店舗で働くメンバーにも適用される。これも本社以外の社員も含め、オフィスに訪れる機会を増やす施策の1つだ。

特にこれからリアル店舗を全国で増やしていくFABRIC TOKYOでは、人員拡大が進むほど新旧のメンバー間交流が重要になる。これから同社に入社するメンバーが少しでも今までのメンバーと触れ合い、社の歴史や考え方に触れる機会を促すことで、部署間のみならず社員間の連携も促していこうという考えだ。

また同社ではさらに本社での移動費として、関西・名古屋などの拠点メンバーを中心に毎月3万円を上限に移動費を支払う制度も設けている。これは四半期に1度ある全社総会の移動とは別に支給され、これも本社以外のメンバーを本社の誘致する施策として機能する。全社総会とは別に週1回のペースで行われる全社集会にはZoomでの参加がもちろん可能だが、この移動費を活用し、定期的に本社で直接集会に参加する社員もいるようだ。

研修スペースとなる「デモショップ」を本社内に設置

『研修スペース』も以前のオフィスにはなかった空間だ。この研修スペースは実際のリアル店舗を模したつくりで、同社に入社した社員は配属先にかかわらず、全員がこの空間で1ヶ月の研修を受けることになる。これには「全社員が顧客の包括的なブランド体験づくりを行う上で、店舗での提供体験も考えられるようになるべき」という森さんの考えがベースにある。

D2Cビジネスにおける店舗の機能は、一般的な小売企業の店舗と異なる。業界内ではOMO (Online Merges with Offline) とも呼ばれるが、オンラインでものを買うことが主流になる時代に、それまで「ものを買う場所」として機能していた店舗は今その機能が見直されている。つまりFABRIC TOKYOにとってリアル店舗は「ものを買う場所」ではなく、採寸を行う場所、そして商品の価値そのものやブランドの世界観を顧客に伝える場所として機能するわけだ。森さんが昨年9月の事業戦略発表会で、小売はインターネットのある時代に物売りに留まることなく、継続的に顧客に最適な体験を提供するサービスを展開すると語った「小売のサービス化=RaaS (Retail as a Service)」論は、このようにして同社の店舗に落とし込まれている。

FABRIC TOKYOにとって顧客との接点は、採寸を行ったあと基本的にオンラインがベースとなる。リアル店舗は顧客と直接的な接点を持つ貴重な機会になるからこそ、D2Cならではの店舗体験を従業員全員が考える癖を身に着ける必要があるのである。研修スペースは、その意味でD2Cブランドとして全社員の足並みを揃えるために不可欠な空間なのだ。

デモショップ。スーツやシャツの布地を展示するファブリック・ウォールも店舗と同じもの。

中では研修が活発に行われている。

FABRIC TOKYOがこのフェーズで研修スペースを導入したのは、同社のD2Cビジネスにおいてリアル店舗の存在価値が大きく変わったことに起因する。今でこそリアル店舗は、同社にとってビジネスウェアの採寸とブランド発信を行うという重要な役割を担っているが、オンラインからスタートした起業当初はまだ店舗を構えていなかった。創業1年目は顧客に自ら測ったサイズをサイトで入力してもらう方法だったが、「採寸してほしい」という声が徐々に増加。のちに、予約制でオフィスでの採寸を始めたところ、サイトへのアクセス数や商品購入が増えたという。ポップアップストアの導入も経てリアル店舗を構えるようになり、現在18となった店舗数を今年中に30まで増やすという事業戦略が新たに立てられている。

結果的に1ヶ月本社での研修を体験した社員は本社オフィスへの親しみや使い方も学ぶ。社員を招く空間だけでなく、社員を送り出すための空間も用意することで、本社と店舗間、そして拠点間の移動を促している。

その他社員の交流を促す施策

これらのオープンな交流が図れる工夫を凝らしたオフィスの機能性は、人事的な施策も合わせることでさらに高められている。

FABRIC TOKYOには1年間勤続するとどの部署にも転職できる「社内転職チャレンジ」制度がある。サプライチェーンやブランドづくり、店舗、エンジニア、CS、新規事業など、すべて自社で構える同社では、自社の特徴を武器にスキルアップや成長の機会をいつでも提供できる環境を用意している。実際に社内の10%弱の社員がすでに「転チャレ」を経験済みだという。他の部署で働く社員の姿が見えるオフィスだからこそ、社内転職希望者を増やし、複数部署で経験を得た社員が結果的に包括的な顧客のブランド体験構築に貢献するというポジティブサイクルを生み出すことができる。

またそのほかに部署を横断して社員が協働する機会の1つとして、緊急ではないものの重要な課題を一緒に解決する「トライ・プロジェクト」という制度も存在する。期間は3ヶ月から6ヶ月程度で、例えば新卒採用プロジェクトなどは他の部署にいても採用に携わることができ、社員に新たな体験を提供する機会として機能している。ちなみに今回のオフィス構築プロジェクトもこのトライ・プロジェクトの1つだという。自己の成長や新しいことへの挑戦ができるチャンスを常に提供し、社員が選べるようにして「主体的に動く」「自己実現を行う」姿勢を促す森さんの考えはこの制度にも反映されている。

オープンで社員間交流を深めるオフィスは単に日常業務だけでなく、社員の成長や発見も促している。特に今回オフィス構築プロジェクトが社員に働きやすい空間を自ら考えさせる機会を与えたことは、上層部や総務から一方的に与えられた空間をただ使うという概念を取り払い、本当に活用されるオフィスを構築するきっかけを生み出した。「自主性のあるオープンオフィス」は大きな影響を企業、そして社員に与えるのである。

最後に

カルチャー醸成を目的としたオープンなオフィスを構築したFABRIC TOKYOの背景には、同社の様々な経営判断が存在していた。「ベンチャー企業にとって節約は大事。その上で簡易的なオフィスをつくる会社もあるが、うちでは適した投資をしたい」と森さんは語る。様々な仕掛けが施されたオフィスが同社のさらなる成長を今後どのように支えるのか注目し続けたい。


今回取材したFABRIC TOKYOの森雄一郎さんは、2020年2月17日〜20日まで福岡で開催されるICCサミット FUKUOKA 2020のセッション「成長企業のオフィス戦略〜そこに込めた思い、狙いとは?」にご登壇予定です。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。詳細は公式ページをご覧ください。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    
    
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