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NEW STANDARDが提唱する「社員に来たいと思わせる」オフィスのあり方

[September 18, 2019] BY Kazumasa Ikoma

オフィス取材を続けていると「どこでも働ける世界になった今、オフィスを持つ意味や価値はどこにあるのか」「どうすれば社員にオフィスに来たいと思わせることができるか」という問いに何度も直面する。そうした筆者の経験の中でも、この問いに対しとてもユニークな意見を聞くことができたので、読者にご紹介したい。

今回取材したのは、今年8月1日に株式会社TABILABOから社名を変更したばかりのNEW STANDARD株式会社。新しい価値観やライフスタイルに触れることができる世界中のトピックを発信している『TABI LABO』を中心としたメディア事業に加え、熱狂を起点とした独自のマーケティング手法でビジネス課題解決を実現する「BUSINESS DESIGN & BRAND STUDIO」、イベントスペース&カフェ「BPM」の運営や新規事業(D2C)など、メディアの新しいビジネスモデルを展開してきた。また社名の変更に伴いコーポレートリブランディングも行い、「メディアカンパニー」から「ムーブメントカンパニー」に移行するなど、会社として大きな転換期を迎えた。

現オフィスは2017年11月に入居からもうすぐ2年が経つ。これまで仕事場として一軒家にこだわり富ヶ谷、代々木上原、代官山と移転してきたが、4回目にして池尻大橋に初めてオフィス物件を借りた。キッチンをオフィス内に造作できることを条件とし、水回りを兼ね備えたオフィスビルを探した結果この場所に落ち着いた。こだわった内装空間に、イベントスペース&カフェ『BPM』も備えるなど、独特なオフィス環境を揃えるNEW STANDARDが考える「現代におけるオフィスの価値」とは何なのか?同社代表取締役の久志尚太郎さんに話を聞いた。

なぜ未完成にこだわるのか?

オフィス全体の特徴としてまず目に入るのが、自然な空間を演出する木製のオフィス家具。これは「WE CREATE WHAT WE WANT」という会社の標語を反映し、家具の多くは社員のDIYによって作られている。何も考えずに与えられたものを消費するのではなく、欲しいものや未来は自分たちで創る、という会社の標語を反映し進化し続けるために、オフィスのテーマを「未完成」としている。

3階の執務室

DIYのロッカー

執務室内にある集中スペース

2階にあるイベントスペース&カフェの『BPM』は、デジタルメディア『TABI LABO』を通したウェブやスマートフォンのコンテンツ・情報発信だけでは伝えきれないリアルな体験を提供する空間として作られた。今はレンタルスペースとしても貸し出しており、ジャズライブや結婚式の二次会、また新サービスの発表会の場として利用されることもある。DIY家具を移動することで、利用用途に合わせた空間にカスタマイズすることもできる。

2階のBPM

BPM内にあるミーティングスペース

『BPM』はBeats per Momentの略称で、異なる価値観に触れるリアルな体験を通じて「鼓動が高まる瞬間」を生み出す場という意味をもつ。音楽用語のテンポ、つまりBPM(Beats Per Menute)からきている。

BPMには12台のスピーカーが設置されており、3Dサウンドクリエイターによる音響空間のデザインが施されている。部屋の場所や時間帯によって鳥のさえずりが聞こえるなどの演出があるため、個人作業や顧客との打ち合わせを行う心地良いカフェ空間としても機能する。

「オフィス=ワークスペース」ではない

仕事も今では会社に来なくてもネットさえあれば進めることができる。もはやワークスペースはインターネット空間に存在するもので、オフィスの作業する場所としての価値はあまり感じられなくなるだろう。そこでオフィスに来ることで得られる体験やメリットは再定義されなければいけない。

例えば、オフィスに来るからクリエイティブになれる、インプットやアイデアを得られる、人との出会いがある、といった付加価値を持つ必要が出てくる。そのような①ネット上にあるワークプレース以外のオフィスでできる体験の定義、と②個人ではたどり着けない体験の定義、の2つの項目を満たすことで、オフィスの価値は見直される。オフィスというハード面をどのように駆使すれば、社員に自発的に「オフィスに来たい」と思わせることができるか。それが働き方というテーマにおいて今の経営者に求められる課題の1つだと久志さんは語る。

実際にNEW STANDARD社がカフェやキッチンを用意できるオフィス環境にこだわるのも、創業当時から変わらず続くランチ自炊文化をはじめとした企業カルチャーを大切にしているからだ。ランチを自分たちで創り続けるのは「同じ釜の飯を食う」ことで社員同士の絆を深めるだけでなく、料理を通じてコンテンツ作りやチームビルディングを学ぶ意味合いもある。現在も週2回、社員が交代で80人近くのランチを作り皆で一緒に食べる。この企業カルチャーを体験し体現することこそが、オフィス空間で得られる価値の1つとなっている。

ランチ自炊文化に重要なキッチンスペース

ランチを通じて社員は多くを学び、体験する

オフィスというリアルな場所のあり方は、OMO (Offline Merges Online)の考え方に当てはまる

このような現代オフィスのあり方を考えるときに、近年注目を集めるOMO (Offline Merges Online)の考え方が参考になると久志さんは説明する。

OMOとは、主に小売業界や飲食業界を中心に取り組みが進む新たなマーケティング戦略の概念。これまではO2O(Online to Offlie)と呼ばれる概念が主流で、メール等でクーポンを配信し、実店舗に顧客を呼び寄せるような「オンライン→オフライン」の施策が行われていた。しかし、客が商品を購入する場所が実店舗だけでなくオンライン上にも移ったことで、オンラインとオフラインの境目が曖昧になり、「オンラインとオフラインを融合する」という意味のOMOが今注目されている。

例えば、Appleがストア実店舗で多くのスタッフを配置して製品のリアルな体験や価値観の提供に注力していたり、ニューヨークにあるNikeの店舗では顧客が実際にシューズを試せるようにバスケットボールコートやトレッドミルを設置していたり、またTargetでは手早く買い物を済ませたい客とショッピングを楽しみたい客で別々のエントランスを設け、異なる動線設計を施した店舗を2年前から増やしたりしている。これらはすべてOMOの事例で、要は顧客のユーザー体験(UX)を高める目的として、店舗で提供するリアルな体験を定義し直し、店舗のあり方を変化させているのである。

ニューヨークにあるNIKE SOHOストアのTrial Zone

テキサス州リッチモンドにあるTargetの新しい店舗レイアウト

オンライン購入が一般的になった小売業界において店舗が単純に「売る場所」ではなくなったように、オンラインで仕事ができる今日オフィスの価値も「仕事をする場所」に限らなくなった。どこでも仕事ができるようになる今の時代こそ、オフィスの定義を言語化することが重要だ。「制度としてオフィスに来なければいけないようにする」「通年化されたものを続けている」という環境では、社員がオフィスに来ることの本質を理解するのは難しくなると久志さんは語る。

NEW STANDARDでは、オフィスを想像力と創造力が広がる場所、コーポレートアイデンティティや企業カルチャーを感じ体現する場所にしたいという。自分たちで創った家具を使うことや、キッチンスペースを使ったランチ自炊文化に、毎月最終週の金曜日にビジネスパートナーや家族、友人を招待して行うパーティ『LFMP (Last Friday Meetup Party)』 の開催など、様々な体験を提供している。

オフィスの再定義が多くの企業で進めば、働き方に対する考え方がそれぞれの企業オフィスで反映され、オフィス環境の多様化が進むだろう。働き方改革に悩む企業ほど、まずはそもそものオフィスや通勤の定義のアップデートを考えてみても良いかもしれない。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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