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”生産を基盤に” – NYC Industry Cityが生み出す新たなコミュニティ

[February 19, 2019] BY Chinami Ojiri

ニューヨーク・ブルックリンの再開発で生まれた新複合施設のIndustry City。35エーカー、約14万平方メートルという広大な敷地に残るかつては工場や倉庫だった16棟の建物群にリノベーションが施され、新旧が融合した空間として注目を集める建物だ。施設内には、スタートアップやクリエィティブ系の会社がオフィスを構え、レストランやショップ、フードホール、アトリエやギャラリーなど、多様なテナントが入居し、新たな文化の発信地となっている。また、ICが位置するウォーターフロントからは、ロウワーマンハッタンの街並みを一望できる。

Industry City内フードホール(※2)

現在ニューヨーク市では、5つの区(Manhattan、Brooklyn、Queens、Staten Island、Bronx)全てのエリアにおいて、目覚ましいペースで都市開発が行われている。その中でも特に大規模なプロジェクトで注目されているのが、このIndustry City(以下IC)である。ここに入居する企業には、ICの何が魅力に映っているのか。また企業以外にも多様なテナントが集まる建物内にはどのようなエコシステムが存在するのか。今回は、開発ラッシュのニューヨークにおいて、ICが特に注目されている理由を探ってみたい。

ニューヨーク区分とIndustry Cityの位置関係

Industry Cityの歴史と再開発

ICの魅力を理解する上で、その歴史を知ることは避けて通れない。IC誕生の歴史は1890年代まで遡る。Bush Terminal Companyの創設者であるIrving Tar Bushにより、ブルックリンのサンセットパークに壮大なスケールのインターモーダル輸送、倉庫、流通センターが誕生した。当時はBush Terminalと呼ばれ、ニューヨークの貿易流通の中心地となり国際的な港として繁栄。しかし、1960年代には時代の流れから、製造業は長期的な衰退の一途をたどり、テナントは次々と引っ越し、又は閉業となってしまう。その後、再復興案と共に、Industry Cityに改名されるが一時的な動きとして終わる。結果、今回の再開発に至るまで、ICは40年以上もの間放置されていたのだ。

1958年のBush Terminalの様子(LIBRARY OF CONGRESSより引用)

そして、2013年、長い沈黙は破られ、Belvedere CapitalとJamestown、Angelo Gordon & Co.が率いる新しいオーナーシップグループにより、IC再開発プロジェクトが動き出した。オーナー会社の一つであるJamestownは、チェルシーマーケットを開発したことでも有名な不動産会社であり、ICの注目度の高さが窺える。

2013年から始まった建設は現在も続いており、工事中のエリアが多く見られる。現在実際に見て回れるのは、全16棟あるビルのうち10棟。各ビルには数字が割り振られており、横並びに続く1〜8のビルはCampusと呼ばれ、ひとつの大きな大学のような雰囲気が感じられる。1階にはフードコートやアパレル、インテリアのテナントが入り、特に週末は多くのビジターで賑わっている。2階以上にはオフィスやギャラリーが入居し、お昼になるとオフィスで働く人たちがフードコートに列をつくる。フードコートは社員食堂の役割も果たしているのだ。また、各ビルの間には芝生が広がるコートヤードがあり、天気の良い日には読書をしたり、昼寝をしたり、子ども達が走り回ったりと、憩いの場となっている。また、毎週末には、イベントやアートインスタレーションの展示などが開催されている。

Industry City Campus Map(※2)

Industry City内フードホール(※2)

Industry City コートヤード(※2)

また、他の2棟(19と20のビル)は少し離れたところに位置している。一部お洒落なインテリアショップで有名なABC Carpet & Homeが店舗を構え、学術医療センターのHSS(Hospital For Special Surgery)が入っているが、まだほとんどのスペースが開発途中だ。ICの公式サイトによると、開放的な空間を利用したメガオフィススペースとなる予定である。

industry city building 19

Industry City Building19のオフィス完成予想図(※2)

Industry Cityが注目される理由とは?

– “innovation ecosystem” =「ものづくり」をベースとしたエコシステム

ICが注目される大きな要素のひとつは、”innovation ecosystem”というユニークなコンセプトにある。『「小売」ではなく「生産」を基盤に発展させる。』つまり「ものづくり」に焦点を起き、生産者同士の化学反応を生み出す場として、ICの存在意義を見出しているのだ。そのため、テナントには3D印刷会社のMakerbotやドローンメーカーのAerobo、映画とテレビの配給会社のFilmRiseといった、イノベーション経済を牽引するような将来性がある企業。また、ブルックリン生まれの地元で愛されているお店(Blue Marble Ice Cream)や、アボカドバーガーを作るというコンセプトが受け、テレビ番組で出資をゲットし出店を果たしたお店(Avocaderia)など、各テナントの個性が光る。会社規模はあまり重要視されていないように見受けられる。実際、現在入居中のテナントの半分以上がフリーランスやスタートアップなどの中小企業だという。CEOのAndrew Kimballは「折衷的なクリエイティビティの組み合わせが、ICのアイディンティティとなり、幹となる(※1)」と話しており、伝統と先進が混在したブルックリンという土地ならではのコンセプトが窺える。

– スペース活用の多様性

では、施設内の具体的なスペース活用はどのようになっているのだろうか。リース内容としては、Creative Office Space、Production Space、Creative Workshops、Retail Space、そしてEvent Spaceという5つのカテゴリーに分かれており、様々な業種スタイルに対応できるようになっている。

  • Creative Office Space : テックや広告、メディアといったクリエイティブ系の会社が多く、5,000〜500,000 平方フィート (約465〜46,452平方メートル) までの幅広い賃貸面積の選択が可能
  • Production Space : フォトスタジオやバイオテックラボ、家具工場など、主に製作や研究の現場として利用
  • Creative Workshops : アーティストやデザイナー、職人、また、スタートアップ企業向けに、400〜2,000 平方フィート(約37〜186平方メートル) の比較的小さな賃貸面積を提供
  • Retail Space : 40,000 平方フィート (約3,716平方メートル) のフードホールには、多国籍かつ上質な商品を扱う飲食、小売業者が厳選され入居
  • Event Space : 2,000〜25,000 平方フィート (約186〜2,323平方メートル) のイベントスペースは、メーカーやアートの展示会、カクテルパーティー、映画上映など様々な内容に対応可能

Industry City – Creative Office Space(※2)

Industry City – Production Space(※2)

Industry City – Creative Workshops(※2)

一見、各カテゴリーで棲み分けがされているように思うが、実際の線引きは良い意味で曖昧だ。例えば、フードコートを歩くと店舗と工場を併設しているテナントが多いことに気づく。現在出店している24の飲食店舗の中で、約7割程はオープンキッチン、又は工場が見えるつくりになっている。工場はガラス張りになっていて、顧客は製作現場を間近で見ることができる。

また、IC内ではWifiが利用できる為、フードコートや空いているイベントスペースでPCに向かい仕事をしている人もいる。自社オフィススペース以外にもこうして自由に働けるオープンスペースを利用できる点が入居企業の従業員に魅力的に映っているようだ。テナントの中には海外企業もみられ、伊藤園等の日本企業も入居している。

実際にICにオフィスを構えている人達に聞いたところ、ランチやイベント時に他の会社の人と話すことはよくあるそうだ。直接的に仕事に繋がることは無くても、良い刺激になりICの環境に好感を持っている人が多かった。また、工場内の作業を見て関心を持ち、その会社の求人に応募した人もいた。こういった、曖昧な境界線や、ものづくりの現場を積極的に見せる姿勢が、偶発的なコミュニケーションづくりに繋がるのだろう。

関連記事:結局オフィスで飲酒はアリなのか?今も賛否両論のスタートアップカルチャー

– 地域活性と雇用拡大への貢献

また、IC再開発プロジェクトは地域活性と雇用拡大にも大きく貢献している。ICはブルックリンのサンセットパークというエリアにあるが、再開発前は寂れた工場地帯といった雰囲気で閑散としており、治安の面でも少し懸念があるような場所だった。しかし、この再開発によりIC周辺は整備され、今ではマンハッタンから引っ越してくる企業もある。週末には隣のニュージャージー州から車でわざわざ遊びに来る人もいたり、ICと共にサンセットパークの認知度が広がっている。

ICは現在に至るまで、5,000人以上の雇用を創出してきた。そのうちの57%はブルックリン住民であり、サンセットパークの地元住人の約20%がICで働いている。更に、Innovation Labという施設では職業訓練や起業家向けのサポートが行われるなど、ICをハブとした雇用拡大に積極的に活動している。

関連記事:サンフランシスコの歴史的建物で起こすイノベーション – FOCUS Innovation Studio

最後に

2013年からの10年計画として開発が進むIC。将来的には、ホテルなどのホスピタリティ施設やカルチャーセンターなどもオープン予定とされている。ICの目指すInnovation Economy Hubの最終形はどのようなものなのか、新たな文化発信地としての発展に期待が高まる。ニューヨークを訪れた際には、ブルックリンならではのローカルな雰囲気、開発途中の空間、そしてニューヨークの新たな働く空間を体験しに訪れて欲しいスポットの一つである。

参考記事 / イメージ
※1 CURBED NEW YORK: Inside Industry City’s Big, Controversial Industrial Expansion Plan
※2 INDUSTRY CITY Website

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この記事を書いた人

Chinami Ojiriフロンティアコンサルティングで設計デザイン部に勤めた後、渡米。経験と知識を広げる為、現在はNYの美大にてインテリアデザインを学んでいる。

    

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