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「寒すぎるオフィス」は解決されるのか?ワークスペースで配慮すべき男女差とは

[December 19, 2017] BY Kazumasa Ikoma

なぜオフィスの室温問題は今も多くの企業で語られているのか。オフィス改革が進められ性別関係なく多くの社員にとって働きやすい環境づくりが行われているにもかかわらず、こういった問題は今も解決されないままである。

ワークプレイスにおけるジェンダーの平等性は今ではしっかりと目を向けられ、企業間ではムラがありつつもその問題は少しずつ改善に進んでいる。一方、配慮すべき性別上の生物学的な違いや心理学的な違いがまたあることも事実。その違いをあえて明確にし理解することで社員同士の尊重、それからより良いオフィス環境の構築に繋げられるのではないだろうか。

例えば男性と女性でオフィス機能に求めるものの違いは何なのか。今回は社員全員にとってより過ごしやすいワークプレイスを作るために、性別の違いの観点から見るオフィスのポイントをいくつかご紹介する。

未だ解決されていない男女間の適正室内温度の問題

男性社員が過ごしやすいと思っている室内環境の中、多くの女性社員が凍えている。そういったオフィスの室温問題は長い間議論されてきた。読者の多くはこの問題を身近で聞いたこと、もしくは実際に体験したことがあるのではないだろうか。

この室温基準の問題は日本だけではなく、世界共通の問題として取り上げられている。これは性別の違いによる身体的特性が影響する、オフィスにおける課題の代表的なものだ。男女間の身体の代謝率と体温の差によるところが大きいようである。

アメリカではすでにその点について言及されている。オランダのマーストリヒト大学医療センターに勤めるボリス・キングマ氏は2015年に発表した論文内で、アメリカのビル室温基準の1つの要素として男性社員の代謝率を元に導き出されている点が問題だと指摘。1960年代の研究で得られた、体重約70kgの40代男性の安静時の代謝率が基になっているのだという。これが影響し本来代謝率の低い女性社員もその男性と同じ基準で考えられ、比較すると女性の代謝が20〜30%過大評価されるようになっている。

体の中で一番熱を作るとされている筋肉は男性に多く、さらに年齢が上がるほど代謝率は下がり、関連して体温を維持できず寒さを感じる。男性を基にした室温基準の女性に対する悪影響はここで発生する。

ここで挙がる論点の1つ「女性の方が薄着なだけなのではないか」という疑問は人によってたまに聞かれるものである。しかし別の研究結果では男女共にTシャツとスウェットパンツで簡単なオフィスワークをしてもらったところ、女性の心地よいとする室温は男性が思うものに比べ2度ほど高いという結果がすでに出ている。女性が寒さを感じるのは格好を差し引いても事実なのである。

今の日本の室内温度に関しても議論の余地は大きくある。今では定着している室内気温28度という設定は50年以上前の厚生科学研究による「ビルディングの環境衛生基準に関する研究」(1966年)が基になっていると言われている。またHuffpostの記事では、この28度という数字について、科学的根拠はなく目安として始めたもの、だというクールビズ導入当時の担当課長、盛山正仁法務副大臣の発言を載せている。日本の室温基準も再考すべき段階に来ている。

このような事実を把握した上で、実際に正しい室温設定に取り掛かる、というのはそれでも難しいかもしれない。しかしすでに室温の自動調節を行うIoT製品は開発され、男性と女性が共に心地よいと思う室温の設定が少しずつ可能になってきている。

先日の記事で取り上げたNESTはユーザーの生活スタイルから学習して自動で室温調整を行う。また日本でもアズビル、村田製作所、戸田建設が「申告型空調システム」の開発を行っており、現在の室温が寒い、快適、もしくは暑いといった体感情報を「空調制御用申告カード」を通して投票できるようにしている。社員に合わせた室温設定ができる空調システム開発は着々と進められている。

戸田建設がサイト上で説明している申告判別機能。「寒い」「暑い」という申告が一時的なものであるか判別し、すべてのユーザーに快適な室温の調整を行う。(画像は戸田建設のウェブサイトより引用)

今後より快適な室温調整のために、キングマ氏自身は特定の室温を数字として掲げることよりも、男女の代謝率の違いを室内気温の基準設定に考慮することが重要だと述べている。上記の申告型空調システム以外にも、社員の代謝を常に確認し、より社員の状態に合わせた柔軟な室温調整に繋げるウェアラブルデバイスの開発等がこれから期待されていくだろう。

関連記事:オフィスに使える次世代IoTとは

別の見方では、最近導入する企業が増えているフリーアドレス制を活用し、スペースや部屋、フロアごとに温度を少しずつ変えて設定することも可能だ。そうすることで常に心地良い室温に身を置くだけでなく、例えばランチ後に眠気が襲った時にはあえて少し涼しめの部屋で作業を行い目を覚ますこともできる。

1960年代のように男性社員がオフィスの約70%を占めていた男性支配の時代とはもう違う。空調管理のあるオフィスで個人用のヒーターで暖をとりながら仕事をする環境があるなら積極的に改善されるべきだ。

好みの違いも存在 オープンプラン vs プライベートオフィス

この室温問題のように生物学的特徴や身体的特徴によりオフィスに対する体験に差が出ることはみんなのためのオフィスを考える上で重要な項目である。しかしその他にも心理的な面で男女別にオフィスの好き嫌いが存在することを知っておくと面白い。

オープンプランとプライベートにその違いは表れている。日本でもイノベーションやコラボレーションをキーワードにオープンプランのオフィスが続々と増えているが、一方でプライベートオフィスの方が良いと答える社員もまた増えているのである。

2014年発表のストックホルム大学ストレス研究所のレポートによると、個人オフィス、共有オフィス、そしてオープンプランのオフィスにおける性別の違いを見たところ、女性はオープンプランにて一番ストレスレベルが低いと報告。それに対し男性は、共有スペースよりも個人オフィスの方を好む、という結果になった。女性の低ストレスの要因として、研究を率いたクリスティ・ボーディン・ダニエルソン氏は、女性がオープンプランオフィスにおいて他の社員との交流がより可能である点を挙げている。男性には逆にチームワークが起きやすいレイアウトで社員同士の衝突が起きやすい環境に強いストレスを感じているようだ。

これに共通する形で、トロント大学ロットマン・マネージメント・スクールの組織行動学教授、ジェニファー・バーダール氏は2005年に学生169人を対象に行ったリサーチ結果から、仕事の作業グループにおいて男性が階層的なチーム構造を好むのに対し、女性は平等主義の体制を好む傾向があると述べている。彼女の研究によると、ほぼ女性のグループとほぼ男性のグループはチームを組んだ際にそれぞれリーダーポジションにつく1人を決めるところからスタートしたが、時間の経過とともに、女性のグループはメンバー全員が平等的なチーム構造にシフトしていったという。「男性にリードされるグループに比べ、ほとんど女性のグループはリーダー的役割を共有する傾向にある」という。

女性によるビジネスの支援を行う非営利団体、Count Me In for Women’s Economic Independenceの前代表、ネル・メルリーノ氏も自身が目にしてきた経験からこれらの意見に同意している。「女性はワークプレイスにおいてよりコラボレーティブに動く傾向がある」として、女性メンバーから成るチームの相互の協力的な動きは男性との違いとして映っているようだ。

このようなリーダーシップに対する好みはオフィスのレイアウトにも自然と反映されている。男性は階層的な要素を含むプライベートオフィス形式に自らの達成やステータスを表すネームプレート、女性は逆にカジュアルなコラボレーションが行いやすいミーティングルームを好み、オープンプランに置かれたデスクにはデコレーションや家族写真等、自分と関係の近い人や親戚の写真でスペースをパーソナライズ化する傾向があるというのだ。

組織行動もジェンダーの違いが顕著になる部分。彼らの行動と実際のオフィスの使い方がレイアウトに直結することから、オフィスデザインはこういったジェンダーニーズ両方に対応するように作られていることが必要だ。

テレワークにも男女の好みが表れる

社員の働きやすさを推し進めるようにテレワークやリモートワークを認める企業は昨今増えているが、ここにも男女の心理的な好みの差は表れているという。

ニュージャージー州マディソンに拠点を置く、企業の働き方とマネジメントのコンサルティングを行うFlex+Strategy Group社が2014年に発表したレポートによると、男性社員は女性社員に比べよりテレワークをする傾向があり、実際にそのような自由な働き方を行うフレックスワーカーの4分の3は男性だという。さらに調査対象の男性のうち36%がリモートの環境で仕事をしたいと希望しており、これは女性の23%という数字を上回る。

テレワーカーの増加は同じくオフィスデザインに影響を与える。例えばカリフォルニア州サンタクルーズに本社を構える、コミュニケーションプロダクトの提供を行うPlantronicsでは、オフィスをテレワーク仕様に変更。ビデオチャット可能なミーティングルームを数多く用意し、同時に集中できる静かなスペースも用意。デスクスペースは全社員の70%分だけ用意し、社員の活発なエネルギーをオフィスに保ちながらスペースの有効活用を図っている。

Plantronicsオフィス(写真上はOffice Portfolio、下はCustom Spacesより引用)

オフィスのあり方は単純に社員の男女比率を考慮するだけではなく、実際にオフィスを使う社員は誰なのか、そしてどのような使い方が合っているか、という点も同時に考慮されていたりするのだ。

ロッカールームや美容スペースも女性社員の必須スペースに

2016年10月にニューヨークに誕生した女性専用コワーキングスペース、Wingはまさしく女性に特化したオフィススペースを実現している。ハイエンドなデザインと徹底された使い勝手の良さは女性ユーザーの人気を続々と得て、今ではウェイティングリストに多くの名前が並んでいるほどだ。

もともと自立した女性を支援する場としてスタートしたこのコワーキングスペースは、19〜20世紀にかけて存在した”Women’s Club”、いわゆる女性の社交クラブをイメージして作られており、図書室に並ぶ本からカフェの食事、提供される化粧品やスペースのデザイナー、顧問弁護士まで全て女性という徹底ぶり。こういった背景もあり女性からの大きな人気を得ているが、スペースの作りこそ人気の秘訣といっても過言ではない。

通常のコワーキングスペースにもあるような作業スペースはパステル調で用意され、その他にシャワールームやメイクコーナー、美容スペース、ロッカールーム、授乳室等まで完備。「美容は働く女性にとって時間や手間がかかる分、手をかけられる空間を用意して堂々と時間をかけてほしい」という意味を込めて美容スペースを特に充実させている。ヘアサロンも存在し、仕事の後に出かける際に準備をすることができる。

Wingのスペース。女性の仕事環境を包括的に考えたスペースの設計になっている。(写真はDESIGN SIGHより引用)

実際、女性にとってロッカールームがあるだけでも便利さには大きな差が生まれる。シューズやヒールを複数置いておきTPOに合わせてすぐに履き替えられるほか、歯磨きセットや靴擦れ用の絆創膏、常用薬を置いておけることで荷物が減る。「女性の女性による女性のためのスペース」だからこそ女性社員が必要としている労働環境の参考ポイントが多く散りばめられている。

関連記事:世界のコワーキングスペース 8つの最新トレンド

まとめ

今回は男性と女性でオフィスに求めるものの違いという部分に焦点を絞ったが、実際のワークプレイスにはより多くのジェンダーが共存し、それぞれの特性や生活スタイルにあったオフィスが今後求められている。本ブログではそれを考慮した取り組みを行っているオフィスをこれからも取り上げていきたい。

こちらの記事に関してコメントやご感想、また取り上げてほしいトピックがありましたらぜひこちらのお問い合わせページよりご連絡ください。みなさんのご意見をお待ちしています。

参考文献:
Women shiver at work in ‘sexist’ air conditioning
Women vs men: How their needs differ in the workplace

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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