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イタリア家具ブランド会長が日本に伝えたい、家具・オフィス・働き方デザインの本質

[January 21, 2020] BY Kazumasa Ikoma

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家具を通して見てきた働き方の変化

近年、従業員は良い環境で働きたいと望めるようになり、実際に望むようになった。そして会社側もヒューマンセントリックな環境はビジネスにおいて良い影響をもたらすことに気づくようになった、とフェルトリン氏は語る。先日WORKTECHカンファレンスでも議論された「人々が労働環境に対して声を強めている」という社会的傾向は同氏の目にも同じように映っているようだ。

「この傾向は日本でも例外ではなく、人々は働く環境に対して考えを見直すようになった」とフェルトリン氏。しかし、日本は世界に比べてざっと15年ほど遅れを取っているだろうと付け加える。日本のオフィス環境には伝統的な働き方が残り、形式張ったルールなどがまだ根強く存在すると感じているようだ。ここまで世界がオープンになる中で日本の労働環境はいまだに閉鎖的で、「仕事や働く環境がお上から降りてくるもの」という受け身の姿勢が従業員の間に残っていることが背景にあるかもしれない、と考察する。

これからの働き方は与えられた自由や選択肢をワーカー自らがどのように使うかが鍵

働く環境が「与えられるもの」だと、ワーカーたちは「理想的なオフィス」を思い描く習慣をつけることができない。日本の従来のオフィス環境には選択の自由がワーカーに存在せず、また「働き方改革」という言葉もワーカー主体ではなく国から降りている。これこそが、改革に期待していたほどの進展が見られない理由の1つであるのかもしれない。

フェルトリン氏曰く、もともとヨーロッパでも日本と同じように一生を通じて同じ会社で働き続ける終身雇用が一般的で、「安定感」が従業員の最も高い優先事項だったという。与えられた仕事をこなすことが日常的だったが、近年その生活に息苦しさを感じる人が増えるようになった。その結果転職が一般化し、またコワーキングスペースを転々として仕事を行うライフスタイルも若いワーカーたちを中心にごく自然な生き方の1つとなっているという。

ワーカーたちの将来やキャリアは会社からではなく、自らの手に預けられるという考え方が定着しつつある中で、その自由をどのように扱うかがこれからの働き方を大きく左右する。それこそが、イタリアの若者が自律的に働き方を見直す原動力になったとフェルトリン氏は語る。家具づくりの観点でも同じ傾向が見受けられるようで、Arper創業時の1980年代はルールが厳しく堅苦しいものから脱却できなかったが、時代とともに変化し、自由かつ自律的に働く場所を選ぶ今のワーカーに合わせるように家具は大きく変化したという。

それに加え、自らのアイデアに自信を持って動ける行動力を重視し、実現可能性のある大きすぎない目標をもとに動いていくイタリアの国民性も関係しているだろうと同氏は言う。実際にArperはイタリアを代表する多くの著名ファッションブランドと同じく大規模化はせず、社員数は本社、子会社、支店、イタリア内外のショールームを合わせても約250名程度だが、機動力を武器にデザイン家具を展開している。「実現しやすい小さなゴールを見据えてとにかく行動に移すことが重要だ」と、母国と大企業の数が多い日本の姿を重ねながらフェルトリン氏は語る。

日本の働き方改革は一過性のものではない

世界から見ても独特な働き方文化を持つ日本で、国を挙げて行われる働き方改革になかなか上手く対応できない企業も多く、「今の日本には合わないのでは」「ただの一過性のトレンドではないか」と不安の声も多く聞かれる。しかし、フェルトリン氏は「焦らない」ことが重要であると語る。彼はその理由を「ファッション」と「スタイル」になぞらえて説明する。

彼曰く、「ファッション」はトレンド重視で、「スタイル」は個人のアイデンテティ重視。この2つの違いを前提として、働き方改革は「スタイル」であるというのがフェルトリン氏の考えだ。つまり、今日本の働き方が変わろうとしているのは、単純なトレンドではなく、実際にワーカーが自らのアイデンテティとして求めているものだと彼は見ている。「この会社で働きたい」とワーカーが入社を決める理由が給料だけでなく、働く環境も1つとして挙がるようになったことがその背景のようだ。

人の「スタイル」に合わせて家具デザインを行うArperは、新製品を生み出す際「世界的なトレンドだから」という理由でデザインすることは決してないという。同社が世界で展開している製品を日本でも扱っているのは、世界と並ぶオフィス環境が少しずつ生まれると見ているからで、「焦りは必要ない」と語るフェルトリン氏の主旨はここにある。

働く環境と人間の関係性を考える

ワーカーがオフィスに来て座るイスやデスクは、人間とオフィスをつなぐ最も重要なタッチポイントである。「家具は人間と環境の関係性を構築する」という信念を1つに持つArperは、家具がオフィスとワーカーの関係、ワーカーと仕事の関係など、様々な関係性にも影響を与えると考えているようだ。

例えば、イスは単にリラックスするだけでなく、快適性(コンフォート)を得られるものにすることで、ワーカーが抱える不必要なストレスを下げ、同僚や上司・部下の人間関係を良くする。またその延長として、良い環境そのものが「ポジティブストレス」をワーカーに与え、彼らの創造性や集中力を向上させる。そして「仕事は辛いもの」というイメージを払拭し、仕事とワーカーの関係性を改善させるのである。

近年日本のオフィス環境では「イノベーションを促進するオフィス」が合言葉のように各企業の取り組みとして見られるが、結局のところイノベーションを行うのは人間自身であることを忘れてはいけない。ここでもオフィスとワーカーの関係性を考慮した上で、イノベーションの実現には「人間のニーズを直観的に支援してくれる」「皆が好んでそこに居たいと思わせる」空間が必要で、イスはその直感を一切邪魔しない座り心地の良いものでなくてはならない、と言うのが同社の考えだ。快適なオフィス環境を整えるには家具にもそれほどの思い入れが必要なのである。

「家具の見た目だけでなく、その使い方やそれを通じた働き方、そして生き方やライフスタイルまで変えたい」取材の最後に力強く語ってくれたフェルトリン氏。今の時代、私たちは家具1つから大きな影響を受ける機会があり、またそのデザインからも社会的な変化を多く学び取ることができるのである。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    
    
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