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エイベックス新社屋で起きている「社内外のコラボレーション」【加藤信介さんインタビュー#2】

[April 10, 2018] BY Kazumasa Ikoma

エイベックスの加藤信介さんへのインタビュー記事後編。今回は新社屋で起こっているコラボレーションとそこから見える新たな課題について話を聞いた。

社員 × 社員のコラボレーション

社員同士で効率の良い働き方が可能になった

今回6階から15階までの執務フロアにて、新たに導入されたフリーアドレスだが、社員の反応は上々のようだ。

エイベックス社内では、1人のアーティストを担当するスタッフが多くいる。浜崎あゆみさんを例に挙げると、彼女のマネージャー、音楽制作担当、ファンクラブ担当、グッズ担当、販促担当、宣伝担当等のスタッフだ。しかし、彼らはそれぞれの組織に紐づいているため、従来の島型の固定席ではマネージャーの島、グッズ担当者の島、といった具合にそれぞれが別れて作業をすることが多かった。結果的に彼らの間に物理的に距離ができてしまい、ダイレクトコミュニケーションが取りづらいという問題が起きていたという。同じアーティストを担当しているにもかかわらず、担当者全員が集まるのは週に1回、隔週に1回の定例会だけになってしまう状況もあった。

誰と座って仕事をするかは意外にも作業効率にかかわるもの。グループごとに定められた固定席の場合、マネージャーグループということで浜崎あゆみさんを担当するマネージャーAの向かいに他のアーティスト担当のマネージャーBが座る。しかし、浜崎あゆみ担当のマネージャーAにとってはマネージャー同士で一緒に座って作業をするよりも、彼女と仕事をすることの多い音源制作担当といる方が効率は良い。「従来のように1つの組織で固まることは意外と効率の悪いことだった」と、加藤さんはフリーアドレスを導入して気づいたという。

このように固定席の概念を無くしたことで、社員同士の自由なコラボレーションが見えるようになった。アーティストの担当者たちは定例会の後に自分たちの離れた席に戻っていくのではなく、「新しいアルバムのリリースが近いから、今週は重点的にこのプロジェクトメンバーで集まって近い距離で仕事しよう」となり、会議室を出てそのまま近くのデスクでまとまって仕事をするようになった。このようにプロジェクトメンバーで集まり効率よく作業を進めることは、ヒットを作り出す上で大事なことだと加藤さんは語る。コンテンツを作るスタッフやそれをプロデュースする社員から「チーム内のコミュニケーションが取りやすくなった」というポジティブな声が聞こえるようになったのはフリーアドレスを導入した成果の1つだった。

社員を半ば強制的に混ぜるべきか?

フリーアドレスを導入する企業では、社員に浸透させるためにくじ引きで毎日の座席を変えるような取り組みを行うこともある。しかし、昨年12月にオープンしたこの新社屋ではそのような施策をまだ行っていないという。今は固定席がないという働き方に慣れてもらうフェーズだと加藤さんは語る。

実際にこの施策を行うかどうかは加藤さんも難しい問題だと捉えている。コミュニケーションやコラボレーションが自然偶発的に起こる土壌をどう整えるかは企業のフリーアドレス導入施策でも迷うところ。ただ強制的にシャッフルするような施策をしても、混ざり合う必要のない人の組み合わせが起きるかもしれない。そこに何らかのメリットはあるかもしれないが、それが本当にベストなやり方だろうか。コラボレーションを「効率的に」起こすかどうかは、フリーアドレス導入の観点で考慮すべきポイントの1つになるようだ。

フリーアドレス導入で起こるデメリットはテクノロジーで解決

フリーアドレス導入にはもちろんトレードオフが生じる。加藤さんも導入検討の際に様々な課題に直面したが、人の流動性が上がる中で起こりうる問題はテクノロジーや制度で対処できるものだという結論に至った。

オフィスのあらゆる場所で仕事ができるようになったのは良いが、誰がどこにいるか把握しづらい。そこでエイベックスで現在使っているのがPhone Appliである。社内のWi-fiに繋がっていれば、アプリ内で検索するだけで同僚や部下が何階のどの辺にいるかわかる。他にも社内コミュニケーションツールのSlack等を活用することで、コミュニケーションが必要な際にすぐに繋がれるような仕組みを整えている。加藤さん曰く、これまでのところフリーアドレスのデメリットを補完する方法としてうまく機能しているようだ。

写真はPhone Appliウェブサイトより引用

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あらゆる場所で起こるコラボレーションは「会議室取れない問題」を解消

その他にテクノロジーで解決しようとした問題の1つに「会議室取れない問題」がある。この新社屋では会議室利用状況の管理を、それぞれの会議室にあるタブレットを使ってGoogle Calendarと同期させる形で行っている。入室の時にタブレット上でタップをしないと10分で予約が自動的に解除される仕組みだ。それに加えて各会議室に会議室の利用状況を把握する自社開発のIoT製品を設置。このような取り組みで「とりあえず押さえているけれど誰も使っていない」という不効率さを解消するようにしたという。

しかし、蓋を開けて見たところ、現在会議室が満室になることはない。フリーアドレスを導入したことや、社員が交わりやすい執務フロアやカフェテリアなどができたことにより、色々な場所で打ち合わせが行われている。会議室問題自体は意外にもテクノロジーではなく、フリーアドレス制度やオフィスデザインによって解消されていた。

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アーティスト × 社員のコラボレーション

物理的な距離を取っ払うことで新たな才能発掘が容易に

エイベックスが定義するコラボレーション第2の柱である「アーティスト × 社員」。エイベックスは現在全国に数千人のレッスン生を抱えているが、彼らのモチベーションは「ビッグアーティストになること」。一方、マネジメントスタッフが実現したいのは「スターを作ること」。それぞれのニーズは合致しているにもかかわらず、それを形にする時にも物理的距離の壁が存在していたという。

青山にあるこの新社屋の一番近くにあるレッスンスタジオは原宿にあるが、この青山と原宿の間ですら物理的な距離を感じていたと加藤さんは語る。「こういうアーティストいないかな」「こういうユニットを作りたい」となった時に、将来エイベックスの中核・主軸を担う可能性のある予備軍のなかにどういう生徒がいるのかすぐに把握したい。それにもかかわらず、物理的な距離がそれを邪魔していた。レッスンスタジオを本社に内包することを決めたのはこのような問題を解消するためだった。

全国にいる数千人のうちトップ層の100人弱が新社屋4Fのレッスンスタジオでレッスン受けられるようにすることで、彼らがトップアーティストを目指す通過点の1つになる。スタッフにとっても、階段を降りるだけで、リアルタイムに今どんな生徒がトップ層としてレッスンを受けているのか分かるようになる。その環境を会社が用意することこそ、この新社屋の大きな価値の1つだった。

実は17階のカフェテリアにある売店『Pop In』も社員とレッスン生の交流が生まれる場所の1つ。そこで働くアルバイトはエイベックス所属の俳優、女優の卵。彼らの生活の支援にもなり、社員との接点を作ることで社内で応援体制もできる。彼らの初舞台があった際にも、普段売店で頑張っている姿を見ているからこそ、こういう舞台に出ていると思うともっと支えてあげたいという気持ちが入るという。

物理的な距離をなくすことで社員とアーティストの間に感情的要素を盛り込ませている。このエイベックスオフィスからどのようなスターが生まれるのか楽しみだ。

社員 × 外部のコラボレーション

社会に貢献するオフィスはコラボレーションの機会を増やす

アメリカ西海岸の企業では、オフィス施設を部分的に一般公開したり、公共施設や公園という形で一般の人も利用できるように開放したりしているところが多い。この背景には、企業が実践できる社会貢献の1つとして行われている他に、企業の透明性や外部の人との交流を歓迎する風土を示していることが挙げられる。

企業内でのコラボレーションが意識されて作られたこの新社屋だが、このような社会貢献の面においてもその機能を果たしている。17階にあるカフェテリアでは、社員が1食食べると開発途上国の子供達の給食2食分のお金が寄付される”Table for Two”運動に企業として参加している。

また、高さ100mを超える「超高層建築物」のビルだが、震災等への備えは万全。デュアル発電システムを採用したことで、停電時は、耐震性能に優れて中圧ガスを用いて発電できる仕組みに加え、万が一ガスが止まっても、地中に埋設されたオイルタンクを利用した発電設備で72時間分の電力確保が可能。災害や事故が起きても重要業務を継続できるようBCP (Business Continuity Plan) 対策を行っており、停電対策も二重に取られた、災害に強いビルである。

オープンコラボレーションには協業したい人が自然に集まるような引力が必要

今2階にあるコワーキンススペース『avex EYE』では、エイベックスとのコラボレーションが期待される企業が続々と入居している。現時点で入居者が使えるスペースはこのコワーキングエリアと17階のカフェテリアのみ。しかし、加藤さんの中では彼らと社員のコラボレーションを増やすために、社員の執務フロアとなっている6階から15階の仕様変更をすでに考えているようだ。

前編記事で語ったように、もしエイベックスが「コンテンツホルダーである」「Entertainment × Techを加速させていく」という立ち位置を持ち続けることになれば、複数階ある執務フロアのうち2フロアぐらいはラボ要素を織り交ぜたまったく別のものに作り変えることも検討しているとのこと。そこにコワーキング入居者を入れるようにして、外部の人が社内により入っていける仕組みを整えることが狙いだ。

この2フロアではクリエイティブ・テクノロジー関連で集まりたい人が社内外関係なく協業できるようにする。何か新しいものを創り出す人材が引き寄せられるような引力を空間に持たせることで、業務の異なる人をランダムに混ぜるよりも、お互いに必要とする社内外の人同士で集まって偶発的なコラボレーションを生むことが可能になる。それがエイベックスとして正解なのでは、というのが加藤さんの考えだ。

外部の人を社内に入れていくことはセキュリティ重視の日本企業にとって大きな決断が必要。オープンイノベーションを実現しようとする企業にとって参考にしたい姿勢だ。

コラボレーションを結果につなげるために

コラボレーションを定量的に見ていくことは可能か?

エイベックスがコラボレーションを重視してその実践を行うのも、変わりゆく環境の中で企業を支える新たなアーティストや事業そのものを育むためである。コラボレーションの先にあるイノベーションを期待して企業はオフィスにこれだけの投資を行っている。

実際にこの新社屋でアーティストベース、プロジェクトベースでコミュニケーションが活発化しているのは事実。しかし、新オフィス導入の成果を測るための指標はなく、実際にそれを定量的に見ていくことはやはり難しい。

むしろコミュニケーションを活発にし、コラボレーションを育んだその先が大事だと加藤さんは語る。提供した場において生まれたコミュニケーションや物理的な距離が近くなったことによって新しいアイデアが生まれたとする。もしそれが良いアイデアであればその次のステップとして会社がそれをちゃんと拾い上げ、育てる機能が必要になる。そうなると、これはオフィスよりもう一段階上の話になってくる。アイデアの数を定量的に見ていくのではなく、出てきたものを会社として拾い上げ、支援して、スケールして最終的に「すごい事業ができた」となった時に初めてこのオフィスで結果が出たと言えるだろう。そこまで行き着くには長期的に見ていくことが重要だ。

エイベックスではここ1年ぐらいから新規事業制度を活発に推進している。経営陣からお題を与えてそれに対してプロジェクトチームを組んで、期間内にじっくり考えてアウトプット発表させるという機会もある。コラボレーションを意識して作ったオフィスを活用し、その先にある革新的なアイデアを成長させる道筋を企業の根幹として持っているのだ。

今後の課題:オープンコラボレーションとセキュリティの両立

エイベックスが考えるコラボレーションの形について掘り下げていった今回のインタビュー。最後に取り上げたいのが、コラボレーションを求める企業の共通課題である「オープンコラボレーションとセキュリティの両立」だ。

先述した加藤さんの言葉通り、提供するサービスやコンテンツが「自社だけで完結する時代」は終わり、これからは社内外関係なく同じ目的を持った人材がコラボレーションを行う環境がどの業界にも訪れるのではないだろうか。そしてそこにはもちろんセキュリティ面への懸念が付いて回る。「セキュリティを担保しながらオープンであるというバランスを見つけること」はエイベックス新社屋も含めた今の時代のオフィスの課題だろう。

「ビル1棟を1つのコミュニティにしていくにはどんどん開かれたオフィスであるべきだ」と語る加藤さん。入り口にフラッパーゲートやセキュリティカードがあるとそれだけで1つの壁になる。そこでエイベックスではすでに試験的に顔認証を導入している。顔認証でセキュリティを担保しながら、最終的には完全にオープンなオフィスの実現を目指している。社内・社外といった概念をシームレスにすることで、加藤さんが考える「オフィス=コミュニティ」論も徐々に成り立っていくだろう。

多くの人が混ざり合うオフィスはこれからも生まれていくだろう。今後エイベックスから生まれるコンテンツがこのオフィスを通して作られたものだと考えると非常に楽しみだ。新社屋がもたらす影響をこれからも見届けていきたい。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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