初期費用、住まい、仕事探し。スムーズな地方移住を実現する支援制度
[June 28, 2022] BY Hiromasa Uematsu
移住に関する相談件数は過去最高に
2022年2月22日、移住希望者へのサポートを行うNPO法人100万人のふるさと回帰・循環運動推進・支援センター(以下、ふるさと回帰支援センター)が、最新のアンケート結果を発表した。
このアンケートは、ふるさと回帰支援センターへの相談者・セミナー参加者を対象に毎年行っているもので、移住の意向やトレンドの調査を目的としている。2021年は1月5日〜12月26日にかけて調査が行われ、1万931件の回答を集めた。その結果を概観してみよう。
まず、2021年の相談件数は4万9514件と2020年の3万8320件を大きく上回り、過去14年間で最高となった。相談件数は2012年〜2019年にかけて右肩上がりだったが、2020年には前年比で1万1081件も減少している。
(画像はふるさと回帰支援センターのニュースリリースより)
2020年はコロナ禍でふるさと回帰支援センターが休館したほか、予定していた移住イベントやセミナーなどを開催できなかったため、一時的に相談件数が減少したようだ。2021年はセミナーのオンライン化などの対策が進んだこともあり、V字回復して過去最高を記録した。この結果には、コロナ禍での移住意欲の高まりも影響していると考えられる。
最新の人気移住先ランキング、1位は静岡県
移住相談の傾向も確認しておきたい。相談者の性別は男性54.5%、女性45.4%とほぼ半々で、女性の割合は年々増加している。また、若者の相談も増加しており、2021年は20代以下の相談が21.9%と過去最大になった。
では、どのような地域への移住希望が多いのだろうか。窓口へ相談に来た人が希望した居住地としては、静岡県が前年に続き1位となった。2位に福岡県、3位山梨県、4位長野県、5位群馬県と続く。ちなみに、窓口への相談ではなく、セミナー参加者を対象にした希望居住地ランキングでは、独自にセミナー開催を工夫・企画し、積極的な取り組みを行った広島県が1位となっている。
(画像はふるさと回帰支援センターのニュースリリースより)
移住に立ちはだかる4つの壁とその支援策
ふるさと回帰支援センターが東京にあるためと思われるが、窓口相談者の移住希望地ランキングでは関東甲信地域が上位に食い込んでいる。しかし、2021年の調査では遠方の地域がランクアップしている。例えば以下のような県だ。
2位:福岡県(4位から2ランクアップ)
8位:岐阜県(11位から3ランクアップ)
11位:福島県(14位から3ランクアップ)
13位:山口県(18位から5ランクアップ)
14位:鹿児島県(20位から6ランクアップ)
東京からの距離にかかわらず、全都道府県が移住先の候補地になってきていると言える。その背景には、各自治体が競うように行っている移住支援策がある。そもそも移住者を増やすためには、どのような支援を行う必要があるのだろうか。支援を必要とする移住者の課題とは何だろうか。
ふるさと回帰支援センターでは、移住における課題を「仕事の課題」「住居の課題」「受け入れ体制の課題」の3つに整理している。ここでは、移住にあたって最初に生活を整えるための「初期費用の課題」も加え、これら4課題の解決を助ける各地域の支援制度を紹介する。
支援策1:初期費用の課題解決を助ける「移住支援金制度」
引っ越し代や生活環境の整備など、移住初期にはなにかと出費がかさむ。そんな移住者の初期出費を助けるのが「移住支援金制度」だ。各自治体が交付する移住支援金は、その多くが国の「地方創生推進交付金」を活用していることもあり、基本的に以下のような共通する条件が提示されている。
・通算5年以上かつ直近1年以上、東京23区に在住。または東京圏から東京23区に通勤していること
・移住先が東京圏以外の道府県であること(例外あり)
・移住先で地域の中小企業へ就業、またはテレワークで移住前の業務を継続、地域で社会的起業などを実施すること
これまでは新規就業と起業だけが認められていたが、現在は要件が緩和され、移住前の仕事を継続する“転職なき移住”も認められるようになった。なお、ここで言う“東京圏”とは、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県(※条件不利地域を除く)であり、東京から埼玉、千葉、神奈川に移住するケースではほとんどの場合、移住支援金が認められない点に注意が必要だ。
また、すべての自治体で移住支援金を支給しているわけではないことにも触れておきたい。令和4年度の実施自治体は「地方創生サイト」の資料で確認できるが、札幌市や仙台市、名古屋市など地方の大都市が実施している一方で、沖縄県では実施市町村がゼロだ。移住したいと考えている市町村が移住支援金を支給しているかどうか、確認しておくとよいだろう。
関連記事:テレワークで地方移住は加速する? 移住支援を行う国内企業と自治体の取り組み
支援策2:受け入れ体制を確認できる「移住体験制度」
いざ地方に移住してみても、地域のコミュニティに溶け込めるか、その地域の風土やカルチャーが自分に合うかどうかは、現地で実際に暮らしてみなければわからない。そんなときに試したいのが「移住体験制度」だ。
各自治体では、市内の空き家や古民家を移住者向けに開放し、数日〜数カ月の間、安価に地域に滞在できる機会を提供している。例えば新潟県佐渡市では、家具・家電つきの「さど暮らし体験住宅」を最長で6カ月間、移住希望者に貸し出している。貸付料は住宅や利用者の年齢によって異なるが、現在は4軒の戸建てがそれぞれ月額2万円〜4万5000円で借りられるという。
このほか、移住体験ツアーを提供する自治体もある。自治体によるアテンドで、地域内の名所や、移住後に利用するであろう生活利便施設を訪問できるのが一般的だ。なお、ツアーはコースが決まっているパッケージ型と、希望者の要望に合わせてコースを調整するカスタマイズ型に大別される。
秋田県鹿角市の「鹿角市いつでもお試し移住ツアー」は、カスタマイズ型ツアーの典型だ。人員の上限はあるものの、通年で受け入れを行っている。ツアー内容は移住希望者の事情に合わせて選ぶことができ、生活環境が気になる場合は商店街をコースに入れたり、子育て世帯であれば保育園に立ち寄ったりすることもできる。
実際に地域生活を体験するだけではなく、移住前に地域の住民と知り合う機会があることは、情報収集や地域への溶け込みという観点でも望ましいだろう。
支援策3:住居に関わる負担を軽減する「家賃助成・購入費補助制度」
家庭の出費のなかでも大きな割合を占めるのが、家賃や住宅ローンなどの住居費だ。移住に際しても住居費が決断の妨げとなるため、各自治体が助成制度を導入している。
例えば北海道三笠市では、家賃の一部が商品券で助成される。単身世帯、若者世帯であることが条件だが、前者は3カ月6万円を上限として36カ月分、後者は3カ月9万円を上限として60カ月分の助成が受けられる。
また、家賃助成のほか、住宅購入や、購入した住宅の改修費用を補助する自治体もある。例えば北海道上川町では、子育て世帯を中心とした移住・定住を促すため、住宅の新築に際して、最大250万円の補助を行っている。
一方で、移住後の住宅については、そもそも「物件が見つからない」という課題もある。ふるさと回帰支援センターの調査によると、移住者の多くは、移住後の住まいとして戸建ての賃貸物件を希望している。しかし、地域外から移り住む見知らぬ人に家を貸し出すことに抵抗を覚える物件オーナーも少なくない。また、売買・賃貸価格が低いために、仲介手数料を収益源とする不動産会社のインセンティブも働きにくいという実情もある。
そこで活用したいのが、自治体が主体となって賃貸・売却を希望する空き家の情報を集約し、希望者に紹介する「空き家バンク制度」だ。自治体が間に入ることで、オーナーと移住希望者の双方が安心でき、仲介手数料も発生しない。各物件は、同制度を導入している自治体のWebサイトのほか、「アットホーム 空き家バンク」や「田舎暮らし物件情報 ビギンズ」など一部の民間物件検索サイトでも探すことが可能だ。
支援策4:仕事探しをサポートする「就業支援制度」
そして、“なりわい”探しについて。各地域の仕事の情報は、自治体の公式Webサイトのほか、一般社団法人 移住・交流推進機構のWebサイトでも入手できる。
また、特定の職種への就業を奨励・支援している自治体も多い。そして、最も割合が高いのが「就農支援」だ。和歌山県有田市では、特産のみかんを栽培する農家を増やすため、2年間の技術研修、農地および集荷先の確保が含まれた支援プログラムを準備している。なお、就農情報については、一般社団法人 全国農業会議所が運営する「農業をはじめる.JP」が充実している。
就農支援以外の例も紹介しよう。島根県仁多郡奥出雲町では、町内の保育施設に就職する人に25〜50万円の奨励金を交付している。また、ユニークな例では、北海道網走郡津別町が狩猟免許および猟銃所持許可の取得にかかる経費の2分の1を補助しているという。会社勤めから猟師へのジョブチェンジもおもしろいかもしれない。
まずは移住希望地を絞った後、支援策のリサーチを
現在、日本全国の自治体が、移住促進のため独自の支援策を実施している。あまりにも数が多いため、支援策から移住先を選ぶのは難しい。まずは希望の移住先候補を複数ピックアップし、各候補地がどのような支援策を行っているかを見て、比較検討していくのがよいだろう。
一般社団法人 移住・交流推進機構では、全国の自治体の支援制度を検索できるデータベースを公開しているほか、最新の情報を毎年エクセルでまとめている。気になる自治体がある場合は、こちらを参照することをお勧めしたい。
この記事を書いた人
Hiromasa Uematsu 編集者/インキュベーションマネージャー。観光系Webメディアの編集長を勤め、企業・自治体のPRコンテンツを作成。約3年でメディア規模を10倍に成長させる。現在は「Aomori Startup Center」の相談員として起業家・経営者を支援しつつ、これからの地方の働き方を発信している。
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