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価値観の棚卸で幸福度の高い働き方を―「価値観ファインダー」開発者・小川修平氏インタビュー

[July 02, 2019] BY Yuichi ITO

4月より施行された働き方改革関連法を背景に、私たちの働く環境はより<人>にフォーカスしたものに変化しつつある。近年オフィスを刷新した企業は共通して、「人材獲得と維持」「生産性の向上」といった課題を持っており、快適性や健康を重視したワークスペースが増えている。WELL認証に注目が集まるのも必然だろう。

しかし、働く人を重視した「ワークプレイス」「働き方」の効果検証は道半ばといったところ。「社員のストレス抑制」「ABW導入による働きやすい環境」「コラボレーションの活発なオフィス」といった希望を胸に企業はオフィス構築に取り組むが、その結果を客観的に測る技術はほとんど存在しない。

洋の東西を問わず多くのオフィス担当者が抱えるこの問題に対して、ひとつの解の提示を試みようとするのが、株式会社エモスタだ。同社が開発した「価値観ファインダー」は、7つの基礎感情(喜び、悲しみ、驚き、怒り、軽蔑、嫌悪、恐れ+無表情)を読み取る「エモリーダー」の<感情認識><共感度識別>技術を応用して、価値観の言語化を図る技術。「エモリーダー」が基礎科学、「価値観ファインダー」が応用科学のイメージで、心理カウンセリングのシーンにおいて、クライアントの僅かな心理的変化も見落とさないことを念頭に置いた技術に端を発している。客観的な心理的変化を測る技術が、「ワークプレイス」「働き方」の改善にどのように繋がるかを開発者でCEOも務める小川修平氏に話を聞いた。

価値観の言語化によるストレスの最小化とコミュニケーション改善

心理学的には価値観(=自分の行動の判断基準)の言語化が幸福度に大きく影響を及ぼし、自分にとって<意味がある>と感じる行動が増すほど幸福度は高まる。換言すると、価値観と異なる行動はストレスを生むため、<働きがい>など自分が行動に意味を見出せる状況が望ましい。価値観に基づいた行動をとるためには、当然価値観を認識する必要があり、言語化して客観的に認識することで自分にとって<意味がある>行動を意図的に増やすことができる。

価値観の言語化を図るツールが「価値観ファインダー」であり、46枚ある「価値観カード」を自分にとって重要か否かを基準に振り分けるというものだ。就職試験などで用いられるクレペリン検査といった適性検査などとは違って、価値観を選ぶ過程も分析の対象としており、「価値観カード」選別時のマウス/タッチパッドの挙動やPC内臓カメラによる表情を撮影したものを加味して価値観の言語化度合いを測る。現在、同社は人材会社と共同で新卒入社者の価値観の言語化とその構成、パフォーマンスへの影響を解析するプロジェクトに取り組んでいるそう。すでに採用している就業者の価値観を分析することで、企業の価値観(=理念)との差を客観視し、個人の価値観の尊重を前提に企業の価値観を体現する行動へと変容を促す。また、新卒入社者の場合は、企業の価値観に沿う応募者を採用する使い方が考えられそうだ。

言語化した価値観を対人ネットワークに活かすことも出口のひとつとして検討する。例えば、シェアオフィスなどで「価値観ファインダー」による利用者の価値観の言語化と、同社が通称「サーベイ」と呼ぶネットワーク解析の組み合わせから、価値観ベースによる利用者同士のマッチングもできるようになる。ネットワークは目に見える形で表現可能で、任意の人を起点に最も遠い関係者までのルート数と距離を測定する。例えば、組織の蛸壺化は部署内の凝集性は高いものの、部署間は繋がっていない状態と言える。社内のコミュニケーションの活性化を図りたいというニーズがあれば、オフィス設計の上流段階から定量的なソリューションを提供できるようになるだろう。今後は「サーベイ」による計測の簡便化を図り、定期的に調査することで継続的なコミュニケーション改善も目指す。

<見える化>した価値観は生き方の指針を示す北極星

「<対面で接することの意味>など、なんとなく大切と感じるが定量化できていないこと、つまりデータがないものの<見える化>を通じて一石を投じたい」と小川氏は語る。表情は体温や脈拍など他の生体反応と異なり、コミュニケーション手段であり、言わずもがなコミュニケーション活動を行う際に顕在化しやすい。例えば、医療現場を考えると、患者の診察満足度は表情であれば測定可能だが脈拍からは分からない。表情はコミュニケーション手段として発達してきたが、脈拍はそうではないからだ。

「価値観ファインダー」は、基礎感情を便宜的に7つに分けてはいるが、<この表情は喜び、この表情は驚き>といったカテゴリ分類ではなく、感情自体を定量的に扱えることに大きな意味がある。究極は表情から何かを予測することを念頭に置いており、カテゴリ分類の精度向上に躍起になる必要性は感じない。虹の色が何色に見えるかが育った文化背景によって異なるのと同様で明確かつ万人共通の定義がないからだ。

心理学がビジネス文脈に持ち込まれるようになったことは歴史的必然―。これまでも表情と行動の相関関係を探る研究はあったが、あくまでも研究室内での話し。AIやテクノロジーの進化により、誰でも簡単に画像を撮ることができ、それを数字として処理できるようになったことで、これまで研究室に閉じ込められていた心理学の知見がサービスとして活用できる扉が開いた。例えば、本音と建前についても行動心理学的見地では、本音も建前もなく人間は与えられた状況に合わせて最適な行動をとっており、そこに嘘はない。同氏は感情や心といった中間因子を分析するのではなく、<殴られた→痛い>といった事実に呼応した生体反応(結果)を直接結びつけることが全てと考える。

価値観は北極星。Aという価値観があるから、細部にわたって従うというものでなく、紆余曲折はあるものの大海の中で北極星のある方角に向けて最終的に舟を漕ぐイメージが近い。また、価値観そのものに善悪はなく、価値観により判断される行動に問題が現れる。例えば、家庭内で暴力を振るう人は<環境を自分でコントロールする>価値観を大切にしているとして、その実現方法が暴力になっていることが不適切だ。一旦価値観の言語化を行い、その価値観と社会の折り合いをつけるためには他の行動があることを示唆する必要がある。より幸福度を上げる行動を取るために、価値観の言語化を図り自己認識を支援するのが「価値ファインダー」である。

価値観の棚卸で全ての人のワーク・エンゲージメントを向上

日本におけるワーク・エンゲージメントは極端に低い。何のための作業かを理解しないまま、かつ自分の価値観に照らしてどういった意味があるかが曖昧なまま業務を進める人が多いと考える。価値観は行動・判断基準であり、何を食べるかなどを含め無意識に日々価値観を参照して判断することはたくさんあるが、言語化できていないことで状況に流され、後から後悔した経験がない人はいないだろう。価値観を言語化して認識することで、より自分の価値観に則った行動を取ることができ、その結果意識的に幸福度を高めることができる。自分の行動を変容するためには自己認知の必要があり、その土台として自分の価値観の言語化が手助けとなる。

個人はもとより組織の変容する価値観を認識することで、データだけでは割り切りないものの判断に寄与する。「価値観ファインダー」による価値観の<棚卸>をすることで、行動の修正を意識できる。原理的には個人の価値観の積み重ねで組織の価値観の客観化は可能だが、集合だからこそ生まれる価値観も恐らくあるだろう。「個人の価値観が集団の行動に影響するかは今後の課題だが、ネットワーク分析を持ち込み、価値観を軸としたネットワークエンジニアリングを通して、日本のワーク・エンゲージメントを変えたい」と先を見つめる小川氏。

価値観は環境の変化、特にライフステージの変化に合わせて変化していくもので、経年で見ることができるが、ビジネスシーンにおいては、定期的な分析を実施するより、個人が現状に違和感を察知した時に実施するのが<効く>という。漠然と不安を感じるが明確な理由がわからない時は価値観と行動の祖語が起きている可能性が考えられるため、「価値観ファインダー」を価値観の<棚卸>ツールとして用いることが有効だ。

『価値観ファインダー』によって見える化した筆者の『重要な価値観』トップ10

また、1on1の面談での活用も考えられる。上司が部下の価値観を理解、面談内容の共感度を測ることで、職場環境の改善に有効であるし、部下の取る次の行動をアシストできる。

なお、万人に共通して現れる価値観はないそう。ベンチャー企業の社長であれば「冒険心」、新規事業担当者であれば「反骨心」などある程度対象を絞ると共通項は出てくるが、「反骨心」があるから新規事業にアサインされたのか、新規事業にアサインされたから「反骨心」が生まれたかは分からない。ただ、満足度と組み合わせることで、マッチングの適正は出てくるため、経年で見ることで価値観と職種のマッチング精度を高める知見は蓄積され、合理的な人員配置が可能となる。

面談に際して、面談者に心理学の素養があることが望ましいそう。例えば、非常に価値観に近い感覚だが、アメリカの調査では経営者の重要な資質として「自分の思考の癖」(self-awareness)の認知が挙げられ、個人・チームを問わず見落とされがちなこの心理学的ポイントを理解しているか否かは、自らの思い込みではなく客観視した価値観に則った行動を促せる点で影響が大きい。アメリカ人は不安を感じた時、風邪をひいて病院へ行く感覚でカウンセラーを訪れ、初期段階で対処するが、日本人にはその感覚は希薄なため、不安や違和感を覚えた際に「価値観ファインダー」で客観視することで、初期段階で行動を見直す機会になるだろう。

客観データにリベラルアーツでコミュニケーションを誘発

人間は「真善美」を整える生物だが、これまでの企業の論理は「真」、つまりデータによる科学的論理に終始したあまり、善悪・美醜を判断するリテラシーを欠いた不完全なサービスが見受けられる。例えば、AIを用いた就職面接の補助となるシステムを作り、被面接者との相性などのスコア化は可能だが、このAIは暗に会社のビジネス環境、組織、就業する人材の質、人材が輩出される社会背景などが変わらないという前提をもう目的に取り込んでしまっている。近視眼的な論理ではなく企業としての哲学的指針が必要で、そこはAIで判断できるものでない。アマゾンがAIによる履歴書の判定を早々にやめたのも、AIにディープラーニングさせたデータがそれまでアマゾンで就業した人のものでAIが男性であることを重要な基準と捉え、意図しないバイアスがかかることに気が付いたからだ。データだけで判断すると欠落するポイントが出てくる証拠だろう。

定量化したデータの補遺としてリベラルアーツ(一般教養)の重要性を見直す。リベラルアーツを土台にひとつの事象に対して多方面からのアプローチを試みることでより本質を浮き彫りにできるだろう。さらに各人の相対化した価値観をまたがって捉える学際的視点に立ち串刺しにすることで、論理で片付けられる部分以外についても活発なコミュニケーションを誘発、人々がワークスペースに集まる意味を成し、<見える化>した価値観に基づいた行動の源泉である心理的柔軟性が高まるきっかけとなるのではないだろうか。

小川氏のこれまでの経験上、自分の大事にする価値観トップ10を並べ、現状と照らし合わせた際に乖離が50%を超えるあたりで、価値観に沿った行動ができない現状を強く意識し、環境を変えるために例えば転職などを考えることが多いという。同氏は、「価値観の全てを仕事で満たす必要はない。仕事に全てを求めるのでなく、プライベートも含め人生における価値観と行動の適合性を高めることが肝要で生き様といってもいい」と全ての人にエールを送る。

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この記事を書いた人

Yuichi ITO食品メーカーからPR会社を経て、フロンティアコンサルティングの広報へ。社会人スタート以来、マーケティングや広報といったコミュニケーション活動に一貫して従事。ライフワークにワークプレイスや働き方に関する情報発信が加わり、広く興味津々。

    

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