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出費ゼロでオフィスの緑化を実現 – 祝花おまとめサービスFlowerDeskとは

記事作成日:[October 23, 2019]
BY Kazumasa Ikoma

世界的な潮流であるオフィスの室内緑化が日本でも注目されつつある一方、コストや手間の観点から導入まで至る企業はまだほんの少しに留まる。特にコストに関して言えば、初期投資やランニングコストなどの予算感がわからない、または予想の斜め上をいく費用になることがオフィス担当者の頭を悩ませる。

働きやすい環境の実現や採用力向上につなげたいが、緑化にはなかなか手が出せない。そんな企業のために今回取材したのが、花・観葉植物のEコマースサイトHitoHanaのサービス『FlowerDesk』だ。法人向けにオフィスのインテリアに合うように花や植物の選択とコーディネートを行うが、その費用は実質ゼロに抑えることができる。企業や個人から贈られる祝花の予算を事前に集約し、それをもとに顧客のニーズに合わせて緑化デザインを施すサービスだ。

日本でも緑化オフィスを手軽に実現できるかもしれない。オフィス業界から大きな期待を受ける同サービスについて、運営元である株式会社Beer and Techの代表を務める森田憲久さんに話を聞いた。

集まった総予算をもとにオフィス空間の緑化コーディネートを行う

FlowerDeskのサービスはいたってシンプル。企業がオフィス移転やその他の記念事を迎える際、事前にFlowerDeskのウェブサイト上に祝花の窓口ページを開設する。送り主はページ上にある複数の金額プランの中から1つ選んで予算を預け、企業は集まった総予算をもとに花・植物の種類や飾り方をFlowerDeskのフローリストと共に選ぶ。そして実際に企業の希望する形で緑がオフィスへ運ばれるという仕組みだ。

本来喜ばれるべき胡蝶蘭などの植物は、その扱い方がわからない総務担当者にとって「処理に困る」といった煩いのもとになってしまい、よく分からないままオフィスに並べられることも多い。この問題解決に必要なのは、「事前の準備」だと森田さんは語る。扱いに困ってしまうのは、総務担当者が好みの植物やオフィスデザインとの統一性を考慮する前に祝花が届いてしまうから。事前に植栽のプロと相談し、贈る側と受け取る側の間で生まれるミスマッチをなくせば、新たに植物を購入しなくても手元に届く緑を活用して緑化オフィスを実現することができる。

「費用は実質ゼロ」というのは、集まった予算をもとに室内緑化を計画するため、それ以上の出費を作らなければ”予算ゼロ”でも利用できるというわけだ。もちろん総予算を原資として活用し、その後の運用費から自社でカバーする、といった使い方も可能である。本格的な室内緑化の前に試験的に実施してみたいという企業も手軽に利用することができる点は魅力的だ。

祝花の窓口指定は失礼にあたらないか?

祝花を贈る文化は長年親しまれてきたからこそ、「祝花の窓口を指定するのはマナーとして失礼にあたらないか」と不安に思う企業もいるかもしれない。しかし、すでにFlowerDeskの利用経験がある200社の中には大企業からスタートアップまで幅広い企業が存在し、上場企業による利用も数多くあると森田さんは語る。実際に祝花を贈る側だった企業が後に自社オフィスの移転時に活用するという例もあったという。

また実際に贈る企業側にとっても送付先の企業は胡蝶蘭を好むのか、ほかに贈る花や植物に指定はないかという確認を都度取る必要がなくなる。お祝いされる企業は花や植物を効果的に活用できる、贈る企業は相手に喜ばれる形で祝うことができる、そして贈られる植物は無駄に廃棄されることなく最大限に活きる環境が用意されるという、まさに三方よしのサービスである。

ICCパートナーズ株式会社オフィスの装花

従来のインテリア会社との比較:植物のプロが予算60万円で緑空間を手がける

前述の200社以上の実績から、1企業あたり集まる予算は平均で約60万円になるという。これはウォールグリーンを導入する際にかかる植物の原資に施工費用を加えてもお釣りが返ってくる金額だ。少なくても20〜30万、多いときは100万円以上の注文が集まり、企業はその分緑豊かなオフィス環境を整えることができる。

それに加え、”植物のプロ”が室内緑化を実現するというのも特徴の1つ。日本におけるオフィスへの植栽導入は多くの場合移転のタイミングで行われ、新レイアウトのデザインを担当するインテリア会社が主体に立って植物の種類や配置を決める。一方FlowerDeskは、株式会社Beer and Techが運営する花・植物のEコマースサイト『HitoHana』を母体とするサービスの1つとして専属のフローリストが花・植物の選定から行うため、予算内で緑の良さを存分に活かした室内緑化が可能になる。

これらをまとめると、既存のオフィスインテリア会社が行っていた室内緑化に比べ、植栽用の予算を新たに組む必要はなく、さらに緑のプロが直接手がけてくれるメリットがあるということになる。考え方によっては、オフィス移転の際にFlowerDeskを活用すれば、同じ予算でも植栽以外の部分によりお金をかけることもできるというわけだ。

他の園芸業者との比較:FlowerDeskがオフィス向けに対応する園芸業界の特別な事情

市場にはすでに多くの園芸店が存在し、オフィスの緑化トレンドに注目が集まる今の時代に競争率は高いはず。その園芸業界の中でも新進気鋭のD2Cサービス(※1)として展開するBeer and Techは、他の園芸店や植物の加工業者とは一線を画す。そこには園芸業界独特の事情を背景に2つのポイントがある。

※1 D2C:「Direct to Consumer」の略。消費者に対して商品を直接的に販売する仕組みを指す。

ポイント①:園芸農家にとってD2C対応は未だ難しい

まず1つ目は、D2C対応が多くの個人園芸農家にとって難しいという点だ。植物通販のD2Cは、オンライン注文からの直送でフレッシュな状態の植物を直接顧客に素早く送れるほか、仲介業者を介さないため価格を抑えて提供することが可能なため、本来であれば農家・顧客の双方にとって嬉しいあり方である。しかし、現実的に小規模園芸農家が商品の写真撮影から注文品のパッケージング・配送まで各注文の対応をすることは難しく、その上胡蝶蘭のような高単価な商品を除き小売の単価を保証することも厳しい。D2Cにおいて小売業に求められるユーザー体験をほとんどの園芸農家が対応できないというのが実情としてある。

また各農家は特定の品種の花や植物を育てるため、素材はあっても顧客が必要とする「花束」は作れない状況にある。そのため業者から植物をオフィスに取り寄せる際には、栽培された植物を集約する加工業者を通して購入する必要がある。その点FlowerDeskのもととなるHitoHanaは多くの園芸農家とのリレーションも構築しながら、生産からデザイン、販売まで自社で手がけるため、難しいとされるD2Cの植物通販を可能にしている。

ポイント②:園芸において植物は「育てるもの」

森田さん曰く、多くの加工業者は園芸に対し「植物は育てるもの、またはそのプロセスに楽しさを感じるもの」という従来の考え方を主流としており、見た目のデザイン性よりも育て上げるプロセスを重視する傾向が強い。自然を愛でるバイオフィリアの考え方と非常に近いが、ユーザー視点で考えた場合、植栽は育てることよりも近年のインテリア需要におけるデザイン要素としての注目度の方が高まっている。このような背景から、オフィスインテリアに本格的に対応した植物提供サービスは現在もまだ日本で多くないという。

実際にウォールグリーンやドライフラワー、また社内イベントやパーティ用の装花など、オフィスに必要とされるグリーンは多岐にわたるが、それに対応できるところはまだ限られている。HitoHanaではそのような顧客ニーズやあらゆるオフィスにできる限り対応するため、他の大手企業よりも10倍以上の商品数で業界屈指となる2万点以上の花・植物を取り扱っている。さらに鉢との組み合わせの自由度も高め、オフィスへの導入イメージがわかりやすい写真撮影も行い、最終的にデザイン性の高い植栽をオフィスに提供している。

「暮らしにある花を自由に選べるという使命を、個人向けにはEコマースを通じてある程度果たせているが、オフィスではまだ果たせていないところが多い」と語る森田さん。「お客様の数だけ花がある」のコンセプト実現を目指し、オフィス向けのサービスを強化している。

株式会社フロンティアコンサルティング大阪オフィス

ウミネコ美容室 センター南店の装花。お店を訪れてくれた人に還元できるお祝いの仕方として一輪の花が渡された。ユーザーと一緒に祝えるような植物空間が意識された。

バイオフィリックオフィスのための第一歩

以前紹介したコモレビズはバイオフィリア実践を掲げ、一定の緑視率を維持できるように植栽を配置し、科学的根拠に基づいた室内緑化サービスを提供している。しかし、それをもとにオフィス内装に十分な投資を行える企業はまだほんの一握りの企業のみ。植物重視で間取りを作り変える、または予算を引き伸ばしてまで緑を取り入れる企業が増えるのはこれからといったところだ。Worker's Resortでも緑化オフィスの大切さやバイオフィリックデザインを施したオフィスについて少しでも多くの読者へ知ってもらうため啓蒙活動を進めている。

参考記事:コモレビズが語る、バイオフィリックオフィスで学ぶべき「自然との触れ合い方」

実際のところ、緑や植物の効果は実感レベルとしてまだ十分には得られないが、学術的に証明されているため緑化オフィスを試してみたいというのが今の日本企業のリアルな現状だろう。採用競争力や働きやすさが重視され、さらにホワイトカラーの仕事が創造性を発揮することに重きが置かれる今、室内緑化に興味を持つ企業の最初の一歩をサポートするという大事な立場にあるのがFlowerDeskだと筆者は考える。

日本の緑化オフィスに必要な「植物を枯らせないための仕組み」

日本のオフィスでさらに緑が増えるきっかけは他に何があるのか?日本の緑化オフィスの現場を目にしてきた植物のプロは、「植物を枯らせない仕組み・システムの開発」が重要になると答える。

「植物を枯らせない」というのは、園芸に不慣れな人間にとって植物との距離を縮めるのに大切だ。もともと園芸を楽しむことは個人の趣味趣向から端を発している。好きな人ほどいくつもの多肉植物を家に置き自宅をジャングル化することもあるが、それほどの興味がまだない総務が全社員のための植物を万が一枯れさせてしまった場合は責任を取らなければならず、大きなリスクを伴う。現状植物のケアまでサポートに含まれるサービスは存在するが、IoTを活用した自動潅水など植物が枯れにくい仕組みが生まれれば、より手軽に植物を導入しやすい環境が整うと森田さんは見る。

また労働集約的に緑を管理するというのも1つの手段だ。植物のメンテナンス担当者にとって、自宅よりも植物がまとまって置かれているオフィスの方が管理しやすい。これを上手に活用すれば、現在のようなリモートワークや在宅勤務を許可する企業が増えオフィスから人が離れる社会になっても、「結局気持ちよく働ける場所は会社」と社員が自発的に集まるオフィスを作れるかもしれない。

オフィスにある緑は見て楽しむこともあれば、それがある空間にいることを楽しむこともでき、また「育てあげる・愛でる」というバイオフィリアの本質を楽しむこともできる。企業によって導入目的は様々だが、それぞれのレベル感に合わせたオフィスの緑化サービスは現在揃いつつある。今日、緑は以前よりもオフィスに導入しやすいことを読者にお伝えしたい。

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この記事の執筆者

Kazumasa Ikoma オフィス業界における最新情報をリサーチ。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

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