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転職・独立に続く第3のキャリア選択肢? 会社員の「個人M&A」

[May 24, 2022] BY Hiromasa Uematsu

後継者不足が深刻な日本の企業

株式会社東京商工リサーチの「2019年『休廃業・解散企業』動向調査」によると、2013年から2019年にかけて休廃業・解散した企業のうち、およそ6割が黒字廃業であったことがわかっている。

なぜ利益が出ているにもかかわらず、会社を閉じてしまうのか。その背景に、日本全体に存在する「後継者不足」問題がある。日本政策金融公庫総合研究所の「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年調査)」によると、60歳代の経営者で57.1%、70歳以上の経営者で59.1%が廃業を予定しており、廃業予定企業全体のうち29.0%がその理由として後継者難をあげている。

こうした後継者不足による廃業は、日本経済にどのようなインパクトをもたらすのだろうか。

中小企業庁の「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」では、2025年までに、70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、そのうち約半数の127万人が後継者未定との予測を示している。後継者が見つからなければ、利益が出ていても事業を畳まざるを得ない。大企業を含めた日本の企業数は、2016年時点で約359万社。つまり、日本企業の約3分の1が、これから後継者不足で失われてしまうかもしれないのだ。

会社員でも後継者不在の企業を救える、個人型のM&A

後継者不足を解消し、価値ある企業を残していく方法として期待されているのが、親族以外の人・組織による事業承継だ。中小企業庁の「2022年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要」では、中小企業におけるM&Aは近年、増加傾向にあるとしている。後継者不在企業の割合も低下しており、経営者の事業承継に対する意識の変化も見られるという。

中小企業庁の「事業承継に関する現状と課題について」を見ると、かつては親族を中心に行われていた事業承継の形が多様化してきていることがわかる。

経営者の在任期間別の現経営者と先代経営者との関係
(画像は中小企業庁の「事業承継に関する現状と課題について」より)

2015年のデータだが、親族以外の役員や従業員による承継が増え、社外の第三者が承継するケースも全体の39.3%まで増加している。社外の第三者の多くは同じ業界であったり事業にシナジーのある別企業だが、最近では事業承継を前提とした個人による小規模M&Aも増えてきている。ここでは、そのなかから3つの事例を紹介する。

事例1「アイゼック株式会社」

東京都府中市で防犯カメラ・監視カメラなどの開発・販売を行うアイゼック。現社長の中村龍一氏は、もともと大手プラント企業で働く会社員だった。

大企業での仕事に物足りなさを感じていた中村氏は、起業を目指して退職。後継者人材バンクを通じ、アイゼックとの縁がつながったという。前社長の吉良氏との面談を経て事業承継の話がまとまり、契約を締結。前職の退職金や融資を活用して、株式の譲渡を成功させている。

中村氏の場合、電気技術分野の資格など、アイゼックのビジネスに活かせる能力や知識があったことが承継に有利に働いた。このように、経営の経験がなくても、培ってきた経験や能力、そして自己資金を活用して企業を買収・承継することができるのだ。

事例2「株式会社新家製作所」

石川県加賀市で金属部品加工業を営む新家製作所も、個人による事業承継を成功させた事例の一つだ。経営者であった兄が急逝し、一時的に社長になった弟の新家正幸氏。本人は現場の技術者であるという意識があったため、代わりの経営者探しが急務となっていた。そこで相談をしたのが、石川県の事業引継ぎ支援センターだった。同センターが新家氏に引き合わせたのが、現社長の山下公彦氏である。

山下氏は大手総合重工業メーカーで働きつつ、第二の人生をふるさとの石川県で過ごそうと、承継できる会社を探していた。扱っていた素材は違うものの、金属加工に携わったこともある山下氏はまさに適任。コロナ禍による交渉の停滞はあったが、承継は無事に成功している。生まれ故郷や憧れの地域に移住する場合、現地での就職や起業が必要だが、個人による事業承継はUターン起業の選択肢にもなり得る。

都会でキャリアを積んだ会社員の場合、同じような給与水準を満たす仕事が地方で見つかる可能性は高くない。また、まだ住んでもいない土地での起業は、準備コスト・事業の成功確率の面からも大変なことが多いだろう。その点、事業承継であればそうしたコストやリスクを軽減できる。

事例3「高林商店」

移住・起業のネクストステップとして事業承継をするケースもある。伊豆大島でゲストハウス「青とサイダー」を経営する吉本浩二氏は、もともと東京でアパレル関係の仕事をしていた。2013年に伊豆大島にUターンし、島内企業の勤務などを経て、ゲストハウス経営をスタート。そんな吉本氏が地元の酒屋である「高林商店」を承継したのは、2019年に伊豆大島を襲った台風がきっかけだった。

青とサイダーと同じく、隣接する高林商店も台風の被害を受け、屋根がすべて吹き飛んでしまう。しかし、高林商店のオーナーは高齢で、自力での復旧が困難だった。吉本氏にとって、高林商店は小さい頃からお菓子を買っていた思い出の場所。オーナーの希望もあり、商店の承継と立て直しを決意する。クラウドファンディングなどを活用し、2020年7月に青とサイダーを、同年9月に高林商店の営業を再開。2021年には角打ちスペースを新たに設置し、宿と酒店を軸に地域の賑わいを生み出す場づくりに取り組んでいる。

移住起業のハードルは高い。もし手掛けたい事業がある場合は、チャレンジしやすい分野からスタートした後、吉本氏のように事業承継で別分野に進出するという選択肢もあるだろう。

自分に合った買収先企業を見つけるために

起業や経営経験のない会社員が、どのようにM&Aする企業を探せばよいのだろうか。先述の事例では、「事業承継・引継ぎ支援センター」や直接のつながりから承継が行われていた。個人がM&Aを行う方法はほかにもある。なかでも一般的なのが、M&Aの仲介会社やマッチングサイトを利用する方法だ。

TRANBIM&A PARKなどのマッチングサイトを使えば、自分の力で条件に合う買収先企業を探すことができる。サービスの利用には、数千円程度の月額料金がかかるのが一般的だ。

手厚いフォローを求める場合は、専門のアドバイザーが相談・サポートを行うM&A仲介会社に依頼するのもよいだろう。個人顧客を受け付けている仲介会社は少ないが、株式会社LOCOホールディングス株式会社オンデックなど対応している企業もある。サービス利用料は成果報酬型がほとんどで、譲渡額の数%の支払いが必要だ。サービスが手厚い分、マッチングサイトよりはコストが高い傾向にある。

このほか、公的機関の支援を受ける方法もある。前述の事業承継・引継ぎ支援センターは、全国的な組織であり、買い手と売り手が別の地域にいる場合のマッチングも支援している。また、後継者不足に悩む地方では、金融機関や自治体が事業承継の支援を行っている場合もある。公的機関の場合、手数料などが低額か、無料であることが多い。

予算は数百万円〜1000万円程度が目安

ここで、会社を買収する際の予算について考えてみたい。M&Aマッチングサイトなどを見ると、企業の買取価格は数百万円~数億円とかなり幅がある。株式会社ALIVALが2019年に行った調査では、同社サービスに登録する個人ユーザーの約65%が、想定する買収予算を1000万円以下と回答している。個人が会社を買収する場合は、数百万円程度の予算が目安となりそうだ。

買収すべきは、自分の力で成長させられる会社

では、会社員の場合、どのような会社の買収が適切なのだろうか。端的に言えば、「自分の力で業績を向上させられる会社」ということになる。例えば地方の老舗企業・事業者の場合、商品やサービス自体は優れているのに、売り方やオペレーションが旧態依然の非効率的な状態に陥っていることもあるだろう。

もし大企業で経営計画に携わっていたのであれば、その経験を生かして買収した企業の経営構造を改善できるかもしれない。IT企業でWebマーケティングを担当していたのなら、ECやSNSの力で、老舗の商品をより多くの人々に届けられるようになるかもしれない。大切なのは、「買収先企業の魅力」と「自分の能力・経験」との親和性だ。同業界での経験が必須とは限らない。

個人M&Aで広がるキャリアの可能性

起業も個人M&Aも、個人が新たに会社経営を行うという意味では同じだ。ただし、前者がゼロからのスタートであるのに対し、後者は買収する企業の資産をそのまま活用できる点にメリットがある。

設備や機材を新たに買い揃える必要はなく、スキルを持つ従業員もすでに存在する。起業の最初のハードルと言えば初期顧客の獲得だが、M&Aであれば既存の顧客も引き継ぐことができる。個人M&Aは買収費用こそ必要になるが、それを除けばゼロからの起業よりもリスクを抑えられ、スピーディーに事業を推進できる。

ちなみに、若い世代による事業承継には、企業の延命以上の可能性がある。2016年の中小企業庁の資料「事業承継に関する現状と課題について」によると、年齢が若いほど成長への意識、特に新規投資への意識が高いことがわかっている。実際、同調査では、経営者を交代した企業のほうがそうでない企業よりも経常利益率が高いというデータも出ている。

廃業を防ぎ、既存の会社をさらに飛躍させる。そのうえで、会社員では実現が難しい夢を叶える。責任は大きいが、もしそれを負う覚悟を持てるのであれば、個人M&Aは転職や独立に続く第3のキャリアの選択肢となり得るだろう。

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この記事を書いた人

Hiromasa Uematsu 編集者/インキュベーションマネージャー。観光系Webメディアの編集長を勤め、企業・自治体のPRコンテンツを作成。約3年でメディア規模を10倍に成長させる。現在は「Aomori Startup Center」の相談員として起業家・経営者を支援しつつ、これからの地方の働き方を発信している。



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