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「信頼される営業は『個人』の裁量を持っている」シリコンバレーの営業マネージャー兼1児の母に聞く働き方の違いとは【メグミ・クレイツィングァーさんインタビュー#1】

記事作成日:[March 06, 2018]
/ 記事更新日:[June 12, 2018]
BY Kazumasa Ikoma

「アメリカ西海岸と日本で働き方にはどのような具体的な違いがあるのだろうか?」そんな疑問を漠然と思っている中、筆者は今回共通の知人を通じてメグミ・クレイツィングァーさんにインタビューをする機会を得た。

メグミさんは現在シリコンバレーで日系の半導体製造設備メーカーの女性営業パーソンとして働き、私生活では1児の母として子育てを行う日々を送っている。渡米前は日本で11年間商社の営業としての経験を積んできたという。ある程度キャリアを積み重ねてきた中で、なぜこのタイミングでアメリカを選んだのか。アメリカで営業パーソンとして働くということはどのようなものなのか、そして母親としてワーク・ライフの両立をどのように行っているのか。今回、日米の違いをテーマにアメリカで働く日本人女性のワークスタイル例を紹介する。

2部構成となる本インタビューはそれぞれ

に注目。前編記事となる今回の記事は、メグミさんがどのようにアメリカで営業として働いているのか掘り下げる。

なぜアメリカへ?

アメリカ人男性との結婚を機に日本という舞台から心機一転、アメリカで働くことを決めたというメグミさん。もともと日本で11年間商社の営業パーソンとして経験を積んできたが、海外に暮らしてみたいという憧れは小さい頃からあったという。成人して社会人となった後も、他の場所で自分を試してみたいという気持ちは変わらなかった。西海岸に移住することになったのは偶然だった。

米系企業で働きたいという憧れはあったものの、渡米当時まだ英語力に自信のなかったメグミさんは日系企業に入社した。自身がこれまでに身につけた日本の商文化の知識や営業として日本人を動かせるスキルを武器にしたかったのだという。そうしてアメリカの企業を相手にアメリカの地で日本企業との橋渡し的役割になることを決めたのである。

日本にはないフレキシブルさに最初は戸惑った

日系企業に勤めていても、オフィスがシリコンバレーとなると働く環境はガラリと変わる。西海岸流のフレキシブルなワークスタイルにメグミさんは最初驚きを感じたそうだ。

メグミさんの1日はこんな感じだ。朝起きて7時半には家を出発、車で1時間半かけて通勤し、サンノゼにあるオフィスには9時に到着。メール処理と顧客との打ち合わせを中心に午前の時間を過ごす。ランチ時間もミーティングを行うことがほとんど。日本で働いていた時の「打ち合わせは腰を据えてミーティングルームで」という認識が強く残っていたためか、気軽にランチを取り、ざっくばらんに話しながら時間を有効活用してミーティングを進めることに新鮮さを感じたそうだ。後半戦となる午後も1時から5時までシリコンバレーにいる顧客への訪問や打ち合わせで、日本が仕事を始め出す午後4時頃から日本側とのやり取りも行う。5時には退社となるが、その帰りの道中でも日本側との打ち合わせは続く。そうして仕事をこなしていき、8時頃から自宅でプライベートな時間を過ごす、といった流れだ。

この1日を通して仕事をするスペースは多岐にわたる。顧客が持つ工場には作業ができるカフェスペースが完備され、そこから日本側とのミーティングに参加することもあるという。「オフィスにいる時間=働く時間」という概念はアメリカに来て薄まったとメグミさんは語る。

生産性の高さは帰宅時間に表れる?

話を聞いていて興味深かったのが月曜日と金曜日のスケジュールの部分だ。メグミさんによると月曜日の朝は11時に出社し、金曜日は午後3時に帰宅する社員が結構いるという。実際にシリコンバレーとサンフランシスコ市間を結ぶ101号線やフリーウェイI-280といった道路は金曜の午後には普段よりも早い時間から渋滞になる。特定の企業のみならずサンフランシスコ・ベイエリア地域全体として、金曜日は仕事もそこそこに早期退社を実施・許容しているところが多い。

日本でも昨年に国がプレミアムフライデーを開始し、個人消費喚起に働き方改革を連携させて月末の金曜日には午後3時に退社を促すキャンペーンを実施している。しかし、先月末に導入から1周年を迎えたこの施策だが、推進協議会の調査を見ても働く人の早期退社率の月平均は11.2%に留まる。「仕事量が変わらないのに早く帰れるわけがない」という働く人たちの声を聞くこともある中で、ここにある日本とアメリカの差は何なのだろうか?

「感覚的になりますが、生産性の違いが関係していると思います」とメグミさんは答えた。つまりアメリカで働いている時の方が生産性が高く、仕事量が日本の時と比べ少なく感じるのだという。日本だと、例えば議事録1つ書くにしても、誰が参加してそれぞれどんな役職なのか書くところから始まり、誤字脱字がないかも含めて確認していくとそれなりの時間が取られる。「やることは多いけど、生み出すものはあまりない」傾向は日本とアメリカ両方で働いてみて気づいたことの1つだったようだ。

実際にメグミさん曰く、1つひとつの打ち合わせに議事録を書くこともなく、週のレポートもシンプルに重要なポイントをまとめるだけだという。顧客や同僚を見てても同じで、社員1人ひとりの能力が高いから生産性が高いということではないそうだ。ミーティングや打ち合わせも同様で、開始時間と終了時間が守られない、目的が明確でない打ち合わせはまったく認められない。

「日本が100だとしたらアメリカはその20%ぐらいでしょうか」肌感覚でも作業量にそれだけの違いがあるとメグミさんが感じるほど、細かい作業の中での生産性においても大きな差があるようだ。これまで日本の労働環境改善というテーマで幾度となく語られてきた「生産性」は今も深刻な課題として残っているように感じる。

営業はいち「個人」として裁量を持つことが大事

顧客とのミーティングをより意味あるものにするためにメグミさんが行っていることがある。それは「裁量を持つこと」だ。自分の意見を前面にだし、どのような方向で社内を動かそうとしているかしっかりと伝えることが重要だという。それが営業としてアメリカで認められる1つの鍵というのだ。

メグミさんはこう語る。

「こっちで仕事して打ち合わせでお客さんと会うと、『会社』対『会社』という感じはしなくて、『個人』対『個人』という感覚を持ちます。アメリカ、特にサンフランシスコ・シリコンバレー地域の転職事情も背景にはありますが、結局相手も転職を重ねてキャリアアップしていくから、『〇〇社のメグミです』という自己紹介もあることはあるけど、結局『自分がこの仕事をやってます』という意識をみんな前面に出していくんです。それで成功実績を作り、その経験をまた自分の強みにして次のところに繋げていく。個人の意見をしっかり持っている人ほど成功するし、お客さんにも1番分かってもらえます。

結局のところ、『会社に頼っている』『会社の思っていることだけをやっている』と思われると相手に一番信用されません。1度会社に持ち帰り社内のメンバーと相談して決めなければいけないことは当然あるけれども、『自分はこうしていきたいと思う』『会社に帰ったら自分はこのように調整しようと思っている』という自分の意見を出していかないと、いち営業パーソンとしての価値はまったくないんです。『あなたは意見ないんですか』と相手に思われてしまうことになります。」

日本人営業パーソンとして活躍を続けるメグミさん。後半では女性として、そして1児の母親としてアメリカで働くというのはどういうことなのか、掘り下げていく。

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この記事の執筆者

Kazumasa Ikoma オフィス業界における最新情報をリサーチ。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

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