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1児の母である営業パーソンが見る、シリコンバレーの「働きやすさ」の工夫【メグミ・クレイツィングァーさんインタビュー#2】

[March 13, 2018] BY Kazumasa Ikoma

シリコンバレーで日系企業の女性営業パーソンとして働き、私生活では1児の母として子育てを行うメグミ・クレイツィングァーさんへのインタビュー記事後編。前編に続き、今回はアメリカで女性として、そして1児の母として働くとはどういうことか、話を聞いた。

「女性」営業パーソンとしてアメリカで働いてみて

日本では商社の営業として働いていたメグミさん。女性の営業パーソンはまだ珍しい存在で、「若いときは可愛がられる反面、対等に扱われないこともあった」と当時を思い出して語る。その時と比べてみると、今いるアメリカでは仕事の場面で性別を理由にした扱いの違いを感じることは一切ないという。女性が働く割合も多く、実際にメグミさんの顧客にも女性の上司を持つ人が多いようだ。感覚的な違いであってもこのような差があるのは興味深い。

整った産休・育休制度を持つカリフォルニア州

産休・育休制度の充実が実は遅れていると言われるアメリカだが、カリフォルニア州は州法でそのような制度を整えた数少ない州として知られており、全米でもっともサポートが手厚いとされている。実際、メグミさんも半年ほど前までCalifornia Family Rights Act (CFRA)と呼ばれる法律で職が守られ、さらにPFL(Paid Family Leave)という法律で給与の55%が支給されていた。

下の図はカリフォルニア州で適用される産休・育休制度に関する法律をまとめたもの。産休・育休中にも職を確保する雇用保障(Job Protection)と給与の一部分が支払われる手当(Wage Replacement)に関する法律がそれぞれ用意されている。

California Maternity Leave: How to milk itより引用

企業によってはそれに加える形でさらに給与の10数%という形で支給するところもある。企業や勤続年数によって変わってくるが、大企業ほどこのような制度を整えているという。

日本の制度と比べてサポートが手厚いと感じたところは特にないと正直に答えてくれたメグミさん。しかし、周りの理解が十分にあるからこそ、こういった制度を積極的に利用できたという。その他にも、日本との1つ大きな違いとして、アメリカのオフィスにある搾乳室について教えてくれた。

アメリカでは一定以上の規模になると、企業は授乳室や搾乳室をオフィスを確保するように義務付けられている。1日に2~3回、1回あたり20~30分とかかってしまう作業だが、母親にはこのようなことも含め十分な休憩時間を与えることがPatient Protection and Affordable Care Actと呼ばれるヘルスケア制度で定められている。

写真はGalactablogより。施錠できる部屋に座り心地の良い椅子、搾乳機用のコンセントにちょっとしたテーブル、消毒液等が搾乳室の必須アイテムとされている。可能であれば社員が忘れた時のための袋やミルク用ボトルも置き、病院で使われる複数人が利用可能な搾乳機を企業が用意してあげるとベストな環境が整うようだ。画像の左側にある、子供を抱えた親のロゴは授乳・搾乳室を表すロゴとして多くの企業や施設で使われている。

「働きやすさ」の裏には激しい人材獲得競争がある

このように産休・育休後の社員も含めて、企業が働きやすさを提供する取り組みが増えている。しかし、その背景には「良い人材の獲得、維持」を求める企業の必死さが表れているとメグミさんは語る。

世界的にもシリコンバレー地域は給与水準が高いことで有名であるが、それにも限界はある。加えて、これからの労働力を支えるミレニアル世代は仕事に求めるものとして「自由な働き方」を上位に挙げる傾向にある。こういった影響を受けて、今シリコンバレー地域の企業が優秀な人材を獲得するために、「フレキシブルなワークスタイル」を給与以外の売りどころとして掲げているのである。「週に1回は在宅勤務できます」「子供がいるのであれば週に◯時間でいいですよ」といったように、家族を大事にする文化を一般的な価値観として会社に根付かせながら、それに惹かれる優秀な人材を集めているのだ。

これは前編記事でも触れたサンフランシスコ・ベイエリアにおける転職頻度の多さに関係している。この地域の人的流動性の高さが、このような働きやすさを追求した制度の充実を可能にしているとメグミさんは語った。日本に比べ、シリコンバレーは新入社員の獲得よりもスキルを持った中途入社社員の獲得・維持が活発に行われる。そのような環境の中で、良い人材を獲得したいという企業の危機感がこの「働きやすさ」に強く表れている。

ここシリコンバレーにおいて、米系企業が社員に提示する給与は日系企業よりも多い。その中で米系企業との人材獲得競争になった時に、日系企業は勝てないという危機的状況にある。そこで良い人材を獲りに行くには「いかに働きやすい環境を用意するか」ということになる。シリコンバレーにある日系企業の働き方改革に対する危機感や必死さは、現地で働く人からしか聞かれないリアルな声だった。

家族第一主義は日系企業でも

「仕事よりも家族を優先」という風土はアメリカ的文化の1つとして知られていると思うが、カリフォルニア州は特にその色を濃く表している。しかし、アメリカでは年齢や子供の有無等は本質的には仕事の能力とは関係のないことだと捉えられており、それらを就職面接時に聞くことも採用判断に不要であるという考えから法律で禁止されている。

そういった事情もあるからか、メグミさんは普通に働いている中で家族について面と向かって聞かれたことがない。しかし、彼女は自分から子供のことについて話し、周囲の同僚たちから大きな理解をしてもらえているという。

メグミさんが働くオフィスでは、半年もしくは1年に1回、オフィスに家族を連れてきて「お父さんやお母さんがどんな風に働いているか見てみよう」といった家族のための企画がある。また、顧客先で子供が遊んでいる隣で打ち合わせする、なんてこともある。「日本では想像できないことだけど、仕事をプロフェッショナルに行うことと、家族を一番大事にすることが、違和感なく共存しているように感じる」とメグミさんは語る。シリコンバレーオフィスでも社員のほとんどは日本人だが、家族第一の認識はしっかりと共有されているようだ。

最後に

アメリカで働き始めてからもう2年。日本とはまったく違う環境で強く生きるメグミさんから最後にコメントをもらった。

「シリコンバレーで面白いと感じるのは、スタートアップの地域としても知られているように常に挑戦的な雰囲気があるところ。個人も色々な企業に移ってキャリアアップをしていき、常に新しいことに挑戦しようという活気で溢れています。自分も退職がいくつになるかわからないけれど、できる限りこのシリコンバレーで仕事を続け、新しいことに挑戦したいと思っています。

これからも家族との時間を大切にしつつ、今のポジションに甘んじず、出世していけたらと思っています。」

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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