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ペーパーレス化で混乱を招かないために重要なのは「目的の整理」

[July 21, 2020] BY Shinji Ineda

5月25日に緊急事態宣言解除されてからはや2ヶ月、自宅でテレワークをしていたオフィスワーカーが(自主的か強制的かはわからないが)職場である勤務先のオフィスに少しづつ戻っている。それに伴い、各企業ではアフターコロナにおける働き方の検討と整備が少しづつ始まっている。

日立製作所は5月26日に、新常態(ニューノーマル)を見据え、幅広い職務で在宅勤務活用を標準とした働き方を推進すると発表。ジョブ(職務)に応じた勤務形態や、各種手当て・福利の見直しを図り、2021年4月より在宅勤務活用を標準とした働き方の正式適用を目指すとしている。また富士通も7月6日に、新しい働き方として「Work Life Shift」というコンセプトを打ち出し、固定的なオフィスに全員出勤することを前提とした勤務制度、手当、福利厚生、IT環境を全面的に見直しながら、2022年度末までにオフィスの規模を現状の50%程度に抑え最適化を図る見込みだ。企業の規模や事業、文化にもよるが、「テレワークありき」または「オフィスワークありき」といった極端な制度より、テレワークとオフィスの活用をあわせたハイブリッドな働き方を目指す企業が徐々に増えている。

しかし、まだ大多数の企業では「まずオフィスの外でも働ける環境を整える」というところで苦戦していることが多い。先日公開した『「オフィスに来ないと仕事できない」を生む5つの要因』では、モビリティ(可動性・移動性など)を阻む制約として「場所」「紙」「コミュニケーション」「コラボレーション」「文化」を紹介したが、本記事ではその中でも特に日本企業のテレワーク導入の障壁の1つとされる「紙」をテーマに、ペーパーレスについて触れる。

ペーパーレス化が推し進められる背景

日本のペーパーレス化推進の勢いはここ10年で強まったが、その背景には東日本大震災や年々深刻化する自然災害、新型コロナウイルス感染症拡大といった社会環境の変化から、多くの企業にとってペーパーレス化の価値が高まったことが関係する。

以前のペーパーレスは文字通り「紙を減らす」ことによるコスト削減や環境対策が目的で、今日のような「情報のデジタル化」による労働生産性の向上や緊急事態下でも業務を続けられる環境の整備といった視点は重視されていなかった。また当時は運用面での制約事項や従来の紙ベースの処理の容易性を上回る技術が乏しかったこともあり、ペーパーレスの積極的導入に至るまでの動機に欠けていた。

しかし、2011年に発生した東日本大震災を境に業況は大きく変わった。震災の影響で交通機関の寸断や電力供給量の制限による省電力の必要性が求められ、企業はオフィスでの働き方を再考するきっかけを得た。その際、紙をベースとして作られていた業務プロセスが邪魔をして、その習慣をすぐに変えることができない事実が露呈されたのである。同じような問題はコロナ禍でも多くの企業で見受けられ、今日ペーパーレス化はもはや避けられない対策となっている。

このような経験に加え、ここ最近の労働人口の減少や他国との経済競争の激化から、発達するITの力をフルに活用し、デジタルトランスフォーメーション(DX、※1)を積極的に推し進める企業も増えている。テクノロジーの発達により実施可能なペーパーレス施策も増える中で、優位性を確立したい企業ほど、ペーパーレスに対する意識とその取り組みを活発化させていくだろう。

※1 デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?

2018年に経済産業省が取りまとめた、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドラインによると、DXは次のように定義されている。

”企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること”

また同省が令和元年7月に発表した「DX推進指標」とそのガイダンスによると、DX推進の成熟度を定性指標として次の6段階で評価するとしている。

なぜペーパーレスが上手くいかないのか

ペーパーレスの推進には、「出力しない・持たない・受け取らない」の意識づけに加え、必要なサービスやソリューションの導入、オペレーション変更による混乱が生じないように取り組みを段階的に設定していく必要がある。しかし、それらに留意しているにも関わらずペーパーレスに失敗してしまうケースは多い。そのようなケースに共通してありがちな問題点が、ペーパーレスを目的としてしまうことだ。

ペーパーレスは本来目的ではなく手段である。手段としてのペーパーレスが目的化してしまうと、本来の目的の意図が伝わらず従来からの慣れたやり方から離れられない、新しいルールが浸透しない、かといって各部署や業務の状況に配慮せずにルールを強いると不満が募り組織の不和へつながる。特に限られた部署やチームが享受する効果が多く、その他の部署や組織全体のメリットが見えづらい場合は、本来の目的が伝わっていないケースもあって、納得感が得ずらくペーパーレスが目的として捉えられてしまう。

「手段の目的化」は多くの組織で起こりがちな問題であり、ペーパーレスに関わらず様々なプロジェクトを失敗に陥れる。もしあなたの組織で「手段の目的化」が頻繁に発生してしているようであれば、ペーパーレスに取り組む前に、目的の設定方法や、決めた目的を共有していく社内コミュニケーションの在り方について検討が必要だろう。

ではペーパーレスを手段と捉え有効に進めるために、本来はどのようなことを目的として設定すべきなのだろうか。例をいくつか挙げていこう。

組織内でペーパーレスを推進する目的

ペーパーレスの推進には次のような目的を設定したい。またそれぞれの目的に応じて施策も異なってくるので確認していく。

業務効率の改善:業務フローの改善や業務スピードの向上
不必要な紙での手続きの廃止。稟議書類や経費精算など社内申請書類の電子化。電子サインの導入。

セキュリティ対策:情報管理や情報漏洩防止
紙資料の保管方法や取り扱い方法の見直し。個人で保管する資料の量制限とセキュリティ強化。鍵付き収納の利用。電子化された情報の権限設定やパスワード設定による閲覧制限。

モビリティ対応:移動性や可動性の向上、どこでも仕事ができる環境の整備
モバイルPCやスマートフォンなど端末の支給。情報のデータ化。業務システムのオフィス外からのアクセス。勤怠管理のシステム化。

情報共有:情報や知識の共有による、組織力の向上や透明性の確保
サイネージやグループウェアなどによる情報発信。名刺情報の共有。共有資料の電子化。

整理整頓:業務に必要・不必要なものの分別と廃棄、必要なものの適切な配置
オフィスにおける机上などでの資料管理や未使用時の放置禁止。

経費削減:備品消耗品費や固定費などの削減
印刷やコピー代、紙を管理する場所にかかる固定費の削減、電子契約による印紙の不要

これらは考えられる目的の一部である。組織の課題にあわせて適切な目的を設定し、ペーパーレスを手段の一つとして捉えて取り組んで頂きたい。もちろん目的に沿わなければ、無理にペーパーレスを行わないという判断も大切だ。

紙を解消しづらい業界の未来はいかに

ペーパーレスを成功させるには、企業がどの業界に属しているかも関係する。各国で事情は異なるが、日本においてペーパーレス化が図りにくい業界にはこれまで一般的に建設業や不動産業、保険業などが挙げられてきた。紙での契約や資料保管の義務付け、書面での通知などが業法で定められていたからだ。

ペーパーレスの目的の一例としモビリティの向上を前述したが、紙の制約によりモビリティの向上が図れない業界は、近い将来で業界人口の減少が懸念される。

株式会社HANABISHIが運営する「みんなのランキング」によると、「今後転職するとき、テレワーク可能かどうかを気にしますか?」という設問に対し、テレワークユーザーの62.0%と、ノンテレワークユーザーの38.6%が「気にする」または「とても気にする」と答えている。

一企業が業界の慣習やルールを個別に解決していくことは難しいが、近年ペーパーレスが図りずらかった業界においても電子化に積極的に取り組んでいる事例もあり、引き続き各業界団体が先頭にたってペーパーレス化の取り組みを牽引していくことが大切だ。

ペーパーレスは一日にしてならず

段階的にペーパーレスを進めていく重要性は前述した通りだが、それも数ヶ月単位ではなく、数年単位の長期的な視点を持って取り組みたい。筆者の勤務先でも、情報共有を目的に2015年にデジタルサイネージを社内に設けてから、モバイル端末支給、名刺管理システムや業務アプリ構築クラウドサービス、電子サインの導入を年々実施してきた。目的はその時で異なるものの、現在進行中の取り組みもあって、結果的に手段としてのペーパーレスを5年以上継続していることになる。

とても気の遠くなる月日だが、ペーパーレスは一日にしてならず。明日できることから取り組んでみてはいかがだろう。

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この記事を書いた人

Shinji Inedaフロンティアコンサルティングにて設計デザイン部門の執行役員を務める。一方、アメリカ支社より西海岸を中心としたオフィス環境やワークスタイルなどの情報を、地域に合わせてローカライズ・ポピュラーライズして発信していく。



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