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「地方に住みたい」「地方で働きたい」。そんなあなたを後押しする3つの制度

[April 05, 2022] BY Hiromasa Uematsu

移住希望者は増える一方、東京圏への転入超過は継続

地方移住をサポートするNPO法人ふるさと回帰支援センターの報告によると、2008年に2475件だった同センターへの移住相談件数が、2021年には4万9514件と約20倍になったという。

日本における移住意欲の高まりを感じさせるデータだが、実際の人の動きはどうだろうか。日本生命保険相互会社が総務省の住民基本台帳人口移動報告をもとに作成したグラフを見ると、1973年~2019年までの間、バブル崩壊後の一時期を除いて東京圏は転入超過が続き、三大都市圏以外の地方圏では転出超過が続いている。

また、総務省の「住民基本台帳人口移動報告」によると、2021年も東京および周辺の3県(埼玉・千葉・神奈川)で転入が超過。一方で、大阪や福岡などの一部を除き、多くの道府県で転出超過となっている。東京への転入超過数自体は大幅に縮小しており、東京23区では現方式での統計を開始した2014年以降初の転出超過になるなど、東京一極集中が緩む動きも見られる。しかし、都市圏への人口流入という傾向は依然として続いている。

移住意欲は高まっているはずなのに、転入・転出の数値が相関していないように見えるのはなぜなのだろうか。それには、移住に立ちはだかる3つの課題が影響している。

地方移住に立ちはだかる課題

前述のふるさと回帰支援センターでは、地方移住における課題として、「仕事」「住居」「受け入れ体制」の3つをあげている。

生活のために移住先で仕事を見つけたいと思っても、都会に比べて仕事の数が少なく、求められるスキルセットが異なる場合もある。また、地方には空き家が多いと言われるが、すべてが人の住める(借りられる)物件とは限らず、土地勘がない場合は実際に住んでみなければ適切な物件かどうかを判断するのは難しい。そして、地域コミュニティに受け入れられるまでには、時間や手間がかかることもあるだろう。

地方移住を後押しする3つの制度

地方移住における課題を乗り越えるためには、情報や地域との縁、そして時間が必要となる。そこで活用したいのが、「地域おこし協力隊」「地域活性化起業人」「地域プロジェクトマネージャー」という3つの制度だ。

フォローアップ体制が充実している「地域おこし協力隊」

まずは、地域おこし協力隊(以下、協力隊)について紹介する。管轄する総務省は、協力隊を「都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住民票を異動し、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの『地域協力活動』を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組」と説明している。

つまり協力隊には、都市から地方へ移住し、各種の地域おこし活動に従事することが求められる。対象となる各地方自治体が募集を行い、採用された応募者を原則として直接雇用している。任期は概ね1年~3年で、自治体が業務や報酬を用意する。参考までに、2021年度の募集内容を2例紹介する。

熊本県阿蘇郡南阿蘇村
<業務概要(一部抜粋)>
移住・定住者の受け入れ体制整備(空き家調査、HPおよびSNSの運用など)
<労働時間>
月115時間
<報酬>
月額16万円、年2回の期末手当

高知県土佐郡大川村
<業務概要(一部抜粋)>
移住コーディネーター、地域のブランディング・マーケティング業務
<労働時間>
月16日間(原則週4日間)
<勤務時間>
8時30分~17時15分
<報酬>
月額16万5040円、年2回の期末手当(月額報酬の2.55月分)
<福利厚生>
住居は村が用意したものを無償貸与、職務に従事する間は公用車の利用が可能

大川村のように最初から住居を用意する自治体もあり、そうでない場合も、住居探しを自治体や地域が支援するのが一般的だ。総務省の「地域おこし協力隊の受入れに関する手引き(第4版)」でも、地域によるサポート体制や生活環境の整備の必要性が示されている。

支援体制は自治体によって異なるが、例えば大分県竹田市では、自治会との顔合わせの仲介や、日常生活に係る各種情報の提供、移住後の相談対応などを行っている。こうしたフォローアップがあれば、地域にも溶け込みやすくなるだろう。

都会の水準に照らすと高い給与ではないかもしれないが、任期の3年を、新たな仕事や住居を探して地域に受け入れられるための準備期間と考えれば、十分とも言える条件ではないだろうか。総務省によると、2020年度の隊員数は5556名にのぼり、2020年3月31日までに任期を終えた隊員のおよそ6割がそのまま地域に定住しているという。協力隊制度は、地域と人のマッチング制度として機能しているようだ。

現職を続けながら地方で働く「地域活性化起業人」

地方には移住したいが、現在の仕事をやめたくないという人もいるだろう。そんなときには、総務省が実施する「地域活性化起業人(2020年度までは「地域おこし企業人」として運用)」をおすすめしたい。地域活性化起業人(以下、起業人)は、三大都市圏の企業が自治体に派遣した社員が、地域の魅力・価値向上につながる業務に従事する制度だ。

地域側のメリットは、都会の企業のノウハウや知見、人脈、ネットワークを、その人材を通じて得られることであり、その点、あくまでも個人を対象とする協力隊の仕組みとは異なる。任期は自治体と企業が半年~3年の間で調整し、負担金などは派遣元の企業に対して支払われる。実際の事例を見てみよう。

岐阜県美濃加茂市
株式会社ANA総合研究所より起業人を受け入れ、CA経験を活かした接遇レベル向上セミナーを実施。また、地域の特産品である高級干柿の「堂上蜂屋柿」がANAのファーストクラス機内食に採用されるなど、シナジーも生んでいる。

岡山県和気郡和気町
教育の町『和気』」を掲げる同町は、株式会社ベネッセコーポレーションから人材を受け入れている。同社の人脈やノウハウを活かした教育環境の改善を期待したもので、町営の無料英語公営塾やオンライン英会話の立ち上げなどにつながっている。

ちなみに、企業側がこの制度を利用するメリットとしては、「自社人材に多様な経験を与えられる」「社会貢献活動になる」「将来クライアントにもなり得る地域との関係を強化できる」などの点があげられる。また、起業人の派遣にあたっては、自治体から企業に対して負担金などが支払われるため、費用面のデメリットは少ないだろう。

ブリッジ人材として活躍する「地域プロジェクトマネージャー」

起業人はやがて所属企業に戻るため、完全なる移住とは言えない。また、ある程度キャリアを積んだビジネスパーソンのなかには、協力隊よりさらに踏み込んだ専門的な業務に携わりたいと考える人もいるだろう。そして、地域側にも、管理ポジションに近い人材を求めるニーズがある。

現在、全国の自治体が地域活性化に向けた取り組みを行っている。そうしたプロジェクトは自治体だけで行えるものではなく、外部の専門人材や民間企業、関係団体との連携が不可欠だ。とはいえ、各種団体・人材をつなげ、プロジェクトをマネジメントできる、いわゆる「ブリッジ人材」が自治体には不足している。

そこで2021年度からスタートしたのが、「地域プロジェクトマネージャー」制度だ。地域プロジェクトマネージャー(以下、地域プロマネ)には、それぞれの自治体が掲げる「重要プロジェクト」を推進する役割が期待されている。まだ始まったばかりの制度だが、例えば以下のような募集が行われている。

福島県伊達市
<重要プロジェクト>
旧小手小学校リノベーション事業
<職務概要>
・2023年4月のオープンに向けた諸準備
・施設の利用推進イベントの企画
・交流人口拡大のための事業企画の立案
・地域一体での運営を図るための関係者間との調整やヒアリング
・利用促進のための情報収集と発信
・そのほか必要と認めた業務
<任期>
1年間ごとに更新。任用から3年間まで再任できる。
<勤務時間>
原則、月~金曜日、1週間あたり5日勤務(1日:7時間45分勤務)
活動内容により、時間変更可能(フレックスタイム制)
<勤務場所>
市が指定した伊達市役所内の部署または市関係団体に所属
<報酬>
月額40万円、年2回の賞与

愛媛県西宇和郡伊方町
<重要プロジェクト(一部抜粋)>
農林水産業の振興と新たな産業の誘致などの施策を講じ、既存・新規産業を組み合わせることで地域産業の活性化を図り、安定した就業・雇用の創出により流出人口の抑制と流入人口の増加を図る。
<職務概要>
・プロジェクト全体の進行管理、町長などへの報告・連絡・相談およびフィードバック
・関係者への説明および提案
・行政、地域、民間との調整
・前各号に掲げるもののほか、重要プロジェクトの推進にあたって町長が特に必要と認める事項
<任期>
会計年度の末日までの期間の範囲内とし、再任する場合は、最初の任期の初日から起算して3年を超えない範囲内とする。
<勤務時間>
8時30分~16時45分
<勤務場所>
伊方町役場
<報酬>
月額43万6000円、年2回の賞与

こうした条件に加え、いずれも専門的知識だけではなく、地域の知識や地域への理解が求められている。総務省も、地域プロマネの人物像について「地域の実情の理解」と「受け入れ団体及び地域との信頼関係」があり、「専門的な知識」を兼ね備えている人と表現。具体例として「地域おこし協力隊のOB・OG」などが示されている。まずは協力隊や起業人などの仕事を通じて、地域との関係性を深めておく必要がありそうだ。

制度の利用は、あくまでも最初のステップ

今回紹介した3つの制度にはそれぞれメリット・デメリットがあり、どれが最もマッチするかは人によって異なるだろう。しかし、「仕事」「住居」「受け入れ体制」という、移住の最初のハードルを下げてくれる点では共通している。

一方で、いずれの立場も任期が限定されている点には留意したい。定住を希望していても、「協力隊になったから移住完了」という考えでは、任期満了後にその土地を去らなければならなくなる。制度の利用は、その土地に自分の居場所をつくるための猶予期間、チャンスとも言える。地方移住の最初のステップとして、検討してみてはいかがだろうか。

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この記事を書いた人

Hiromasa Uematsu 編集者/インキュベーションマネージャー。観光系Webメディアの編集長を勤め、企業・自治体のPRコンテンツを作成。約3年でメディア規模を10倍に成長させる。現在は「Aomori Startup Center」の相談員として起業家・経営者を支援しつつ、これからの地方の働き方を発信している。



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