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テレワークにおけるストレスマネジメント ー 企業・チーム・個人それぞれの対策 

[February 09, 2021] BY Fusako Hirabayashi

ストレスがかかりやすいコロナ禍のテレワーク

以前から、テレワークではオフィス勤務時とは異なるストレスマネジメントが必要と言われてきた。厚生労働省が発行した「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」にも、メンタルヘルス対策の必要性が記載されている。

新型コロナウイルスの感染拡大により、急きょテレワークに移行した企業も少なくない。そういった企業の従業員にはメンタルヘルス不調を起こすケースが見られ、「テレワークうつ 」という言葉も出てきている。パンデミックによる日常生活の変化や先行きの不安から生じるストレスに、不慣れなテレワークのストレスが重なり、メンタルヘルス不調を起こしやすいことは想像に難くない。

そこで本記事では、コロナ禍で実施された複数の調査を確認し、国の指針や企業の事例などをもとに、テレワークにおけるストレス対策を紹介する。

テレワークが引き起こす心理的ストレスと企業の対応状況

コロナ禍では、どのような心理的ストレスを抱えやすいのだろうか。また、メンタルケアを担う側はどの程度アプローチを行っているのだろうか。それぞれの立場から見てみよう。

1. テレワークで募る孤独感や不安

株式会社パーソル総合研究所が、2020年3月に全国のテレワーク実施者1,000名を対象に行った「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」では、「私は、孤立しているように思う」という回答が28.8%となり、テレワークの頻度が高いほど孤独感が強くなる結果が得られている。

また、同時期に株式会社リクルートマネジメントソリューションズが実施した、従業員300名以上の企業の正社員2,658名を対象とする「テレワーク緊急実態調査 」の結果も併せて見ておきたい。調査対象者のうちテレワーク経験者917名にテレワーク環境における心理的変化をたずねたところ、「テレワーク環境になったことで、さびしさや疎外感を感じることが増えた」という回答が32.8%であったことが報告されている。

2020年12月に株式会社イーヤスが実施した「テレワーク勤務する会社員と健康管理」のアンケート調査でも、「テレワークで会話や雑談の時間が減った」との回答が70.9%に及んだ。それにより生じた影響としては、「ちょっとした不安」が39.7%と最も高く、「孤立感が増えた」(37.2%)、「寂しさが増えた」(25.6%)がそれに続いている。

これらの調査結果から、テレワークにより孤独感や不安などの心理的ストレスが増している状況がうかがえる。

2. メンタルケアを担う側の状況

その一方で、厚生労働省の委託事業で三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が2020年8月~9月にかけ2万社を対象に行い、3,788件の有効回答数を得た「テレワークの労務管理等に関する実態調査」では、面接指導や相談などの健康確保の措置を「特に行っていない」とする企業が6割近かったことが明らかになっている。「職場や社内のコミュニケーションを補う工夫をしている」企業も2~3割程度見られたものの、従業員規模に関係なく、特に取り組みを行っていない企業が半数を超えたという。

政府も、企業のメンタルヘルス対策の必要性を強調する中、どのような対策を講じればいいのだろうか。具体的な方法を、企業・チーム・個人に分けて見ていきたい。

企業の対策:社内に向けた適切な情報発信と制度・環境の整備

「テレワークの労務管理等に関する実態調査」には、厚生労働省の「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」が関わっているが、その第3回資料では職場のメンタルヘルス対策を次のように整理している。

メンタルヘルス対策

厚労省における職場のメンタルヘルス対策
(画像は厚生労働省「第3回 これからのテレワークでの働き方に関する検討会」資料 p.40より)

この中で企業が行う対策は、「メンタルヘルス指針」に則った体制整備と「4つのケア」、そして「ストレスチェック制度」の運用である。

このうち、「4つのケア」の概要は下記の通り。

①セルフケア
労働者が自らのストレスに気付いたり対処したりできるように、教育研修や情報提供などの支援を行う。

②ラインによるケア
管理監督者として、部下が相談しやすい環境や雰囲気を整える、いつもと違う部下の様子に早く気付く、メンタルヘルス不調の部下の職場復帰を支援するなどの働きかけを行う。

③事業場内産業保健スタッフ等によるケア
産業医や保健師らがセルフケアやラインによるケアを効果的に実施できるよう、中心的な役割を担う。

④事業場外資源によるケア
専門家から情報提供や助言を受けるなど、外部の資源を活用してケアを行う。

ストレスチェック制度」については、2015年より労働者数50人以上の企業に義務付けられているため、すでに導入済みの企業も多いだろう。テレワーク下でも定期的なチェックを実施し、結果を解析して職場環境の改善などに反映することで、メンタルヘルス不調の防止に結び付けたい。

こういった制度を整えると同時に、的確な情報発信・提供を行い、従業員が必要なときにアクセスできるような働きかけも欠かせない。ILO(国際労働機関)が発行した「Managing work-related psychosocial risks during the COVID-19 pandemic 」においても、支援サービスやカウンセリングプログラムなどにスムーズにアクセスできるよう、情報を発信する重要性が述べられている。

企業の取り組み例では、花王株式会社本社の産業医である加藤杏奈氏が、日本産業ストレス学会の「新型コロナウイルス感染症ストレス対策好事例インタビュー」で次のように語っている。

「イントラには新型コロナ感染症に関するコーナーが設けられていて(中略)環境変化におけるストレスへのセルフケアとして、厚生労働省の『こころの耳』に掲載のセルフチェックや健康相談窓口の情報、EAP機関の情報を提供しました」

EAPとは、メンタルヘルス不調の従業員を支援するプログラムのこと。外部の機関が行うため、社内で話しにくい相談がしやすいのもメリットだ。

また、テレワークでは労働時間管理が難しく、長時間残業になりやすいという問題もある。これについては 、始業・終業時刻の確認・記録を確実に行って労働時間を適切に把握することを基本とし、「業務時間外にはメールを送らない」、「システムへのアクセスを制限する」などの対策が考えられる。

チームの対策:コミュニケーション不足の防止

先にあげた「第3回 これからのテレワークでの働き方に関する検討会」資料では、テレワークにおけるメンタルヘルスについての課題を下記の二つに整理している。

①周囲に同僚や上司がいない状況で作業を行うことの影響によるもの
②生活と仕事の線引きが困難であることの影響によるもの

①では「コミュニケーション不足」という課題を抱えやすいが、その対策を考える際に参考になるのが、一般社団法人日本渡航医学会・公益社団法人日本産業衛生学会の「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド第4版」だ。同ガイドでは、テレワーク環境改善のために参考にしたい対策例として、電話会議や Web 会議ツールを利用した積極的なコミュニケーションの推奨のほか、定期的に時間を決めて音声や画像を介した打ち合わせを実施することがあげられている。

また、コミュニケーションの内容については、目標・タスク・スケジュールなどの共有・可視化に加え、気軽な意見のやり取りや雑談の必要性も各所で指摘されている。雑談の機会を作る方法の例として、NTTコミュニケーションズ株式会社が作成した「リモートワーク ハンドブック 」では、次の3つをあげている。

・部や部門のキックオフ・タウンホールミーティング後に小さいグループに分かれてカジュアルに話す機会を作る
・雑談チャンネルを作り、積極的に利用(リアクションは多めに)
・(業務外だが)オンラインランチ、オンライン飲み会を実施する

このほかにも、オンライン会議の前後に短い雑談タイムを設ける、Slackなどのコミュニケーションツール上で雑談の場を設ける、「話しかけOK」のステータスを設定し気軽に質問や相談ができる状態を作る、などの工夫ができるだろう。

オンライン会議

具体的な事例としては、前述の「新型コロナウイルス感染症ストレス対策好事例インタビュー」で、江崎グリコ株式会社の東野敦氏が、オンラインのミーティングルームを開けて自由に話せるようにしたり、新人研修でも雑談の時間を設けたりしたと語っている。また、NECパーソナルコンピュータ株式会社の鈴木正義氏が日経XTRENDで紹介している、幹部のオンラインプレゼン中に社員がチャットで雑談する企画が大成功だったという例も、部門やチームにも展開できそうなものとして興味深い。

これらの対策でメンタルヘルス不調を未然に防ぐ、いわゆる一次予防を行うと同時に、二次予防として、同僚の様子の変化に気付いて早めにケアすることも重要である。

前出の「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」では、ラインの上司がいつもと違う部下の様子に気付くためのチェックポイントや、部下の相談への対応方法がまとめられている。上司と部下の関係以外でも役立つ内容であり、職場全体で活用したい。

チームの対策の最後に、Google社の取り組みを紹介する。同社では、社員ボランティアによるメンタルヘルス支援グループが、話し相手を必要としている社員と対話する環境を整えている。メンバーは、「共感力を持った聞き手」としてのトレーニングを受けているという。上司や同僚、産業医などには話しにくい場合など、こうしたグループの活動に助けられることもありそうだ。

個人・家庭での対策:仕事とプライベートの線引き

個人としては、前述したテレワークにおけるメンタルヘルスについての課題の一つ「生活と仕事の線引きが困難であることの影響によるもの」への対策が主になる。

業務とプライベートの切り分けについて、「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド第4版」は、下記の対策例をあげている。

・業務の開始と終わりを、勤務開始時と終了時に上司に連絡する
・昼休みは、自宅ではなく軽く散歩など外出の機会に充てる
・オフィス勤務時と同様に毎朝の身支度や身繕いはきちんと行う
・ 緊急時を除き、勤務時間以外のメールや連絡は控えるようにする

これらは主に仕事とそれ以外の時間のメリハリをつける方法だが、それ以前に、就寝・起床の時間を守り生活リズムを崩さないこと、長時間労働にならないように気を付けることも重要である。また、メリハリをつける上では、家の中でワークスペースを決めると同時に、仕事をしない場所を作ることが大切という声もある。

家族も在宅している場合は、仕事をする場所や時間の確保について話し合う必要があるだろう。居住環境も家庭状況も様々であることを従業員が互いに理解し、尊重することで、信頼関係を構築していくことが望ましい。

テレワークが恒常化する今後を見据えて

複数の大手IT企業がテレワークを基本的な働き方としたように、可能な業種や職種から、テレワークは恒常的な働き方として定着していくであろう。これはコロナ禍の収束が見通せないからだけではなく、多様な働き方を可能とすることで、育児や介護による離職を防ぎ、幅広い人材を確保するためでもある。

コミュニケーションに関しても、会議がオンライン化することで、地方拠点との心理的距離が縮まった、若手が発言しやすくなったなどのメリットも聞こえてくる。テレワークのデメリットへの対策を適切に講じ、メリットを生かすことで、心身の健康を保ちつつ、従来より成果をあげるための知見を社会全体で共有し、蓄積していきたい。

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この記事を書いた人

Fusako HirabayashiIT系大手企業で研究開発、新規事業立ち上げなどの業務に携わりながら働き方とそれを支える環境に関心を持ち、裁量労働制の導入検討委員を担当する。宅地建物取引士資格を取得し、不動産仲介業務にも従事。現在は、フリーランスのライターとして、新しいワークスタイルやワークプレイスについて発信している。

    
    
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