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12年間の日本勤務を経て来て気づいた、アメリカの働き方の根底にある考え方とは

[September 25, 2018] BY Yuna Park

「働き方改革」という言葉を目にするようになってしばらく経つが、その改革の参考として、イノベーティブなサービスが次から次へと生まれるここベイエリアの働き方への注目が高まっている。実際にこのブログも開始して1年と少し経つが、読者数が日を追うごとに増えていることからもその注目の大きさを実感している。

筆者は日本の国内企業で12年間働いたのち、現在サンフランシスコローカルの会社で働いて1年半になる。日本が長かった筆者だが、こちらの働き方は実際非常に心地よく、合理的であると感じている。同時にこの働き方は個人が表面的に行動を変えて取り入れられるという種類のものではなく、日本とは全く異なる会社と個人、あるいは会社と会社の付き合い方が根底にあることが見えてきた。今回の記事では、そんな働き方のベースとなっているアメリカならではの「会社と個人の関係」「会社と会社の関係」について筆者の経験を基にご紹介したい。

会社と個人の関係

日本で感じた「会社>個人」の構図

筆者は日本では主に大企業2社に勤務していたのだが、新卒で入社した1つ目の会社で言われた言葉を今でも覚えている。

「週末というのは平日のためにある。平日に万全の状態で仕事をするために休息を取るのが週末だ。だから週末に遊び疲れるというのは言語道断」

若かった当時、筆者はこの言葉を忠実に守り、遊びに行くのは土曜だけと決めて、日曜はできる限り社宅で過ごし、月曜からの仕事に差し障りのないようにしていた。ちなみにこの会社では定時は9時半~5時半と定められていたが、実際は朝9時から夜9時までの勤務がデフォルトで、それ以上の残業が発生することも少なくなかった。つまり、上記の言葉は「平日11時間以上働けるよう備えておけ」という助言だった。

この言葉の背景にあるのは、「生活において会社を最優先するのが当たり前」という価値観である。日本で働いている間常々思っていたのは、個人に比べてあまりにも会社の力が強いことだ。会社は個人の事情に関係なく異動や転勤を命じることができるし、あまりにも多くの時間を拘束できるとおそらく全員が当たり前に思っている。筆者が働いていた当時も出来る限りの時間を会社に差し出すことが暗黙のうちに要求されていて、まるでそれは「お上と家来」であった。

会社と個人が対等なアメリカ

一方、アメリカに来て気づいたのは会社と個人が対等であるということだ。そもそもアメリカは契約社会なので、Job Description内にRoles and Responsibilitiesというものが定められ、個人の役割や責任の範囲を社員に明確に示す。社員が会社に対して約束するのはその責任を果たすこと、以上である。

上の画像は筆者の最新のJob Descriptionだ。基本的条件の下にRoles and Responsibilitiesが定められ、各任務(Role)の割合が設定されている。Roleの下にはそこで実行/達成すべき項目(Responsibilities)が具体的に箇条書きに記されており、自分の責任範囲が明確になっている。このJob Descriptionの内容は雇用主であるCEOとの面談で決定され、双方が合意したらそれぞれサインをし、HR部署によって保管される。

実際この各任務の割合が数値化されていることは個人のタスク管理において非常に便利だ。例えば1週間40時間のうち、筆者の場合は40%にあたる16時間を「Internal Marketing Supervision」に充てればいいというわけである。

責任を果たした後は会社に何か指図されることは一切ない。どこで仕事をしようが早く帰ろうが休日に遊び疲れようが、旅行に行こうが、それは会社の人に口出しされることではないのである。実際にそれは多くの企業が取り入れている無制限の有給休暇という制度にも表れている。

一方で、当たり前だが定められた責任範囲を果たしていないのにプライベートの時間を優先したり好きなだけ休暇を取ったりするというのは当然査定に響く。ここで言いたいのは、「自分がサインした責任を果たしたかどうか」がすべての基準になるということである。

個人の責任の範囲を明文化して定めておくことで、会社はそれ以外の要求を個人に対して行うことはないし、それ以外は自由だ。このような背景がフレキシブルな働き方や多様なワークプレイスを進化させてきたのは間違いないだろう。

会社と会社の関係

クライアントとの契約はスコープありき

次に注目したいのはクライアントとの関係だ。アメリカではクライアントと仕事をする際、Scope of Work(SOW)という業務内容を定めてから契約を結ぶのが一般的である。SOWとは、仕事を受ける際はこの範囲で最大限のパフォーマンスを出すということを約束するものなので、スコープ外の仕事をクライアントから希望されるとそれはまた別契約となる。

以下はとあるクライアントとの間で合意したSOWの抜粋である。下記の例ではこのプロジェクトにおいて、どういう役割の人が何時間を何に使うのかということが具体的に定められている。またDeliverableと呼ばれる納品物が併記されることも多い。例えばリサーチプロジェクトだったら、リサーチの件数、レポートのボリューム、レポート報告ミーティングの有無、追加でのリサーチリクエストを受け付けるかどうか、受け付けるとしたら何回までか、等の細かい内容がこのSOW上で定められる。

「お客様は神様」な日本

正直日本で働いていたときにはSOWという概念を知らず、クライアントからの頼まれごとというのはたとえそれが雑用であっても無限に受け入れるものだと思っていたし、周りもそうしていた。かつて日本で広告収入がメインの雑誌の企画担当として働いていたとき、同じプロジェクトチームで働いていた営業の人はクライアントから継続的に広告を出してもらうために、その会社内のスタッフのシフト表まで考えて作っていた。

今でも日本のクライアントと仕事をする機会は多いが、このSOWという概念に馴染みのない方は実際多く見受けられる。しかし、プロフェッショナルとして仕事の質を担保しクライアントに最大限価値を届けるために、その範囲を明確にするのは非常に理に適った考え方である。

さらに、受注する仕事の範囲をきちんと定めることは人的リソース管理の観点、特に社員の労働生産性を上げるうえでも重要である。2017年12月に公益財団法人日本生産性本部が発表した労働生産性の国際比較レポートによると、日本における就業者1人あたりの労働生産性はアメリカの3分の2であり、これは1980年代と同じ水準だという。

もちろん要因は様々あろうが、この背景には「お客様は神様」的発想でクライアントの要求がたとえ無茶で無計画なものであってもそれにできるだけ応えるべきだとする慣例があるような気がしてならない。対してアメリカでは仕事の範囲を厳密に定めることで、結果的に人的リソースの効率活用・社員の長時間労働を抑制することにもつながっているのだろう。

まとめ

今回ご紹介したように、日本とアメリカでは会社と個人、あるいは会社と会社同士の関係性が大きく異なる。そのため表面的に西海岸スタイルのオフィスを取り入れたとしても、西海岸風の働き方は実際には定着しないだろう。大切なのはデザインの背景に会社が社員をどう捉えているのか、クライアントに対してどうありたいと思っているのかをまずは理解することだ。

本当に社員の働き方を変えたいのであれば、もしかしたらオフィスの造作を作りかえるだけでは済まない、大規模な価値観のシフトチェンジが会社全体で必要になってくるかもしれない。

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この記事を書いた人

Yuna Park国内企業で編集・企画、サンフランシスコのUXデザイン会社にて社内外のコンテンツマーケティングの統括責任者を務めたのち独立し、現在はライター、エディター、マーケティングコンサルタントとして活動中。専門分野は働き方、ローカライゼーション、経営。

    

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