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【オフィスのIT化】2018年のトレンドを探る

[January 10, 2018] BY Kazumasa Ikoma

2018年に入り、多くのメディアで今年のオフィストレンドを予想する記事がリリースされている。LEED認証に合わせたオフィスの緑化やWELL基準に対応した生活スペース型ワークスペースの推進、大企業によるコワーキングスペースの活用やオフィスで提供されるサービスの充実等、今まで本ブログで紹介してきたものが今年も積極的に取り組まれることが予想されている。

このようにいくつものトレンドが並ぶ中、特に注目を浴びているのが「ワークスペースのテクノロジー化」である。近年ではIoT製品が少しずつオフィスを占めるようになり、「デジタルワークプレイス」という言葉も少しずつ目にするほど、テクノロジーは着々と私たちの働く環境に導入されている。今回はそんなデジタルワークプレイスを形作る2018年のトレンドを予想し紹介したい。

関連記事:【2019年ITトレンド】テクノロジーが変えるワークプレイスと働き方:前編

1. 音声検索とバーチャルアシスタントはワークスタイルの一部に

音声を通じた、AIアシスタントが今大きな話題の1つとなっている。AIスピーカーの記事でも紹介したように、スマートスピーカーは海外から日本に上陸し、また日本でもLINEのスマートスピーカーであるClova WAVEやClova Friendsをはじめとして次々と開発が行われている。各家庭にスマートスピーカーが1台は置かれる、といったような予想もされているように、私たちの生活とスマートスピーカー、それを通じたAIアシスタントはより密接な関係になっている。

関連記事:AIスピーカーでオフィスはどう変わる?

Googleは2016年5月時点で「グーグルアプリでの検索数の20%は音声によるもの」と発表。また2016年のオンラインインタビューにて、同社のサーチトレンド・アナリストのゲイリー・イリーズ氏は、2015年から2016年にかけて音声検索数は倍になったと語っている。音声検索は急速に市民権を得てきている。またアメリカ・バージニア州に本社を置く、複数プラットフォームにて消費者行動調査を主に行うComScoreの2017年の資料、”The Future of Voice”によると、2017年時点で2人に1人のユーザーがスマートフォンでの音声技術を使用している。さらに同社は、2020年までにすべての検索の50%が音声によるもの、と見ており、音声検索の利用は私たちの生活の日常生活における自然な行動の1つになりそうだ。

この音声検索に対する高い注目度の裏には、認識性能の向上があるようだ。下の表はアメリカの大手ベンチャーキャピタル、クライナー・パーキンス(KPCB)のパートナーで著名アナリストのメアリー・ミーカー氏の2016年のレポートから抜粋しているが、人間の発した言葉の認識率は約95%と高い。このペースで開発が進めば認識率99%の実現も遠くはなく、人々の音声検索利用はますます増加するだろう。同氏が2017年レポートで述べているように「音声検索がタイピングによる検索に取って代わりつつある」のである。

今後音声検索がオフィスでも使われるようになると「この資料、印刷しといて」という些細なタスクの実行や「東京オフィスとのオンラインミーティングに参加」「今日の株価に関する注目ニュースを表示して」「プロジェクトの費用を承認」といった手順の短縮が可能になることが予想される。

オフィス用のAIスピーカーは着実に実用化しつつある。Amazonが”Alexa for Business”という名でスマートオフィスに特化したAIアシスタントサービスを開始したのを皮切りに、パートナーの1つであるWeWorkにも導入されると話題になっている。またMiccrosoftのWindows 10に搭載されている音声アシスタント機能のCortanaのアクティブユーザー数はすでに月当たり全世界に1億人いると同社CEOのサティア・ナデラ氏は語る。これからは「声」を駆使して仕事を進める社員を多く見るだろう。

一方で、このようなデバイスが会社の内部情報を盗み聞きする懸念もあり、導入の際は何を音声検索や音声アシスタントで行うべきなのか考えなければいけない。また「声に出して音声検索を行うのが恥ずかしい」という日本人ユーザーの声も多く聞く。今後どのように利用幅が広がっていくのか注目し続けたい。

2. 入退室管理には顔認識を導入?

昨年発売されたiPhone Xで一気に話題となった顔認証。その認証制度については他の生体認証と同じように改善の余地がありそうだが、セキュリティロック解除までの早さや手軽さは今の所ユーザーに好評を得ている。顔認証を導入する施設は今後増えると予想される。

実際にiPhone以外でも顔認証でセキュリティチェックを行う場所は増えている。例えばロンドン・ヒースロー空港やドバイ国際空港でのセキュリティチェックポイントや、成田国際空港の日本国籍者/特別永住者を対象にした入国カウンターなどでも使われている。また昨年11月にはオリエンタルランドも東京ディズニーランドの入退園ゲートに顔認証システムを導入し、年間パスポートの本人確認を自動化することを発表している。

以下は現在開発されている生体認証を一部まとめたもの。このように生体の特徴でセキュリティを確認する方法はいくつかあるが、一定基準を超えたセキュリティレベルと私たち一般ユーザーにとっての使いやすさを考慮したときに現時点では顔認証が優勢だ。

認証精度をある程度維持しながら、導入コストとユーザーの衛生面での抵抗感を抑えた顔認証はオフィスの入退室管理にも使いやすそうだ。今後顔認証システムへの注目は高まるだろう。

3. チャットボットは人事部門で活躍

チャットボットもオフィスに導入されるテクノロジーの1つとして注目を集めているが、現時点では人事部門での導入が濃厚だ。昨年10月に行われた世界最大のHRカンファレンス、HR Tech Conference and Expo で、クラウド型プラットフォームサービスを提供するServiceNow社が350人以上の来場者を対象にアンケートを実施。その結果によると、人事部門で抱える主要課題の1つに社員が必要なときに必要な情報を取り出せていないという点が挙がった。特に人事担当者である回答者の3分の1が社員が必要とする情報を自身で見つけ出せておらず、社員側もたった4%しか不明点がある際に人事部の担当者に積極的に相談しようとしない、といった問題が露わになった。

この問題を解決するためにAI搭載のチャットボットは様々な企業の人事部門から大きな期待を寄せられている。社員一人ひとりが時間に囚われることなく、膨大なデータから的確な情報を得られることで、会社と社員の問題解消、さらに人事部門の負担と社員のストレス軽減に繋がると考えられている。

実際に利用される例としては、「よくある質問」やその他企業規約を読み返せばすぐに分かるようなレベルの質問への対応が挙げられる。実際にLOKAによるチャットボットは「この週末と被った祝日は振替休日になる?」といった質問に対応する他、チャットボット側からも「会社が提供するスポーツジムの福利厚生プログラムをすでに使っていますか?」といったリマインダー感覚での質問を社員にしてくれる。他に交通費の払い戻しや残業代に関する規約の確認もできる。

LOKAが提供するAIチャットボットのJane(左)とTallaのチャットボット(右)。どちらも社内コミュニケーションツールのSlackと連携している

またTallaのチャットボットは人材採用プロセスで活躍している。面接担当者の代わりに受験者の職業や役職に応じて質問を行い、企業やブランドへのロイヤリティを測るネット・プロモーター・スコア(NPS)を割り出すことも可能だ。このように人と人との間にAI搭載のチャットボットを上手に導入することが人事プロセスの効率化に繋がるのだ。

人事関連の質問は時としてセンシティブなトピックのものも多く、AIスピーカーで声を大にして聞きづらいものも存在する。社員の体験改善につながるチャットボットは、これからのワークプレイスに必須なアイテムになりそうだ。

4. オンラインコンテンツサービスを通じた社内教育

Udemy日本語版ウェブサイト

新人や社員研修において第三者機関のオンラインコンテンツを利用する企業は増えており、今後も企業による利用は増えると予想される。LinkedIn Learning、Coursera、edX、Udemy、Udacity、Lynda.com、The Khan Academyといったサービスでは、コンテンツ提供者も専門知識を持つ一般ユーザーで、今まで埋もれていた、もしくは効率よく共有されていなかったアイディアの共有が可能になっている。

このオンラインコンテンツにいつでもどこでもアクセス可能にすることで、今まで企業の担当者が研修に出向いてそこで得た知識を社内で共有したり、専門家をわざわざ企業に招待したりすることなく、より自由に学習の効率化を図ることができる。社員も研修期間でなくてもいつでも学習する機会を得られる。

今はアメリカやヨーロッパでのコンテンツが多くを占めるが、随時日本語訳されたものが日本市場に入り、アクセスできるコンテンツ数は年々増えている。実際にベネッセコーポレーションはUdemyと2015年から提携し、個人だけでなく、企業・組織に研修・教育コンテンツを提供している。Udemyではコンテンツを提供する講師も一般ユーザーのため、自身の経験を活かして他人を教え、ちょっとした収入を得る、というエコシステム構築にも繋がっている。可能な範囲での企業の枠を超えた情報共有、スキル共有が今後可能になる。

5. ビデオカンファレンスはこれからのミーティングの主流に?

ビデオ会議、オンラインミーティングは今後のミーティングスタイルの主流になると言われている。この背景には、WebRTCと呼ばれる、ウェブ上で音声や映像を送受信し、パスワードを必要とせずリンクの共有だけでリアルタイムでのコミュニケーションを可能にする、ウェブブラウザ関連技術の発展がある。

2011年のGoogleによるオープンソース化以来、WebRTCは様々なブラウザでのサポートが進み、Google、 Mozilla、Opera等のブラウザでも利用可能に。昨年にはAppleがSafariのアップデートでWebRTC対応可能にし、オンラインミーティングがブラウザに関係なく行いやすい環境になった。

企業や社員にとって、どこにいてもミーティングに参加できる環境が整うことで今まで以上に自由な働き方が可能になるだけでなく、実は人材獲得も容易になる。特にアメリカなどの国土の広い国ではニューヨークやサンフランシスコのような都市部以外にも優秀な人材が多く、彼らにいかにリーチできるかが課題の1つとなっていた。デジタルワークプレイスの推進で働く場所が物理的なオフィスだけでなく、オンラインにまで広がった今、こういった人材の獲得も期待されている。また例えば生活コストのかかる都市部に住みたくない社員にとってもキャリアと自分の住環境を天秤にかけるようなことはせずに、ワークライフバランスを確保することが容易になる。

企業のオフィスでもこれにあわせ、ビデオカンファレンス用のミーティングスペースの需要が高まるだろう。先日の記事で紹介したハドルルームやPlantronics社がもつオフィスのビデオチャット専用ルームのように、今までの企業にあった大きめのミーティングルームは縮小傾向にある。オンラインミーティングをサポートするスペースは、企業それぞれの働き方にあわせて今後必要になりそうだ。

関連記事:
チームの機動力を高める「ハドルルーム」の活用事例
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このようなワークプレイスの実現に向けて企業はネットのインフラをより強固なものにする必要が出てくる。というのもオンラインが主流になりつつある中でネット環境に依存する姿勢はますます強くなり、ネットの停止は企業にとってより深刻なダメージに繋がる恐れがあるからだ。

6. 本格的なサイバーセキュリティ対策は必須

サイバーセキュリティにおける脅威は増しており、IoTによるデータ収集やリモートワーカーの数が増えるほどその対策は必要になる。これはGartnerによる2018年のITトレンドの1つとして取り上げられているほどだ。

同社によると、企業は特にクラウドのセキュリティに気をつけるべきだという。企業ニーズの複雑化ゆえに、共有クラウド型サービスはより不安定で保護されていないものになる。また同社はその対策として保護や予防よりも、発見と対策に注力すべきと語っている。それが本日のサイバーセキュリティであって、今後は何か起きる前に予想ができるようになることが重要だ。さらに先述のミーカー氏の2017年レポートでもメールスパムはクラウドの利用拡大とあわせて広がることが懸念されている。これからは社員一人ひとりのセキュリティ意識も必須になる。

データに関するセキュリティは世界的に危機感を持って対応されている。EUの一般データ保護規則は、個人識別情報の利用同意と共に、要望に応じていつでも削除しなければならないという規則を新たに追加。規則自体は2018年5月25日より適用されるが、これはEUにある企業だけでなく、全ての企業がデータ保護と管理に対して配慮すべき問題である。

社員情報や社員同士の会話で交換される社内の機密情報の数もこれから膨大な数となり、この保護が今後課題となってくる。サイバーセキュリティはワークプレイスのテクノロジー化を進めるほど深刻な問題になるだろう。

7. すべての仕事がすべてデジタルワークプレイスに移行するわけではない:社員の交流はより必要に

これまで挙げてきたように仕事の多くはこれからデジタルな方法で進めることが可能になるが、注意すべきなのはすべてのタスクがこの「デジタルワークプレイス」で行われるわけではないということ。オンラインでどこでも仕事ができるワークプレイスの存在は仕事の生産性や効率性を上げてくれるが、社員の幸福度や満足度、イノベーションといった要素は人間が直接交流する場で育まれるものだ。

以前にStudio O+AのPrimo Orpilla氏がインタビューで語っていたように、テクノロジーがどれだけワークプレイスに導入され効率化が推し進められても、直接顔を合わせたコミュニケーションにとって代わるものはない。表情や動きを直接自分の目を通して感じ取ることで得られるものは多く、上司との面談や大事な商談等「信頼」が関わる部分ではこれからも人同士のコミュニケーションはなくならない。

関連記事:【Primo Orpillaインタビュー#1】Studio O+AのPrincipalに聞く、西海岸流オフィスデザインの原点とは

実際にIBMやYahoo、Google、Appleといった企業は社員をオフィスに呼び戻す取り組みを行っている。例えばIBMでは「午後3時以降はオフィスを離れても良い」という規則を設ける等、物理的なオフィスとデジタルワークプレイスを両方活用し、対面コミュニケーションとオンライン作業の両方のメリットを「いいとこ取り」する取り組みを行っている。このようにリモートワークや自宅勤務をあえて限定する企業も少しずつ増えているのだ。企業及びリーダー職の社員は、同僚と話す社員の幸福度や生産性が高い傾向にあることを理解し、またブレインストーミングを含む特定のミーティングでは物理的な距離が重要であることを理解した上で、社員同士の交流をより促していくことが重要になるだろう。

まとめ

ここに挙げた7つのトレンドはどれも私たちのワークプレイスについて大きな変革をもたらすものである。そして私たちが思っているよりも身近にテクノロジーはワークプレイスに導入されようとしている。

今回取り上げてみて分かるように、ただテクノロジーを次々と導入するだけで私たちの仕事に大きな変革をもたらすわけではない。正しい利用方法を知っておく他に、セキュリティ問題やテクノロジーとの距離の取り方を理解しておく必要があり、働き方の改善を期待して導入したにもかかわらず、かえって脅威となる存在になる可能性もあるのだ。

ここで挙げたトレンド以外にもデジタルワークプレイスの進歩には大きな可能性が秘めている。名前が挙がらなかったVR等はまだ具体的な活用例が見出されておらず、まだワークプレイスに浸透していないが、これから伸びしろがある分野でもある。今後本ブログではこういったオフィスのテクノロジー化を定期的に注目していきたい。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikoma オフィス業界における最新情報をリサーチ。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。



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