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【Primo Orpillaインタビュー#3】ワークプレイスは常に変化している

[June 27, 2017] BY Kazumasa Ikoma

「未来のオフィスは、数ある生活環境の中の一つとして存在することになるでしょう」

サンフランシスコ・ベイエリアに拠点を置くオフィスデザイン会社、Studio O+AのPrincipal、Primo Orpillaのインタビュー第3部となる本記事では、世界的に見られるオフィスデザインを中心とした企業の組織変化とPrimoが見据える次世代のオフィスデザインについて掘り下げていく。

大企業ブランドが魅力的に映らなくなっている

これまでいくつもの国で講演を行ってきましたが、その国を代表する様々な大企業でこれまで通りのリクルーティングが通用しなくなっているという話を耳にするようになりました。これからを支えるミレニアル世代にとって、会社の知名度は以前ほど魅力的に映るようなことがなくなってきているようです。

最近だと自動車業界や金融業界で特にその特徴が見られます。そのような企業の内部は10年20年いても一向に変わらない、という事態が起こっているのです。ベイエリアにいる最近の若者も「父親と同じ職には就きたくない」と言うぐらい変化を求めるため、そういった大企業に入るより、スタートアップのような企業に入りたがる傾向が年々強くなっています。

業界の壁を超えて広がる変化への順応性

私たちは絶えず変化を歓迎するような企業との親和性が高いので、つい数年前まではスタートアップやテック企業を重視し、銀行などの金融系の仕事は避けてきました。しかし、ここ数年はスポーツアパレルブランド、コスメティック、ホスピタリティ、銀行、石油業界、自動車業界の企業のプロジェクトも手掛けるようになりました。このような企業のデザインをするようになったのは、今日様々な企業がテック企業のように変化を求めるような環境を重視し始めたからです。

2016年に完成した、オレゴン州ビーバートンにあるNike本社。

中には誰もが知っているスポーツアパレルメーカー、Nikeもあります。彼らの製品は何十年にも亘って大きなヒットを生んでいますが、それでも今日何かがうまくいっていないと感じ始め、私たちが関わる前から積極的に変化を求めていこうとしていました。このような企業はエンジニアだけのためのオフィスとは違ったものになりますが、それまでテック企業で学んできた、変化に順応できるワークフローの作り方は業界を限らず応用できるものだとわかりました。

2013年に私たちが手掛けた銀行、Capital Oneも良い例の一つです。同社のテクノロジーとプロダクトのインキュベーター・アクセラレーター部門であるCapital One Labsのオフィスは、フォーマルなデザインが施されているバージニア本社のオフィスよりもかなりスタートアップ風に仕上げています。同社の役員がサンフランシスコに出向き、デザインシンキングを学びながら、働き方の多様性について学んだことがデザインに反映されているのです。

私がその役員と議論を重ね、スタートアップらしさを取り入れた意図は、チームとしてのまとまりを強め、意思決定までのフローをより円滑にすることでした。通常の銀行だと建物内は徹底した区画管理が施され、それに加えて社員のアイディアはマネージャーの精査を数日待って、評価された場合はさらに上に通して数日待つ、と言う厳格な意思決定プロセスがあります。この時代遅れになりつつある仕組みをオフィスデザインで解決しようとしたのです。

サンフランシスコの3rd StreetにあるCapital One Labs(2013年完成)。Director of Design ThinkingのEvelyn Huangも参加しながら、オフィスの問題に対する解決策を出していった。

テックカンパニーはたくさんのアイディアを思いつき、それを瞬時に他の社員とシェアして、イノベーションをとても早いスピードで起こすことに長けています。そして様々な世代とのコラボレーションを非常にスムーズに行っているのです。他の企業もこの「社内フローのなめらかさ( “fluency”)」 を持つことが大切だと思っています。

海外の文化と西海岸オフィスデザインの融合

このように変化を歓迎できるようなオフィス作りは私たちのこれまでの事例を見てもわかる通り、アメリカ国内だけでなく海外の企業からも求められています。私たちがそのような企業とプロジェクトを進める時には二つのことに特に注意を払っています。

一つめは、世界中どこでオフィスを作ろうが、その土地のローカルコミュニティとの関係性を築くことです。当然のことではありますが、西海岸のデザインをそのまま海外に持って行くようなことはもちろんしません。それぞれの国や企業にはそれぞれの社員の声があり、解決したい問題も変わってきます。現地のコミュニティと密接な関係を構築することで、アメリカとその国の文化や歴史の違いを深く理解していきます。そして会社や社員が抱えている具体的な問題が会社組織としての問題なのか、それとも国民性や文化的に抱えている問題なのかを把握していくのです。

もう一つは、私たちがもつオープンマインドな考え方をその国の社員にも理解してもらうことです。先ほども述べましたが、ベイエリアは実験的に様々なオフィスを作りやすいため、試行錯誤を繰り返しながら結果として今日のイノベーティブなオフィスができあがりました。しかし、アメリカの他の地域はもとより、海外ではそのような変化に対応する土台がまだできあがっていないところもあります。新しいオフィスのあり方とそこでの働き方をいつも以上に共有し、場合によっては教育していく必要があるのです。

中国最大の電子商取引企業、Alibabaのサンフランシスコオフィス。

労働時間問題とオフィスデザインの関係性

「働き方の改革」というのは今世界共通の課題となっています。日本を含め、多くのアジアの国では長時間労働が今も問題となっており、逆にヨーロッパではすでに非常に厳しい労働法があります。カリフォルニア州も社員の酷使が問題となり、法律が厳しくなったという背景があります。それにもかかわらず、企業が整ったオフィスを持つことで社員がオフィスにより長居することを助長しているように思う人も中にはいるかもしれません。

ここで理解すべきなのは、もはや「オフィスにいる時間=働いている時間」ということではもうないということです。一世代前と違い、今日私たちの生活はいつでも仕事に関われるような状態になっています。オフィスだろうが、カフェに行こうが、コワーキングスペースのWeWorkや飛行機内、ホテルの部屋、家などどこでだって仕事ができるようになっていますし、ご飯を食べながら仕事をする、なんてことも当たり前になっています。仕事と生活の境界線が曖昧になっているというよりかは、むしろそれらが一つになっていると捉える方がより正確だと考えています。

このような環境にいると、一日の中で仕事をどこで終えていいかわからない社員もでてきます。だからこそオフィスでも静寂の中で休むことができ、かつリフレッシュできるような空間を作る必要が出てくるのです。家や他の場所で仕事をするのと同じように、オフィスでもあえてオン・オフのスイッチを切り替えられるような空間を提供するようになります。

社員にはそれぞれのワークスタイルがあります。長時間労働を避けるために頭と体をいつでも休められるようにするのと同時に、食事をする間も惜しんで仕事に没頭する人には食事をいつでもすぐに提供できるようにすることも必要なのです。

未来のオフィスは生活を含めた場所になる

仕事においてベストパフォーマンスを出すには、心理学用語でフローと呼ばれる、「時間の経過を忘れて物事に没頭する状態」に入ることが重要だとわかっています。そしてフローはそう簡単に得られるものではありません。個人的な事情、例えば家で悪いニュースがあったり、恋人と喧嘩したり、というような問題は、仕事への影響がゼロ、というわけにはなかなかいかないからです。

ある程度安定した精神状態を保ち、フローを得るためには、社員それぞれが日々の習慣やルーティーンみたいなものを見つけることが重要だとされています。そのため今後オフィスをデザインしていく上で、依頼してくる企業が社員に期待する働き方やコラボレーションの観点だけでなく、社員自身の「心と体」を気にしていくべきだと強く思っています。

例えば、社員食堂にどんな食べ物を置く、だとか、何が社員にとってのエネルギーを与える源なのか、というのはこれまで以上に意識するようにしています。特に食べ物は私たちの生活と密に繋がるものですから、今年から調理担当者にもオフィス改善のインタビューをするようにしました。オフィスというのは、常にストレスがつきまとう環境になってしまうわけですから、そんな中でうまくリラックスやリフレッシュができるスペースを作ることが重要なのです。要は、日々の生活を行う場所の一つとした上で、仕事とうまく付き合えるような環境を作っていきたいのです。

あくまで「一つの選択肢」となるオフィス

ここ数年はワークプレイスのルネッサンス期と呼ばれています。新たな世代が労働力に加わり、自由な働き方が推奨され、どこでも働けるようになり、それに合わせてオフィスのツールも一新しなければいけない時代になっています。通勤用自転車を置くスペースや会話を生むためのコミュニティスペース、ジムやクリニックを設ける企業はどんどん増えています。

デイケアスペースだって必要になります。転職先の決定理由が「介護施設があったから」なんてこともこれから増えてくるわけです。企業の好き嫌いにかかわらず、そういったものは会社やオフィスの一部、社員が企業を選ぶ条件の一つとなってくるのです。生活に仕事が入ってくるということは、つまりはこういうことなのです。

ワークプレイスは常に変化していきます。今ではコワーキングスペースやリモートワークも以前と比べると活発に行われていますが、全員が急にオフィスを離れるなんてことはありません。皆それぞれの状況や都合に合わせて仕事場を選ぶだけなのです。今まで以上の選択肢からより自由に場所を選ぶことができるようになり、オフィスはもはやメインの仕事場ではなく、その中の一つとなるのです。これはベイエリアだけではなく、世界中で起きていることなのです。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaオフィス業界における最新情報をリサーチ。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    
    
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