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【Seth Hanleyインタビュー#3】リモートワークが実現してもオフィスが存在し続ける理由とは

[August 10, 2017] BY Kazumasa Ikoma

全3作に亘ってお送りしているDesign BlitzのPrincipal兼Creative Director、Seth Hanley氏のインタビュー。彼らのリサーチ力に注目した第2部に続くこの最終編では、オフィスデザインを通じて働き方改革を起こしたいと考える企業に向けて、これからの働き方とオフィスの関係性について語ってもらった。

社員が積極的に使えるオフィスとは

伝統的な企業にいる社員ほど、他人の目を気にするように働いていることは少なくありません。これは日本の多くの企業が抱えている問題と似ていると思います。私たちは新しい働き方を実現できるように、休憩スペースやゲームの部屋など様々なスペースをオフィスに取り入れようとしています。しかし、そういう場所が社員を怠惰にさせてしまうという懸念や、ゲームの部屋を使っている社員を見て「一生懸命働いていない」といった不満が出てしまう風土がすでに構築されてしまっていては、ワークスタイルの改革も一段と難しくなります。

まず会社が提供する環境を社員に利用してもらうように促すには、会社からの強い「許可」が成り立っていないといけません。「許可」とはつまり、会社として新しい働き方を学ぶ姿勢があり、それを実行しようとする気力を持っていることを指します。そしてその「許可」の姿勢はデザインによって表現していく必要があると考えています。

もし息抜き用の卓球台を上司の部屋の前に置いたり、上司のデスクの近くに置いたとしたら、おそらく誰も使ってみようとは思わないでしょう。オフィスのど真ん中に置いても誰もやろうとはしません。しかしそのような場所を特別な配慮を持って確保し、会社側が「オフィスにはこういった息抜きの場が必要だ」「ここで息抜きできるように会社としてオフィスに投資している」「これを社員に積極的に利用して欲しい」という強いメッセージを持って作ることで、社員もその意図を汲み、賢く利用するようになります。

アメリカ・カリフォルニア州パロアルトにあるSkypeオフィス

社員は基本的に会社が提供するものや、オフィスにあるもの、福利厚生やその他自分にとって利益になりそうなものを積極的に活用していこうという気持ちを強く持っています。企業にとって新しい試みになるものであっても、それを適切な場所に置くことで、社員も積極的に使う姿勢を見せてくれるのです。実際に今まで私たちがデザインを提供してきた顧客の多くから、会社全体を通してより幅広い働き方が見受けられるようになったとポジティブなフィードバックを受けています。

気分重視の働き方、Mood-Based Working (MBW)

日本だと仕事が終わった後に取引先と食事にいって、そこで商談が成立したり話が進むこともありますよね。そういった光景は、ある意味サンフランシスコ・ベイエリアのカフェと似ていると思っています。オフィスでなくても仕事は成立するものである、ということの良い例です。

新しいテクノロジーが日々開発され、それがより身近な労働環境に取り入れられることで、オフィスの存在意義や機能は社員の数だけ存在するようになります。オフィスは、ある社員にとっては仕事全てを片付ける場所という認識になるでしょうし、別の社員にとっては特定のタスクをこなしたりやミーティングを開く場所、また特に集中する必要がある時の場所としてオフィスを利用する社員も出てくるはずです。

私自身このデザイン事務所の向かいにあるカフェで仕事することはよくあります。人に囲まれながら自分の仕事に集中するのが好きなんです。働き方の改善を広めていく立場としても、自由な意思に基づいて、好きな場所で好きな時間に働けるようにしています。どこかの企業に所属していたとしても、所属している会社の建物内に拘束されるようなことはもうないのです。

パフォーマンス重視で、タスクに応じて仕事場を変える働き方のABW(Activity-Based Working)が少しずつ世間に浸透してきましたが、これと似たような形で、自分のその時の気分に合わせて働き方を変えるMBW(Mood-based Working)という働き方もまた注目され始めています。

関連記事:ABWの導入はHackから

MBWと聞くと新しい言葉のように感じますが実態はシンプルで、要は自分が今もっとも生産性の高い働き方ができる、と感じる場所に行って仕事をするというだけのことです。私自身が他人に囲まれたくてカフェに行ったり、他の社員が集中したい時に個別ブースで仕事をするのも気分を優先しているからなのです。

サンフランシスコにあるMicrosoft 1355オフィス

働き方改革でオフィスから人が離れる現代、これからのオフィスが持つ存在価値とは

人というのはそれぞれ「空間の感覚(Sense of Place)」というものを持っています。「ここは自分の場所だ」と感じたり、他にお気に入りに感じる場所や、特定のシチュエーションや場面ではここ、というような場所ですね。オフィスも社員にとってそのような感覚を持つ場所の1つになると思っています。

職場とは、自分をサポートしてくれるような様々なツールが用意されているだけでなく、同僚とコラボレーションができる場所であり、自分にとってベストな仕事ができる環境だということを、これからも感じてもらえるようにする必要があると考えています。それがバーチャルオフィスになっていくなど、そういうシフトが生まれていくでしょうが、社員同士が直接的に関わり合うことができるような場所に取って代わるものはまだありません。これから特にコラボレーションが重要視されていく時代の中で、オフィスというのは私たちの生活においてこれからも重要な位置を占めることになります。クリエイティビティを起こす場として、オフィスの価値は変わらず存在するのです。

企業によっては、オフィスの必要性そのものがなくなる場合もあります。その例にあるのが、Wordpressなどのブログプラットフォームを提供するAutomattic社です。社員は全てリモートワーカーで、異なる地域に住む優秀な人材を雇い好きな場所で働いてもらう、という少し特殊な体制を築いている企業です。そんな彼らもサンフランシスコ・SOMA地区に、社員が好きな時間に集まれるAutomattic Loungeという名の2階建てスペースを持っていましたが、今年6月にこのスペースの閉鎖を発表し、リモートワークへ今度こそ完全に移行することを決めたようです。

会社としてどのようなコラボレーション方法を社員に期待するのか、そして社員自身もどのような環境でどのように働きたいのか。この2つの意見によって「オフィスを仕事場の1つとしない」という決断もあり得るかと思います。

もうすぐ閉鎖されるAutomattic Lounge(※デザイン及び建築はDesign Blitzではない他建築会社による)。約400坪の広大なスペースに対し、1日5人ほどの社員にしか利用されていなかったようだ。

しかし、私の経験から言って「コラボレーション」という言葉には物理的な意味合いが大きく存在していると思っています。だから、テクノロジーの発展やリモートワークの影響で、「今後オフィスなんてものは存在しなくなるよ」なんて話が出てきますが、むしろ逆なんです。人の直接的な交流を生む場として、これからも会社と社員の両方のために存在し続けます。

特にこれまで働き方改革に取り組んできた企業は、社員にオフィスに帰ってきてもらうよう、今まで以上の努力を近年見せています。優秀な人材獲得や社員の生産性向上のためにリモートワークやABWを取り入れますが、結局多くの良いアイディアが生まれるのは社員の自然な交流が活発に行われる場所であり、それを実現させやすいのがオフィスなのです。社内でリラックス空間やカフェスペースなど様々な場所が提供されるのも、社員に様々な働き方を推奨するのと同時に、社員に対する「オフィスに残ってほしい」という企業の願いが含まれているのです。

社員にとっては今後、より自由な場所で働きやすい世界になるでしょうし、自分が所属する企業のオフィスもより心地の良いものになることでしょう。人がオフィスにいる時間というものはもしかしたら今よりも短くなるかもしれませんが、オフィスデザインは社員がオフィスにいる時間を超えて、社員の生活そのものを豊かにするものになっていくのです。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaサンフランシスコのエクスペリエンスデザイン会社btraxでオフィスマネージャーを務める傍ら、西海岸のオフィスデザインや企業文化・働き方についての記事を多数執筆。企業や従業員にとって居心地がよいオフィスとは何か、日々リサーチし自社で実践している。

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