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バイオフィリックデザインの驚くべき効果! VRの仮想空間でもメリットがあるって本当?

建築やインテリアに自然の要素を取り入れて人間の健康や幸福を高める設計手法「バイオフィリックデザイン」。その心理的な効果は以前から学界で認められ、これまでも企業のオフィスなどで実証されてきたが、新たな研究によるとVR(仮想現実)技術を用いた環境でも有効だとわかった。

VRのバイオフィリックデザインでストレス軽減

イタリアのパドヴァ大学のEnrico Sella氏らの研究が、バイオフィリックデザインによるメリットとして、VR環境でも人間のウェルビーイングの向上や認知機能の回復に効果があることを明らかにした。

パドヴァ大学の総合心理学部チームは、自然の要素を取り入れたVR環境が及ぼす人間の心理生理学的なストレスの影響を「実験的研究」の手法で調査。VR環境でのバイオフィリックデザインの効果に焦点を当て、ストレスにさらされた直後の被験者の感情的・生理的な回復度を測定した。

実験用に開発されたVR環境は2つ。1つ目の「Bio.Pod」は、湾曲した木製シェル構造物の中に、水が流れる音や鳥のさえずりなどの自然要素を取り入れたもの。2つ目の「Bio.Pod with Nature View」は、自然要素に加えて緑豊かな風景を見渡せる窓を設置したものだ。これら2つのVR環境と比較する対照群として、中立的な休憩室のようなVR環境も構築された。

研究には150人の若年成人(うち女性は87人)が参加。評価項目は、被験者の心理生理学的な活動(心拍数や皮膚の電気反応)や、自らの感情の状態を把握しているか、周囲の環境に感情が反応しているか、環境が持つ回復効果(精神的な回復を促す能力など)を認識しているかなどだ。

2つのVRによるバイオフィリック空間は、被験者の生理的な興奮状態の軽減や、感情的な状態の改善、環境へのより肯定的な評価など、ストレスの回復に良い影響を与えた。特に、「Bio.Pod with Nature View」の調査では、リラックス状態の兆候である心拍数の低下がより顕著に表れたという。

クリエイティビティ、エンゲージメントにも効果

今回の実験結果は、VR環境がオフィスにおけるメンタルヘルスのサポートやストレス軽減の効果をもたらす可能性を示しただけでなく、近年発表されたバイオフィリックデザインの研究報告とも一致していた。

たとえば、英ノッティンガム・トレント大学のYangang Xing氏らの研究(2025年)によれば、被験者の自己申告による心理状態のレポートにおいて、バイオフィリックデザイン環境に身を置くことで、ストレスレベルの低下などの効果があることがわかった。逆に、バイオフィリックの性質を持たないデザインでは、人々の心理状態にマイナスの効果をもたらす傾向があったという。

また、インドの南ビハール中央大学のSandra Suresh氏らの研究(2024年)では、バイオフィリックデザインを導入したオフィスで働く人々は、創造力をより発揮できるという結論が導き出された。

研究者らは定量的な評価のため、自然光、自然界のフラクタル(全体と一部分が相似した構造の図形)、曲線、水(実物や音だけ)、植物、自然を想起させるものなどの有無を反映する「バイオフィリック指数」を設定。その結果、研究に参加した従業員のうち、バイオフィリック指数のスコアが高いグループの方が、低いグループよりも創造性のレベルが高いことが確認された。

さらに、トルコのイズミル経済大学のPouya Mousighichi氏らの研究(2024年)では、職場にバイオフィリックデザインの要素(物や音など)を多く取り入れると、オフィスへの愛着が増すことが明らかに。結果として従業員のパフォーマンスや健康、ワークエンゲージメント、オフィスの快適性にも良い効果がみられたという。

自然を眺めるだけで、健康的な食生活に

近年、報告が相次ぐバイオフィリックデザインのメリットは、メンタルパフォーマンスへの効果にとどまらない。台湾の東海大学のYevvon Chang氏と国立中山大学のWen-Bin Chiou氏の研究(2024年)は、自然を眺める行為と健康的な食事の間には関連性があると指摘している。

画像を使った実験の結果、自然の風景画像を見たグループは、都会の風景画像を見たグループに比べて、糖分の少ない飲み物を選ぶ傾向にあり、アイスクリームを食べる量も少なかったという。

加えて、英ケンブリッジ大学のCleo Valentine氏らの研究(2024年)では、バイオフィリックデザインを施した建物の正面の外装を見た被験者の神経炎症が軽減したと報告した(神経炎症は、不安、うつ病、神経変性疾患などの身体の不調との関連性が指摘されている)。

ドイツのミュンスター大学のMicha Hilbert氏らの研究(2024年)も、バイオフィリックデザインに触れる体験がサステナブルな行動につながると主張。また、インドのアリーガル・ムスリム大学のMegha Yadav氏とBadruzzama Siddiqui氏の研究(2024年)は、「バイオフィリックデザインの要素は、職場環境における従業員のウェルビーイング、生産性、仕事満足度の向上に寄与する」と結論づけている。

以上のように、さまざまな角度からバイオフィリックデザインの効果を紹介してきたが、人々の心身の健康と幸福感を向上させる自然要素のメリットを考えると、バイオフィリックデザインは採用に値するオフィスの設計手法といえそうだ。

サリー・オーガスティン氏の最新記事は、Innovation Zone連載中のコラム「Research Roundup」(WORKTECH Academyのメンバー及びパートナー限定公開)をご覧ください。関連記事はこちら


※本記事は、Worker’s Resortが提携しているWORKTECH Academyの記事「How biophilia supports wellbeing in virtual reality environments too」を翻訳したものです。