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【Glass Rock】共創コーディネーター・橋本さんに聞く、共創の“火種”を生む場の仕掛け

大手総合ディベロッパーの森ビルは2025年、虎ノ門ヒルズに新たな会員制拠点「Glass Rock」をオープンしました。社会課題の解決を目的としたこの施設は、産学官のみならず、NPOやNGO、学生に一般の社会人、シニアを含めた「市民」も交えた共創を図る点で、これまで同社が手掛けてきたイノベーション施設やインキュベーション施設とは一線を画します。

同社はなぜ、東京の中心にこのような場を設けたのか。またどのようにして、社会課題の解決に向けたアクションを生み出していくのか。Glass Rockで共創コーディネーターを務める、Kumanomics代表取締役CEOの橋本直樹さんに、属性や立場の垣根を越えたコミュニティづくりのヒントを伺います。

  • 橋本 直樹/はしもと なおき

    橋本 直樹/はしもと なおき

    Glass Rock 共創コーディネーター、株式会社Kumanomics 代表取締役CEO/ノマド政策家。兵庫県出身。東京大学法学部卒業後、経済産業省に入省。国家公務員として初めて美術大学院に留学。米国パーソンズ美術大学にてMFA(美術学修士号)を修了。帰国後、知的財産権により社会課題を解決する「特許庁 I-OPENプロジェクト」の立ち上げなどに携わり、2023年に同プロジェクトでグッドデザイン賞を受賞。2024年、クマノミとイソギンチャクの共生関係に着想を得て、企業と行政が支え合う「共生経済」をデザインすることを掲げ株式会社Kumanomicsを設立。組織の枠を越境する「ノマド政策家」として、ビジネスと政策を一体でデザインするプロジェクトを多数手がける。その他、東京大学公共政策大学院 非常勤講師、武蔵野美術大学 政策デザインラボ 客員研究員などを務める。

東京のど真ん中で社会課題解決に挑む理由

──「Glass Rock ~Social Action Community~」(以下、Glass Rock)とは、どのような場なのでしょうか?

橋本 森ビルが手掛ける大型複合都市「虎ノ門ヒルズ」の一画に設けられた、共創を通じて社会課題の解決に取り組むプラットフォームです。最大の特徴は、企業や行政に加え、アカデミアにNPOやNGO、さらには個人の一人ひとりが交わり、100年後の未来を見据えてクロスセクターで持続可能な社会を築いていく点です。

私たちの身のまわりは、少子高齢化やジェンダー、気候変動による影響や経済格差、テクノロジーと倫理の問題など、非常に多くの社会課題であふれています。これらは複雑さを増していて、当事者だけで解決することが非常に難しくなっています。

一方で企業は、社会課題解決にビジネスの可能性を感じながらも、個社で事業につながる問題を発掘するには限界があります。また実際に事業化を図るとなると、行政との連携も欠かせません。あらゆるステークホルダーの手によって、課題に挑む必要があるのです。

──多様な人が集まり、身近な課題やリソースを持ち寄ることで、足元の課題から社会へ大きなインパクトを生み出していくのですね。

橋本 東京の中心に拠点を持つことにも意味があります。虎ノ門は中央省庁が集中する霞が関に隣接するエリアであり、また上場企業を中心に多くの会社が拠点を構えています。森ビルはこれまで、この虎ノ門ヒルズをはじめ、六本木や麻布台など東京の中心で大型都市開発を進め、企業の新規事業創出を施設面でサポートし、異業種間のシナジーを生み出し続けてきた実績があります。

また、東京は世界有数の国際都市で日本で最も人口が集中しているにもかかわらず、地方や世界の様々な地からもたらされる資源によって支えられている都市です。おそらく最も多くの場所とつながることで支えられているといっても過言ではない東京は、言い換えれば世界中の課題と背中合わせの状況にあるともいえます。ゆえにGlass Rockは東京の中心で世の中のあらゆる社会課題を集め、解決に向けて必要な人や知恵、リソースとつなげるハブのような役割を目指しています。

──ただ、場があるだけで共創が自然と生まれるわけではないですよね。

橋本 Glass Rockでは、私を含め2名の共創コーディネーターを配置しています。私は経産省時代にデザイン経営を推進し、社会課題解決を目指すリーダーの伴走支援プロジェクトの立ち上げをはじめ、産学官連携による政策やビジネスに多く携わってきました。もうひとりの小菅隆太さんは、“週一官僚”として経産省のプロジェクトに参画するほか、トライセクター(民間・行政・市民社会の3つのセクター)による共創経験が豊富です。

私や小菅さんはそれぞれの経験や人脈を活かし、Glass Rock全体のコミュニケーション設計を担うほか、官民双方の慣例や事情を踏まえながら内外のステークホルダーの間に入り、社会課題解決に向け共創を促していく役割です。

共創の起点となる“お隣の声”

──4棟の高層ビルが建ち並ぶ虎ノ門ヒルズの中で、低層の外観が目を引きます。

橋本 Glass Rockがある建物は地上4階・地下3階からなる複合施設で、共創拠点は4階と地下1階にあります。

4階の「Partners Lounge」は、民間企業やNPOなど、およそ100社の法人パートナーと30団体超の共創パートナーが日常的に交わる空間で、セミナーやワークショップの場としても活用しています。

法人パートナー専用の「Partners Lounge」(4階)

地下1階の「Members Lounge」は、高校生から入会可能な個人メンバーなどGlass Rockの全メンバーが集う共創拠点です。世代や立場を超えた対話の様子は、地下鉄のプラットフォームから眺めることができます。また、発信拠点としてギャラリーや音声収録スタジオを構えていて、同じ建物内にある書店との連動企画にも取り組んでいます。

法人・個人の種別を問わず​すべてのメンバーが利用できる「Members Lounge」(地下1階)

──ゆるやかにつながり、学び、広げる仕掛けが、随所に散りばめられているのですね。

橋本 そのとおりです。特にラウンジは個室がなく、壁や仕切りを極力除いた造りになっています。というのも雑談や打ち合わせで聞こえる、“お隣の声”が共創の起点になることが非常に多いからです。「○○なら、ちょうど自社がマークしているテーマだ」、「うちの××さんを紹介したら面白くなりそう」などと、声をかけるきっかけになりますよね。もちろん機密保持に配慮したうえでになりますが、こういう場ですから面識がなくても対話が生まれやすくなるのです。

イベントの時も、場所を区切ることはありません。だから集中して仕事をしたい、勉強したいという人にはまったく向いていない(笑)。逆にここに来れば、新たな気づきや立場を超えた出会いなど、これからの社会に向けて動き出すための何かが得られる。そうした場所を目指しています。

続々と生まれる、良い意味での“火種”


──法人パートナーと個人メンバーの接点は、どのように設けていますか。

橋本 Glass Rockには10人超のコミュニティマネージャーが所属していて、ラウンジの営業時間には数人が常駐しています。共創コーディネーターが地方や行政なども含めて各地からさまざまな接点をもたらすのに対し、コミュニティマネージャーは施設内の活性化を促進する触媒のような役割です。

彼らにとってまず重要なのは、利用者をよく知ることです。個人パートナーの入会時面談では、関心のある社会課題やGlass Rockでしたいことなどをヒアリングします。次に、メンバーの意欲に火をつけ、最初の一歩を後押しすることです。たとえば「誰かと未来の子育てについて話し合ってみたい」というメンバーがいたら、興味のありそうな他のメンバーを引き合わせたり、ダイアログイベントを支援したりなどのアクションを促します。

そして、発信も大切な役目です。地下のラウンジには個人メンバーの顔写真入りプロフィールを掲示し、4階のパートナーラウンジではダイアログのような個々の取り組みやイベントの様子を紹介しています。この施設で起きていることをメンバーたちの目に入るようにして、共創のきっかけをいくつも仕掛けています。

──これまでに生まれた、クロスセクターによる共創事例を教えてください。

橋本 最近だと、個人メンバーの学生を起点に生まれた福岡県宗像市のプロジェクトがあります。彼は、「みんなの留学部」という海外の現役大学生と留学を志す中高生をつなぐメディアプラットフォームの代表理事を務めていて、別の活動で宗像市との縁がありました。そこで私も、彼の活動に伴走し、市内外の中高生・外国人留学生・日本人海外大生という三つの視点を掛け合わせた自らのキャリアを考える1泊2日の越境キャンプが開催されました。当日は、 Glass Rockに参画する法人パートナーに加え、政治家・メディア・自治体関係者も見学にお越しになり、プログラムの魅力を肌で実感していただきました。本企画を宗像市ではもちろん、他様々な地域でも持続的に開催すべく、官民が手を取り今後の共創の形を模索しはじめています。

別の事例では、宮城県川崎町を舞台に、JR東日本社が主催するWaaS共創コンソーシアムとKumanomicsが取り組む、地域でのフィールドワークに法人パートナーを接続しました。このフィールドワークでは、行政・地域住民・企業が共創し、地域に特化した起業塾、ライドシェアや教育等を掛け合わせた新たな構想を生み出しています。他にもGlass Rock内ではさまざまな立場によるコラボレーションや知見のシェア、常識を覆すような仮説の議論など、あちこちで良い意味での“火種”が生まれつつあります。

──橋本さんをはじめ、Glass Rockでの化学反応を面白がれる人たちが運営にあたっているからでしょうね。

橋本 それで言えば、Glass Rockのコミュニティマネージャーは、現役の社会起業家、活動家が従事しているのも特徴です。だからこの場がどんな状態になれば、“火種”ができて、燃え始めるのかが感覚的にわかるのでしょう。

ただ私たちにも工夫の余地はあります。世の中のあらゆることにアンテナを伸ばし、現実で起きていることとGlass Rockでの取り組みやパートナーの関心との接合点を見出したり、AIなども利用しながら早くわかりやすく情報提供したりと、より進化していきたいですね。

「社員ではない人たちも集まる場」としてのオフィス

──いま多くの組織が、部署などの属性に縛られない新しいコミュニティのあり方や、交流の形を模索しています。

橋本 入り口はゆるやかでいいと思うんです。たとえばGlass Rockでは、「虎ノ門珈琲部」という活動をしています。朝の8時から集まった人たちで一緒にコーヒーを飲んで雑談をするだけですが、官僚からスタートアップの社員まで多様な方々が集い、セレンディピティ(予想外の発見)が生まれる場になっています。

次に、どうインパクトを生み出していくか。この施設に集まる人たちは4タイプに分けられます。特定の社会課題に強烈な思いがあり、解決に向け企画できる「リーダー」、専門性など自身の資源を役立てたい「サポーター」、漠然とだけれども社会課題解決に関わりたい「フォロワー」、そして、まだやりたいことが明確ではない層です。

まず不可欠なのがリーダーですよね。彼らの強い意志が、世の中を変える推進力になりますから。そこにサポーターやフォロワーが「自分も貢献できるかもしれない」という期待感をいかに持てるか。これが大きなポイントで、3者がわいわいと夢中になり始めたら、周りも徐々に参画するようになるのかなと。こうした連鎖が起きるように、場と人を戦略的につなぐことが、運営側の力量として問われるのだと思います。

──最後に、Glass Rockが描く将来の姿を教えてください。

橋本 冒頭に100年後の未来を見据えているという話をしましたが、私たちは大げさでなく、現在の消耗する社会や経済のあり方を変えたい、持続可能なシステムのもと、その先にあるビジネスモデルを構築したいと考えています。それにはあらゆる角度から社会を見ていく必要があり、だから企業から行政、市民が一緒くたになれる場を求めた。それがGlass Rockなんです。

もっと言えば、一般の企業が同じようなことをしてもいいのです。要は、その会社のパーパスの実現に向け、「社員ではない人たちも集まる場」としてのオフィスという考えです。逆に自社の社員が他の会社に出向いたっていい。人が行き来することでその会社にはない資源が持ち込まれたら、組織も強くしなやかになっていくことでしょう。

そういう意味で、オフィス自体もアップデートの時期に来ているのかもしれない。そのきっかけとして、Glass Rockと共創を図るという選択も歓迎です。ぜひ私たちと一緒に、持続可能な未来を築いていきましょう。

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