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海外コワーキングスペースに学ぶ、ソーシャルイベントのノウハウと要点

本記事では、社内外における人々のつながりを醸成するソーシャルイベントに焦点を当て、海外のコワーキングスペースでの事例を通じて効果的なイベント実現のヒントを探る。

ソーシャルイベントで社内外の交流やコミュニケーションを促進

ソーシャルイベントとは、一般的に人々が集まり、交流し、社会的なつながりを醸成するために企画・開催されるイベントを指す。これらのイベントはさまざまな目的やテーマを持ち、ビジネスネットワーキングや地域コミュニティの活性化、趣味や興味を共有するためのものまで幅広く存在する。

ワークプレイスでのソーシャルイベントは、従業員のモチベーションやスキル、チームビルディング、企業価値などを向上させる効果が期待される。社内セミナーや新製品発表会、株主総会など、組織内での目的達成や社内交流が中心のコーポレートイベントとは異なり、ソーシャルイベントは、社内外の人々との交流やコミュニケーションを主眼に、より包括的なアプローチを特徴とする。さまざまなイベント形態やカジュアルな雰囲気を設定することで、イベントへの気軽なアクセスにつながる。

新型コロナウイルス禍以降、オンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッドなイベントスタイルが根付き始めている。Markleticの調査によると、B2B企業の86%が、イベント開催から7か月後にハイブリッドイベントの投資効果を実感しており、47%がハイブリッドイベントが国際的に分散した聴衆を結び付けるソリューションであると答えた。イベントスタイルの変化は、異なる業界や地域から参加者を引き寄せ、グローバルなネットワーキングとビジネス機会の拡大を促進させるだけでなく、新たなビジネスチャンスへのきっかけになることにも期待ができるだろう。

ワークプレイスの価値を高めるソーシャルイベント

企業向け旅行管理会社であるTravelPerkが2022年に実施した調査によると、従業員の79%がイベントを通じて同僚とつながりを築くことを楽しみにしていると回答し、これはワークプレイスでの人間関係構築の重要性が再認識されていることを示唆している。また、WORKTECH Tokyo 2023では、オフィスにおけるエクスペリエンス創出や対面コミュニケーションが引き続き注目されていると指摘された。社内外のコミュニケーションを促すソーシャルイベントは、これらのニーズに寄与する重要な要素となるだろう。

また、ステークホルダーと直接交流できるソーシャルイベントは、CSR活動の一環として企業の積極的な社会貢献姿勢を表現し、ブランドメッセージを効果的に伝える優れた手段となり得る。特にユニークなイベントはメディアの注目を浴び、企業の社会的な活動が広報として機能し、ポジティブなブランドイメージの構築に寄与することができる。ソーシャルイベントは企業の社会的責任を具現化し、参加者が体験を通じてブランドメッセージを実感する手段として、非常に有効であると言えるだろう。

企画のポイントは、企業理念の共有

ソーシャルイベントの企画において、目的や予算、参加人数、開催場所、イベント形式などの基本的な要素に加え、特に注力すべきなのが企業理念の共有だ。参加者と企業が共通の目標やビジョンを共有することで、結びつきやすい雰囲気を醸成し、持続可能なコミュニティを形成する土台を築くことができる。具体的には、企業理念に基づいたアクティビティやテーマの導入、スピーチやプレゼンテーションを通じた価値観の共有が挙げられる。これにより、ソーシャルイベントが単なる催しではなく、企業文化に共鳴する価値ある体験の場となる。

イベント企画にはさまざまな手法が存在するが、目標設定の際に有用なSMARTの法則や、マーケティング戦略手法の1つである5P分析の活用は効果的な手法となるだろう。

SMARTの法則では、具体的な目標を立てることが重要だ。例えば、参加者数の向上や特定の企業理念の普及など、はっきりとした目標を設定することで、目的がはっきりし、進捗をモニタリングしやすくなる。5P分析では、イベントを製品として捉え、価格設定や場所の選定、宣伝戦略、人的リソースなどを注意深く検討する。価格設定はコストと価値のバランスを考え、場所の選定はアクセスや雰囲気を考慮する。宣伝戦略では、ターゲット層に対して魅力的な情報を伝える方法を考え、人的リソースについては、質の高いスタッフや登壇者を選定する。

これらのアプローチはイベント価値を明確化するのに役立ち、さらに、企業理念の共有を強調し、イベント全体に一体感をもたらすことで、参加者との共感を深め、持続可能なコミュニティの形成に寄与する。綿密なプランニングと包括的なアプローチを通じて、目標の達成に向けたイベントの成功が期待できる。

海外コワーキングスペースのソーシャルイベント事例

ソーシャルイベントで企業文化の共鳴を深めるには、どのようなアプローチが効果的なのだろうか。ここでは、独自のコミュニティを構築する海外のコワーキングスペースから、ユニークな取り組みを紹介する。

1. Neuehouse(アメリカ)| 多様なイベントに参加できる、唯一無二のワークスペース

Dezeenとの共同主催による建築デザイントークパネルディスカッションの模様(画像:NeueHouse HPより)

NeueHouseは「文化が動く場所」をモットーに掲げ、クリエイター、イノベーター、ソーシャルリーダー向けのプライベートワークスペースだ。物理的なワークスペースに留まらず、コミュニティ、デザイン、コンテンツ、ホスピタリティーの要素を融合させた独自のクリエイティブシステムを構築し、NeueHouse固有のアイデンティティーを確立している。メンバーは、写真美術館 Fotografiskaや現代アートフェア Frieze Art Fairへのアクセスをはじめ、世界中の提携パートナーと連携して開催されるカルチャーイベント、ライブ、デジタルイベント、スクリーニング、ディナーイベントなどに参加することができる。

また、イベント開催時のサポートサービスも提供しており、NeueHouseのインハウスクリエイティブチームにイベント制作を依頼することができる。セットデザイン、照明、動画撮影・編集・配信に加え、フードやドリンクの手配、SNS発信まで、トータルにコーディネートしてくれる。

インハウスクリエイティブチームによる充実したイベントサポートサービス(画像:NeueHouse HPより)

アートプログラムでは、世界的に名高いギャラリーや地元のアートシーンのパートナーとともにキュレーションを行い、新進気鋭のクリエイターやアーティストが作品を発表できる場を提供している。メディアプラットフォームのNEUEJOURNALでは、アート、デザイン、映画など多岐にわたる分野のコンテンツを特集し、イベントの模様やメンバーへのインタビュー記事も積極的に発信。クリエイティブの可能性や文化の進歩、新たなアイディアの展開を支援すると同時に、メンバー同士の相互理解とコミュニティ形成を醸成している。

2. betahaus(ドイツ)| 国際的なスタートアップコンテスト「BETAPITCH」を主催

「Making everyone into an entrepreneur(誰もが起業家に)」 というミッションを掲げ、フリーランサーやスタートアップ、アーティストなど多様なメンバーがつながるコミュニティを育むbetahaus。「型にはまらないワークスペース、人々がコラボレーションできる場所をつくりたい」という想いのもと、2006年に6人の学生によりスタートし、ヨーロッパ有数のスタートアップ都市ベルリンのなかで、コワーキングスペースの先駆者的存在として知られている。

BETAPITCHは、betahausチームが主催し、毎年世界10都市で繰り広げられる国際的なスタートアップコンテストだ。異なる開発段階にあるスタートアップが応募可能で、各都市の優勝者たちが最終決戦の舞台ベルリンに集結し、審査員の前でプレゼンを行う。

BETAPITCHへの参加は、ベンチャーキャピタリスト、インキュベーター、アクセラレーター、業界の専門家など、幅広いパートナーネットワークを通じてアイデアの実現支援を得るための重要な機会となる。卒業生には、薬剤の温度を監視して劣化を防ぐ投薬トラッカーを設計するInsulin Angel、世界初の貨物ドローン航空会社Dronamics、先進的なワイヤレスオーディオ製品を開発するBragi などを輩出している。

BETAPITCH Skopje 予選の様子(画像:BETAPITCH Xより)

3. THE YARD (アメリカ)| 特色あるアートプログラムでコミュニティを活性化

ニューヨークを中心に、フィラデルフィア、ワシントンD.Cなど12拠点で展開しているTHE YARD。2,000社以上の企業が利用しており、Uber、Namely、Blue Apron、Wanderflyなどが初期テナントとして名を連ねている。THE YARDでは、「カルチャー・コミュニティ・デザイン」を軸に据えたスペース構築を行い、さまざまなプログラム、アメニティ、専用アプリなどを提供している。

2016年には、独自のアートプログラム The Yard Art Program をスタートさせ、業界他社との差別化の要となっている。四半期ごとのRoating Exhibitionでは、各拠点にキュレーターが常駐し、地元のギャラリーと連携しながら展覧会を企画している。これまでに700人以上のアーティストが展示を行い、メンバーやゲストは作品を購入することができる。このプログラムは、地元のクリエイティブコミュニティにギャラリースペースを提供するだけでなく、新しいアートを通じてメンバーやコミュニティ全体の対話と結びつきを促進している。また、各アートイベントのオープニングでは、アーティストやキュレーター、THE YARD外のコミュニティと交流できる場を提供し、エコシステムを多様化させると同時に、働く場以上の価値を提供することを目指している。

Roating Exhibitionの様子(画像:THE YARD HPより)
コワーキングスペースの随所には、プログラムに参加しているアーティスト作品のコレクション “The Yard Art Collection” を展示している

4. Heyground (韓国)| 社会問題の解決を目指し、トータルな施策を展開

チェンジメーカーの育成・支援事業を行う非営利団体のRootimpacが、ソーシャルベンチャーの成長を支援するためにつくったHeyground。チェンジメーカーのコミュニティ構築だけでなく、「変化を起こすコミュニティづくり」をモットーに、さまざまな方法で社会問題を解決しようとする人材にスペースを提供し、入居者の仕事、生活、学習をサポートしている。現在は、ソーシャルイノベーター、NGO等の非営利団体、ソーシャルベンチャー、フリーランサーなどを含む、約70企業、約550名が入居している。Heygroundが拠点を構える聖水洞エリアは、ソウルのなかでも社会企業家が集まる中心地の1つとして知られており、周辺にはホームレスの自立を支援する宅配業者や社会起業家を目指している人のためのシェアハウスなどがある。

Heygroundでは、「対話を生み出すためのコンテンツ、 共有システム開発、規模ではなく質にこだわるイベント」を軸に、無料のリーガルサービスや財務コンサルティング、特許に関するアドバイス、グローバルパートナーとのネットワークを提供し、メンバーの持続可能な成長を支援している。

オフラインイベントでは、ソーシャルベンチャーやサステナブルブランドが参加するポップアップイベント、早朝から働く入居者を応援する朝食サービス、成功・失敗事例や悩みをシェアするHey Meetup、周年イベントなどを開催。また、ソーシャルベンチャーアカデミーとして、財務諸表や成果管理セミナー、チェンジメーカーのJob Descriptionづくりを教える、実務能力向上教育プログラムも提供している。現在は一時的に中断しているが、オンラインでは、チェンジメーカーのインタビューを取り上げたポッドキャストやニュースレターを配信するなど、コミュニティとの関係値を構築している。

Patagonia副社長Rick Rdigewayを招いた、Heyground入居者および各企業CSR担当者とのネットワーキング・懇親会(画像:Heyground FBより)

ソーシャルイベントは人と人が集まり、つながりを深める大切な機会だ。この記事で紹介した海外ケースをヒントに、企業理念を効果的に共有するイベントを計画してみてはいかがだろうか。

この記事を書いた人:Chinami Ojiri