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BMW工場の設計思想にみる、従業員間の平等

故ザハ・ハディド(Zaha Hadid)が設計を手がけた独BMWのライプツィヒ工場では、自動車の生産ラインがオフィスで働く人々の頭上に配置された。設計案の発表から20年。我々は今でも、そのレイアウトが提起するメッセージの意味を探っている。

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世界的な建築家、ザハ・ハディドは2004年、BMWが独ライプツィヒに建設中の新工場向けに、きわめて斬新な建屋構造を提案した。製造現場から延長された生産ラインがオフィス棟の上部空間を貫いて通る設計で、青い照明がライン上を照らし、不思議な雰囲気を醸し出している。

金属加工でなく事務を生業とする人々が働くデスクの上部を生産ラインが通り、新車種の塗装前の車体が次々と流れていくという、現実離れした環境。この大胆なレイアウトは、ブルーカラーとホワイトカラーの従業員計750名の職場を隣接させることで、コミュニティ形成を促すという設計思想によるものだ。

Zaha Hadid Architects設計によるBMWの独ライプツィヒ工場

鮮烈な印象を与える構造に込められたメッセージは明白で、この職場では、生産、エンジニアリング、管理、マーケティングなど、どの部門で働く社員も皆等しく、BMWの一員であると主張している。

英ロンドンに本社を置く広告代理店Motherも、同様の発想で建築家のクライヴ・ウィルキンソン(Clive Wilkinson)に新社屋の内装設計を委託した。オフィスの中核を成すのは、伊Fiatのトリノ工場(1923年完成)の屋上に設けられた車のテストコースにヒントを得た巨大な一体成型型コンクリートテーブルで、周囲に全従業員200名が集まって仕事ができる環境を実現した。このプロジェクトも2004年の竣工だが、設計思想はいたってシンプルで、クリエイティブ部門のベテランディレクターと顧客担当の新人スタッフが、組織内の役職や役割に関わりなく同じスペースで経験を共有すべきであるという信念に基づいている。

画像:Clive Wilkinson Architects設計による広告代理店Motherの英ロンドン本社オフィス

フレキシブル勤務のポリシー

以来、20年の月日が流れた。企業にとって全従業員に対する平等待遇の原則は、2024年現在、さらに重要性が増している。ただし経営側は、もはや職場の物理的な設計に頼らず、フレキシブル勤務に関するポリシーを通じて従業員にメッセージを伝えるようになった。

本社、小売、倉庫、物流など、さまざまな部門を抱える大企業で最近、出社勤務を義務づける傾向が顕著になっているのにお気づきだろうか。これはノートパソコンを携えて働く知識労働者にリモートワークを禁じるためではなく、現場勤務でなければ自分の業務を遂行できない現場スタッフとの公平性に配慮した方策だ。

出社再開のトレンドを代表する英ドラッグストアチェーン大手のBootsは、本社スタッフにも週5日の出社を求める決定をした。TeslaやAppleなど、生産・小売の現場で就業日の出勤が必須のスタッフが多い企業では、従業員間の公平性を重視した勤務ポリシーを採用している。

つまり、「現場スタッフに出社を義務づける一方で、本社スタッフだけに柔軟な働き方を認めるのは不公平である」という考え方に基づくもので、方針の根拠は明らかながら、企業経営陣は公平性を前面に押し出そうとしていないようにみえる。

公平性を保つ目的か?

理由は2つ考えられる。第1の理由は、優秀な人材定着の一助となるフレキシブル勤務の重要性にある。Gartnerの最新の調査結果によれば、出社勤務ポリシーを厳格化すると、真っ先に成績優秀な人材が辞めていく恐れがあり、続いて女性やミレニアル世代の社員が離職する可能性が高いという。

第2の理由として、全社的な出社勤務再開をめぐる議論の核心が、従業員間の公平性より「文化の醸成」と「チームの絆づくり」といった価値にあるという現状が挙げられる。知識労働者が快適さと便利さから在宅勤務を選ぶ状況が続けば、企業文化の価値を脅かしかねないと経営陣は考えているのだろう。

グローバル企業において、各地域の事業部門がそれぞれ異なる条件下で運営されるのは当然だ。Amazonをみても、英ダービーのフルフィルメントセンターと米シアトルの本社とでは業務環境がまったく違う。そのため企業トップの多くは、部門間の平等にばかりこだわるよりも、グローバル経済において重要度が高い「協働によるイノベーション」を推進する傾向にある。

「ザハ・ハディドが提唱した頭上の生産ラインは『斬新な設計』から『象徴』に変化を遂げた」

BMWのライプツィヒ工場は20年前、建屋の設計を通じて、デスクワークに勤しむホワイトカラーも油まみれで作業に励むブルーカラーも、同じ組織の一員であり同僚であるという、青く光り輝くメッセージを発信した。そして今日、組織の一体感の大切さを全従業員に訴えるメッセージは、フレキシブル勤務を制限するポリシーの形でも周知されている。かくして、ザハ・ハディドが提唱した頭上の生産ラインは、「斬新な建築設計」から「共通の目的の象徴」に変化を遂げたと言えるだろう。

多くの企業がハイブリッド勤務ポリシーに合わせた職場の改装・改造を検討している。そんななか、BMWのライプツィヒ工場プロジェクトは今もなお、思考の糧として、物事を深く考えるきっかけを我々に与えてくれる。

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WORKTECH Academyでディレクターを務めるジェレミー・マイヤーソン氏は、英Royal College of Artデザイン学部名誉教授。共著書にUnworking: The Reinvention of the Modern Officeがある。


※本記事は、Worker’s Resortが提携しているWORKTECH Academyの記事「Lessons from the BMW factory design that said all workers are equal」を翻訳したものです。

この記事を書いた人:Jeremy Myerson

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