【会議の最適化】調整志向がコラボレーションの質を高める?

ハイブリッドワーク時代に突入し、コラボレーション(協働)のパターン、行動、テクノロジーに変化が起こりつつある。米国のあるメーカーが最近発表したレポートは、コラボレーションの最新動向を紹介するとともに、新たな働き方の必要性を訴えている。
Design, Culture, Style
インタラクティブ・ディスプレイ大手の米Avocorは、WORKTECH Academy協力のもと「Collaboration Reimagined」と題するレポートを作成した。今春発表されたこのレポートは、ハイブリッドワーク時代のコラボレーションにおけるパターン、行動、ツールに変革をもたらす5つの新たなトレンドについて述べている。
本記事では、5つのトレンドのうち「節度ある会議運営」(Meeting Moderation)を取り上げ、度重なる会議が関係者のウェルビーイングや生産性に及ぼす悪影響の回避法について、抜粋して紹介する。
「会議疲れ」でモチベーションや生産性が低下
コラボレーションを支援するデジタルツールは今、企業の日常業務で使われるようになった。そのため、従業員は常に連絡可能な状態や即応力を求められ、プレッシャーが高まっている。ハイブリッドワーク導入の初期には、関係者間のつながりを維持したいという動機から、何本もの会議が連続して設定される傾向がみられた。
しかし、勤務モデルが成熟し安定するにつれ、会議を単にコラボレーションを可能にする場から、目的を明確化した有意義な意見交換の場へと進化させるべく、開催頻度を適切に抑える先進的な企業も出てきた。こうした進化は、コラボレーションの効果に対する理解の深まりの表れで、人々の生産性だけでなくウェルビーイングへの影響を踏まえた働き方を示唆している。
マイクロソフトのユーザー調査によると、働く人々がメール、チャット、会議に費やす時間は業務全体の60%に上る。つまり、文書やコンテンツ作成、デザインなど集中を要する作業が勤務時間に占める割合は40%にすぎない。
ハーバード・ビジネス・レビューの調査結果では、会議に費やす時間が長いことから、9人に1人が「会議疲れ」を経験しているという。症状としては、度重なる非効率な会議の後に現れるモチベーションや集中力、生産性の低下がある。この会議疲れが尾を引くと、終日に及ぶストレス度の上昇や活力の低下を招きかねない。
コラボレーションを増やすことが目的ではない
ソートリーダー(特定分野に精通した先導者)たちは今、会議を通じたコラボレーションの機会を増やす必要性を説くよりも、「どんな場面でコラボレーションが必要か?」という問いの答えを求めている。
あるシンクタンクの研究者、レベッカ・ハインズ博士はこう語る。「目指すべきは単にコラボレーションの回数を増やすことではなく、必要な場面におけるコラボレーションの機会拡大だ」。このアプローチは会議をお決まりの日課ではなく戦略的ツールと捉える考え方であり、会議は明確な目的を持って、本当に必要な時にのみ開催すべきだとしている。
非同期型コミュニケーションを優先する兆し
今や多くの企業が会議の過重な負荷軽減策として、「ノー会議デー」、「会議禁止ゾーン」、「会議禁止時間」などを設定し、AIを搭載したスケジューリングツールによりコラボレーションに最適な時間を推奨する仕組みを導入している。
非同期型コミュニケーションを優先し、従業員が各々のペースで仕事をできる「非同期優先文化」の注目度も上昇中だ。そうした文化醸成の効果として、皆が一斉に参加するリアルタイム(同期型)の会議に費やす時間が減り、より意義深い貢献ができる職場環境の整備が期待される。
こうした動向を受けて、コラボレーション・プラットフォーム事業各社では、プラットフォームにウェルビーイング支援ツールを統合する動きがみられる。ツールには、会議を早めに終えるよう注意喚起する機能や、勤務時間外に受信したメールへの返答を急がないよう提案する機能が含まれ、健康的な仕事習慣の定着を促している。
なかには従業員を消耗させない、包摂的で活気あふれる協働を追求すべく、ニューロダイバーシティ(神経多様性)や認知傾向を考慮したコラボレーションに関するガイドラインを設けている企業もある。
目的意識に基づく調整志向が会議の価値を最大化する
とはいえ、単に会議の回数を減らすことだけが問題の解決策ではない。達成すべき目的が明確化された、より質の高い会議の実現が求められている。つまり、コラボレーションをさまざまなタイプやパターンに分類し、それぞれの目的にかなった形式で会議を進める必要があるということだ。
メルボルン大学の名誉フェロー、アグスティン・チェベス博士の研究によると、ワークプレイスにおける交流は6つのモード――コラボレーション(collaboration)、協力(cooperation)、調整(coordination)、権限移譲(delegation)、社会的適応(socialisation)、交渉(negotiation)に分けられる。それぞれの交流モードにより異なるレベルの信頼関係、ヒエラルキー、構造が求められ、各モードに適した環境とテクノロジーが存在するという。
例を挙げると、強い信頼に支えられ、ヒエラルキーの要素が少ない「コラボレーション」モードに最適なのは、デジタルホワイトボードやインテリジェントカメラなどのテクノロジーを駆使し、対面およびリモートの出席者が公平に参加できるオープンな環境である。一方、「交渉」モードの場合は、少人数間で起こる対立の解決策を探るケースが多いため、周囲に邪魔されない、音響制御を取り入れた環境が適している。
結局のところ、会議を含むコラボレーションの節度ある運用に欠かせない要素とは何か。それは、常時接続を志向する文化からの脱却と、目的意識を持った調整を志向する文化への移行だ。
会議の量より質を重視し、目的と議題を明確化した運営に切り替えれば、組織内に生産性が高く、活力あふれるチームが増えていくだろう。必要な時に必要な出席者を招集して会議を行うことで、より大きな成果が生まれるはずだ。
Avocorのレポート「Collaboration Reimagined: Five Emerging Trends Shaping Collaboration For Hybrid Work」の全文はこちら。
※本記事は、Worker’s Resortが提携しているWORKTECH Academyの記事「How to escape the endless grind of pointless meetings」(公開日:2025/4/30)を翻訳したものです。