早起きの伝道師・5時こーじさんに聞く、組織のワークパフォーマンスを上げる「ごきげん」朝型生活

もう起きよう、いや、あと少し寝ていたい……。毎朝繰り広げられる寝起きの攻防。そして目覚めの悪さは、その日全体のパフォーマンスにも影響を与えます。できることなら朝からスッキリ、快活な1日を過ごしたい! そう願う人は多いのではないでしょうか。また多くの働き手が始業から集中して仕事に臨めたならば、会社にとっても大きなメリットがありそうです。
そこで尋ねたのが、株式会社5AM代表取締役の井上皓史さん、通称「5時こーじ」さんです。主にビジネスパーソンに向け、朝時間を有意義に過ごすライフスタイルについて、さまざまな媒体を通して提案しています。「早寝・早起きは生産性を高め、人生を“ごきげん”に過ごす最強の手段」と語る5時こーじさんに、実践の秘訣と組織で取り組む際のヒントを教えてもらいました。
Culture, Style
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井上 皓史/いのうえ こうじ
株式会社5AM代表取締役。1992年東京都生まれ。幼少期の早寝・早起き習慣と社会人1年目の夜型→朝型の経験から、「早起きの魅力を1人でも多くの人に伝えたい」という思いで、2016年より渋谷で朝活をする「朝渋」を開始。新刊を出す著者をゲストに招くトークイベントに始まり、早起きコミュニティを発足。2018年には朝渋を本業化。現在はコンサルティングや企業研修などを手がけるほか、SNSやポッドキャストなど発信活動も精力的に行う。近著に『がんばらない早起き 「余裕のない1日」を「充実した1日」に変える朝時間の使い方』(かんき出版)。通称「5時こーじ」。
スランプの原因は残業にあった! 上司に直訴し朝型ワークスタイルにシフト
――5時こーじさんは、いつから早起きを始められたのですか?
5時こーじ 家族が朝型だったんです。朝5時半に朝食をとるような家で。といっても農家でも豆腐店を営んでいるわけでもなく、一般的なサラリーマン家庭です。特に父が、時間の余裕を好む人でした。出勤1時間前には職場近くの喫茶店で、新聞を広げながらコーヒーを飲むのが日課だったようです。
朝が早い分、夜寝るのも早い。私が今も「22時就寝・5時起床」なのは、子どもの頃からの習慣です。学校で友達と前の晩のテレビの話をする際、僕は録画して通学前に見ていました。だから周りよりも内容をよく覚えているっていう(笑)。
――根っからの朝型なのですね!
5時こーじ とはいうものの、社会人1年目のときに、早起きをやめた時期がありました。というのも営業職で入社した会社が10時始業で、しばらく会社の時間に合わせて生活していました。20時か21時くらいまで仕事して、家に帰ると22時を過ぎて、寝るのは日付が変わってから。続けるうちに、覇気がみるみる失われていったんです。
気分はさえないし、昼になっても調子が上がらない、そうこうするうちに日が暮れて、頭も体も疲れた中で残業する。それじゃあパフォーマンスどころじゃないから、気持ちが落ち込んで体調まですぐれなくなる。これはまずい……と思って、上司に「朝型のリズムで働かせてほしい」と相談したんです。
――上司も驚いたことでしょう。
5時こーじ どちらかというと面白がってくれて、「やれるものなら」と冗談半分で認めてくれました。でも上司の許可を得たので、遠慮なく朝型に切り替えることができました。7時に出社すれば、始業までの約3時間は自分だけの時間です。先輩方が出社し始める9時半頃には任されたタスクの大半は片づいていて、すっきりと次の業務に取り組めるようになりました。すると仕事にもリズムが生まれて、パフォーマンスも格段に上がったんです。
改めて「早起きっていいな…!」とかみしめる中で、次第に周りの人の働きぶりが気になり始めます。残業が常態化して慢性的に疲れている人、前夜の飲み会の余韻が残ったままパソコンの画面をボーっと眺めている人、動かない頭を無理やり働かせながら夜な夜な企画書とにらめっこしている人など、彼らは果たして持っている力を出し切れているのかと。
――それが今のご活動につながってくるのですね。
5時こーじ その後、転職先で取引先から深夜に届いたメールを朝の5時過ぎに返信したら「ブラックな会社ですね!」って反応されて(笑)。「いやいや、そうじゃなくて、僕が朝型なだけなんです」と説明したところ、朝型になる秘訣を知りたいと相談を受けるようになったんです。
それからご縁が重なって「朝渋」という渋谷での朝活イベントや早起き習慣化のコミュニティを主催したり、朝型生活のメリットや早起きしたい人の支援を始めたりするようになって8年ほど経ちます。個人向けの早起きコンサルティングのほか、タイムマネジメントの切り口で企業向け研修などもしています。
マネジメント層こそ持ち合わせたい、コンディショニングの発想
――ズバリ、早起きのメリットとは?
5時こーじ まず言えるのは、誰でも、お金をかけずに取り組めて、しかも自己肯定感を高められることです。たとえば朝5時半に起きると決めて、翌日時間どおりに起きられたなら、前の日に交わした自分との約束を守ったことになる。これって1日の始まりを「○」で始められるから、自信につながるんですよね。
2つ目のメリットは、自分だけの時間を確保できることです。朝、街や社会が動き出すより1時間早く起きられたなら、誰にも邪魔されない1時間を手に入れたことになります。仕事に使うもよし、資格勉強や読書の時間に充てるもよし、運動や部屋の掃除など自身を整える時間にしてもいいわけです。
そして3つ目のメリットは、自分を「ごきげん」にできることです。1日の始まりを自分のために使えたら、気持ちの上でも余裕が生まれます。朝から機嫌よく過ごせたら、仕事や家庭のやりとりも、相手に感情を振り回されることなく臨めるでしょう。結果としてパフォーマンスも高まります。
――確かに……。
5時こーじ 就業時間に合わせた生活が、必ずしも悪いわけではありません。けれども往々にして、主体的な暮らしになっていないのです。私に初めて相談してくれた取引先の方は、朝はギリギリまでベッドに寝転がり、朝ごはんを食べる余裕もありません。そそくさと家を出て満員電車に揉まれ、オフィスではエレベーターの渋滞に巻き込まれ、ひと息つく間もなくイライラした気持ちを引きずったまま始業を迎える毎日でした。
で、ようやく調子が上がってきたかなというところでランチタイムになり、いったんトーンダウン。それから14時くらいになって、やっと本腰を入れるのだけど体は疲れているから馬力が出ない。仕事が片づかないので、今日も残業……と、負のループに陥ってしまうのです。
本来、働く上では、始業時間の時点で体力も気力もみなぎっている状態が理想ですよね。そして集中が続くうちに、必要な仕事を終わらせる。それには心理的な余裕が欠かせないですし、そもそも人の体は本調子になるまでに時間がかかるものです。そういう意味では、朝型生活はコンディショニングの一環なんです。
――コンディショニングですか。
5時こーじ 世界のトップアスリートは、トレーニングと同じくらいコンディショニングも大切にします。それは厳しい環境やプレッシャーの中でも、成果を出し続けるためですよね。単に長時間練習すれば、好成績を残せるわけではありません。体のメンテナンスや休息やリフレッシュも十分行えるように、時間の使い方を工夫しています。ビジネスパーソンも、高いパフォーマンスを維持しなくてはならないという意味では、アスリートみたいなものですよね。
マネジメント層であればなおさらです。どんなときでもフラットな態度で部下と接することのできる冷静さが求められます。部下も会社に日夜縛られて疲れ切った管理職よりも、メリハリをつけながらいきいきと働き、精神的にも安定していて仕事でも成果を上げるリーダーと一緒に働きたいですよね。実はマネジメント層こそ、コンディショニングの一環で朝型生活を実践してほしいんです。
早寝というリカバリーがあって、「ごきげん」な早起きは成り立つ
――どうしたら、早起きになれるのでしょう。
5時こーじ 新著の『がんばらない早起き 「余裕のない1日」を「充実した1日」に変える朝時間の使い方』(かんき出版)では、ごきげん=早寝早起き+自由時間という、独自の「ごきげん方程式」を紹介しています。この関係式のポイントは、実は“早寝”にあります。十分な睡眠があって、初めてごきげんになれるのです。私も毎日5時に起きられるのは、「22時に寝る習慣」を守っているからです。
まあ22時は早いとして、なぜ寝るのが遅くなってしまうのか考えてみましょう。自分の時間欲しさに、惰性で夜更かししていることはないでしょうか? 特に今はインターネット上にいろんな情報があふれていますから、動画サイトやSNSを何気なくあさっているうちに時間が溶けていく、なんてことは誰もがやってしまいがちですよね。
――ムダだとわかっていながら、やめられないんですよ……。
5時こーじ でも、それは本当に「やりたいこと」なのでしょうか? それこそ誰かが敷いたレールの上をただ進んでいるだけで、自分の時間になっていないのです。家に帰るとクタクタで、なかなか動けないのもわかります。それならなおのこと、疲れを回復させる行動をとるほうが有意義だと思います。
次に大事なのは、朝時間を自分のために使うことです。早起きは結局、自己実現の手段に過ぎません。やりたいことが思いつかないという人は、「緊急度はそれほどでも、重要度の高いこと」に焦点を当てるとよいでしょう。そして、その時間内は集中してやるべきことに取り組みます。私は朝時間の多くを仕事に充てていますが、夕方以降は子どもとの時間をめいっぱい楽しみたいからです。子どもの成長は待ってくれないですから。
――ついつい後回しにしがちなことに、ヒントがありそうですね。
5時こーじ 先に紹介した取引先の彼は、朝8時からの1時間をカフェでの読書タイムに充てました。その間、スマホはカバンにしまって本にとことん向き合う。さらに10時始業の会社だったので、9時半に会社に着けばエレベーター渋滞に巻き込まれることもありません。これまで本を読むこともままならなかったのが、自分の欲求をかなえた上に余裕を持って仕事に臨めて、ごきげんに過ごせるようになりました。
あと意外と大事なのが、完璧を求めないこと。仮に6時起きの予定が6時半になったとしても、それまで7時起き生活だったなら30分も余裕が生まれているわけです。「○」といかなくても「×」ではない、「△」に値する早起きです。はじめの1週間は、3勝3分1敗くらいで十分では。少なくとも負けが込んだ状態ではないので、あきらめずに続けること。これまでの早起き支援の経験から、習慣化には3カ月ほど必要な場合がほとんどです。気長に取り組むのがおすすめです。
仲間意識を高めながら早起きを組織に取り入れる
――会社は社員の早起きを、どのような形で支援できるでしょうか。
5時こーじ 「早起き部」など、有志活動の支援がまず考えられます。いざ朝型生活に切り替えようと早寝早起きを始めたとしても、習慣を変えるのは簡単ではありません。夜更かしや二度寝の誘惑に抗えず、挫折してしまいがちですよね。その点グループだと強制力が働いて、ちょっとしんどいときでも「がんばろう!」と思えるものです。
共通の自分時間で、グループをつくるのもおすすめです。ランニングとか積読の消化とかですね。勉強や仕事など、個人の課題に時間を決めて集中して取り組む「もくもく会」を開くでもよいでしょう。始業時間の段階でその日のタスクの半分でも終わっていたら、その後も余裕を持って過ごせます。
活動はオフラインでもオンラインでもよいですが、定期的に顔を合わせるのがポイントです。週に1回または隔週でも朝食を囲んで、互いの状況をシェアするなど刺激し合う時間をつくると仲間意識が高まります。
――早起き習慣の導入に、イベントを講じるのもよさそうです。
5時こーじ 「朝渋」を始めた当初は、第一線で活躍する方々が本を出すタイミングでゲストに招き、イベントや読書会を行っていました。参加するみなさんは、早起きそのものよりも著者に対する興味が入口なのですが、朝の静けさや澄んだ空気、電車が空いていることや、会を終えて職場に向かうと仕事にすぐ集中できることなどのメリットに気づき、常連になる方が結構いましたね。
さらに応用編として、就業中の時間の使い方を考えてみましょう。たとえば私の場合、朝時間に高まった集中が続くランチ前は、デスクワークがはかどるゴールデンタイム。そのため、会議や打ち合わせは社内のメンバーにも共有した上で、午後に予定を組むようにしています。もちろん相手の都合もあるので、必ずではありませんが。
また私の会社では、火曜と木曜をディスカッション系の仕事を行う日と決め、メンバーの出社を促しています。その日は打ち合わせだけではなく、ランチを一緒にとるなど対話を意識しながら過ごします。逆に月・水・金は、テレワークで個人の仕事に集中するなど、1週間を通してメリハリのある働き方のできる環境です。
――チームで時間をゾーニングするのもいいですね!
5時こーじ 今は個人のライフスタイルも多様化し、子育てや介護を理由にフレックスタイムや短時間勤務を利用している人もいるでしょう。働き手の自由度と裁量を保ちながら、仕事の種類ごとにベストな時間帯を模索していくとよいでしょう。
私の提唱する朝型生活はつまるところ、時間の使い方を自分軸で考えましょうというものなんです。時間の主体者を仕事でも家族でもなく自分に置くから、ごきげんに過ごせてパフォーマンスが上がる。ごきげんでいられるから、結果的に自分の周りにいる人たちもハッピーになれるという考えです。
これまでの私たちビジネスパーソンの働き方はクライアントファーストなところがあり、時間の使い方も仕事ファーストなところがありました。けれどもそれが、本当に相手のためになっているのか――今こそ、立ち止まって考えるタイミングに来ているのかもしれません。