【オフィスカフェ】一杯のコーヒーから紡がれる、人と組織とバリスタの“いい関係”
オンタイムの飲み物として定番のコーヒー。コーヒーメーカーや自動販売機をオフィスに設置している会社も多いでしょう。では一杯のコーヒーが、働き手の気分転換になるだけでなく、組織エンゲージメントの向上や企業風土の醸成に一役買う存在になるとしたら──。
こうした可能性に着目し、首都圏を中心にオフィスカフェ事業を展開するのが、株式会社Garden代表取締役の青栁智士さんです。青栁さんはかつて、企業の取締役として魅力ある企業風土や働きがいのある組織づくりを手がけてきた、カルチャーデザインのプロフェッショナル。青栁さんいわく、「カフェは組織のコミュニケーションドライバーになり得る」。その理由や、コーヒーやカフェが組織にもたらす効用について伺いました。
Design, Culture
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青栁 智士/あおやぎ さとし
株式会社Garden代表取締役、LUCY ALTER DESIGN 代表取締役兼クリエイティブディレクター。1979年生まれ。インテリアデザイナーを経て、株式会社VOYAGE GROUPで取締役CCO(Chief Culture Officer)として同社のグロース期を牽引。Great Place to Work主催の「働きがいのある会社」ランキングにて3年連続1位に導く。2015年に谷本幹人氏とデザインユニット「LUCY ALTER DESIGN」を立ち上げ。事業を成長させる体験デザインに重点を置き、自らも「東京茶寮」や「煎茶堂東京」などの日本茶にフォーカスした店舗を運営する。バリスタ常駐型のオフィスカフェ導入支援サービス「Garden」を開始し、2020年に分社化。現在に至る。
コミュニケーションドライバーとしてのオフィスカフェ

──青栁さんが代表を務めるGardenでは、具体的にどのようなオフィスカフェを展開されているのでしょうか。
青栁 私たちが手掛けるのは、単にコーヒーを提供する場ではなく、その組織の文化を象徴するような「完全オリジナルのオフィスカフェ」です。
形態としては、社内カフェとして特定の会社のワークスペースに入る場合と、ディベロッパーが運営するオフィスビルに入る場合があります。いずれも、その会社やビルが掲げるビジョン、組織の風土、規模に見合う形で、コンセプトを設計からフルカスタマイズで構築しています。
そのため、店の屋号からロゴデザイン、内装にインテリアまで、ひとつとして同じものはありません。カフェにはバリスタが常駐し、利用する従業員は会社の福利厚生として、淹れたてのハンドドリップコーヒーやラテドリンクなどを手頃な価格で楽しむことができます。さらに使用するコーヒー豆も、各地にある10のロースターから複数をセレクト。利用者の好みに合わせてラインナップしています。
Gardenでは大手企業を中心に、新進のITサービスから老舗メーカー、大手町でオフィスビルを運営するディベロッパーと、これまで30ほどのプロジェクトを手掛けてきました。

──事業のアイデアは、どこから生まれたのですか?
青栁 CCO(Chief Culture Officer)として、デジタルマーケティングの会社に勤めていた頃ですね。働きがいのある組織づくりに向けて企業風土や人事制度、採用などの変革を進めていたあるとき、「会社でおいしいコーヒーを飲めたらいいのになあ……」とふと思ったのが最初です。
当時のオフィスにも、コーヒーメーカーや自動販売機はあったものの、それではどうにも物足りない。巷ではサードウェーブコーヒー*が流行し、コンビニコーヒーも定着しつつある時期でしたが、朝から晩まで仕事が詰まっていて、なかなか外に出る時間も取れませんでした。
- * コーヒー豆の個性や抽出法などにこだわってハンドドリップで一杯ずつ丁寧に淹れる、コーヒー文化の第3の波。2000年代に米国で本格化し、日本には2015年のブルーボトルコーヒー上陸を機に広く認知された。浅煎りが主流。
そんな中で一息つけるときに、オフィスにいながら香り高い、口当たりのいいコーヒーが飲めたとしたら最高じゃないですか。ヒントになったのはイタリアの「バール(カフェ)」です。コーヒー文化が盛んなイタリアでは、バールが市民の社交場となり、バリスタが人をつなげる役割を果たしています。
ならば、職場にバリスタが常駐するカフェをつくれば、社員の休憩の質が高まるのではないか。しかも仕事のつながりとは違う形で社員の交流も生まれ、パフォーマンスや組織エンゲージメント、組織力そのものもアップするのではないか。そうした考えから、望ましい組織文化の醸成を支える、コミュニケーションドライバーとしてのカフェサービスの提供を始めました。

──数ある飲み物の中でも、なぜコーヒーが職場の交流につながるのでしょうか。
青栁 まず1つには、ワークシーンとの親和性が非常に高い飲み物だという点ですね。朝はキレのあるブラックで、夕方はカフェラテに砂糖を入れてと、コンディションに応じて飲み方をアレンジできる。カフェインの覚醒作用でリフレッシュもできるし、糖質や脂質との相性もいいのでチョコやクッキーといったおやつとの組み合わせも楽しいですよね。
そして何より、コーヒーを淹れるときの豆を挽く音や辺りに立ち上る香りは、人を魅了する力があります。淹れ方にも個性が出やすく、人それぞれに好みがあるので話題も多い。コーヒーそのもののおいしさやライブ感が、人と人とのつながりをゆるやかに加速させるのだと思います。
私自身は日本茶も大好きで、専門店やカフェも手掛けていますが、オフィスに持ち込んだときに、コーヒーと同じように盛り上がる姿は今のところイメージできません。
コミュニティを媒介する“バリスタ”

──Gardenに相談される企業は、社内へのカフェの設置に何を期待しているのでしょうか。
青栁 「何となくカフェを置きたい」という企業から、「部署を越えた関係構築やチームビルディングに活かしたい」と考える企業まで、その入り口は本当にさまざまですね。以前はオフィスの移転やリニューアル、会社の経営統合や組織改編などのタイミングで問い合わせを受けることが多かったですが、最近は既存オフィスへの導入相談も増えています。
ただ、Gardenの成り立ちや理念を踏まえると、私たちが真にお役に立てるのは「組織コミュニケーションが活性化し、“いい関係”を築くことが、業績や経営にポジティブに働く」と確信している会社です。
これは私自身がCCOのときに感じていたことでもあります。言語化しづらい部分ですが、一緒に働いていて楽しい、この仲間とミッションを成し遂げたいという思いは、スキルとはまた別軸で組織に大きな影響を与えます。そうした相性のようなものは、「コーヒータイムを共にできる親密さ」ともたとえられるでしょう。
──カフェが“いい関係”の仲立ち役となるのですね。
青栁 コロナ禍を経てワークスタイルが多様化し、オフィスに求めるものが変わってきています。あえて対面で集まるから生まれる出会いのような、偶発的でやわらかなものを求める企業は増えてきていると感じますね。
それにはコミュニケーションが生まれる戦略や設計が欠かせません。しかしその性質上、オペレーションでは解決できず、経営効果も間接的なため、コストとみなされてしまうこともいまだ少なくない。そこで落としどころとして、コーヒーマシーンや自動販売機が選ばれるのかもしれませんが、ハードだけで行動変容を起こすのは非常に困難です。
カフェは少し肩の力が抜け、素の自分が現れやすい場です。そうしたタイミングでの出来事は、ときに予期しないインパクトをもたらします。またコーヒーも嗜好品ゆえ受け付けない人もいますが、お酒や煙草に比べたら多くの人に親しまれています。かつての喫煙室、あるいは飲み会が果たしていた機能をカフェに置き換えると考えれば、投資しやすくなるのではないでしょうか。

──ここまでのお話を踏まえると、バリスタの存在がオフィスカフェのカギを握りそうですね。
青栁 はい。当社の運営するカフェのバリスタは、コミュニティの媒体として、カフェのファンを増やし感動体験を届けることが最大のミッションです。
おいしくコーヒーを淹れられることも大事ですが、それ以上に人と関係を築くことが好きで、コミュニケーション力に長けていることを重視しています。そしてカフェの入る会社やビルで働く人たちに、“中の人”と思ってもらえることが大切です。そのためバリスタは、それぞれのカフェに合ったキャラクターを考慮して採用し、転勤も原則ありません。
接客上のマニュアルは設けていませんが、利用者とバリスタがなめらかにコネクトするように、お店に来る人の顔をできる限り覚え、あいさつは「いらっしゃいませ」ではなく「お疲れさまです」を使うといったガイドラインを設けています。オフィスという特定多数が集まる場所だからこそ、「いつものをご用意しますね」、「今日はお忙しそうですね」、「寒いですね、これで温まってください!」など、駅や商業施設にあるカフェチェーンとは違ったやり取りが生まれます。
バリスタたち自身も、ネームプレートに趣味を書いて話しかけやすくしたり、店内に自由にコメントを書けるノートを置いたりして、それぞれのカフェで独自の接客に取り組んでいます。こうして対話が生まれると、バリスタ自身もその会社への愛着が深まり、いい体験を届けようという意欲につながります。
また、バリスタとは別にマネージャーを配置し、導入企業の担当者と一緒にカフェの利用促進やコミュニケーション施策を考えています。アレンジは幅広く、ハンドドリップ体験会のようなカフェイベントから、スープやお弁当の提供、ビールサーバーの設置、あるいは社内イベントの会場としての利用などもあります。足を運ぶきっかけをいくつも仕掛け、従業員にとってのカフェのプレゼンスを高めていくのです。
コミュニティマネジメントをカフェで仕組み化

──オフィスカフェを導入した企業からは、どのような反応がありましたか?
青栁 まず、事業を始めて10年になりますが、これまですべてのお客様が契約を更新されています。組織のありたい姿を体現するうえで、オフィスカフェが貢献している証ではないでしょうか。実際に話を聞くと、導入企業のエンゲージメントサーベイでは全体のスコアが上昇し、自由回答では「同僚との会話が増えた」「他の部署の知り合いができた」など、カフェの名前を挙げたコメントもよく見られます。
またバリスタが従業員の相談相手として、絶妙な役割を果たしているという声も聞きます。いまひとつ調子が上がらない、ちょっと疲れてしまった、逆に少し自慢したくなった出来事とか、同僚や上司にわざわざ報告するほどではないけれど、誰かに言いたいことを話すのにちょうどよくて、利用者の活力になっているというのです。「Gardenのカフェは第二の人事だ」とおっしゃっていただくこともあり、非常にうれしく思います。
──まるでバリスタがコミュニティマネージャーのようですね!
青栁 カフェに足を運ぶ理由として、そこにいる人の魅力も大きいでしょう。けれどもコミュニティマネジメントの観点でいえば、属人化は望ましいことではありません。仕事柄、いろんな企業でコミュニティマネージャーの役割に当たる方と接しますが、異動などで担当が変わると、やはり組織も前任者の頃とは違った色になる。それがコミュニティ運営の面白いところでもあり、同時に難しさでもあります。
そこで、カフェという装置を用いてコミュニティマネジメントを仕組み化できれば、これまで築き上げてきたものを受け継ぐことができます。コミュニティ自体、人の営みによるものですから完全に同じとはいきませんが、再現性を高めることはできるでしょう。
仕事の多くがオンライン上で完結し、業務をこなすだけならリモートワークでも事足りる今、オフィスは「人が集まり、文化を培う場」としての価値が高まっています。採用力の強化やリテンションが経営の至上命令として求められ、ファシリティの充実は避けられません。ぜひそうした視点でも、オフィスカフェという選択を考えてみてほしいですね。