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次世代のリーダーに必要なスキル「EQ」とは? 測定方法やトレーニング法を解説

次世代のリーダーに欠かせないスキルとしてEQ(感情知能指数)が注目されている。「心の知能指数」ともいわれるEQについて、測定方法やすぐに始められるトレーニング法を紹介する。

リーダーに求められる感情への理解

次世代のリーダーに不可欠なスキルとして、EQ(感情知能指数)が注目されている。「心の知能指数」ともいわれるEQは、自己や他者の感情や衝動を理解して調整する能力だ。​​EQの高いリーダーは、組織をより良い方向へ導く力に長けているとされる。またEQは、トレーニングを行うことで、これから高めていくことが可能である。

本稿では、​​チームを成功に導く次世代リーダーに​​欠かせない能力とされるEQについて、その概念と測定方法、個人でも取り組めるトレーニング法について解説する。

EQとは?

EQとは、「感情知能指数(Emotional Intelligence​​t Quotient)」のことで、自己と他者の感情をうまく扱う力、いわば感情をマネジメントする能力を意味する。海外ではEmotional IntelligenceのみでEIと表現することが多い。

EQは、心理学者のピーター・サロベイ氏とジョン・メイヤー氏が1990年に発表した「Emotional Intelligence」という論文でそのフレームワークを提示し、注目を集めた概念モデルである。1995年に出版された、ダニエル・ゴールマン氏の著書「Emotional Intelligence:Why it Can Matter More than IQ(邦題:EQ こころの知能指数)」で紹介され、同書がベストセラーになったことで広く知られるようになった。

なぜ、EQが注目を集めたのか。それは社会的な成功をIQ(Intelligence Quotient:知能指数)だけでは説明できないことに人々が気づき始めたからだ。そうした経緯もあり、EQはIQと対比して語られることもあるが、実際には感情と知能は車の両輪であり、知能を生かすためにも感情の扱いが欠かせない。

EQをモデル化したピーター・サロベイ氏とジョン・メイヤー氏は、EQは下記の4つの因子からなるとしている。

(1)感情の識別:自分や他者の感情を認識したり、感情を表出したりする能力
(2)感情の利用:感情を促進するために感情を利用する能力
(3)感情の理解:感情について深く理解したり、分析したりする能力
(4)感情の管理:自分や他者の感情を管理する能力

このようにサロベイ氏とメイヤー氏のモデルでは、EQを認知能力としてとらえており、感情知能の「能力モデル」と呼ばれる。これに対して、感情知能を能力以外のパーソナリティや気分なども含めたより広範なものとして捉えた「混合モデル」がある。

EQを有名にしたダニエル・ゴールマン氏のモデルもそのひとつであり、同氏はEQを「自己認識」「自己管理」「社会認識」「人間関係の管理」の4領域でとらえている。

混合モデルにはこのほか、ルーベン・バーオン氏が提唱した「Bar-Onモデル」がある。Bar-Onモデルは、EQを構成する要素として感情や社会的なスキルのほか、楽観性や幸福感なども含まれるという考え方で、20を超える因子を「個人内スキル」「対人関係スキル」「適応性」「ストレスマネジメント」「気分」の5つに分類している。

EQとリーダーシップ

現代のリーダーには、メンバーのモチベーションを上げ、チームの雰囲気を良好に保つことが求められている。メンバーのメンタルヘルスの維持や離職率の低下も組織運営に重要な要素だからだ。これを実現するためには、自分とメンバーの感情を適切に扱うEQが欠かせない。

リーダーシップとEQの関係については、数多くの研究がなされている。それらの結果から、感情を適切に扱えるリーダーは行動とビジネス成果の両方を改善し、チームのパフォーマンスに好影響を与えることや、EQが効果的で変革的なリーダーシップと関連することが明らかになっている

EQがビジネスパーソンのスキルとして注目されるようになったのは2010年代からで、2016年には、世界経済フォーラムでまとめられた「2020年までに必要なビジネススキル」のトップ10の第6位にEIが選ばれている。

画像は世界経済フォーラムの>Webサイトより

また、2018年の世界経済フォーラムの基調講演では、中国アリババグループの創業者であるジャック・マー氏が「成功したいなら、高いEQが必要」と語り、グローバルな経営者がEQを重視していることを印象づけた。

EQの測定ツールとその評価方法

EQは後天的に成長させることができる能力とされる。能力を向上させるためには、まず現状を把握し、改善策を立てて、それを実行する必要がある。現状のEQを知るために、EQの測定ツールが多数開発されている。ここでは代表的なものを2つ紹介し、EQがどのように評価されるのかについて説明したい。

1. MSCEIT(Mayer-Salovey-Caruso Emotional Intelligence Test)

MSCEITは、ピーター・サロベイ氏、ジョン・メイヤー氏、デビッド・カルーソ氏がMulti-Health Systems社の協力のもとに開発したEQの測定ツールである。このテストは、同氏らが提唱したEQの4つの因子を測定することを目的として設計されている。

特徴は、主観評価ではなく、客観的な評価を行うところだ。つまり、設問を読んで、それに自分がどの程度あてはまるかをチェックしていくものではない。MSCEITでは、顔写真を見て、感情がどの程度表情に現れているかを答えたり、感情的な対立を含むシナリオを読み、解決のために有効な行動を評定したりして、その回答が一般成人や研究者とどの程度一致しているかを評価する。

自己申告ではなく、パフォーマンス・ベースのアプローチであるため、回答者が意図的に数値を上げようとするような場面、たとえば採用や昇格などの参考とする際にも適している。

2. EQ-i 2.0(Emotional Quotient Inventory 2.0)

EQ-i 2.0は、Bar-Onモデルに基づいてEQを測定するツールである。こちらは主観評価であり、オンラインで受けられる。自己認識、対人関係、意思決定、自己表現、ストレスマネジメントの5項目について評価され、総合スコアも算出される。

より客観的な結果を得るために、周囲の人に協力してもらうEQ-360というツールも提供されており、EQ-360による他者の評価とEQ-i 2.0の主観評価の結果を比較することで、より詳細なプロフィールが得られる。

EQを高めるためのトレーニング法

EQはトレーニングによって鍛えられることから、多くの企業からトレーニングプログラムが提供されている。ここでは、ピーター・サロベイ氏とジョン・メイヤー氏のEQモデルの4つの因子に沿って、個人ですぐに始められるトレーニング方法を紹介する。

1. 感情の識別

自分の感情を認識し理解するために、日常的に時間をとり、そのときの感情を記述するとよい。具体的には、1日のいくつかのタイミングでタイマーを設定し、タイマーがオフになったときに深呼吸をして感情を確認する、1日の終わりにジャーナリングを行うといった方法がある。ジャーナリングとは、思い浮かんだことをそのまま紙に書くこと。「書く瞑想」ともいわれ、感情を正確に表現できるようになったり、感情に関連する言葉の語彙を拡大したりすることにも効果があるとされている。初めは感情表現辞典などを活用してもよいだろう。他者の感情を知るために、周囲の人々を観察して、微妙な表情の特徴を識別したり、仕草から感情を推測する練習をすることも有効である。

2. 感情の利用

課題の解決や目標達成に必要な感情を自らつくり出せるようになるために、「ポジティブな言葉」と「ネガティブな言葉」をあえて使い、感情の変化を知る方法がある。ポジティブな言葉を使うことで有効な感情が生み出せることが実感できたら、できるだけポジティブな言葉を使うように心がける。

3. 感情の理解

感情の原因を探るために、感情の識別に加え、自分がなぜそのような感情になるのかを考え、理解する。イライラしたり、怒りがわいてくる場合、トリガーになるのは何なのかを把握する。感情と同時に行動も観察し、自分の感情が行動にどう影響しているのかを考察するとよい。そこまでができれば、さらに他人に与える影響を振り返り、改善方法を考える。

4. 感情の管理

衝動的な反応を避け、感情を適切かつ建設的な方法で表現できるようにアサーションのスキルを身に付けるとよい。アサーションとは、相手の気持ちや意見を尊重しつつ、自分の主張をしっかり行うコミュニケーション方法のことだ。具体的には、「あなたは〇〇だ」と非難するのではなく、「私は〇〇と感じています」や「私には〇〇のニーズがあります」というように、自分の感情やニーズを非攻撃的に伝えるなどである。視線や声のトーンなどの非言語的コミュニケーションに注意を払うことも重要とされる。また、リラクゼーションやマインドフルネスの技術を学び、ストレスを効果的に管理できるようになることも有効である。

 

EQを高めてチームのパフォーマンスを向上させよう

自分の感情を理解してマネジメントしたり、他者の感情を理解して効果的なコミュニケーションをとることは誰にとっても重要なスキルだ。特に自身のパフォーマンスを高めるだけではなく、部下の長所を引き出し、パフォーマンスの高いチームを育てることが求められるリーダーにとっては欠かせないスキルとなっている。EQを高めるために、まずは自分の感情を理解し、表現するトレーニングから始めてみてはいかがだろうか。