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仕事中の音楽も個人で選ぶ時代 ―「Spotify」を用いた仕事に〈効く〉BGMの再考

好きな音楽を聴きながら働ける時代になった今、BGMと仕事の生産性について見直す。

Culture

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飲食店や商業施設、病院や金融機関といった一般生活者向け空間において、来訪者に向けたブランディングやリラクゼーションを目的とした耳馴染みの良いBGMが当たり前の存在となって久しい。一方、オフィスにおいても、それと同じくエントランススペースでの企業イメージ想起に止まらず、コミュニケーション醸成や作業効率を後押しするものとして、音楽は執務スペースでも活用されていることに論を俟たないだろう。

昨今注目を集める、鳥のさえずりや雨音といったバイオフィリックデザインの効果に準える科学的論拠に基づく環境音をはじめ、時代に呼応したオフィス環境を検討する際に、音(楽)が働く環境の要素として意識する人々の声が大きくなったと言える。音(楽)の活用シーンは拡がり、もはや周知の事実にまでなった働く環境との関係について、世界最大のストリーミングサービス「Spotify」にて、仕事に〈効く〉をテーマにプレイリストを作成した経験を踏まえ再考したい。仕事に〈効く〉の真意とは?

音楽の捉え方は千差万別。当たり障りない、受け身な選曲が横行

音楽は、「音を楽しむ」の文字通り、嗜好に大きく依存する極めて個人的な娯楽であり、例え同じ楽曲を聴いたとしても、各人の好みやシチュエーション、気分や想像するイメージなど様々な要因から、その捉え方は千差万別が当然の代物だ。万人が等しく同じイメージを持つことは無いといっても過言ではないだろう。食べ物やファッション、芸術の類と近しいと言えば分かり易い。興味を持たない人間にとっては関係がない点も同じだ。

以上を前提とすると、働くシーンで有効な音楽の選択肢は、その場を共有する人々の心地好さと不快感を両端とする最大公約数を取らざるを得ず、世の中に溢れる楽曲数とは裏腹に思いの外限られてきたと言えそうだ。例えば、一家言持つ音楽家や著名人による選曲を拠り所とするものや、ヒット曲をインストゥルメンタル化した安直な音の寄せ集めといったところで数える指の多くは占められるのではなかろうか。

そもそも、オフィスの運用・管理を任される総務担当者に、「オフィスに相応しいBGM」といったお題をアイディアもなく十把一絡げに与えたところで、一部の好事家でもない限り、芯を食った提案も挙がらないだろう。提案を受ける側も適切な判断に疑問符が付く曖昧模糊な状況のため、当たり障りない有料放送のそれらしいチャンネル幾つかをピックアップして輪番で流してお茶を濁しているのが実情と想像する。また、担当者にオフィスBGMに対して前向きな意識があったとしても、自らの選択に自信を持てるほどの根拠を見出せず積極的に楽曲を選びたがらないことも潜在しそうだ。

もちろん、音楽の持つ定量的特性、つまりBPM(速い/遅い)や歌い手(男性/女性)、歌詞(母国語/非母国語)やリズム(生音/打ち込み)などを細分化したうえでの効果検証は側面としては大切だろうし、AIによるBGMサービスの実証実験の取り組みも一部で始まっているが、最大公約数を念頭に置いていることには変わりはないだろう。ただ、音楽が個人に紐づくことを鑑みれば、オフィスで働くすべての人の及第点を取りに行く考え方自体を見直す所に来ているのかもしれない。

加速度を増す働き方のパーソナル化。主体的にBGMを選択する時代が到来

かたや社内ではフリーアドレスやABW、こなた社外ではシェアオフィスやコワーキングスペースなど、近年の働き方のバリエーションと取り組みの拡充は目も見張るものがある。東京五輪を見据え東京都を中心に推し進められてきたテレワークはその最たるものだろう。奇しくも、史上初となる緊急事態宣言の発令にまで至ったコロナ禍で拍車が掛かり、意図せず在宅勤務へ移行した人を含め、2020年は個人的な働き方の最大化を迎えたエポックメイキングな年になったと言える。

就業時間に変わりはないものの、それ以外はある日を境に劇的に変化した。身支度を整え満員電車に飛び乗ることもなければ、オフィスに持参する飲み物を買うコーヒーショップの列に並ぶこともない。社内外問わずミーティングはオンラインで行われ、ビジネスチャットで手軽なコミュニケーションを図る。まさに自室がオフィスと化すのだから、自分にとって最適な環境を整えられるだろうし、整えたくなるのが自然の摂理だろう。

ご多分に漏れずBGMだってそうだ!これまでのお仕着せで匿名性高いBGMをスッカリ忘れ去る。無音だって構わないし、好みの楽曲を心地よい音量で制限なく流していても誰にも迷惑は掛からない。定量的に効率を上げてくれる〈根拠〉を否定はしないが、働き方のパーソナル化が進む中では音楽が自分の精神にどのように働きかけてくれるかの〈情緒〉に重きを置きたいのが本音だ。むしろそれにより効率が上がるなら願ったり叶ったりと、積極的に音楽ソフトを選別する人が増えただろう。レコード、CD、カセットテープといったフィジカルなものから「Spotify」に代表されるストリーミングサービスまで音楽ソフトの幅は広く、イヤホンからスピーカーまで再生するハードは個人の利用シーンにより様々だ。

これまでは人目を気にしてオフィスではイヤホンを取り出せなかった人も主体的にBGMを選ぶ契機となるだろう。2020年現在電話が携帯電話を差し、机上/自宅電話を固定電話と呼ぶようになったみたく、将来BGMが個人BGMを差し、オフィス/店舗BGMを公共BGMなんて呼ぶレトロニム化する日も近いかもしない。

不特定多数に向けたBGMは、ストーリー性の共感が肝

一方でパーソナルな環境に馴染んだ個人に向けたBGMで重要なのはストーリー性だ。外音を遮断することに躊躇がなくなるパーソナル化において、1人でイヤホン、オフィスで複数人など、どんな環境でBGMを耳にしているかは問題ではない。総務といったBGMを検討・提供するサイドは、ただ選曲するのではなく、聴く/聴いて欲しいシーンを想像するレトリック感覚を研ぎ澄まし、聴き手の食指が動く一連のストーリー性を持たせたプレイリストを作ることが肝になるだろう。例えば、時間帯や天候といった不随意、集中やリラックスといった随意のテーマに合わせた楽曲のコンパイルだ。テーマに沿った楽曲に聴き手が共感すれば万事問題はないし、最初に共感が生まれなかったとしても、ストーリーを持たせた選曲により滞留を図り、流れる楽曲からテーマを想起する演出として機能させる可能性を残すだろう。

<プレイリスト例>
Morning Sunshine ; 09-12 by FC(朝陽を背に駆け出す午前の仕事に効く39曲)
Afternoon Sunbeams ; 12-15 by FC(注ぐ日差しに力漲る午後の仕事に効く34曲)
Calm Eventide ; 15-18 by FC(穏やかに1日を締める夕方の仕事に効く41曲)
Night Ruler ; 18-24 by FC(自らを解放充足する金曜日の夜に効く35曲)

また、プレイリスト自体、場を構成する仲間と共同で作り上げ、ストーリーを共有するのも一手だ。「Spotify」には、〈コラボプレイリスト〉機能があり、時間・場所を問わずひとつのプレイリストを作ることができる。コラボプレイリストの最大のメリットは、仲間の嗜好を理解するだけではなく、所属する組織体としての共通した価値観を醸成するきっかけになるだろう。

<プレイリスト例>
Worker’s Famous Supreme Team by FC(働き方提案に携わる社員250名が選ぶ仕事に効く196曲)

新型コロナウイルスの収束を願いつつ、オフィスで仲間と共に過ごすことを念頭にコラボプレイリストを手掛けてみてはいかがだろうか?

     

この記事を書いた人:Yuichi ITO

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