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<現地レポート>ハイブリッド化が進むフランス企業の働き方と、最新ワークプレイス事情

コロナ禍よりも前から、リモートワークの導入が進んでいたというフランス。ハイブリッド化する仏企業の働き方と求められるワークプレイスの在り方について、パリ在住のジャーナリストがレポートする。

ハイブリッド化するフランス企業の働き方

フランスにおいては、新型コロナウイルスによるパンデミックが訪れる前からリモートワークが導入されていた。コロナ禍には政府によって週3日以上のリモートワークが義務化されたが、その後2022年2月に義務化は終了。フランスの事業用不動産コンサルティング専門企業Parellaの調査(※1)によると、最近では、従業員の70%、管理職の87%が平均して週2日のテレワークを行っているという。
こうした働き方の変化に伴い、オフィスの役割や設備にも変化が求められるようになった。現在、フランス企業はどのような働き方とワークスペースを必要としているのだろうか。最新のデータや統計から考察する。

人材確保のための戦略的課題となる職場環境

先述の調査では、フランス企業の管理職の61%が「従業員をオフィスに戻らせることに問題はない」と回答している。また、従業員の61%も同僚との対面交流をオフィスに戻る主な動機として挙げている。
さらに、数年内にオフィス移転予定がない企業のうち、オフィススペースを縮小したいという意向があるのはわずか1%であることもわかった。もはやオフィスの賃料を軽減するための床面積の削減は優先事項ではないのだ。一方、今後2年以内に移転を検討している企業は43%あり、そのうち8%はさらに広い空間と現代的なオフィスへの移転を計画している。オフィスの環境は、半数以上の管理職と従業員にとって依然として大きな関心事項となっており、次いで空間設計、設備・家具が高い関心を集める結果となった。

コスメティックから衣料品などを手広く経営するGroupe Rocherのオフィス
酒造メーカーのRémy Cointreauグループ本社の新社屋内にある社食レストラン(画像は2点とも©Thibaud Poirier)

フランス企業で働く81%の管理職が、職場環境は従業員の離職を防ぐための戦略的課題であると考えていることも調査から明らかになっている。管理職の56%が良好な職場環境はコンペティティブのために必要であると回答しており、その割合はイル・ド・フランス(首都パリを中心とする地域圏)では65%、従業員が250〜500人の企業では67%にまで上がる。
また、人材獲得の手段として職場環境を重視する企業は72%、今後もその企業で働き続ける理由として立地条件を挙げる従業員は75%にものぼる。このほか、職場でのウェルビーイングを向上させるための有効な手段を問う設問に対し、従業員からは、ケータリング施設、スポーツなどのアクティビティ、メンタルヘルスやウェルビーイング関連のサービス、仮眠室などが挙げられた。これらの調査結果は、戦略的に職場環境を利用したいと考えるマネジメント層にとって重要な示唆となるだろう。

※1:事業用不動産を利用する企業のための事業用不動産コンサルティング専門企業Parellaにより発表された「働き方とワークスペースの変化に関する第6回バロメーター(2022年版)」は、CSA Research研究所が従業員50人以上の企業の管理職300人と従業員500人を対象に実施した全国調査に基づいている。

拡大するコワーキングスペースの需要

従業員の希望をかなえ競争力を高めるため、コワーキングスペースを活用するフランス企業は多い。Ubiq社が行った調査(※2)によると、フランスにコワーキングスペースが初めて誕生したのは2008年だが、その数は現在3420カ所を超え、需要は着実に伸び続けていることがわかる。
コワーキングスペースが置かれているのは主にイル・ド・フランスだが、近年はリール、マルセイユ、トゥールーズなどの地方都市にも進出している。2024年前半までに、フランス国内のコワーキングスペースのうち100万平米を市場大手の25社で占める見込みだ。さらに不動産大手も顧客のニーズに合わせ、自社ストックをフレキシブルオフィスへと転換することを検討している。なかにはより柔軟性の高いサービスを提供するため、自社ブランドを立ち上げるケースやコワーキング運営企業と手を組むケースもあるという。今後、フランスのほぼすべての主要不動産事業者がフレキシブルオフィス事業に着手することは、もはや疑いの余地がないだろう。また、現在では無名のコワーキングブランドが、地方都市にて成長と発展を続けており、将来的にはフランスの中央集権型社会に変化をもたらすことも考えられる。
こうした新たな動きについて、Ubiqの創設者であるメディ・ジリ氏は、「コワーキングスペースはホテル業界をモデルに従来の形から一歩進み、サービスの提供、コラボレーションの重視、ユーザーへの尊重が組み合わさって大きな革新が生まれた」と、企業の広報リリースで述べている。
さらに同氏は「人を中心に考えたワークスペースになっているからこそ、オフィスに戻ることに真の意味を見出すことができる」とオフィス回帰の流れを示唆し、コワーキングスペースの需要が伸び続けていることは市場の動向が示す通り、とまとめた。

フレキシブルオフィスの新形態として注目を集める「マネージドオフィス」

コワーキングスペースの需要が拡大する一方で、マネージドオフィス(Managed Office)を選ぶ企業も増えている。マネージドオフィスとは、コワーキングスペースにヒントを得てつくられたさまざまなサービスと柔軟性を兼ね備えたオフィスのことで、企業ごとに独立したオフィスが設けられている。個人用のワークステーションが少ない代わりにミーティングなどのための共有空間が多くとられており、従業員が出社したくなるような社会的つながりを感じられる空間になっているのが特徴だ。
Ubiqの調査によると2023年には67%の成長が見込まれており、一部のコワーキングスペース運営事業者は、要望に応じて施設の一部をマネージドオフィスに転換することも示唆している。ハイブリッドワークの普及に伴ってオフィスに求められる役割が変わったいま、マネージドオフィスはオフィス市場の新しい分野としての地位を確立しつつあるのだ。

パリ市内14区に位置する Now Connected rives de Paris
パリ市内13区に位置するWe Work Avenue de France
パリ市内10区に位置するBOPE(画像は3点ともにUbiq提供)

今後、フランス企業に選ばれるオフィスとは

新型コロナウイルスによるパンデミックは、企業のフレキシブルオフィス導入を加速させた。以前は床面積の削減のために検討されていたフレキシブルオフィスが、今や企業の競争力向上の一要素として使われるようになったのだ。
2022年にUbiqのプラットフォームでオフィス空間を探していた企業の68%は、事業の成長による従業員の増員を理由としていた。しかしそうした企業は、実際の従業員数よりも2割少ない席数が確保できればよいと考えているようだ。
いまや、企業はテレワークの普及によって、10人の従業員に対し8つのワークステーションを用意すればよくなった。その代わりに、個人作業のためではなく、出会いやコラボレーション、またそこから生まれるセレンディピティを生む場として利用可能なオフィスを用意することが期待されている。その傾向はますます拡大するだろう。そうした企業のニーズにこたえ、柔軟なサービスを提供できるコワーキングスペースやマネージドオフィスが存在感を増していくことになるのではないだろうか。

※2:フランスでフレキシブルなオフィスソリューションを見つけるための専門家プラットフォームを運営するUbiqが2022年11月に発表したバロメーターの結果。Ubiqはフランスの主要都市に拠点を置き、あらゆる規模の企業の意思決定者のニーズに合った空間リサーチをサポート。全国にある3,500以上のワークスペースを調査している。

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