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ハイブリッド・ワークはどのように進むか:その準備と期待 | WORKTECHレポート

ハイブリッドなワークモデルは、新しいトレンドや知見をもたらしてくれる。本記事では、それらを活用して、未来のワークプレイスに向けて最善の準備をする方法について考察する。

WORKTECH21 Tokyo:ワークプレイスの未来

2020年、あらゆることが不確実になり、働き方も含め、私たちはこれまで「普通」だと考えてきたものの多くを見直すこととなった。例えば、フルタイムのオフィス勤務から、在宅勤務あるいは両方をミックスした働き方(ハイブリッド型)への移行がそうだ。そうしたハイブリッド・ワークが一般的になったことで、ある傾向が明らかになってきた。

先日行われた「WORKTECH21 Tokyo」では、各界のリーダーたちが「ワークプレイスの未来」「不動産」「テクノロジー」「イノベーション」について意見を交わした。

どのセッションにも共通したトピックが、「ハイブリッド・ワークの未来」だった。本記事では、この新しい働き方の実現に向けて、私たちはどのように準備をすればよいのか、また何を期待するべきか考察していく。

魅力的なオフィスとは 

在宅勤務を快適に経験したことで、多くの人がパンデミック後も続けたいと望んでいる。ワーカーの職場での体験について調査するLeesmanのレポートによると、従業員の37%が「アフターコロナでも、オフィスに行くのは週0~1回だけにしたい」と回答している。これを受け、企業としては「どうすれば従業員にオフィスに戻ってきてもらえるのか」「どうすれば自宅よりもオフィスでの体験をより価値のある優れたものにできるのか」について熟考しなければならないだろう。

画像は Leesman Workplace 2021 Reportより

オフィスに戻りたいと思うかどうかは、各人のオフィスでの体験に大きく左右される。LeesmanのLmiスコア(従業員のオフィス体験が優れていることを示す指標)が高いオフィス(70点以上)では、働く人の43%が「週4日はオフィスで働きたい」と回答している。しかし、Lmiスコア70点以上のオフィスは、調査対象の24%に過ぎない。つまり、ほとんどの従業員は基準未満の環境で働いており、自宅勤務の割合を増やしたいと考えていることがわかる。 

では、人々はなぜオフィスに来たいと思うのか。そこには、コラボレーション、セレンディピティ(偶然の出会い)、コミュニティや文化とのつながりが期待できるからだ。とはいえ、そればかりがオフィスの役割ではない。オフィスでは、ひとりでじっくりと集中して仕事をする必要もあるだろう。したがって、静かなスペースを確保することも重要になる。

Clive Wilkinson Architectsのキャロライン・モリス氏とアンバー・ワーニック氏は、このトピックをさらに掘り下げ、あらゆるワークプレイスに必要とされる3つのキー・スペースについて語っている。その3つとは、「クール」(静かな空間) 、「ホット」(アクティブな空間)、「中間」(その間となる空間)というものだ。

「クール」スペースには、デスク、ライブラリー、リモートポッド、ウェルネスルームといった設備が必要だ。「ホット」スペースには、コラボレーションを促進するような機能を持たせたい。例えば、プラザ(異なる部門の人たちが集うソーシャルスペース)、多目的ルーム、ピッチルーム、チームルームなどだ。「中間」スペースには、公園、ブース、レセプションエリア、屋内通路などが含まれる。

建築事務所BIGのパートナーであるアンディ・ヤング氏は、未来のワークプレイスはさらにパーソナライズされるだろうと指摘する。具体的には「音響効果の向上」「照明のバリエーションの増加」「トイレ施設の多様化」「自転車やスクーターといった交通手段のオプションの増加」「柔軟なデザイン」があげられる。

仕事と生活の一体化

仕事と家庭生活の境目はますます曖昧になってきている。Microsoft Work Trend Indexのレポートでは、73%の人が「フレキシブルな働き方を続けたい」とする一方で、67%の人が「チームと対面で仕事をする時間を増やしたい」と考えていることがわかった。マイクロソフト社のCEOを務めるサティア・ナデラ氏は、これを「ハイブリッド・ワークのパラドックス」と呼ぶ。つまり、私たちは、自宅で仕事をする働き方と、同僚との共同作業のために時々出社する働き方の両方を得たいと願っているということだ。

では、このパラドックスを解消するにはどうすればよいのか。その解決策の一つが、次世代インターネットと呼ばれる「メタバース」だ。これにより、同僚との「偶然の出会い」が増えて、在宅勤務の体験が様変わりするだろう。また、バーチャル会議は現実と変わらない感覚になり、従業員が気軽に会議に参加できて、コラボレーションもしやすくなるはずだ。 

コクヨワークスタイル研究所の所長を務める山下正太郎氏は、パンデミックの影響による「パッション・エコノミー」の拡大に着目する。パンデミック期間、多くの人々が自宅で過ごす時間が増えたことで、仕事の合間に情熱(パッション)を傾けられるプロジェクトを追求することができた。その結果、Twitch(ライブストリーミング)、Udemy(オンライン学習)、GoFundMe(クラウドファンディング)などのプラットフォームが成長した。これらは今後も成長を続けるだろう。オフィスへの通勤時間、仕事帰りの飲み会や食事会がなくなったことで、これまで時間がなくて諦めていたことに取り組む時間ができたのだ。

「パッション・エコノミー」に関連して、もう一つパンデミックが影響したものに「大辞職」がある。これは、燃え尽き症候群を理由に多くの人が仕事を辞めた、あるいは辞めようとする現象のことだ。人々は、自分の好きなことに時間を使いたい、情熱を追求したい、もっと柔軟になりたいと考えている。したがって、雇用主はこの新しい考え方に適応し、従業員の全体的な幸せを優先しなければならない。

ワークライフバランス推進を導入する企業の一例として、Citigroupがあげられる。2021年3月、同グループは、従業員のZoom疲れを防ぐことを目的に「Zoom-free Fridays」という方針を導入した。

もう一つの例として、ヒューレット・パッカード社がある。同社では、従業員に「Headspace」という瞑想アプリの導入を勧めている。これまでに9000人以上の従業員がアプリを試し、アプリの使用時間は50万分以上に達しているとのこと。ほんの数分間の瞑想であっても、従業員のメンタルヘルスを改善させ、仕事から離れさせるのに役立っている。

このほか、オフィスと家庭の両方に向けて、ワーカーの生活向上のための新しいツールやテクノロジーが登場している。

なかでも「Codi」は、仕事と生活の境界が曖昧であることを示す好例と言える。これは、WeWorkとAirbnbを組み合わせたようなサービスで、「世界初のハイブリッド・オフィススペース・プラットフォーム」を謳っている。常に自宅で仕事をしたいわけではないが、遠くのオフィスには通いたくないという人のために設計されたものだ。企業はハイブリッド・ワークモデルの一環として導入を始めており、従業員が希望する場合には最寄りのワークハブに行くことができるというフレキシブルな要素も加えられている。

複合現実とインテリジェント・ワークプレイスが基準に

AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、XR(拡張現実)などのスマートテクノロジーと複合現実は、ハイブリッドなワークモデルを持続可能にする鍵となる。

マンハッタンのダウンタウンにあるAccenture社の新オフィス「One Manhattan West」では、インテリジェント・ワークプレイスを採用している。総合的に統合されたテクノロジーを活用して、次世代のオフィス体験を実現するものだ。ここでは、インタラクティブなデジタルサイネージ、スマート照明、スペース予約プラットフォーム、スペース利用分析、スマートロッカー、ハイブリッド・コラボレーションシステムが搭載されている。

そのキー・テクノロジーの一つである「デジタルツイン」では、どのエリアが使われているのかを表示するヒートマップによってオフィスの使用状況を追跡できる。また、同社は従業員向けに独自のモバイルアプリを用意しており、これによって従業員はオフィスに関する最新情報を取得できる。

スマートワークプレイスを実現するロンドンのThe Hickman社も、同様のテクノロジーを採用している。使用されるモバイルアプリでは、ユーザーが手のひらでオフィスでの体験をコントロールできるようになっている。

WORKTECHアカデミーのディレクターを務めるジェレミー・マイヤーソン氏は、多くの企業がVRやARといった複合現実に対して資金の投入を始めていると指摘する。例えば、英国の従業員にVRヘッドセットを与えたPwC社や、VRオーディトリアムで実験を行っているFidelity社といった企業だ。

JPモルガン・チェースのプロダクトマネジメント&イノベーション担当エグゼクティブディレクター、アンディ・レプトン氏もまた、複合現実について自身の見識を次のように語る。「複合現実は、ワークプレイスの構造やデザイン、ウェルビーイングやコラボレーションにいたるまで、ワークプレイス全体を変貌させることができる」

以前は、計画段階では建物のデジタルモデルをただ眺めるだけであったのが、今ではVRやAR技術によって、デジタルモデルのなかを仮想的に歩くことができ、完全な3D体験が可能になった。従業員自らがデジタルウォークスルーを経験して、計画にフィードバックすることもできる。また、建築段階では、ドローンを使って外観を確認したり、ロボットを使って建築の進捗状況を撮影したり、潜在的な問題を発見したりすることも可能だ。

ビルのメンテナンスに関しても、ARを使って、良好な状態かどうかを確認し、修理に必要な技術やデバイス、IoTを探すことができる。メンテナンススタッフが何か問題を発見した場合にも、ARを使えば、自分が見ているものをほかの人に正確に見せられる。誰かが物理的に参加したり、写真をやりとりしたりする必要がなくなるのだ。

AR技術は、モニターを大きくして作業しやすくするなど、生産性の向上にも役立つ。Lenovo社は最近、最大5つの仮想ディスプレイを投影するメガネを発売した。氏名や役職といった情報をその人の頭上に重ねて表示することも可能だ。オフィスで動き回ることが多い人や、新しい顧客に会うことが多い人、ハイブリッド・ワークをする人の助けとなるだろう。

VRは、ウェルビーイングにも貢献する。従業員が仕事の環境から離れて、どこか別の新しいリラックスできる場所に自分を移動させることができるためだ。また、リモートで仕事をしているときでも、自分のスペースに同僚を連れてくることができるため、コラボレーションにも便利だ。

「デジタルの平等」は、複合現実型ワークプレイスのもう一つの重要な側面だ。物理的にオフィスで会議をしている人に比べると、リモートで仕事をする人はどうしても不平等な経験をすることになる。ハイブリッド・ワークを機能させるためには、どこで会議に参加しても、誰もが同じようにすばらしい体験ができるという意味での「デジタルの平等化」が必要だ。

その点で、Google社は特に優れた取り組みを行っている。同社では、半円状に設置された「キャンプファイヤー」と呼ばれる会議室に、部屋にいる人と同じ高さと角度のスクリーンを設置している。リモートの人も実際に参加する人も、同じものを見て体験できるように設計されているため、物理的リアリティとバーチャルリアリティのあいだにシームレスな流れをつくり出せる。

仕事の未来:オフィスは有意義かつインテリジェントで、生活に溶け込むものに

「WORKTECH21 Tokyo」では、ワークプレイスの未来と、それに向けて私たちがどのような準備をすればよいかについて、多くの示唆を得ることができた。

多くのワーカーがリモートワークを好むようになった今、私たちはオフィスをより意味のあるものにし、従業員が付加価値を得られるような意図的な場所にしなければならない。未来のオフィスでは、さらに多くの複合現実やインテリジェント・テクノロジーが採用されるだろう。これによって、オフィスでの体験はさらに統合され、協力的で安全な環境になるはずだ。また、仕事と生活の境界線が曖昧になっていくことで、この新しい現実に対応するサービスやプログラムがさらに増えていくことは明らかだ。

この記事を書いた人:Worker's Resort Editorial Team