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副業大国ベトナムから学ぶ、日本での理想的な副業とは

[April 23, 2019] BY Kazumasa Ikoma

働き方改革における注目トピックの1つに挙がる副業。「兼業」「ダブルワーク」「パラレルワーカー」といった言葉も同時に耳にすることが多くなり、副業を認める企業は今も増えている。

しかし、この副業解禁の流れに懸念を持つ企業がまだ多くいるのも事実。2018年9月にリクルートキャリアが行った「兼業・副業に対する企業の意識調査」によると、兼業・副業を推進または容認する企業は前年比5.9ポイントアップの28.8%となったが、禁止する企業(71.2%)がまだ主流。禁止の理由には、「社員の長時間労働を助長する」「労働時間の管理・把握が困難」「情報漏えいのリスク」等が挙がる。

副業を実際に行う人の割合も低い。総務省統計局が昨年7月に公開した「平成29年就業構造基本調査」によると、有業者に占める副業をしている人の割合はまだたったの4%と、日本での副業普及にはまだ遠い道のりがあるようだ。

この問題を深掘りするため、今回Worker’s Resort編集チームは、労働法で副業の権利を認め、すでに労働人口の5〜6割が副業をしているという副業大国ベトナムで取材を実施。日本で期待と懸念が入り乱れている副業の実態について、その先進国であるベトナムで働く人から話を聞いた。本記事では、その中でも特に興味深かった3人の副業事例を紹介。さらにそのベトナムと日本の実情を照らし合わすべく、日本の副業事情に詳しいナレッジワーカーズインスティテュート株式会社代表取締役の塚本恭之さんからも話を伺った。

まずはベトナムで取材した人の中から3人の事例を紹介する。

Aさん:人事担当(本業)× 児童英語教師(副業)

1人目は本業で企業の人事、副業で児童向けの英語教師をやっているという女性。人事を本業にしながらも人脈を広げたり、知識を共有したり、また人を教育するという自身のニーズをより満たすために、副業として英語を教えているという。

本業と副業でまったく異なる仕事分野であるため、英語を教えるという専門知識や臨機応変に状況に応じれる対応力、また子供の気持ちの読み取り方などは新たに身につける必要があったというAさん。しかし、そこで得られたスキルや人脈を活かし、本業の人事でも社員の対応方法を含む社内コミュニケーションが上手に取れるようになったそうだ。

副業に費やす時間はもともと週に5時間程度だったが、本業で転職中だったことから、取材を行った時には週に20時間にもなっていた。肉体的にも精神的にも疲労は溜まるが、本業と副業の両立で体調を崩した時はあくまで自己責任だという認識で頑張っている、とAさんは語る。

そこまでして本業と副業を両立させようと努力するのも、副業をキャリアにおける「自分への投資」と見ているからだという。投資にはメインとサブがあるように、投資先の分散でリスク対策を行う。本業での変化があれば事前に準備をし、予備となる副業を活用する。メイン分野の利益や得られるものが自分が期待していたほどない場合、他の魅力的な分野に投資をする。そして将来性のある仕事へと変えていき、自身のキャリアを築いていくのだという。自身の追い求める職業に初志貫徹するというよりも、時代の潮流に合わせて変幻自在にキャリアを変えていく生き方をしているようだ。

安定を求める人、または今の自分の置かれた状況を十分だと満足している人に副業は向いていないと彼女は語る。投資家と同じで、挑戦的な姿勢で自分の潜在能力を開拓・発揮したいと思う人こそ副業は合うと自身の経験から教えてくれた。

Bさん:人材派遣会社社長(本業)× 不動産投資家(副業)

2人目は本業で人材派遣会社の社長、副業で不動産の投資を行う男性。ビジネスオーナーをしながら投資にも手を出す敏腕経営者の話はちらほらと耳にすることがあるが、彼もそういう人間の1人だ。

本業と副業の両立のやりがいは、とにかく多くのお金を稼ぐことだというBさん。ワーク・ライフ・バランスもワークが80%、ライフが20%とあまり良い状態とは言えないと自身で語る。むしろワーク・ライフ・インテグレーションに近い生活であるようだ。

Aさんと同じように状況に応じた臨機応変な対応力を身に付けたいと語るBさんは、時間と目標のプレッシャーの下で成果を出す能力を副業の投資でも鍛えているという。本業と副業の明確な時間の区切り方はなく、両方を同時に行い、優先度が高い作業をピックアップするという仕事の進め方を行う。

将来は総合経営会社を作ることだといい、様々な分野にチャレンジすることが副業の良さだとBさんは語る。自社社内で副業をする際の注意事項などのルールは特に設けていないそうだ。自社の社員にも積極的に副業を促し、自分のように能力開発を行ってほしいと考えているように見受けられた。

Cさん:デザイナー(本業)× デザイナー(副業)

本業・副業ともにデザイナーとして活躍する人は、Cさんを含め今回の取材で複数人見受けられた。彼らのように、本業以外の時間でもデザイナーとして経験を得たい、または異なる分野でのデザイン経験を楽しみたいと考える人は多くいるようだ。まったく新しい知識やスキルをゼロから学ぶことなく経験・収入アップを狙えるのは、彼らのような職業で副業を行う際のメリットの1つだ。

Cさんが副業を通じて得られたものは、営業経験だという。副業では顧客や業者とのやりとりを自身で行うため、本業のセールス部門の苦労を理解できるようになったと語る。結果として本業の方でよりチームワークを発揮できるようになったそうだ。副業の経験が本業に寄与する理想的な話だ。

本業の仕事を完了させてから副業を行うというCさん。ベトナムでは本業の勤務中でも時間の空きがあれば副業をちゃっかり行う人が多い中、しっかりと線引きを行って本業・副業を両立させている。さらにワーク・ライフ・バランスを保つために夜7時半以降は仕事をしないというスタンスで、今回の取材でも「自身の生活リズムを保てている」と回答した数少ない人の1人だ。本業・営業の仕事量バランスは本業8:副業2のバランスで行い、基本的に友人からの依頼で仕事が増える機会があってもそれを維持することを優先するという。

最終目標として、自分の手がけたデザインを世に広め、自らの存在価値を強く感じられるようになることだとCさんは語る。自分が得意とするスキルを使って、または興味の強い分野において自身の作品を世に広められる副業は、デザイナーのようなクリエイティブ人材の冥利に尽きる働き方制度だ。

ベトナムの事例から考察できること

今回の取材を通してベトナムで働く人の副業に対する様々な意見を聞くことができた。回答者はそれぞれ企業に依存することなく、個人のキャリアに必要なスキルや知見、経験を重視して副業先を選んでいることがわかる。

そもそもベトナムで副業が普及しやすい背景の1つに、欧米企業によく見られるような本業の仕事内容を明確化した「ジョブ・ディスクリプション」の存在が挙げられる。社員が定められた仕事内容をしっかりとこなしていれば企業はそれ以外にはあまり口出ししない、という企業と社員の関係性が基盤にある。この状況で、上記のように社員が自由に副業を行う環境があるという形だ。

現在の日本企業のあり方とは根本的に異なる話ではあるが、それでも日本が参考にできるポイントはあるだろう。そこで今回のベトナム取材から以下の3つのポイントに絞って日本での副業事情を考察したい。

  • 企業が認めやすい副業とは何か
  • 情報漏えいのリスクをどのように捉えるべきか
  • 副業社会でワーク・ライフ・バランスの考え方は適切か

日本で副業やプロボノ(職業上持っている知識やスキル、経験を活かして社会貢献するボランティア活動のこと)を通じて人が持つナレッジの共有を推奨する塚本さんに日本での事例を交えつつ考察してもらった。

ナレッジワーカーズインスティテュート株式会社代表取締役・塚本恭之さん

企業が認めやすい副業とは何か

ベトナムではどんな副業も自由に行うことができるが、やはり企業にとって好ましい副業とそうでない副業が存在する。例えば日本でも副業解禁を公言していないが副業を暗黙に認めているという企業がいくつかあり、彼らの懸念は「ただ疲労を蓄積するだけで本業にメリットのない副業はして欲しくない」というもの。ある程度本業にも寄与できる副業であると企業側も解禁を考えやすいが、その本業と副業の適度な距離感を知るというのはなかなか難しい。

副業が本業と近い業種である場合、ワーカーは持っている知識を活かしながら副収入を得られる一方、企業としては本業との競業や会社を通さないで個人に直接仕事の依頼が通るという懸念を持つ。一方、単なる副収入だけを目的とした副業であまりにも本業と異なる仕事は、上に挙げた「ただ社員の疲労を蓄積させるだけ」になりかねない。

今回Cさんのようなデザイナーの例以外では、基本的に本業とは違う業種を副業として行う人が多く見られた。しかし、彼らも本業で得たスキルや知見を副業で活かし、また本業にリターンするという複業をしていることがわかった。2つの仕事を通じてキャリアの幅を広げるという、理想的な副業生活を実践する人が実に多くいることを、この取材を通じて筆者は率直に感じた。

塚本さんによると、これは現時点の日本でも同様のケースが多いという。単に自分の今持っているスキルを活用した副業よりも、自分の得意を活かしつつ少し新しい文脈の仕事につく副業の方が新しいスキルや知見がつくことから、副業を自分の良い“ストレッチの場”にできるかどうかが副業選択のポイントの1つである、とのこと。

塚本さんの知人のある方は、自身のプロボノの経験を機にワークショップイベントを行う組織を副業で立ち上げた。ワークショップイベントで多様なゲストや参加者との交流があり、その人的ネットワークを本業ビジネスである事業企画に活かせているそうだ。その方は現在は副業で起業にまで至ったという。

またある方は、現役である人事職の知見をNPOのマネジメント活動に活かしている。NPOの人的マネジメントは実は企業よりも難しい点があり、どのように人的リソースを引き出すか、スキルを活かしながら、自身も学びになっていると語った。

今回取材に答えてくれたベトナム人のような、本業と副業の関係性をしっかりと整理して働ける人こそ、今後日本でも求められる副業社員の模範だろう。今後日本で副業解禁を検討する企業は、社員がどのようなスキルを学びたいか把握するのも、社員の副業を上手にコントロールする方法の1つかもしれない。場合によっては企業がより適切な副業先を社員にアドバイスすることもキャリア相談という観点からあり得る話だ。

情報漏えい等のリスクをどのように捉えるべきか

副業を認める環境の中で、本業内で副業をどのように取り扱うか注意事項やルールを設けている企業は多くあると筆者は推測していたが、ほとんどの回答者がそういうルールや会社からその説明を受けた経験は一切ないと答えた。1人のみ「勤務時間中の副業は禁止」「勤務時間外でもオフィスに残って副業をすることも禁止」と伝えられたというが、それも上司から口頭で言われただけだという。

副業について日本で懸念される問題の1つに情報漏えいのリスクがあるが、それについてもベトナムでは何も触れられていないことが興味深かった。情報漏えいに関する問題は、先に触れたベトナムのジョブ・ディスクリプションに基づいた企業と社員の関係性において、副業の有無に関係なく守られるべきもの、と捉えられているのだろう。ベトナム国内で副業による情報漏えい問題が指摘された話はまだあまり聞かない。

日本における副業でも現時点で情報漏えいの大きな問題は発生していないのでは、と語る塚本さん。しかし日本で現在副業している人は会社としっかりと交渉した上で、本業とは多少異なる事業をしている人が多いからではないかと推察している。

続けて塚本さんは次のように語る。

本業との類似の業種では確かに情報漏えいのリスクは高まる可能性がある、特に新しい組織に早く馴染み、組織に貢献したいという意欲が強いほど、有益な情報を提供しようとし、情報漏えいをするリスクの可能性があります。

ただ、これは転職も同様のリスクを包含しています。副業の場合には所属企業に現在も属していますので、情報漏えいのための罰則や規約を設けるなどすれば、むしろ副業の方がリスクヘッジなどの対策ができるのではないかと思います。多くの企業は副業を許可制にしているため、副業の方がリスクは低減できるという考え方もできるでしょう。

実際に日本では転職が副業よりも活発さを増している。その影響で人材離れや企業の管理下にないところでの情報漏えいが懸念されるようであれば、むしろルールを明確化した上で副業を解禁した方が今の企業にとって得策だろう。

塚本さんは日本で起きた事例を振り返る。90年代後半、大手企業が社員を米国大学にMBA留学させることが流行ったが、帰国後の処遇にあまり差をつけなかったためか、MBAを取得した多くの帰国人材が企業を去り転職した事例が多くあった。他方、最近は自費で国内の大学院に行く人や資格などを取る人などは、会社に内緒にしている人の話を耳にすることも多い。つまり、活躍したい、キャリアを真剣に考えたいと思う人材ほど、社外に多くのチャレンジを求める傾向があるようだ。

有能な人材は縛り付けるほど離反してしまうのではないかという懸念がある中で、企業はスキルも志も「高度な人材」を抱え込むのではなく、むしろ「シェアする」という発想に切り替えて、副業含めた働き方の自由度を高める必要があるのでは、塚本さんは考える。日本でも人材流動性が高まる中で、企業がどこまで割り切って対策を講じれるかは副業解禁に対する姿勢に大きく表れそうだ。

副業社会でワーク・ライフ・バランスの考え方は適切か

副業は仕事なのか、それとも趣味の延長線上で行うものなのかは人によって線引きが曖昧になることが多く、ワーク・ライフ・バランスという言葉では実際のところ捉えきれない。実際にベトナムで副業を行う人の多くが程良いワーク・ライフ・バランスを取れていないと回答しており、さらに自身の生活をワーク・ライフ・インテグレーションと表現する方が適していると答える人もいることから、もはや副業のある生活を単に労働時間で分けて判断することはナンセンスだろう。

塚本さんも、日本で新しい働き方を志向する人たちを中心に、ワーク・ライフ・バランスが今新しくワーク・ライフ・インテグレーションやワーク・イン・ライフ(Work In Life:仕事は人生の一部)などの考えに発展してきていると語る。「働くということが辛く我慢をすることであり、それをすることが生活を成り立たせる術である」という文脈が時代の変化と共に陳腐化しつつある、とのこと。

関連記事:【遊ぶように働く】仕事と私生活を連動させるワークライフインテグレーションとは

さらに塚本さんは次のように付け加える。

ライフ=生活ではなく、ライフ=人生と捉えて、人生のキャリアを築いていくという発想で自らの仕事に向きあうといった考えがもっと浸透してくるのではないでしょうか。そういう意味では、副業は単に副収入を稼ぐという文脈以上に、「好きなことを仕事にする」「やってみたかったことに挑戦する」等の方が個人にとって良いのではないか思います。

このような人生観を持つ人が増えていくほど、企業の労務管理の仕組みはますます変化を求められるだろう。仕事というものの境界線が曖昧になる副業社会ではワーク・ライフ・バランスといった概念のみならず、実務的な面で長時間労働や通勤災害といった労災認定も複雑化し、企業側に新たに法的な対策が求められる。その上で、先ほどの「ジョブ・ディスクリプション=本来業務の明確化」が日本でも必須だと、日経ビジネス東洋経済ONLINEで語られている。副業解禁において重要なポイントだが、日本企業の根本的なあり方に大きな影響を与えることになり、ここが日本の副業解禁の大きな壁と今後もなり続けるだろう。

最後に

今回ベトナムで定性的なインタビューを行ったわけだが、少なくとも今回の取材ではベトナムで働く人たちが副業を単なる副収入の機会としてだけではなく、自身のキャリアアップのためなど計画を持って活用していることがわかった。このように未来を見据えた副業こそ、日本企業が副業解禁社会で期待していることだと取材を通じて実感した。

ジョブディスクリプションの存在も含め、日本で副業が認められるようになるには今後も複数の大きな壁が残り続けるだろう。解禁に向けたターニングポイントがいつ訪れるのか、本メディアでは注視していきたい。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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