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企業とアートの関係 ー 多様化する活用事例からその未来を探る

[May 04, 2021] BY fumiya ikegami

企業間で広がりつつある「アート」の活用

働き方改革が浸透して多様な働き方が推進される昨今、企業のワークプレイスには「作業する場」としての機能だけでなく、ワーカーが「ここで働きたい」と思えるような工夫が求められている。そんな中、ワークプレイスを魅力的な場にアップデートする手段として注目されているのが、「アート」の活用だ。

そこで今回は、アート作品のレンタル・販売を手がけるアートアンドリーズン株式会社と、アーティストと企業をつなげて目的のあるアートを提案するトウキョウ・デックス合同会社(TokyoDex)の取り組みを紹介しながら、”装飾としてのアート” と ”思考としてのアート” の2つの観点から企業とアートの関係性を考察する。

文化保全や振興事業がメインだった、企業のアート活動

もともと、企業とアートの関係性においては、文化芸術資源の保護や保全、作品展示による地域振興の色合いが濃かった。例えば、旧安田火災海上保険株式会社(現損害保険ジャパン株式会社)と縁が深い東郷青児の作品やファン・ゴッホの「ひまわり」を収蔵する「SOMPO美術館(東京都新宿区)」、西武グループ創始者の堤康次郎が収集した美術作品を主とする「セゾン現代美術館(長野県軽井沢町)」もその代表例だ。また、三菱地所が旧三菱一号館を復元し開館した「三菱一号館美術館(東京都千代田区)」もよく知られている。

そして最近では、フリースペースやエントランスにアート作品を設置するなど、オフィス内でアートを活用する動きが注目されている。装飾品として楽しむほか、企業イメージの向上や、ビジネスのアイデアに活かすなどの目的があるという。

とはいえ、実際にアート作品を導入するとなると、コスト面で課題を感じる企業も少なくないだろう。そんなときに役立つのが、アート作品のレンタルサービスだ。ここでは、その一例として、アートアンドリーズンが展開する「clubFm (クラブエフマイナー)」について紹介する。

“装飾としてのアート”を、もっと身近なものに

今回取材に応じて下さった、アートアンドリーズン代表の佐々木真純氏。写真内の作品は森田晶子氏によるもの。(著者撮影)

オフィスやリビングなど、生活空間でのアート鑑賞を当たり前の習慣とすることを目指すclubFmは、購入はもちろん、月額定額制でアート作品をレンタルできるサービスだ。clubFmを活用する企業は多岐にわたると、同社代表の佐々木氏は話す。

「私たちのサービスをご利用いただいているのは、IT関連や士業、家具のショールーム、不動産関連事業に携わっておられるお客様がメインです。ほかにも、病院やゲーム会社などを展開されているお客様もいらっしゃいます。イメージで言うと、”元気な会社様”が多い印象ですね」

佐々木氏は、企業がアートを導入する背景について、企業が想像力を求めている結果だと説明する。

「戦後一番の成長産業であった製造業が、従業員に想像力を持たせる要素としてアートを取り入れました。そして現在、勢いがあるIT系の産業で引き合いのあるお客様を見ると、それと同じような現象になっていると感じます」

アート作品の利点は、見た人に「言語化できない感情」を抱かせるところにある。作品に描かれる筆の一本一本の線や、塗り重ねた絵具などのマテリアルが、作品を見た人になんとも言えない「凄味」を感じさせるのだ。

clubFmでは新宿駅ミライナタワー改札横の「NEWoMan ART wall」に作品を出展し、プロデュースも行っている。作品は購入することも可能。写真の作品は我喜屋位瑳務氏によるもの。(著者撮影)

オフィスに飾られる“装飾としてのアート”は、従業員に、言語化できない豊かな感情や想像力、発想力を感じさせる。そしてそこで生まれた新しいアイデアや発想が、事業に活かされていく。また、来客者や求職者は、アート作品の素晴らしさを通してオフィスに、ひいてはその企業に好印象を抱くだろう。アートにはそれほど大きな効果が期待できるのだ。

「日本には、素晴らしいアーティストも、そしてアートを求めているお客様もたくさんおられます。しかし、これまでアーティストとお客様をつなげる仕組みが十分に整っていなかったんです。それには、いわゆるアートの“とっつきにくさ”も関係していると思います。そんな風潮を打破して、もっとアートを身近に感じられる存在にしたいですね」

アートアンドリーズンは現在、ClubFmのほかに、「ArtScouter(アートスカウター)」というサービスも展開している。これは、AIにアート作品の効果を学習させ、ユーザーのニーズに合う作品を提案するプラットフォームだ。アートを取り入れたいが、どんな作品がいいかわからないという企業に最適であろう。

ここまでは、ワークプレイスにおける”装飾としてのアート”についてお伝えした。一方で、アートの活用は装飾以外の場面でも広がっている。その一つが、“思考としてのアート”だ。アーティストの思考や創造性に着目し、それをビジネスに応用しようという動きが広がっている。

企業のビジョンやバリューをアートで共有する

企業のビジョンやバリューを従業員にいかにして伝え、浸透させるかは、企業としての至上命題だ。とはいえ、活字の情報だけで従業員の感覚の中に落とし込むのは、なかなか難しい。

そんな中、様々な企業のオフィスアートを手掛けるTokyoDexが、組織のビジョンを反映したオリジナルアート作品を制作する「Vision Art Workshop」の提供を2021年2月に開始した。これは、企業のバリューをアートという非言語的表現で示し、従業員の理解度を深めてブランディングにもつなげるサービスだ。

「Vision Art Workshop」で前田豆コ氏が制作した作品。

同ワークショップでは、アートを感じられるようなエクササイズの後で従業員をグループ分けし、バリューやテーマについてディスカッションを行う。その後、ディスカッションを通して心に残ったイメージをスケッチに残し、アーティストと一緒に形にしていく。

参加した従業員は、ワークショップを通して自社のバリューやビジョンについて改めて考え、アーティストとの共同制作によって「思考としてのアート」への造詣を深めていく。また、グループワークにより、従業員のチームビルディングにつなげることもできるのだ。

イメージをそのまま形にするのではなく、アーティストが独自の想像力で作品へ落とし込むことで、作品に味や奥行きが生まれるという。そうして、従業員の想いとアーティストの感性が交わり、世界に一つしかないアートが完成する。

アートで生み出す、企業とアーティストの新たなつながり

TokyoDex代表でクリエイティブディレクターのダニエル・ハリス・ローゼン氏。

TokyoDexは、ローゼン氏がアーティストをディレクションするために設立したものだ。日本での留学時代に陶芸を通してアートに触れ、その後も様々なアート集団とコラボレーションする中で、アーティストがアート活動だけで生活できない現実を目の当たりにしたのがきっかけだったという。

「日本のアーティストは皆、素晴らしい作品を手掛けていますが、アーティストを職業にできる人は少数です。我々がアートエージェンシーとして、お客様とアーティストが共に幸せになるような実績を重ね、アートが日本人にとってより身近になるようにしていきたいですね」と、ローゼン氏は語る。

ドイツ連邦共和国大使館のウォールアート。TokyoDexでは、オフィスのウォールアートや外壁などのアート作品を多数手掛けている。(写真はTokyoDexのウェブサイトより)

TokyoDexは、ウォールアートやグラフィックをメインとしながら、様々な企業で実績を重ねてきた。オフィスや店舗の壁面アートはもちろん、大使館や建築物の外装アート、平面グラフィックまで、幅広い提案力を強みとしている。

株式会社フロンティアコンサルティングの「ハタラキカルテ」。(画像はフロンティアコンサルティングのウェブサイトより)

2021年3月に株式会社フロンティアコンサルティングがリリースした「ハタラキカルテ」も、TokyoDexが手掛けた一例だ。「ハタラキカルテ」は、社員の働き方の現状を顕在化し、理想的な働き方へと啓蒙する目的で作られたもの。オフィスワークとテレワークを併用する「ハイブリッドワーク」の導入が進む中、働く場所や時間の多様さが生む「ポジティブな要素」と「ネガティブな要素」を50枚のカードにまとめている。TokyoDexでは、3名のアーティスト(前田豆コ氏・Chad Feyen氏・Eric Diotte氏)をマネジメントし、イラストの監修を行った。

従業員とともに、バリューやビジョンをアート作品を通して形にするという新たなアプローチは、今後さらなる広がりをみせるだろう。

ますます強くなる “企業とアート” の結びつき

今回、より身近な存在になりつつある “装飾としてのアート” と、多様な働き方が浸透する企業と従業員をより直感的につなげる “思考としてのアート” のアプローチを紹介しながら、企業とアートの関係性について探った。

時代の変化に柔軟に対応しながら、アートの活用は多様化している。それによって新たな需要を創出し、アートを志す多くの才能が開花することも効果の一つだろう。

人は様々なものから何かを感じ取る。什器やパソコンがオフィスにあるように、絵画やウォールペイントなどのアート作品を活用することで、想像力や活力を得ることもできる。アートの有用性に気付きつつある今、企業が様々な分野でアートを取り入れた先に描く、より人間らしく働ける世の中は、すぐ近くに来ているのかもしれない。

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この記事を書いた人

fumiya ikegamiオフィス設計会社で設計デザイン・施工監理を経験後、フリーランスへ転向し、ウェブライターやグラフィックデザイナーとして活動。その後、フロンティアコンサルティングへ入社。人生における「セカンドプレイス」であるオフィスを、より豊かなものにすべく発信を行っている。

    
    
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