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【欧州最前線レポート】BREXITで揺れるヨーロッパのスタートアップエコシステム。変化の中に日本企業参入のチャンスはあるか。

[December 26, 2018] BY Shinji Ineda

2016年6月に英国はEU離脱(Brexit)を国民投票で決定、2019年3月29日にはBrexitを迎える。そしてこの混乱と同時に、これまでイギリスの一強といわれていたヨーロッパのスタートアップエコシステムは急激な変化を遂げている。フランスやドイツがBrexit決定で揺れるイギリスに取って代わり、欧州のスタートアップハブを目指し動き始めているからだ。そのような状況中、今回欧州の鍵となるフランスとイギリス、2カ国のスタートアップエコシステムへ訪問してきたので、その様子と筆者が感じたことを皆さんにお届けしたい。

頭角を表すフランス

今ヨーロッパの中でも、国をあげてスタートアップエコシステムの活性化を目指しているのがフランスだ。2017年に40歳という若さでフランスの大統領に就任したエマニュエル・マクロン氏の旗振りの下、政府がイニシアチブを取って「フレンチテック」ブランド作りに注力している。企業や都市に対するサポートに加え、国外へのPR・展開などの支援制度も作ることで、自国だけでなく海外からもスタートアップを誘致している。今回そのフランスでは、パリにある2つのスタートアップ支援機関「STATION F」と「Hello Tomorrow」へ訪問してきた。

駅を改装した世界最大のインキュベーションスペース、STATION F

STATION Fは2017年6月にパリにオープンした世界最大級のコーワーキングスペース。1920年代にEugene Freyssinet(ウジェーヌ・フレシネー)の設計のもと建設された貨物駅は大きな改修を経て、現在3万4000平方メートルのスペースを多くの企業が活用している。数にすると1100社のスタートアップ企業と20社を超えるVC、そしてマイクロソフト、Facebookなどが入居企業だ。

STATION Fでは施設計画や運営においてスタートアップに重点を置いた工夫がなされていると感じた。例えば、施設内であえてスタートアップ企業とVCを隔離するというユニークな仕組みがあったが、これは通常VCがスタートアップを目利きするというスタイルになりやすいところを、スタートアップも自分たちにフィットしたVCを選択できるようにする、というフラットな関係性構築に配慮しているためだと感じた。

STATION F内。駅を改装した世界最大のインキュベーションスペース

スタートアップ以外にもVCなど様々な企業がパートナーとして入居している

STATION F内には、欧州最大級のレストランも。イタリアのフードスタートアップであるBig Mamma Groupが経営しており、ピザのような本場イタリア料理以外にも様々な国の料理を堪能できる。

世界規模のDeep Techコミュニティ

次に訪問したHello Tomorrowは、2011年に設立されたフランス発のNPOで、ロボットやバイオ・宇宙開発などを行うディープテック分野の研究者やスタートアップと大企業、投資家へのマッチングを「革新的技術の社会実装を加速させること」をミッションに活動を行なっている。世界12カ国でサミットを開催しており、日本でも昨年からMistletoe社と連携しHello Tomorrow Japanを立ち上げている。自身たちのフィロソフィーや考えを世界へ広く発信しようと精力的に展開しているところや、支部が存在する各国でスタートアップ発掘に励む活動が、同じフランスでもSTATION Fとは異なるところであり、彼らの強みであると感じた。

画像:Hello Tomorrow Japan WEBサイトより転載

パリに行ってみてわかったこと

  • フランスは今まさにスタートアップブームになっており、前述したイタリアのフードスタートアップBIg Mamma Groupのように世界中から企業やスタートアップが集まっている
  • 今のスタートアップブームの推進力は現政権の力とするところが大きい
  • フランスの大学発スタートアップは少ない印象をうけた。大学発の技術を社会実装する型は、まだ出来上がっていないのかもしれない

Brexit決定で揺れるイギリス

Brexitで上記のフランスを始めとした国が勢いをましていく中で、イギリスは今後どうなっていくのだろうか。これまでのイギリスは大学ランキングやノーベル賞受賞者の数からも見て取れるように、欧州のみならず世界の研究をリードしてきた。

イギリスの高等教育専門誌「THE(Times Higher Education)」が2018年9月に発表した2019年「THE世界大学ランキング」 画像:THE 世界大学ランキング 日本語版WEBサイトより転載

 

しかし、Brexitを国民投票で決定後、どの様な形で欧州離脱を果たすのかが決まらない中、イギリスの研究者やスタートアップは混乱の中にあるのが正直なところだ。特に研究費やコラボレーターを模索する中、欧州外への新しいつながりを求めている研究者・研究開発型スタートアップはこれからも増えると推測する。今回は、イギリスでイノベーション創出のゴールデントライアングルと呼ばれる三拠点(ロンドン、ケンブリッジ、オックスフォード)を回り、各施設・地域別でのエコシステムを視察することができた。

ロンドンのクイーン・エリザベス・オリンピック・パーク内にオープンした「Plexal」

イギリスのイノベーションを加速するために、ロンドンオリンピック時にプレスセンターとして使われていた場所に新たに作られたコワーキングスペース、Plexal。コンセプトは「スタートアップの街を作ること」。実際の視察を通して、プロダクトやそれを生み出すリソースがようやく充実してきたフェーズのスタートアップが、多く入居しているように感じた。また施設内ではワークスペースの利用や、3Dプリンターなど設備を使ったものづくりも可能で、製品のスケールアップ活動にも対応するようになっていた。

Plexal訪問時。日本企業には、ホンダも入っていた。

ロンドンのSTATION Fといった感じがする場所。ここは、ロンドンオリンピックの際メディアセンターとして使われていた場所を改装している。

ケンブリッジ大学・オックスフォード大学の各大学関連インキュベーション施設

大学関連の施設もいくつか見て回った。まずはケンブリッジ大学内にある大学発スタートアップの支援を行うインキュベーション施設「ideaSpace」。スタートアップ支援として、政府、政府機関、高等教育機関と協力したプログラム開発等も行う。West, City, Southと学内に3箇所存在し、それぞれが所属スタートアップを抱える。今回の訪問ではideaSpace Westを訪問した。

ケンブリッジ大学 ideaSpaceのWEBサイト

ideaSpace訪問時

そしてオックスフォード大学の技術移転機関である「Oxford University Innovations」。ライセンシングやコンサルティングの他、大学発スタートアップのインキュベーションも行っている。本機関には多様な分野の専門家がおり、大学内の技術の発掘から育成、投資までを担っている。

Oxford University InnovationsのWEBサイト

Oxford University Innovations訪問時

イギリスに行ってわかったこと

  • イギリスは国として科学技術に重点を置いていて、そのルーツは大学の研究にある
  • 大学発の技術を社会実装するためのプレイヤー(大学や民間のインキュベーター、アクセラレーター等)がおり、スタートアップ支援を積極的に手がけている
  • しかし、地域ごとにエコシステムが独立していて、全国的な繋がり少ない
  • 今まさに、日本を含む海外の企業との連携を望むスタートアップが増えている

ヨーロッパ視察を通して

これまで欧州内や近隣地域との連携がメインであったヨーロッパのエコシステムだが、今まさに変化を遂げていると感じた。実際にパリではSTATION Fに日本企業が入居しており、欧州での躍進の機会が提供されていると感じたし、またイギリスでは技術の社会実装に向けた支援を日本企業が担えるのではと気付かされた。これらのように現在の欧州の状況は、日本企業にとってはまたとないビジネスチャンスであるといえる。フランスに行くか、イギリスに行くかは企業の状況によって千差万別な判断軸があるかとは思うが、個人的にイギリスは日本のエコシステムとも通じるところが多いと感じている。

それは産業構造も含めてだが、FacebookやAmazonなど既存産業を破壊してイノベーションを実現してきたアメリカとは対照的に、日本もイギリスも過去20年に渡ってTOP10をしめる産業が変わっておらず、既存産業との共存型イノベーションが社会的に成立しやすいという点である。また技術オリエンテッドなところも日本の企業文化と類似しており、お勧めといえるだろう。事実、ビジネスチャンスを求めてイギリスに進出する企業も近年増えているようだ。

来年のBrexit後、ヨーロッパのベンチャーエコシステムがどう変わっていくのか、さらに定点観測が必要だと感じた。ぜひ皆さんも自身でヨーロッパに訪れ、時代の変化を肌で感じてみてはいかがだろうか。

 

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この記事を書いた人

Shinji Inedaフロンティアコンサルティングにて設計デザイン部門の執行役員を務める。一方、アメリカ支社より西海岸を中心としたオフィス環境やワークスタイルなどの情報を、地域に合わせてローカライズ・ポピュラーライズして発信していく。



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