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フェムテックが女性の活躍推進に効果的な理由 ― 企業の導入事例も解説

[November 15, 2022] BY Rui Minamoto

フェムテックとは?

近年、耳にする機会が増えた「フェムテック」。言葉は知っているものの、詳しくは知らないという人も多いのではないだろうか。フェムテックとは「Female(女性)」と「Technology(テクノロジー)」をかけ合わせた造語である。具体的には、月経や不妊、妊娠、出産、更年期などの女性特有の健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービスを指す。

フェムテックは健康経営の観点で企業からも期待が寄せられている。その背景に、個人のウェルビーイングが社会や経済にポジティブな影響をもたらすという認識の高まりがあると考えられる。フェムテックはなかでも女性の健康に焦点を当て、ライフプランとキャリアプランの両立を支援することで、ウェルビーイングの実現を図るためのツールといえる。

例えば、月経に関連する不調によるパフォーマンスの低下については驚くべき調査結果がある。経済産業省が2020年度に公表した「働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本に与える効果と課題に関する調査報告書」によると、18歳から49歳までの働く女性を対象とした調査において、月経に関連した症状により「仕事のパフォーマンスに影響がある」と回答した人は94%にのぼった。うち45%は「元気な状態と比較してパフォーマンスが50%以下になる」と回答していた。

(画像は経済産業省の令和2年度産業経済研究委託事業「働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本に与える効果と課題に関する調査報告書」より)

月経による不調でパフォーマンスが低下したり、欠勤したりすることにより生じる労働損失は、1年間で約4911億円にのぼるとの試算もある(※)。フェムテックはこうした社会的な損失の軽減にも寄与するツールとして期待されているのだ。

(※)Tanaka E, et al. Burden of menstrual symptoms in Japanese women: results from a survey-based study. Journal of Medical Economics 16(11) : 1255-66, 2013

月経、妊娠・不妊、更年期分野のフェムテックの傾向

フェムテックで取り扱うジャンルは、月経や不妊治療、妊娠、出産、育児、更年期、婦人科系疾患、セクシャル・ウェルネスに関わるものなど多岐にわたる。これらの悩みや課題には個人差があり、また誰かに相談することではないとの思い込みから我慢してきた女性が少なくない分野だ。先述の経済産業省の報告書では、フェムテックのなかでも特に月経、妊娠・不妊、更年期の3分野を中心に現状を分析し、今後の活用のあり方を模索している。以下にその概要を紹介する。

(1)月経分野のフェムテック

月経に関連する不調として月経困難症や月経前症候群(PMS)があり、下図のようなさまざまな症状が人により現れる。同報告書では、こうした月経に関する異常症状に対して特に何の対処も行っていなかった女性が、情報を得て適切な治療などの対処を行うことで、年間約2400億円の経済損失が軽減されると推計している。

(画像は経済産業省の令和2年度産業経済研究委託事業「働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本に与える効果と課題に関する調査報告書」より)

フェムテックの普及はこの月経分野で最も進んでおり、その一例が、過去の生理日から次の生理日を予測する月経管理アプリだ。近年はこの機能を拡張し、低用量ピルの服薬支援などの治療に結びつける動きも見られる。

(2)妊娠・不妊分野のフェムテック

妊娠・不妊分野でも近年、多くのフェムテック製品やサービスが生まれている。結婚年齢や出産年齢の上昇にともない不妊治療を行う夫婦は増加しており、治療と仕事の両立に悩む女性は少なくない。フェムテックが不妊治療の負担軽減や成功率の向上、不妊治療への理解促進などに貢献し、不妊治療の早期開始や実施の増加、離職率の減少や不妊治療中断の減少につながることが期待されている。

同報告書では、フェムテックの活用により、2025年時点の不妊治療にともなう離職、雇用形態の変更、不妊治療中断が現状より30~50%まで減少すると仮定すると、年間約3000~5000億円の経済効果が得られると試算している。

体調管理や妊活を考える女性のための基礎体温アプリ「ルナルナ体温ノート
(画像はルナルナのWebサイトより)

妊娠・不妊分野のフェムテックとしては、排卵周期や基礎体温を管理するアプリ、専門家への相談サービス、卵巣年齢検査の簡易キット販売などがある。

(3)更年期分野のフェムテック

45~59歳までを更年期世代と考えると、女性就業者の約33%が更年期世代に該当する。この世代の女性では、女性ホルモンの分泌量が急激に減少することにより、人によってほてりやのぼせ、めまい、動悸、気分の落ち込み、イライラなどの更年期症状が現れる。

更年期が管理職に就く時期と重なるケースも多く、フェムテックの活用で、更年期に関する正しい知識や症状への対処、治療等が広まることで、離職や昇進辞退の減少につながることが期待されている。同報告書では、フェムテックの普及により、2025年時点で年間約1.3兆円もの経済効果が得られると試算している。

フェムテックのなかでも更年期は市場化が遅れているといわれているが、アメリカには、更年期の女性を対象にした「Gennev」というサービスがあり、医師によるオンライン診療と栄養士資格をもつヘルスコーチによるライフスタイル指導が受けられる。通院するよりも時間の自由がきくため、働き盛りの女性に支持されているという。

(画像はGennevのWebサイトより)

これら3分野でフェムテックが普及することにより、2025年時点における経済効果は年間2.2兆円にのぼると予測されている。いずれの分野も、不調や悩みを直接的にサポートする機能に加え、チャットやLINEによる相談や悩みを共有できる場の提供など、コミュニケーションを重視したサービスが充実している点が特徴といえるだろう。

企業におけるフェムテックの活用事例

女性特有の健康課題は、女性社員のパフォーマンス低下や離職、昇進辞退などにつながり、経営にも影響する。福利厚生制度などによりサポートし、これらの影響を軽減するメリットは大きく、実際に近年、フェムテックを活用して女性社員が安心して働ける環境づくりを行う企業が増えてきている。注目の事例を紹介しよう。

1. 株式会社エムティーアイ「オンライン診療を活用した婦人科受診と低用量ピル服薬の支援プログラム」

女性の健康情報サイト「ルナルナ」や日々の健康データを記録・管理できる「CARADA」などのヘルスケアサービスを展開するエムティーアイ。日本におけるフェムテック企業の先駆けともいえる同社では、新たな福利厚生制度として「オンライン診療を活用した婦人科受診と低用量ピル服薬の支援プログラム」を導入した。生理痛などの月経前後に起こる何らかの不調に悩まされている女性社員が、約8割にのぼることが判明したための導入だという。

本プログラムは、診療から薬の処方までを同社サービスの「ルナルナ」とグループ会社が提供する「ルナルナ オンライン診療」にて行い、生理痛やPMSなどの症状に対して、気軽に婦人科に相談できる環境を整備し、通院にかかる負担の軽減を図るものだ。

導入前に半年間行った実証試験の結果、生理の影響がないときに発揮できる仕事の状態を「100」とした場合の生理中のパフォーマンスの自己評価が、実証前の平均63.1から83.5に20ポイント以上も上昇した。また、生理前や生理中の症状によって日常生活へ影響が出る日数も、月平均3.1日から1.15日に減少しており、同プログラムの活用により生理による日常生活への影響が大幅に改善したという。

(画像は株式会社エムティーアイのWebサイトより)

フェムテックを牽引してきた企業ならではの福利厚生制度であり、今後、同社のサービスの向上にも反映されるだろう。

2. 小田急電鉄株式会社「妊活支援サービス『ファミワン』を福利厚生として導入」

小田急電鉄は2018年9月、法人で初めて福利厚生制度として、妊活コンシェルジュサービス「famione(ファミワン)」(株式会社ファミワン)を正式に導入した。同サービスはLINEを使用し、不妊症看護認定看護師や臨床心理士などに妊活について相談しアドバイスが受けられるサービスだ。個人契約では月額3980円のプレミアムプランのサービスを、同社の従業員とそのパートナーはすべて無料で利用することができる。

(画像はfamioneのWebサイトより)

同社は外部に相談窓口を設置した理由として、「会社に相談しにくいプライベートな不妊治療・流産について、全国でも数少ない不妊症看護認定看護師等の専門家から、当社の勤務形態や制度を踏まえてアドバイスを受けられる環境を提供することで、社員の不安を軽減するほか、長期的なキャリアプランを描きやすくなる」ことをあげている

女性特有の問題はプライベートな領域でもあるため、社内で抱え込まず、外部機関のプロフェッショナルを頼ることも一案かもしれない。

3. ロート製薬株式会社「更年期症状に備えるエクオール自己検査キットを提供」

全社員の約6割を女性が占めるロート製薬。製薬企業として社員の健康づくりに力を入れてきた同社では、女性の健康課題に対しても、婦人科検診の無償化や「女性ホルモンの変化と対策セミナー」の実施など、さまざまな取り組みを行っている

更年期問題に対してはエクオール検査を提供。エクオールとは、女性ホルモンと呼ばれるエストロゲンと似た働きをする物質で、これが体内で作れる体質かどうかを尿検査で判定することができる。同社では郵送で簡単に行える自己検査キットを提供しており、NHKみんなでプラスの記事によると、検査でエクオールを作れない体質と判明した人には、補給するためのサプリメントを紹介しているという。

(画像はエクオール検査キットを提供する株式会社ヘルスケアシステムズのWebサイトより)

なお、このエクオール検査は健康社内通貨「ARUCO(アルコ)」と交換できる。ARUCOとは、社員の健康的な生活習慣の実施状況に応じて付与される健康コインのことだ。日々の歩数や早歩き時間、スポーツの実施などでコインが貯まり、獲得したコインは心身の健康づくりにつながる幅広い用途で利用することができる。

社員の主体的な健康づくりを後押しする制度のなかに、女性特有の健康課題へのアプローチを組み込んでいる。早くから健康経営に取り組んできた同社ならではの自然なフェムテックの取り入れ方だ。

女性活躍のために「オフィスでもフェムテック」を

日本の労働力総人口に占める女性の割合は、2020年に約44%まで増加した。それでも依然として、女性管理職の割合は低い状況が続いている。世界経済フォーラムが2021年3月に発表した「ジェンダーギャップ指数2021」では、日本は156カ国中120位。経済分野では特に、「管理職の女性の割合が低いこと(14.7%)」が指摘されている。

この課題を解決するためにも、女性特有の健康問題やライフイベントを個人の問題のままにするのではなく、社会全体で理解してサポートしていく必要がある。その一助として、「オフィスでもフェムテック」という考え方を採用してみてはどうだろうか。

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この記事を書いた人

Rui Minamoto 女性誌のインタビューから経済誌の書評欄まで、幅広いテーマの取材・執筆を担当。近年は、広告・PRプランナーとして消費者インサイトの発掘や地方若者議会で「広報力養成講座」の講師も務めている。



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