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日本を出たスタートアップ社員に聞く、完全テレワークと管理しない組織とは

[April 21, 2020] BY Yuna Park

「働き方改革関連法」が施行されて早1年。政府主導でのキャンペーン「テレワーク・デイズ」や新型コロナウイルス感染症対策でのテレワーク導入などをきっかけに、多様な働き方の選択肢を広げた企業は増えたようだ。一方で、約9割の企業が働き方改革に失敗しているという報道もあり、ただ手段を導入しただけでは働き方改革につながらないことは多くの人が自覚しているのではないだろうか。

そこでWorker’s Resortでは、「日本の働き方改革へ、西海岸で働くプロフェッショナルからの助言」をシリーズでお届けする。第1回は、行動変容を通した減量プログラムなどを提供するスタートアップ、Noomでグロース&デジタルマーケテイングマネージャーを務めるKosuke Moriさんからの助言をご紹介。Noomはサービスの革新性だけでなくその企業カルチャーにおいてもGlassdoorFortune等で評価されている注目企業だ。東京、サンパウロ、サンフランシスコの日系企業を経て、現在は同社で完全テレワークで働くKosukeさんだからこそ感じる、多様な働き方が実現する理由や日本との考え方との違いとは。

今回のプロフェッショナル:

Kosuke Mori NoomKosuke Moriさん
日本の大学を卒業後、東京で大手テレコミュニケーション企業に就職。ブラジル・サンパウロ駐在を経てサンフランシスコにある日系アドテクノロジー企業の現地法人へ。現在はデジタルを通して健康的な生活をサポートするデジタルセラピューティクス(DTx)やデジタル認知行動療法(CCBT)のマーケットリーダーであるNoom, Inc.にてグロース&デジタルマーケテイングマネージャーを務める。

働き方のベースにあるのはミッションと行動指針への共感

日本企業、海外現地法人、アメリカのスタートアップと渡り歩いてきたKosukeさん。ここに行き着いた背景には「日本の古い伝統的な会社に居た分、新しいものを開拓している人たちやモノが生まれるスピードに憧れがあった」と振り返る。Noomで働く今、改めて日本との働き方の違いを聞いた。

100%を目指す日本、80%で進めるアメリカ

まずKosukeさんが挙げるのは、日本ならではの「完璧の美学」の落とし穴だ。日本では何でも100%を目指すのが当たり前。一方、現在働くNoomでは「1つ1つに対して絶対に作り込み過ぎるな」というポリシーがあるという。仮説を実証するのに必要十分な完成度でMVPを作り、テストを繰り返してアップデートを続けるというやり方だ。

この両方を経験したKosukeさんは、「実際、80%を目指すのと、100%を目指すのでは労力が異なります。モノやサービスを作る際、80を100にするのは0を1にするレベルで難しい。『その労力には果たして意味があるのか?』を考えるところが働き方を変えるうえで重要になると思います」と話す。

「大切なのは、やり直しが利く意思決定と、やり直しが利かない意思決定をしっかり見極めること。やり直しが可能だと、速く実行できるし失敗も許容することができます。そもそも『たいていのものは失敗する』という前提なので、作り込むことに時間をかけるのはあまり意味がないという考え方です」。

Noomでは、すべての意思決定において何をしても戻れるようになっているという。物事を進める際は80%で意思決定し、プロジェクトを「コントロール」と「エクスペリメント」を分けて進める。コントロールでは決めたことをきちんと進めつつ、エクスペリメントで「それを変えてみたらどうなるのか?」と実験的に試していくのだ。スタートアップ文化としてよく挙げられる「失敗を推奨」しているのはもちろんのこと、作り込み過ぎず、最低限の要件でテストすることでアジャイルにサービスを進化させていく。これによってリスクは取りつつ、着実にサービスを成長させているようだ。

メンバーの足枷になる就業規則は不要

この違いの背景には、「ミッションの捉え方」がある。アメリカのスタートアップは基本的にミッションに共感した人の集まりだ。実際、Noomに就業規則はあまり存在せず、社員に求められるのは「Mission Principleを共有すること」と「3ヵ月ごとに自身の目標やマイルストーンを設定し、成長し続けること」のみ。こうすることで、社員は自分の頭で考えて動くことができる。日本のようにミッションが上から下りてくることも意思決定を合議制で行うということもない。

作り込みすぎず80%でOKとするのも、ミッションをより早く実現するためにはそれが一番だからだ。一方日本では「完璧なものを作る」ことがゴールとなる傾向があり、それが本当にミッションの実現にとって最善なのか意識されている印象は薄い。

Noom missionNoomのミッション

管理を前提としないマネジメントと組織体制

このように社員が管理されることなく、ミッションを軸に自発的に行動する組織ではマネージャーの役割も当然変わってくる。日本でのマネージャーは「管理職」という名前通りまさに「メンバー管理」が仕事だが、Noomでのマネージャーは「サポーター」という位置づけだ。マネージャーから仕事に対する指示はなく、週1で行う1 on 1ミーティングでは主にKosukeさんがアイデアを共有したり相談を持ちかけるのだという。

また、組織の作られ方も根本的に異なる。一般的な日本の会社組織では「ステップアップ」が前提となっていることが多く、実際Kosukeさんが勤務していた日本企業にはなんと10階層も存在していたそうだ。当然ポジションごとのプロフェッショナリズムは生まれづらく、組織ありきで働くことが前提だったという。

一方アメリカのスタートアップは専門機能ありきで組織が作られているため、ポジションに必要な人を呼んでくるという考え方だ。各人が必要な箇所でプロフェッショナルとして機能するというイメージであり、それによって組織はフラットに保たれている。

Noom 行動指針 Action codeNoomで共有されている行動指針。各メンバーはこの指針に基づいて自律的に判断して動いている

環境が万全だからこそ完全テレワークが実現

Noomの本社はニューヨークにある。しかしKosukeさんは妻がサンフランシスコで仕事をしていることもあり、入社以来ずっとテレワーク勤務だ。「会社としては本社に居てほしいという意向はあったようですが、それよりもいい人材は世界中から集めるという方針が前提としてあります。実際、クロアチアや南米にもエンジニアチームがいます」。

これが実現するのは、100%リモートがかなう環境が整えられているから。「すべての書類はGoogle Driveで作りますし、コミュニケーションはSlack、会議はZoomです。こうしたインフラが整っているからこそ、今の働き方が実現しているのだと思います」とKosukeさんは話す。

特にSlackで絵文字やGIFをやり取りすることは非常に大きいという。「絵文字やGIFを活用することで、ドライになりがちなテキストベースのやりとりに人間味が増します。実際、1人でSlackを見ながら『ふふっ』と笑うこともありますしね」。

Noom Kosuke Mori Interview

また、毎週金曜日にはTGIFという全社会議がZoomで開催されるそうで、その参加人数はなんと約1800人。これは「Zoomを使った会議の規模として最大」だとZoom社に認められているという。「これらオンラインでのコミュニケーションが密だからこそ、まったく疎外感を感じずに働けています。対面で話せないデメリットについては実はあまり感じていません」。

その一方で、チームメンバーと会う機会も実際多く設けられ、リモートメンバーをチームの一員として温かく迎える空気があるという。実際、Kosukeさんも毎月ニューヨークの本社に来てもいいと言われているそうだ。クロアチアのチームも2ヵ月に1度は本社に来るという。

セキュリティやメンバー管理については心配無用

テレワークについて、よく挙げられる懸念点が「社員をどう管理するのか」「セキュリティは大丈夫なのか」という点だ。この点をKosukeさんに聞いてみると、「どちらもまったく問題ない」という答えが返ってきた。

というのは、上でも書いたようにそもそもNoomでは社員を管理するという発想がないからだ。メンバーはミッションと行動指針を共有し、その実現を1人1人が自分の頭で考えて実行していく。「そもそも管理が必要なメンバーがいないというのがポイントかもしれません。これは、入社前の採用プロセスでカルチャーフィットがものすごく重視されているからだと思います」。

日本企業が最も恐れるセキュリティ問題については、「何をそんなに恐れているのかわからない」と話す。Noomでは社員個人がセキュリティを意識しなければならないタイミングを極力作らないよう、エンジニアチームが環境を整えているそうだ。個人が注意すべきことのはフィッシングメールのみ。Kosukeさんも普段はカフェのWifiに接続して作業しているという。

仕事場所を限定することでテレワークでの働きすぎを防止

Kosukeさんは現在、自宅、カフェ、コワーキングスペースの3カ所を拠点としている。意識して場所を変えることで、働き過ぎを防止しているそうだ。

以前は専ら自宅のダイニングテーブルで仕事をしていたKosukeさんだが、「そのときは起きた直後から働き、寝る5分前まで仕事していました。家=職場になってしまい、個人の時間がなくなってしまったんです」。

そこでKosukeさんが考えたのは自宅内で仕事用の区画を作ること。そうすることで、たとえ仕事のために1部屋空けられなくても、部屋の隅に仕事区画を設けることで、オン・オフの切り替えがうまくできるようになったと話す。

ルールで縛らないからこそ社員が自由に働ける

社員が最大限自由に働けるようにするために不要なルールは作らないというNoom。これが成り立つのは、ミッション実現を共に目指す仲間への信頼だ。全員が共通のものを目指しているからこそ、それに向けた最善の方法を各自が考えても組織として揺らぐことがない。そんなメンバーをマネージャーはサポーターとして支える。こうした考え方と体制が、社員の自律性を生み、その結果多様な働き方を実現するのだと感じた。

「日本の働き方改革へ、西海岸で働くプロフェッショナルからの助言」シリーズの第2回はサンフランシスコのスタートアップのオフィスマネージャーからの助言をお届けする予定。どうぞお楽しみに。

※本記事の取材は、サンフランシスコ市による外出禁止令(Shelter-in-place order)発表前の3月12日に行われました。

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この記事を書いた人

Yuna Park国内企業で編集・企画、サンフランシスコのUXデザイン会社にて社内外のコンテンツマーケティングの統括責任者を務めたのち独立し、現在はライター、エディター、マーケティングコンサルタントとして活動中。専門分野は働き方、ローカライゼーション、経営。

    
    
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