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福利厚生の新たな形。従業員のプライベートをサポートする、株式会社TPO 代表取締役 マニヤン麻里子氏インタビュー

[October 14, 2021] BY Yuichi ITO

福利厚生の新たな形「ユア・コンシェルジュ」

6割を超える日本の共働き率。本業の仕事だけではなく、家事や子育て、趣味に老後と、情報を集めては判断・実行を繰り返すワーカーの毎日はとにかく忙しい。そして、どの家族においても、時間やマンパワーなどのリソースは限られている。

仕事であれば、自らの専門や役割に限定して情報を集め、決定権者が全体最適を考慮して判断するが、家族の悩みはそうはいかない。知見を持つ知り合いがいない、どこから手をつければよいかわからないなどの理由から、不完全な状態で判断した経験を持つワーカーも少なくないだろう。

株式会社TPOが手掛けるコンシェルジュサービス「ユア・コンシェルジュ」は、そんなワーカーの「困った」を解決するきっかけになるかもしれない。今回は、同社の代表取締役であるマニヤン麻里子氏にお話をうかがった。

「暮らすように働く」ユア・コンシェルジュの概要を説明するマニヤン氏。

プライベートな問題の解決で、仕事のパフォーマンスを支援する

TPOが提供する「ユア・コンシェルジュ」は、クライアント企業のワーカーを対象に、仕事以外の生活の課題を解決するコンシェルジュサービスだ。働き方改革により、ワークスタイルや人材の多様化が進んでいる。その一方で、いまだに「猛烈に働く男性と専業主婦」という伝統的なワーカー像に基づいて制度や環境が設計されており、そこから外れると働きづらさや生きづらさが生じる現状もある。日本にはそうした課題に応えるサービスがないとの思いから、創業に至ったという。

同社が目指すゴールは、企業風土や就労環境を変えること。その一つの方法として、基幹事業であるコーポレート・コンシェルジュサービスを手掛けている。その根底には、プライベートの問題が解決すれば仕事のパフォーマンスも向上するとの考えがある。確かに、私生活が与える仕事への影響は軽視できず、マニヤン氏が理想の働き方を表現する際に用いる「暮らすように働く」は言い得て妙だ。

「ユア・コンシェルジュ」では、ワーカー個人の課題解決に終わらず、サポートを通して顕在化した課題やニーズを分析し、今後想定される社会課題の解決の糸口を見出していく。そのようにして、プライベートを切り口に、働く人々全体の生き方につながる問題の解決やそれに寄与するネットワークの構築を支援している。サービスの提供に比例して蓄積される人的ネットワークは、そのまま自社の提案に反映され、好循環を生んでいるという。

マニヤン氏は、フランスの大学院修了後、同国で就業している。コーポレート・コンシェルジュサービスを思いついたのは、帰国してから金融機関で10年以上働いた後のタイミングだったが、調べてみるとフランスではすでに1999年には同様のサービスが存在していた。現在では、100社以上のコンシェルジュサービス提供企業があり、大企業の8割以上が導入するほどの市場規模となっている。

一方、日本ではTPOが初となる。プライベートのオンライン秘書などのサービスはあるものの、組織で働く人々の福利厚生として、私生活に関する情報のインフラ整備を掲げる企業はほかにないという。

また、同社はサービスの対象となる組織の形式や地域を限定していない。その点では、コロナ禍で急拡大したテレワークをはじめ、場所にとらわれない働き方を実践する人のサードプレイスにコンシェルジュを配置することも想定範囲内だろう。それは、コンシェルジュを同僚でもない家族でもない、「相談できる誰か=サードパーソン」と位置付ける同社の考え方とも通ずる。

画像は株式会社TPOのWebサイトより。

コンシェルジュはワーカーに寄り添う伴走者

相談には、対面・chat・電話・Zoom・メールなど全方位で対応しており、コンシェルジュの常駐を希望する企業もあれば、オンラインでサービスを導入する企業もある。常駐する場合でも、最初の相談は対面で、慣れてきたらオンラインにシフトするケースもあり、対面とオンラインの利用頻度は同程度とのこと。同社は相談者の「納得感」を重視しており、コンシェルジュは様々な手段を用いて相談者をフォローしている。

企業規模が拡大すると福利厚生も増える傾向にあるが、その内容をすべて把握している従業員はそう多くないだろう。経営者や人事担当者が手厚い支援を心掛けたとしても、その恩恵が日の目を見ないこともある。実際に、クライアント企業の福利厚生を熟知するコンシェルジュが、相談者が知らなかった制度の利用を勧めた例もあるという。

コンシェルジュの提案は企業内にとどまらず、相談者の居住地域で利用できる制度など、複数のアイデアを提示している。プライベートで悩みがあっても、情報を収集するだけで時間や労力を要するため、忙しさを理由に解決を諦めるワーカーも少なくないかもしれない。その点について、「マネジャークラスなど、時間意識の高い方ほどコンシェルジュを有効活用されていますし、自分の価値を最大限に発揮できるシーンが想像できていると感じます」と、マニヤン氏は語る。

相談を受けてから解決策が提示されるまでの期間は内容によって異なるが、概ね数時間~数日を要する。一度のやりとりで終わらないことも多く、課題が解決するまで相談者に伴走するイメージが近い。多くは、コンシェルジュサービスの使い方がわからず軽い相談から入るが、話を聞いているうちに潜在する問題の核心が見えてくることもあるという。

潜在する問題を引き出し、働きやすい環境づくりをサポート

潜在する問題について、介護に関する相談を例に説明しよう。はじまりは、chat botを通じた要介護認定に関する相談だった。経験上、chatでのやり取りでは精度が上がりにくいことを知っていたコンシェルジュは、相談者に直接架電。30分ほど電話で話すうちに、被認定者である相談者の母親が、老々介護に加えて腰の骨折による痛みや不便から「もう生きたくない」と漏らしていることがわかってくる。つまり、問題の核心は、要介護認定を取得する方法ではなく、生きる気力を失う母親をどうサポートするかだったのだ。

TPOが提供するサービスはテクニカル(実用的)サポートであり、相談のハードルは比較的低い。実際に、この事例も「要介護認定が必要」というテクニカルな相談から発展している。

コンシェルジュは、まず身近なソリューションや所属企業の制度に関する情報を提供し、その延長線上で必要となる介護タクシーなどの概算について説明。その後、相談者が住む自治体に連絡し、個人名を伏せて相談内容を伝え、相談者には「対応が円滑だった窓口の〇〇さんに連絡してください」といった交通整理まで手掛けた。また、認定に必要な書類を伝え、手続きが円滑に進むように支援もしている。手続きをすべて終えたタイミングで御礼の連絡があり、「一人っ子のつらさ」について言及された際には、相談者の心の負担が少しでも軽くなるように言葉をかけたという。

正直、ここまで介入するのかとの驚きもあるが、同社は各コンシェルジュに裁量を委ねているとのこと。マニヤン氏が「コンシェルジュの採用基準は人生経験に尽きる」と言い切るのも納得できる。現在、約20名のコンシェルジュが在籍しており、定期的な勉強会で対応力の向上を図っている。また、相談者からヒアリングした内容を同社のプラットフォームに落とし込み、その分野に明るいコンシェルジュや国内外の外部リサーチャーが相互補完的に対応し、知見を共有している。

利用料金は、企業規模や導入企業のレギュレーション(例:旅行の相談は自己負担など)、サービスパッケージによるが、従業員1人あたり500~1500円程度から始められる。導入のメリットは主に次の3つ。

・従業員のエンゲージメントが向上
・離職を防ぎ、リクルーティングにおける企業ブランディングが向上
・本業に時間を割けるため、業務効率が向上

実際に導入した企業からも同様の声が届いており、同社が掲げる「QWL(Quality of Work Life )の向上」への共感も後押ししているという。導入企業は、仕事とプライベートの両立で従業員の生活の質を高めることで、組織の多様性が増すと考えている。

サービス内容から、クレジットカードのコンシェルジュサービスとの重複が頭をよぎる人もいるかもしれない。これについてマニヤン氏は、「クレジットカードはレストランやトラベルを強みとしており、カードのステイタスによって得られるサービスが異なります。私たちは働く人全般のライフイベント支援を軸としており、そもそもの立ち位置が違います」と、説明する

コロナ禍で転換したワーカーの関心・志向

相談内容の傾向について尋ねたところ、コロナ禍を機に、利用者の志向性が外的関心から内的関心へと変わってきたとの話があった。特に、「子育て・教育」「介護・ヘルスケア」「学び・趣味」「生活・住環境」に関する変化が顕著だという。

「子育て・教育」については、文教地区など教育環境を重視する傾向から、テレワークを前提とした郊外生活が可能な自然環境重視へと意識がシフト。また、緊急事態宣言下では、家庭で過ごす子どもが学ぶ場として、オンラインプログラムへの注目度が高まった。

「介護・ヘルスケア」については、以前はレクリエーションやリハビリ、リフレッシュを兼ねた旅行などの一過性のイベントについて相談されることが多かった。最近は、自粛による行動制限から、遠方で暮らす両親のフォローなど物理的に自身が関われないケースや、日常生活を共にする中での不安の解消といった、被介護者との伴走に関する相談へと変化している。

「学び・趣味」については、従来の留学やMBAなど時間・金銭ともにコミットメントを要するものから、テレワークで得られた通勤時間分を学びやスキルアップにあてたい意向が高まっているという。具体的には、オンライン英会話や会計知識など現在の仕事にプラスとなるもの、または外出自粛を背景に自らの生活を豊かにするような趣味に対するニーズが増加した。ちなみに、心理・コミュニケーションに関する学びへの要望が浮上しているのは、コロナ禍特有の傾向と同社は考えている。制限が重なる生活に、疲弊の色が見えてきた証と言えそうだ。

「生活・住環境」では、ふるさと納税や資産運用、保険をはじめとする固定費、残業代が減った家計の見直しについて、相談先を紹介してほしいという依頼が増えた。また、テレワークによる住環境のアップデート、ワーケーションといったニューノーマル時代で加速すると考えられる、新しい働き方への関心も高まっている。

サービス内容のアップデートとワークライフケアの啓蒙がカギ

TPOはコロナ禍を経て、ウェルビーイングをテーマとしたオンラインプログラムを開始した。クライアントの大手企業が他社に先駆けて完全在宅勤務に切り替えたことで、これから起き得る課題を素早く認識でき、ほかのクライアントからも同様の相談が増えたことを背景にローンチしたという。いち早くワーカーの声を聞けたからこそ、先んじてサービスを提供し、改善を加えてさらなる質の向上を図ることができている。

新たな課題として浮かび上がってきたのは、「心身の不調」と「子どもの生活」の二つ。そこで、コロナ禍で心身の不調を感じる利用者向けに、鍼灸師や快眠セラピストを講師に迎えたセルフケアプログラムを提供した。また、「子どもの自宅待機で仕事が進まない」「一日中動画配信を視聴している」といった声があったため、香港から講師を招いてアートを学ぶプログラムなど、高品質かつ魅力的なコンテンツづくりを意識した。現在は、海外だからこそ得られる経験を、現地に赴かずとも疑似体験できるリモートトリップを開発している。

マニヤン氏は、「ワークライフをケアする必要性を、企業にどう理解してもらうかが課題。QWLの啓蒙活動が弊社の今後を占います」と、意気込みを語る。ワーカーの考えや環境の変化は避けられないもの。それに伴ってライフスタイルが変わると、コンシェルジュサービスもますます必要性が増すだろうが、導入を決める決定権者の認知・理解がないことには前に進めない。

「国としても、働き手を増やすことは決してマイナスではありませんし、その前提に立った上で働く人すべてがいきいきと過ごせるようにサポートしたいですね。働きたいと思った人が、自分はもちろん、家族など誰の犠牲もなく働ける環境づくりがミッション」と強調する同社の今後の動向に、引き続き注目したい。

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この記事を書いた人

Yuichi ITO 食品メーカーからPR会社を経て、オフィスコンサルティングファームの広報へ。社会人スタート以来、マーケティングや広報といったコミュニケーション活動に一貫して従事。ライフワークにワークプレイスや働き方に関する情報発信が加わり、広く興味津々。

    

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